MISSION IMMPOSSIBLE(File.38383 山羊12人斬!〜カノン再特訓〜その1)

 

今日、私は教皇の執務補佐のおり、特別任務を任された。
それは、明日闘技場で行われるサガとカノンの訓練を報告するということだった。

執務補佐を終えた私はまず、教皇庁に併設されている施設局へと赴き、明日、何時から訓練が行われるかを調べる事にした。係りの者に事情を説明し、施設使用許可証のファイルの中の書類を見せてもらう。
そこには、サガの滑らかな美しい字で書かれた書類が挟まれいていた。その書類には、明日丸一日の闘技場使用承諾願いと、その理由が書かれている。
めったなことでは闘技場など、訓練の為に個人が丸一日使用することなどない。←昼間は暑いからのぅ
サガは一体、カノンにどのような訓練を施すのだろうか。

翌日になり、時間どおりに闘技場へ赴くと、何故かシュラ、デスマスク、アフロディーテ、アイオロス、アイオリアまでがサガとカノンの姿を見物に来ていた。
どうやら、アイオロスとアイオリアは早朝から闘技場に陣取り、筋トレや組み手をしていたらしい。恐らくその時点で、闘技場を管理する者から本日行われるサガとカノンの訓練を聞きつけたのだろう。
シュラ達にいたっては、何故ここにいるのかは疑問であるが、どこからか情報が漏れたに違いない。←機密情報ではないからのぅ
特段、秘密にするような訓練ではないであろうから、見物客がいても問題あるまい。そう思い、私は皆と離れたところに腰を落ち着け、サガとカノンが来るのを待つことにした。

程なくして、施設許可証に記載された時間どおりにサガは姿を現した。普段は、ローブやケープ、法衣といった裾の長い清楚な格好を好んでいるサガも、この日ばかりは訓練着にプロテクターを纏っている。←清楚というより、暑苦しいのぅ
その後ろから、サガとほぼ同じような格好をしたカノンが、眠そうな顔し気だるそうに闘技場へと入ってくる。

そしてまずサガとカノンは、筋トレを始めた。
闘技場2万周、腹筋2万回、腕立て2万回、スクワット2万回・・・・・等、基礎となる運動から始めていたが、カノンはどれもこれも途中で息が上がり、サガに怒鳴られながら何とか行っている状態だった。←いかんのぅ
我が弟子・氷河ですらこの程度は容易くこなせるものを、黄金聖闘士とあろう者が情けない。←その通り

そもそも、先程から見ていると、カノンからはやる気というものが微塵も感じられない。あれでは、サガが怒り、怒鳴るのも仕方の無いことだった。
聖闘士とは、決して現状に甘んじることなく、常に己の向上を目指し日々努力しなければならない。ましてや、我々黄金聖闘士ともなれば、白銀、青銅の後輩達の見本になるよう、常に気を張って行動し、その指導に当たらねばならんというのに、カノンにはそれがまったく分かっていないようだ。←そうであろうな

情けないことにカノンは、数時間もかかり筋トレを終えると、ようやくクールダウンの為の小休止が与えられた。

グッタリと地に横たわるカノンを尻目に、サガは溜息をつくとその場から消えてしまった。
流石のサガもついにカノンを見放したかと、シュラ達はどよめきながらも口々に軽口を叩いていた。
いくらカノンが駄目だからといって、見放すようなことをサガがするはずが無い。サガは、どんな人間に対しても決して諦めるような態度をとったりはしない。←過去に弟を見捨てたがのぅ

1分もしないうちにサガは戻ってくると、その手には双子座の黄金聖衣を持っていた。
一体、サガは何をするつもりなのだろうか。
まさか、あの噂に名高い「すっぴんの弟を、聖衣を着てタコ殴り!」をやろうというのだろうか!?

