MISSION IMPOSSIBLE(File.166666 愛ゆえに)

 

いよいよターゲットを追い詰めるときがきた。へべれけに酔い始め饒舌になった今のターゲットならば、その本心がわかるはずだ。
ターゲットの瞳はすでに酒気で真っ赤になっており、普段から悪い目つきはさらに悪くなっていた。しかし、その凶悪面もすぐに崩れるだろう。我々はアイコンタクトを合図に、シュラが右を私が左を固め、デスマスクが前をふさぐ。
既に呂律が回っていないターゲットの面構えはさらに凶悪さを増し、「なんらおまえら。」とすごんでみせた。時はきた。我々はこのチャンスを見逃さなかった。

「今ごろ、サガはアイオロスと人馬宮でベタベタベタベタベタベタイチャイチャイチャイチャだろうな。『あん、アイオロス、もっとぉ〜。』あなーーんてな。」

このデスマスクの煽りに、ターゲットは敏感に反応した。

「キショキショキショ!モーホーのあにきなんてしらねーよ!」

「本当はサガを取り返したいくせに、アイオロスが恐いんだろう。」

シュラの煽りにも簡単にひっかかった。

「はぁ?俺様をられらとおもってる!シードラゴンのカノン様だぞ、ごらぁぁ!に、鶏なんて片手でひれり潰して・・・くれ・・・る、ぞ!」

ターゲットの大胆不敵な発言に、野次要員はこちらの意図するとおりに反応し、ターゲットをはやしたてた。

「いいぞ、カノン!愛する兄ちゃんをアイオロスから奪い返して来い!」

「アイオロスを倒して、サガを取り返してきてください。」

「神が君には無理だと言っている!」

「神さまのお告げがでたぞーーー!アイオロスを倒してこーーい!」

私とシュラはターゲットを立ち上がらせ、酒が回りすぎてふらついているターゲットをつれて、処女宮からでた。もちろん、これからターゲットにサガを奪回させるのである。当然その後ろから野次馬達をぞろぞろつれたデスマスクが後に続く。証人は一人でも多い方がいいのである。
人馬宮にて、恋敵アイオロスから愛しい兄を奪い、愛の告白である。証人達が酒気を帯び、やや証拠能力に欠けてしまうのは、この際目を瞑ろう。←瞑るでない

我々に引きずられるように歩いていたターゲットであったが、酒の勢いも手伝い徐々にその気になってきたのであろうか、人馬宮につく頃には、先頭を切り自力で階段を上っていた。ターゲットが人馬宮に到着すると、我々はターゲットを私室のドアの前に放置し、各々気配を殺して柱の陰に隠れた。

ターゲットは意を決したように乱暴にドアをたたいた。しかし、中から返事はない。恐らく中では、獣のごとき野生をむき出したアイオロスが、無理矢理サガにいうことを聞かせ淫行に及んでいるに違いない。今回の作戦を遂行するにあたり、サガには犠牲になってもらったわけであるが、しかし、この作戦が終わればターゲットの真意が判明するわけであり、しいてはサガのためになるわけである。←混乱を招くだけじゃ

「ごらぁぁ!にわとりーーー!いるのは分かってんらろーーーー!れてこーーーい!」

酒気と闘志で全身を赤くしたターゲットは本気でアイオロスを倒すつもりであるのか、深夜という時間にもかかわらず、上記のような呂律の回らない不明瞭な言葉を怒鳴りちらした。ターゲットに一般的常識を求めてはいけないのは承知であるが、しかしここで騒がれては、夜勤のものや教皇の知るところとなってしまう。ここまでなんら問題なく進んでいた作戦を、いまここでふいにすることだけは避けたい。

だが、ここでターゲットを止める分けにもいかず、我々はぎりぎりまで見守ることにした。そしてやはりターゲットは黒だと思わざるを得ない。ターゲットはアイオロスを倒して独占したいほどサガを愛しているのである。

ターゲットがドアを叩くこと約15分。ついに観念したアイオロスが不機嫌な顔をして戸口に出てきた。すかさずターゲットはアイオロスの胸倉を掴もうとし、空をつかんだ。アイオロスはいつもどおり半裸の状態で現れた。ターゲットは、そうと気が付かないくらい酔いが回っているようである。ターゲットがアイオロスの胸倉をつかもうとする動作は、その後数回にも及んだのだ。しかしようやくそれに気がついたか、ターゲットはいきなりアイオロスの前髪を掴んだ。しばらく挙動不審なターゲットの行動を訝しげに眺めていたアイオロスはターゲットを睨みつけた。しかしターゲットは普段アイオロスが知るところの彼ではない。ターゲットはサガを奪い返すべくアイオロスに顔を近づけ睨み返した。その距離わずか数センチ。

