MISSION IMPOSSIBLE(File.29292 白い虚塔)

 

『して、牛がムウの病室にいるとは何事じゃ。様子を探って参れ。淫行を働く様であれば、その場で殺せ!』

了解!
俺は即答した。

ムウがシャカに埋められた翌日、俺は眠い目を擦って昨晩あったことを報告すると、休む暇もないまま命令された。だが今回は、殺してもいいっていうからな。久々に腕が鳴るぜ。

俺は双児宮に戻って朝食を取ってから出かけることにした。腹が減っては戦は出来ぬ!っていうからな。←すぐに行かぬか馬鹿者

『ムウの様子を見に行こうかと思うんだが、半分はお前の責任なんだ。お前も行くだろう?』

俺は兄貴の誘いに乗ることにした。俺が、見舞に来たと言って単身乗り込んでも疑われるだけだからな。兄貴と一緒なら疑われることもないだろう。一緒に食事をしていた貴鬼は、早く病院に行きたいと言って、兄貴をせかした。
貴鬼も昨晩深夜に病院に駆けつけ、さっき寝たばかりだ。病院へ来た貴鬼は、帰るのを嫌がったが、次の日に病院に行くときは起こすという約束をして兄貴が連れかえったのだ。

兄貴が朝食の後片付けをしているとアイオロスが現れた。
ジーサンからムウの話を聞いたアイオロスが、ムウの見舞に一緒に行かないかと兄貴を誘いに来た。
兄貴の点数稼ぎか!?←その通り

兄貴、貴鬼、アイオロスを連れた俺が、病院へ行くと、既にアルデバランがムウのベッドの横に座っていた。
どうやら、一回も帰っていないらしい。ぶっ通しでムウの看病か、流石にいい旦那だな。←旦那ではない
っと、今回はそのいい旦那の正体を暴いて、ぶっ殺すのが命令だったっけ・・・・。

ムウは昨晩死にかけたそぶりも見せず、すっかり元気で、アルデバランに飯を食べさせてもらっていた。
兄貴はヒーリングだけは天下一品だからな。←余の真似も天下一品であるぞ

アルデバランがムウの為に飯を刻み、スプーンですくって口に運ぶ。

『アルデバラン、その量は少ないと思うぞ。』

アルデバランがムウの口に運んだ飯の量の少なさを見て、アイオロスが言うとアルデバランは豪快に笑った。

『いえ。ムウの口は小さいですからね。』

『アルデバラン。私の口はそんなに小さくないですよ。』

『そうか、すまなかったな、ムウ。』

アルデバランはそう言うと、今度は適量?をスプーンに取ってムウの口に運んだ。
確かに、こいつの口の大きさから比べたらムウの口は小さいと思うが・・・。っていうか、こいつに比べたら皆小さいだろうが。
それにしても、ムウの奴、飯くらい自分で食えよ。左の手に変な管さしてても、右手は自由だろ・・・。←いかんのう
これは淫行に入るのか??

ムウが飯を食いながらシャカがどうなったかを尋ねると、シャカがスニオン岬に閉じ込めれれたと、アイオロスが説明する。どうやら、スニオン岬に閉じ込めたのを手伝ったらしい。

その話を聞いたムウは、口の中のものを吐き出し、むせ返った。
きたねぇーな・・・・。←躾のし直しが必要であるのぅ

ゴホゴホと咳き込むムウの背中を、アルデバランが心配そうに撫でさすっていた。
ムウが咳き込むのをやめると、俯いたまま肩を震わせていた。

『はっはっはっーーーーー。そうですか、スニオン岬に・・・・。はははっ、シャカもばっっっかですねぇ!!』

ムウが体を仰け反らせ、嬉しそうに笑った。俺は、ムウがこんなに声をあげて笑うのを初めて見た。いや、多分恐らくその場にいた全員がはじめて目にするムウだったのだと思う。何故なら、皆黙ってムウを見つめていたからだ。そんなにムウはシャカのことが嫌いなのか?←からかうのが好きなだけであろう。
だったら笑いたくなる気持ちも分かる。きっとムウは、今すぐにでもスニオン岬に行って、岬の上で高らかに笑いたいに違いない。←その通り
あそこで笑うと、声が良く通って気持ちいいんだよな。

