MISSON IMPOSSIBLE(File.66666 愛の貧乏脱出大作戦  その1)

 

『ふぅ・・・・・何故に、ムウはこんなに貧乏くさいかのぅ。』

ジーサンは俺が書いた報告書に赤をいれながら、ブツブツと呟いていた。
年寄りは独り言が多くて嫌だぜ。←余はピヒピチの18歳である

『いかんのぅ・・・・・。』

ごらぁ、ジジィ!口を動かす前に、俺を呼びだした理由を言え!

『おまけよ・・・。』

ジーサンが突然顔を上げたので、俺は心を読まれたのかと思い、冷や汗を垂らした。←その通り

『引き続き、お前に命令する。ムウがどれくらい貧乏くさいか調査せよ。』

はぁ!?

『聖域一貧乏くさいお前の視点から、ムウがどれくら貧乏くさいか見てくるのじゃ。』

誰が貧乏くさいだと?このエレガントでかっこいいカノン様のどこが貧乏くさいってんだ!←頭の天辺から脚の爪先まですべてじゃ

『はぁ、いつからムウはこんなに貧乏くさくなったのかのぅ・・・・。何不自由なく育ててきたのに、なにがいかんかったのかのぅ。やはり余が13年間不在であったのがいかんかったのかのぅ・・・。』

俺はブツブツと独り言を言い始めたジジーを一人残して、白羊宮に向った。

 

白羊宮に行くと、ムウは家事の真っ最中だった。
だいたい、黄金聖闘士が自分で家事をしている時点で貧乏くさい!!まぁ、逆賊兄貴はともかくとして、洗濯やら掃除やら、買い物なんて付きの雑兵や神官にやらせておけばいいんだ。←その通り
俺が見ている限りじゃ、デスマスクやアフロディーテなんかはそういう雑用は雑兵や神官にやらせている。

中には逆賊と元逆賊の弟みたいに、そういうことすら雑兵に頼めない小動物もいるみたいだが、ムウは教皇の愛人なんだし、そういう遠慮もないだろうに。←愛人ではなく弟子である

俺は風呂場にいた、ムウにそれとなく尋ねると、

『自分でやったほうが手っ取り早いんです。それに、買い物の時くらいしか外に出ることができませんからね。子供を育てながら生活していましたから、別に苦でもなんでもありませんよ。』←それがいかんのじゃ

ムウはそう答えると、バスタブの残り湯をバケツに汲み取った。

まさか、いくら貧乏だからといって、残り湯を飲んだり料理に使うのか!?

俺はムウがそのバケツを貴鬼に渡し、自分ももう一つのバケツに残り湯を汲んだ。何故か俺も、残り湯の入ったバケツを持たされた。

一体これで何をするのかと思ったが、奴らはいきなり洗濯機のなかにその水を入れたのだ。←それがいかんのじゃ

『そんなところに突っ立ってないで、あなたもそのバケツの水を洗濯機にいれてください。』

『おまえ、洗濯機に風呂の湯をいれてどうするんだ?』

『洗濯など残り湯で十分です。すすぎさえきれいな水でやればいいのですよ。』

俺が聞くと、ムウはそんなことも知らないのかという風に鼻で笑いやがった。

普通の男はそんなこと知らないと思うぞ。←その通り

そんなに残り湯がすきなら、俺の家の残り湯全部やる!←いらぬわ

まぁ、河で水浴びついでに洗濯してないだけましなのか?俺は小さい時に、返り血を洗い流すついでに服もあらったけどな。洗濯機をつかっているだけ、贅沢だな。←貧乏自慢してどうする

ムウはバスタブの残り湯を余すことなく使うことに余念がないようで、貴鬼に庭の水撒きまでさせていた。←それがいかんのじゃ

まさか、この前の処女宮の野菜も残り湯でそだてたんじゃねぇだろうな・・・・・。俺はちょっと・・・・かなり不安になった。

・・・・もしかして、庭の水撒きっていうのも、庭に家庭菜園とかがあるんじゃねぇだろうな。もしかして、いつもここで食っている飯は、残り湯で育てた食材とかじゃねぇよな。

貴鬼が水撒きをしている庭を見て、そこに菜園がないことを確認し、ほっとした。

こいつらなら、まじでやりかねないからな。←そうであるのぅ

 

洗濯を終えたムウが昼食の準備に取り掛かったので、俺はキッチンへと移動しムウを観察した。
相変わらず無意味にデカイキッチンの窓辺に、俺は見たこともない植物を発見した。それは、水がはいった、透明のうすいプラスチックの皿みたいなのに入れてあった。

俺がその怪しげな植物をつついていると、ムウにいきなり手を殴られた。

『ちょっと、それをいじらないでください。折角育ててるんですから。』

育ててる?こんなところで家庭菜園か!?

