MISSION IMPOSSIBLE(File.12345 どこでもいっしょ)

 

『蟹は聖衣と仲良くしておるかのう?サガの弟よ、様子を見て参れ。』

教皇は俺に命令した。

聖衣と仲良く?
なんだそれ。やはりジーサンはそろそろボケが始まったか。あれは仲良くするものじゃなく、着るものだろ?←ボケてはおらぬ。聖衣は着物ではない。

取りあえず、相変わらず辛気臭い巨蟹宮に入り、デスマスクの私室のドアを叩いた。しかし、中から返事がしない。
出かけてるのか??
俺はドアに耳をあて、中の様子を探るとかすかに人の声が聞こえた。

なんだ、デスマスクの奴、居留守かよ。

怪しいな。

俺は巨蟹宮へと忍び込むことにした。

俺は天井裏から、デスマスクの声が聞こえるリビングまで来ると、その光景に唖然となった。

デスマスクはリビングのソファでテレビを見ながら、一人で楽しそうに話しているのだ。まるで、誰かに話し掛けるようにして笑いながら、ベラベラと話ていた。
こいつ、恐いぞ。
あっ、デスマスクはもしかしたら、積尸気から連れてきた俺には見えない何かと喋ってるのか!?
いや、それも恐いな・・・・。っていうか、かなりヤバイ。

結構まともな男だと思っていたが、こいつは12人の中でもそうとうヤバイ人間なのか!?←まともな奴などおらぬわ

デスマスクは今度は、リビングにコーヒーを二つ持ってきた。
一つは自分の分で、もう一つはテーブルに置かれたままだ。デスマスクはそのテーブルのコーヒーには一切手を触れなかった。

やっぱり、俺に見えない何かがいるんだ。
いや、デスマスクにしか見えない何かだ。絶対にそうだ。

俺は巨蟹宮をでて、処女宮へと向かった。
シャカに、巨蟹宮に誰がいるのかを聞くためだ。シャカなら、幽霊とかに詳しそうだもんな。
俺は蓮華の台座の上で寝ているシャカを起こし、巨蟹宮の様子を聞いた。
シャカの話では、宮内には悪霊がウヨウヨといるらしいが、私室のほうには何もいないということだった。←まだ成仏しておらぬのか

じゃ、さっきのは誰と喋ってたんだよ。

俺はもう一度巨蟹宮へ戻り、デスマスクの様子を伺った。

『さてと、一緒に散歩でも行くか?』

デスマスクは見えない何かに声をかけ、ソファから立ち上がった。
ん??
俺は直ぐに見えない何かの正体を突き止めることが出来た。

デスマスクが話し掛けていた相手は、ソファに置かれた蟹座の聖衣だったのだ。デスマスクは、聖衣を大事そうに小脇に抱えて、巨蟹宮を出て行った。

なるほど、ジーサンが言っていた聖衣と仲良くっていうのはこういうことなのか・・・。←ちと違うのぅ。

俺は、蟹座の聖衣と一緒に聖域を散歩して帰って来たデスマスクをからかってやった。

『おい、デスマスク。お前、随分と聖衣と仲良しだな。まさか寝食共にしてるんじゃねーだろうな。』

『あ??あったりまえじゃねーか。』

俺はデスマスクの以外に反応に驚いた。
あたりまえ??
いや、兄貴は双子座の聖衣と生活してねーぞ。っていうか、聖衣と暮らしている奴なんて見たことないが・・・・。

『俺よ、紫龍と戦った時に、聖衣に見放されたことがあるんだよ。それで、教皇に相談したら、聖衣との関係を修復したいなら、聖衣と仲良しろ!って言われてな。』

なるほど、それで仲良くなんだな。

『そうとも。だから俺は、毎日聖衣に話し掛け、食事も一緒にし、一緒に風呂も入ってるんだ。もちろん、一緒にも寝てるんだが・・・・。』

はぁ?こいつバカじゃねーのか!?←その通り

『先週はな、イタリアに連れて帰ってやって、一緒にドライブもしたんだぜ。今度、本物のサッカーを見に連れて行ってやろうと思ってるんだ。』

デスマスクは蟹座の聖衣をナデナデしながら、俺に言った。
こいつ、聖衣に見放されたのが相当応えたんだな。←ほうほう

まぁ、一方的にではあるが聖衣と仲良くしているみたいだから、今回の調査はこれで終わりだな。
明日、教皇に報告に行くとするか。

 

