MISSION IMPOSSIBLE(file.585857 黄金聖闘士雑兵生活)

 

俺が急いで雑兵に変装しようとしたとき、魔鈴が闘技場に現れた。

『やめな、シャイナ』

の一言で、雑兵達が兄貴をボコるのをやめた。

『あんた、まだ雑兵いじめなんてしてるのかい、いい加減、くだらないことやめなよ』

『っさいね。あんたには関係ないんだよ!こいつが生意気だから、雑兵のなんたるかを教えてやっているだけさ、余計な口出ししないでくれ』

『雑兵?あんたにはそいつが雑兵に見えるのかい?』

『はぁ?』

シャイナが素っ頓狂な声をあげて、雑兵達に囲まれて砂埃をあげている兄貴を見た。

途端、シャイナの顔色が変った。←仮面で顔色は分からぬであろう

『あ、あんたは!?』

砂埃から現れたのは、もちろん兄貴だ。ボコられた衝撃で、雑兵メットが取れて、不細工な顔が丸出しで、顔中痣だらけだった。

『ジャブ。こいつの顔、もっとよく見せな』

『はい、シャイナさん』

ジャブって小僧が、兄貴の髪の毛を持ち上げた。

『サ、サガ!?』

シャイナの絶句が聞こえると、雑兵達がドヨドヨとなった。

『ち、違います、シャイナさん。こいつはゴンザレスです。サガなんて可哀想な名前で呼ばないでやってください』

雑兵の一人がそう言った。
恐らくシャイナは、そういう意味での『サガ』ではなくて、『お前、双子座のサガだろう!』みたいな意味で言ったと思うんだが。

ジャブとモヒカンの小僧が、形の変った兄貴の顔を見て、また絶句しながら掴んだ兄貴の顔を頬リ投げた。

『シャ、シャ、シャイナさん、この人』

『なんで双子座のサガがここにいるんだ、アイオリア!』

『いや、これはゴンザレスだ、シャイナ』

『はぁ?どうみたってサガだろうが』

『いや、ゴンザレスだ。昨日俺の下についたばかりの雑兵だ』

アイオリアが真顔でいった。ここでサガってばれたら、たしかにまずいもんな。
俺的にはばれたほうが楽しいけどな。

『お前達、ここはもういいから自分の持ち場にもどんな!』

魔鈴がいきなり雑兵に指示をだして、雑兵達を闘技場から遠ざけた。←懸命な判断じゃ
一体何をするつもりだ?

闘技場にアイオリアとゴンザレスと、青銅二人と魔鈴、シャイナが残った。

魔鈴が兄貴に近寄って、いきなりけりを入れた。←ほうほう、サガと分かっていながら蹴るか。大したものよのぅ

『あんた名前は?』

『ゴ、ゴンザレス……です』

兄貴がヨボヨボしながら鼻血面で言った。

『ふん、サガじゃないっていうのかい?』

『ゴンザレスです』

『私たち下っ端は、あんた達黄金聖闘士のくっだらないお遊びにつきあってる暇はないんだよ』

『く、くだらない!?』

『くだらないねぇ。はっきり言って、邪魔なんだよ。私ら下っ端の生活なんてこれっぽっちも知らないあんたに、勝手に踏み込まれて、いい迷惑さ。おかげで仕事のスケジュールも狂いまくりさ』

『わ、私はただアイオリアの気持ちが少しでも分かればと……』

『はぁ?アイオリアの気持ち、なんだいそれ?』

魔鈴がシャイナと顔を見合わせた。

女二人の前に膝をついてオドオドしている兄貴に、アイオリアが顔を歪ませた。

『アイオリアが今でも雑兵をしているのは、全て私のせいだ。戻ろうと思えばいつでも黄金聖闘士として戻れるのに、戻ってこないのは雑兵としての生活が身についてしまっているからだと』

『バッカじゃないの』

今までの屈辱を、シャイナが『馬鹿』の一言で片付け、兄貴の目が点になった。

『なるほどねぇ。で、アイオリア、あんたはどういうつもりで今でも雑兵やってるのさ』

魔鈴が矛先を兄貴からアイオリアに変えた。
そりゃ、アイオリアは魔鈴の近くにいたいからだろう。100万ユーロ賭けてもいい!←大正解じゃ

『そりゃその……、なんだ、あれだ。ほら、その……』

『明確な理由がないなら、とっとと十二宮に帰りな!』

『ちょっと待ってくれ。せっかくこうして他の雑兵仲間や、シャイナや魔鈴と仲間になれたんだから、俺はそれを失いたくはないんだ』

おぉぉ、珍しくアイオリアが言い切った。が、雑兵仲間やシャイナは嘘だろう。

『俺が黄金聖闘士に戻ったら、お前達は態度を変えるだろう。それが嫌でな』

『そんなくだらない理由で雑兵やってんじゃないよ。馬鹿らしい。行くよっ』

魔鈴はアイオリアに吐き捨てて、シャイナたちを連れて闘技場から出て行った。

残ったアイオリアは顔を真っ青にして呆然と立ち尽くしていた。
これで雑兵という魔鈴との接点がなくなったってわけだ。
全部兄貴のせいだな。

『ア、アイオリア?』

『サガの馬鹿野郎。どうして、いつもいつも俺の人生に踏み込んでくるんだ!』

『わ、私はお前の気持ちを分かろうと思って』

『それが余計なお世話なんだよ。俺は、魔鈴の近くにいたくて雑兵やってんだ!』←情けない

『そ、そんなことで雑兵を!?』

『だから俺の気持ちなんて分かる分けないって言っただろう!』

切れたアイオリアの口からとうとう本音が出た。

ていうか、どうしてそれを魔鈴の前で言えないかね。兄貴の前で告っても仕方ないだろう。←まったくじゃ

『わ、私になにかできることがあれば……』

『だったら一生雑兵でもやってろよっ!!二度と俺の前に顔出すな!馬にけられて死んじまえ!!』

うわーーんと泣きながらアイオリアが闘技場から出て行った。

 

報告 アイオリアと兄貴の溝はますます深まりました。兄貴は一生雑兵決定。

 

偽善で雑兵を体験しようと考えるからじゃ。
心の底から獅子に悪いことをしたと思うなら、ほかにいくらでも謝りようがあるだろうに。
しばらく雑兵生活で反省するがよい。

教皇シオン


end