ムウが朝食を食べ終わると、看護婦が検診に来た。
ムウは手につけられた管を鬱陶しそうに眺めると、

『すみません。これ、飲んだら駄目なのでしょうか?飲んだほうが早そうなんですが・・・・。』

と、看護婦に言った。
ムウの手から繋がった管の先には、変な色をした液体がポタポタと切れの悪いションベンみたいに垂れていた。

『点滴は飲んではいけまんせんよ。ですから我慢してください。』

看護婦が言うと、ムウはため息をついてそれに従った。
そうか、飲んじゃいけねぇのか。あれが全部無くならないと、帰れないのか?あんなにチマチマ垂らしてたら、いつになっても帰れないな・・・。

『おい、アルデバラン!!お前もムウの旦那なら、ムウをちゃんと見てないと駄目だぞ。』←旦那ではない

『あっ、はい。すみません・・・。』

アイオロスがアルデバランの不甲斐なさを怒ると、ペコペコと謝った。
こいつ、旦那と呼ばれて否定しなかったぞ。
もしかして、ムウの旦那とうい自覚があるのか??←旦那ではない
しかも、いつもならここでアイオロスに嫌味の一つでも言うはずのムウも、ニコニコと笑っているだけだった。
お互いに夫婦という自覚ありか!?←そのようなことはない

『ムウ。退屈だろう?何か食べたいものとか、飲み物とかあるか?』

『そうですね・・・・。大福。それと、あんころ餅。ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディ、ビスケット、シュークリーム、ババロアに柏餅にフルーツゼリーにティラミスにタピオカ。それから、オレンジジュース、グレープジュース、リンゴジュース、クリームソーダ。あっ、コーラも飲んでみたいです。』←コーラーなど、体に毒である

アルデバランが言うと、ムウは食べたいものや飲みたいものを一気に並べ上げた。
相変わらず菓子ばっかりだな。

『アイスクリームはしばらく結構です。でも、シャーベットは食べたいです、アルデバラン。』

『そうか。今買って来てやるからな、待っていろ、ムウ。』

『待て、アルデバラン。病人にそんな物を食べさせるんじゃない。せめてリンゴとかにしろ。』←その通り

やはり兄貴が止めに入った。
普段なら、『病人の貴方に言われたくありません!』とかってスカして笑うムウが、兄貴の言葉を聞いても何も言わなかった。それどころか、兄貴の言葉にしたがって、『リンゴで我慢する。』と言い出した。
ムウの奴、旦那に看病されてすっかり丸くなったのか?←旦那ではない。ムウは元より可愛い

しばらくするとアルデバランが木箱を抱えて病室に戻ってきた。
おいおい、兄貴にリンゴだけにしろって言われたばかりだろう・・・。

『ムウは1個や2個じゃ足りませんからね。だから一箱買ってきたんです。』

ベッドの横に置いてある椅子に腰をかけ、足元にドカッと箱を置くと、アルデバランはリンゴを剥き始めた。俺達は目が点になった・・・。いくら、1つや2つで足りないからといって、箱買いする馬鹿がどこにいるんだ。←ムウが腹を壊したらどうする!
余ったら俺の家にお持ち帰り決定♪

『さすがにムウの旦那だな。ムウのことよく分かってるじゃないか。しっかり幸せにしてやれよ。』←旦那ではない

アイオロスがリンゴをかじりながら言うと、アルデバランは笑って頷いた。
やっぱり否定しなかった。ということは、アルデバランはムウの旦那で、ムウを幸せにするつもりなのか?←できるはずなかろう

ムウはアルデバランがリンゴを剥く傍からパクパクと食っていた。もちろん貴鬼もアルデバランの剥いたリンゴを頬張っていた。

『アルデバラン、このリンゴおいしいね。ねぇ、ムウさま。』

『おいしいです、アルデバラン。』

羊の親子は無心でリンゴを食べていた。←親子ではない、師弟である。
こいつら、ジーサンにリンゴも食べさせてもらえないのか??←食べさせておるわ、無礼者。

『ム、ムウ。そんなに食べたら体に悪いぞ。』←その通り

『大丈夫です。リンゴは消化にいいですからね。』

兄貴が止めても、ムウがリンゴを食べる手は止まらなかった。
その量は消化にいいのか?