サガは尚も休憩を取りつづけるカノンの数メートル離れた前に、聖衣を置くと口を開いた。眉間にシワを寄せ、瞳を閉じたサガの険しい表情から、若輩者の私にはは、その意図することを探りあてることは出来なかった。←どっちもヒヨコじゃ
恐らく、カノンもその意図するところは分かっていなかったのだろう。カノンは、欲してやまない双子座の聖衣とサガを交互に見比べていた。

「カノンッ!呼んでみろ。」

「は?」

「聞こえなかったのか?聖衣を呼んでみろと言ったんだ。」

「ああ・・・・・・。」

なるほど、双子座の聖闘士としてカノンの資質を問うわけか。
カノンは、サガに言われるがまま、ヨロヨロと立ち上がると右手を高々と上げて、精神を統一した。

「ここへ来て、纏え我が聖衣よ!」

カノンの声は闘技場に空しく響き、目の前の聖衣ボックスは何の反応も示さない。シュラ達は、その光景に吹き出し、腹を抱えて笑っていたが、アイオロスに笑うなと窘められた。
他人の失敗を笑うなどもってのほかだ。←笑われても仕方ないのぅ

しかし、当の本人はそんなことも気にせず、キッとサガを睨み付けて怒鳴った。

「おい!兄貴が貸す気がないから、聖衣が来ないぞ!」

「人のせいにするな、お前の気合が足らぬからだ!もっと神経を集中し、心をこめてみろ。どうせ、聖衣を着て世界制服などと下らぬことを考えておったのであろう。」←その通り

「くそっ・・・・。」

舌打ちをし、カノンは再度精神統一をおこなっていた。
まったくカノンは真、サガの弟なのだろうか。自分の失敗を人のせいにするとは、シュラ達に笑われて当然だ。

「ここにきて、纏え聖衣よっ!!」

が、やはり聖衣は反応を示さない。

「おいっ、おまけの分際で聖衣に命令するなど100年はえーぞっ!!」

「な、なんだと、この毛蟹!!!」←蟹は聖衣に見放されているからのぅ

「カノン、外野からの野次など気にするな。集中しろ!!!」

相変わらず柄の悪いデスマスクからの野次に反応し、ベンチに向かって叫ぶと、すかさずサガに怒鳴られる。

「・・・・・・・、ここに来て、・・・・・、ここに来て下さい、我が聖衣よっ!」

カノンは野次を気にしたのだろう、今度は丁寧に聖衣を呼んでみることにしたらしい。しかし、聖衣ボックスは反応しない。
当然のことだ、言葉だけ丁寧にして呼んでくるものであれば、誰でも聖闘士になれる。

「カノンッ!もっとしっかりやらないか!!!お前がそんなことでどうするのだ!お前はこの兄に何かあった時には、双子座の黄金聖闘士として、私の変わりを勤めねばならんのだぞっ!!」

サガが諭すように言っても、カノンは眉間にシワを寄せ首を傾げていた。

「ここに来て下さい。そして、わが身を纏ってください、我が聖衣よっ!!」

「来いって言ってんだろぉ、この馬鹿聖衣。」

「来やがれ、聖衣!!」

「後生ですからきてください、聖衣さまっ!!」

カノンには分かっていないのだろうか、聖衣を呼ぶのに言葉などなんら意味を持たないことを。

「どうせ、聖衣を手に入れ世界征服などというくだらぬ事を考えているのであろう、カノン。」←サガも世界征服を考えておったがのぅ

なるほど、邪心があれば聖衣が反応しないのも無理は無い。

「カノンッ!!!いいか、聖衣というのは、もっと心をこめ、小宇宙を込めて呼ばねばならんのだ。心より聖衣を求め、その勢いで服など消失してしまう勢いが無ければ駄目なのだぞ!!」

サガは怒鳴ると、私達の方へと向きを変え、シュラを呼んだ。
そして、シュラに見本を見せてやるようにと頼むと、シュラは返事をし立ち上がった。

「ここに来て、纏え聖衣よっ!!」

シュラは瞳を閉じ、精神を集中し小宇宙を高め、山羊座の聖衣を呼ぶ。途端、シュラの紫色のシャツ、黒皮のパンツは音を立てて敗れ去り、裸身が顕になった。瞬く間に、十二宮の方角から放たれた光がシュラを包み込み、山羊座の聖衣をシュラの身を覆った。

「分かったか、カノン?」

その姿を見、サガは問うが、カノンは首を傾げるばかりであった。
あれを見てもまだ分からぬとは、聖闘士の端くれにもおけない奴だ。サガの苦労が堪えぬのも頷ける。←話にならぬのぅ