次の日。

報告書を書き終えた俺は、双児宮を出ると血相を変えて階段を下りてくるデスマスクに出くわした。

『てぇへんだ、てぇへんだ。聖衣が家出しちまった!!確かに昨日の夜は、隣に寝てたんだ。だが、朝起きたらいなくなってたんだよ。どうしちまったんだろう。』

聖衣が家出??
聖衣って家出するものなのか??←する

再び聖衣に見放されたデスマスクは、茫然自失状態で今にも積尸気に閉じこもりそうな勢いだった。

『俺の部屋も、他の宮も積尸気も探し回ったんだが、あいつどこにもいねーんだよ。』

積尸気まで探しに行ったのか。

『ムウなら何かわかるんじゃねーか?』

俺がデスマスクに言うと、デスマスクの顔はさらに青くなった。ムウにだけは世話になりたくないらしい。
しかし、この場合はもうムウに助けを求めるしかないだろう。

デスマスクは渋々と白羊宮まで行くことになった。

『蟹座の聖衣ならここにありますよ。昨晩、白羊宮に家出してきました。』

俺がデスマスクの代わりにムウに聞くと、ムウは冷笑を浮かべて答えた。

『デスマスク、貴方、また、聖衣に見放されたんですか?聖衣が泣いてますよ。』

『ぐっ・・・・・。』

デスマスクはムウの言葉に冷や汗を垂らしながら、今までの聖衣との生活を話した。

『デスマスク、それでは聖衣が家出するのも当然です。これは女の子ですよ。』

女のこぉ??
聖衣に性別があったのか?知らなかった・・・。←当然じゃ。乙女座の聖衣が男であるわけなかろう。

『貴方と同じ風呂に入り、同じベッドに寝ては嫌がるに決まってるではありませんか。いいですか、聖衣の気持ちを考えてあげなさい。』

ムウはそう言うと、聖衣に額をあてて瞑想し始めた。

『デスマスク、聖衣はイタリア料理が嫌いなようですよ。』

ムウは目を閉じたまま、デスマスクに言った。

『それから、サッカーもつまらないと言ってますね。はぁーーー、デスマスク、浮気はいけませんよ。聖衣は貴方の女性関係に心を痛めてるようです。』

『嘘ばっかり言ってるんじゃねーよ。』

デスマスクが怒鳴ると、ムウは聖衣に額をあてたまま目を開いた。

『信用してくださらなくても結構です。しかし、聖衣が再び家出するようなことになっても知りませんよ。』

ムウは冷たく言うと、再び目を閉じた。
デスマスクはムウの言葉にぐうの音を出ないようだった。

『・・・・・・・おや、この子はもっとおしゃれをしたいようですね。赤いリボンが好きと言ってます。』←お茶目じゃの

おしゃれぇ??

『ちゃんと名前よんであげていますか?。おい、とか、おまえ、じゃ可哀想ですよ。』

『な・・・・・名前ってなんだよ。』

呆然と話しを聞いていたデスマスクが、顔を引きつらせてムウに聞いた。

『この子はキャサリンです。シオンさまがおっしゃってましたよ。』

キャサリン??キャンサーのキャサリンか??センスねーな。←代々受け継がれてきた名前である

『そ・・・そうか、キャサリンか。ム、ムウ。すまなかったな。はははははっ・・・・。』

デスマスクは引きつった笑顔で、乾いた笑い声をあげながらムウから聖衣を受け取ると、自宮へと戻った。
その道すがらデスマスクは、

『ムウは絶対に頭がおかしい。ムウの言う事は信用ならねぇ。』←単純じゃのう

と俺に愚痴った。
確かに、聖衣の性別や、飯の好み、お洒落なんて話は信用ならないと思うが・・・・・。

俺がデスマスクに、俺の双子座の聖衣にも、トムとジェリーという名前が昔からあることを説明してやった。デスマスクは再び乾いた笑い声を上げながら聖衣を小脇に抱えて帰っていった。

まっ、そんな話を信じろというほうが無理だがな。

 

その日の深夜、俺はデスマスクの叫び声で目を覚ました。デスマスクのデカイ声が、どんどんと双児宮に近づいてくる。
なんだ??
俺が部屋から出ると、やはり目を覚ました兄貴も部屋から出てきた。

慌てて外へ出た俺達は、前代未聞の光景を目にすることになった。

双児宮の通路を、足の1本1本に赤いリボンをつけた蟹座の聖衣が、まるで本物の蟹のように走りながら俺達の目の前を通りすぎていったのだ。
そして、その後を寝間着を着たデスマスクが、

『キャサリーーーーーーーーーーーーーーーン!!帰ってきてくれぇーーーーー!』

と、泣きながら蟹座の聖衣を追っかけて走り去って行った。

 

報告:キャサリンは三度もデスマスクのことを見放した。あいつは蟹座の聖闘士失格!

提出物:キャサリンが落としていった赤いリボン

赤いリボンが好きというのは、ムウの冗談であろう。聖衣に食事を与えたり、風呂に入れたり、テレビを見せたりというのは、間違っておる。
黄金聖衣といえども、破損したり傷ついたりするのであるから、着用せぬときは、きちんと箱にしまわなければ、その傷が自然治癒せぬ。
今回の家出騒動は、蟹脚の一本が若干であるが曲がっていた為、キャサリンが自ら修復を求めて移動してきたものと思われる。聖衣は物ではなく、心をもった生物である。
聖衣の心がわからぬようでは、蟹もまだまだ修行が足りぬな。

教皇 シオン


end