そして、箱いっぱいのリンゴはあっという間に無くなった。
ムウ、それは病人が食べる量じゃねぇだろうよ・・・・。流石に旦那アルデバランだ。ムウが食べるリンゴの量を的確に判断していやがる。←旦那ではない

 

昼頃になって、美人の女医さんが現れた。

『さすが黄金聖闘士さまですね。回復が早くて驚きました。今日の夕方にも退院されて結構ですよ。』

女医さんの話を聞いて、ムウの顔が曇ったのを俺は見逃さなかった。
ムウは女医さんが部屋を出るのを確認してから、兄貴に言った。

『サガ。お願いがあります。私を半殺し・・・・いえ、9割5分殺しにしてください。ギャラクシアン・エクスプロージョンでなら簡単でしょう?』

兄貴の目が点になった。

『ムウ。何をわけのわからんことを言っている!?』

『駄目ですか。でしたら、アイオロス、貴方のアトミック・サンダーボルトで私を焼いてください。』

こんどはアイオロスの目が点になった。アイオロスは兄貴にこつかれ、首を振る。

『・・・・・では、カノンでは、無理ですね・・・・・。アルデバラン。』

ムウの頼みは俺を素通りしてアルデバランに向けられた。
くそっ!俺だって、ムウを半殺し、息の根を止めるくらい簡単だ。
俺はマジむかついたので、ギャラクシアン・エクスプロージョンを放とうとすると、兄貴に殴られた。
んだよ、ムウが死にてぇっていうんだから、殺させろぉ!!!←お前では無理である

『アルデバラン。グレートホーンをお願いします。全身複雑骨折ですよ、複雑骨折。それからサガ。ヒーリングは結構ですから。』

アルデバランももちろん首を横に振って断ると、ムウは残念そうにため息をついて、最後のリンゴをシャリシャリと食べた。

ムウはどうやら大量にリンゴを食べられる入院生活が気に入ったらしい。それとも、もう少し入院していれば、大好きなアルデバランとも一緒にいられるし、好きな物を食べられるという魂胆なのかもしれない。←いかんのぅ
でなければ、ジーサンのいる白羊宮に帰りたくないかだな。←それはない

『なんだ、ムウは白羊宮に戻りたくないのか?』

おっ、アイオロスもたまには的を得たこというじゃん!だが、そんなこと『うん。』なんて、ムウも言えないよな。それが知れたらジーサンに殺されちまうもんな。案の定、ムウも黙ったまま答えなかった。

『だったら、け!だ、け!!』

け!?

『仮病だ、仮病。仮病でもつかって、もう暫く入院してればいいじゃないか。』

アイオロスが言うと、ムウは無言でナースコールを押した。そして、美人の看護婦が来ると、具合が悪いと言って嘘をついた。←嘘をついてはいかぬと教えたはずであるがのぅ。
あんなにリンゴが食える奴が、具合が悪いはずねぇよな・・・・。

結局、仮病を使ったムウは、検査の為に数日入院することとなった。

『では、明日は胃カメラで、胃の検査をしましょう。7時以降は何も口になさらないで下さいね。食べ物ももちろん、飲み物、水もためですからね。』

『え!?』

ニコニコ顔で説明を聞いていたムウの額に汗が流れた。

『あの・・・・・。一口も食べてはいけないんですか?朝ご飯もなし??』

『私が以前、検査してもらったときもそうだったぞ。入院したいなら、それくらい我慢するんだな。』

看護婦が当然だという風に頷くと、兄貴が言った。
ムウは、飯が食えないのが相当ショックだったようで、その場に硬直した。
その姿を、アルデバランはオロオロとしながら慰めている。それは、慰めることじゃないだろう。自業自得だ!!←その通り

『もう。元気になりました。具合悪くありません。白羊宮に帰ります。』

ムウはころっと態度を変えると、渋々と退院の準備を始め、トボトボと白羊宮に帰っていった。

 

報告:アルデバランはムウの旦那としての自覚あり?ムウが退院したくないのはあんたのせい。

ムウには厳重注意せねばならぬことが多々あるようじゃのぅ。
牛は論外である。

教皇 シオン


end