「おい!にわとり!!きょーこそお前に言うことがある!」

と、我々が固唾を飲んで見守る中、いよいよターゲットはサガ奪回へと動いた。アイオロスは、至近距離でターゲットの酒気を帯びた息を感じ、顔をしかめた。そして、酒に酔っているターゲットの胸に拳を置き、体を押しかえした。ターゲットはやや後ろに退いたものの、再びアイオロスに体を傾けてどなった。

そして我々は決定的現場を抑えることに成功した。以下は我々が聞き、目にした光景をつづったものである。

「おいおい、随分酔っ払ってるな。さっさと双児宮に帰って寝ろ!」

「おでは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すきだ!」

ターゲットの酔いは我々の想像以上であったようで、ターゲットの言葉はなかなか聞き取ることができなかった。我々はアイオロスに感謝しなければならない。なぜならば、この時アイオロスが、
「いったいなにが好きなんだ?」
と、ターゲットに聞き返したからだ。我々は聴覚を研ぎ澄ました。今こそ決定的証拠を掴むときである。いよいよこの人馬宮にて、複数名の目撃者の下、ターゲットが兄であるサガを心から愛し、その体を求めているという事実が白日の下にさらされるのだ!

しかし、我々はターゲットの予想外の行動に目が点になった。

「しねーーーにわとりーーー!カノーン・スペシャルアターック!」

と、ターゲットがろれつの回っていない舌で叫ぶと、アイオロスを一気に押し倒したのである。ただ押し倒しただけではない。馬乗りになり、アイオロスの頬や額、耳、胸、乳首、首筋等々・・・に、光速でキスをしだしたのである。

突然男に襲われたアイオロスは悲鳴をあげてターゲットを引き離さそうとするが、ターゲットはどこにそんな馬鹿力を隠していたのか、アイオロスの肩を掴んだままはなそうとはしなかった。そして、アイオロスの悲鳴に、案の定私室にいたサガが飛び出してくると、我々一同は決定的瞬間をはっきりと目撃した。

ターゲットがアイオロスの唇に唇を重ね、深く口付けをしたのである。アイオロスはターゲットが捻じ込もうとする舌を必死で拒みつづけていたようだが、サガの声に一瞬気を散らしたのであろう、その瞬間ターゲットの舌はアイオロスの口の中へ押し込まれた。

やはりターゲットはホモであった。しかし、我々の予想は当たっていたが外れていたのだ。今回のこの作戦はターゲットがホモであること及び、兄を愛している事実を確かにするためであった。しかし、前者は確実にそれが決定されたものの、後者においては我々の判断ミスといっていい。ターゲットはアイオロスを好いていたのである。←サガである

あまりにも予想の範疇を越えたこの結果に呆然としていると、我々は更なるものを目撃してしまった。それは、顔を青くしたサガがアイオロスからターゲットを引き離そうと、あわや双子の修羅場かといった時である。

「う゛!!」

我々はターゲットがそう短くうめいたのを聞き逃さなかった。瞬間、ターゲットはアイオロスの口の中に吐瀉したのである。これは、アイオロスをサガにとられまいとする、ターゲットの必死の抵抗なのであろうか・・・。←食事中の者に失礼であろう

ターゲットはついにそのまま酔いつぶれ、床に倒れてしまった。

サガに見つかってしまった我々は当然サガから説教を喰らう羽目になったが、ターゲットの本性を暴いた成果の代償としては安いものであった。
こうして我々の作戦は、意外な結果を導き出し、ほぼ成功に終わった。

最後に、付け加えるが、ターゲットは我々の想像以上に愚かであった。そして、我々はもっと愚かであったことを痛感せざるを得ない。我々が目にしたことが誠、真実であれば、我々はいままで重大なミスを犯していたことになり、この報告書を書き直さなければならないだろう。
先に揚げた13ものターゲットの愚痴の解釈は、すべて過ちであり、そしてあれはアイオロスへの愛を兄が独り占めしていることへの兄への恨みつらみであり、ターゲットは真に兄を憎み、そしてアイオロスへの愛を募らせていたのである。←間違いではない。そのままである
しかし我々は未だ、疑惑をぬぐい去ることは出来ない。
以上が我々が目撃したすべてであり、これをどのように解釈するかは教皇猊下のその大いなる英知に委ねるものとする。

美の戦士魚座 アフロディーテ

下らぬことで夜中に騒ぐでない、大馬鹿者。ムウが夜泣きするではないか。
このような適当な報告書を提出し、騒いだ罪を誤魔化そうなど百万年早いのじゃ。
サガの弟は誰がどこからどうみてもブラザーコンプレックスである。調査などいらぬ。
しかも、的外れな報告をするでない。

教皇シオン


End