すると、シュラの隣に座っていたアフロディーテが立ち上がり、闘技場の中心にいるサガとカノンに声を掛ける。

「愚弟!!もう一度やるから、見てなさい。今度はちゃんと、目ん玉ひん剥いて、よく見なさいねっ!!」

アフロディーテは誰も頼みもせぬのに、髪を掻き揚げて鼻で笑うと、ズボンの後ろポケットから愛用のコンパクトを取り出した。

次の瞬間、私、いや、その場にいた全員が唖然となった。

アフロディーテはコンパクトを開くと、その鏡に向かい、

「ピピルマ、ピピルマ、テクマクマヤコン、クルクルリンクル、パンプルピンプル、ヤンパラヤーっ!ヘンシンっ!」

と、私には理解しがたい、生まれて初めて聞く言語を呟いたのだ。すると、シュラと同様に、派手な大柄のシャツと、へび革の白いパンツが敗れ去り、白い裸身が顕になった。アフロディーテは、白い肌を輝かせ、淡いブルーの髪を靡かせながら、クルクルと周り、その周囲を真っ赤な薔薇の花が舞う。
そうして、十二宮から放たれたピンクの光に包まれると、見事魚座の聖衣を纏うことに成功した。←見事じゃのぅ

「美の戦士、アフロディーテ!」

左手で白いマントの裾を持ち、右手に真っ白な薔薇を構えたアフロディーテが決め台詞を決めると、シュラ達から拍手喝采が巻き起こった。
確かに、あれは拍手するほどに値する。

「さすがアフロディーテだな。」

シュラ達よりも、数段前のベンチに座っていたアイオロスがまるでショウでもみたかのように、賞賛した。

「あったりまえじゃない。こればっかり13年間も練習したんだからっ!!」←いかんのぅ

その言葉に、誰もが己の耳を疑った。アフロディーテよ、そんなことばかりしているから、貴方は弱いのだ。←お前もじゃ
いくら今だかつて十二宮を突破したものがいなかったからといって、それは余りの愚行ではないだろうか。←その通り

思わずアフロディーテにばかり気を取られていた私は、サガに視線を戻す事にした。流石のサガも、アフロディーテが言うところの、「ヘンシン」、には、唖然となったようで、険しい表情を崩さぬまま、首を横に振っていた。カノンは、情けなく口を開けたまま、私達の方を向いて突っ立ている。←「ヘンシン」というより「ヘンジン」であるな

サガは再びカノンを促し、聖衣を呼ばせることにした。
カノンは頷くと、瞳を閉じ神経を集中する努力をしているようだった。

「来てくださいっ!、そして我が身を纏ってください聖衣よっ!!!」

今度は成功なようだった。
カノンが一息に叫ぶと、纏っていたプロテクターは自らの意思を持ったようにはだけ、その下に着ていたTシャツ、ズボンまでもが破れたのだ。
そして、カノンの裸身が顕になった。私はその姿を見て、今までのカノンの情けない姿に納得せざる終えないかった。
サガよりも若干細い体は、訓練をおろそかにしているせいだろう。

そして、そのドラえもんパンツは一体・・・・。それではまるで、ミロではないか。←蠍とおそろいであるか

いや、今はドラえもんパンツなど問題でない。もっと重要なことが、カノンの身には起きていた。

それは、服が破れたまでは良かったが、カノンが呼んだ聖衣がまったく反応を示さなかったのだ。みっともなくドラえもんパンツ一枚で、カノンは闘技場の中央、双子座の聖衣の前に突っ立ている。なぜ、パンツだけが残るのだ。アフロディーテも、シュラも全裸であったではないか。本当にカノンは何をやっても中と半端でいかん。←理性の一枚であろう
その姿を見て、シュラ達が腹を抱えて爆笑していた。まぁ、それもしかたあるまい。

サガもあまりの姿に頭を抱えていたが、私達の笑い声を聞くと、きつく睨みそれを静止した。

「カノン、もういい。聖衣ボックスを開けて、自分で纏え。」

「えっ!?まだやるのかよ。もう面倒くせぇって!!」

カノンはブツブツと文句を言いながら、聖衣ボックスの前に歩み寄ると身を屈めた。しかし、いくら経ってもカノンは聖衣を開ける気配を見せなかった。それどころか、聖衣の前にかがみこんだまま、サガを見上げて、こう言い放ったのだ。

「兄貴、これどうやって開けるんだ?」

その言葉に、流石のサガも驚きを隠しきれなかったようだ。
カノンは聖衣を開ける引き手も見つけられないのだ。サガは心底呆れながらも、聖衣の前からカノンを退けると、双子座の聖衣の引き手を引っ張った。


Next