『これは、大根の葉なんですよ。大根。ご存知ですか?』

『馬鹿にするなよっ。俺だってダイコンの一つや二つしってらぁ!白くてデカイにんじんだろう。』←ちと違うのぅ

『まぁ、似たようなものですが。これはダイコンの葉っぱなのですよ。育てて、あとで食べるのです。』

俺は、またまたムウに鼻で笑われた。

『いいですか。食材というのは使えるところを隅々まで使うのです。』

はぁ、そうですか。そんなに力説されてもな・・・・。

『なんでもかんでもポイポイとすてたら、もったいないではありませんか。』←それがいかんのじゃ

いや、俺は美味いものを食えれば別にかまわねぇけどな。

これがジーサンの言うところの、ムウが貧乏くさいというやつなのか?俺はを作ったりしねぇから、よく分からん。だいたい食うものが無い時は、店とか畑からかっぱらってきて、丸かじりするもんだ。んで、不味くて食えないところは捨てればいいのだ。←それはいかん

が、俺はまたまた貧乏くさいムウを見てしまった。

貴鬼が持ってきた、小さくなって使えなくなってしまった石鹸を、粉々に砕いて小さなポンプに入れたのだ。それに水を加えて光速でふると、

『まだまだ使えるではありませんか。むやみに捨てるのではありません。』

と言って、貴鬼に返した。

『本当だぁ、さすがムウさま。すごいやぁ!!!!』

貴鬼は目を輝かせてムウ手製のハンドソープを洗面所へと持って帰った。←いかんのぅ

ガキ、これのいったいどこが凄いんだ・・・・。

さすがにこれは貧乏くさい・・・・。こういうのは、新しい大きな石鹸に小さな石鹸をくっつけるのが常識だろう。俺と兄貴は小さい時からそうやって使っているぞ。

昼食はドライカレーだった。まじ美味い!!!

昼飯を食った後、ムウが工房で聖衣の修復をしはじめたので、俺は白羊宮の貧乏チャックを始めた。←チェックであろう

まずはキッチン。

さっきも見たが、ここにはダイコンを菜園中だ。ほかには・・・・、シンクの蛇口に何故か輪ゴムの束がかかっていた。←いかんのぅ
・・・・輪ゴム、謎だ。いったいムウはこんなに輪ゴムを溜めて何に使うんだ?
俺みたいに寝ている兄貴の髪の毛を輪ゴムで結んで、絡ませたりして遊ぶのか?ジーサンの髪も、よくこんがらがりそうで楽しそうだな。←下らぬことをするでない

ん??俺はキッチンの端においてある謎の紙袋を発見した。

何が謎かとういうと、紙袋の中に大量に紙袋が入っているのだ。恐らく、旦那からもらったケーキの包みとか、兄貴や鶏からもらった菓子の箱が入っていた紙袋とかだと思うが、それが丁寧にたたんで、その紙袋にいれてあった。←ムウに旦那などおらぬ

ムウは紙袋を収拾するのが趣味なのか?
眉毛も性格も変っているだけに、趣味もかなり変だ。

菓子の袋があるということは・・・・。
俺はキッチンの棚を片っ端から開けて、袋に入っていたものを探した。

やっぱり・・・・。

キッチンの入り口から一番最初の棚には、菓子の空き箱とか空き缶がきれいに並べられてしまってあった。念のため、中身を確認したが全部からっぽだった!

ムウはそんなに紙袋と箱がすきなのか?それとも、菓子が美味かったから、名残惜しくて箱だけでもとキープしてるのか?っていうか、こんなに溜めこんで、馬鹿かこいつは!←いかんのぅ

これは、貧乏くさいというより、意地汚いって感じだ。←いかんのぅ

次に俺がキッチンで発見したものは、さらに貧乏くさかった。

キッチンの隅に赤い布がかかった小さな椅子みたいなものがおいてあったのだ。前はこんなのなかったはずだが。大方、餓鬼専用の椅子か何かだろう。椅子にしては高さが不自然だ。
赤い布をめくってみると、その正体は、なんとラップの芯を集めて作った簡易ベンチだった。まえに兄貴が読んでいた料理雑誌の特集にあった『賢い奥様のリサイクル術』の載っていた奴そっくりだ!!これは、絶対にベンチだ。←いかんのぅ

こんなものわざわざ作らなくても、そこら辺に生えている木をぶった切って座るとか、手ごろな岩を持って帰ってくるとかすればいいのにな。
貴鬼もこんな椅子に座らされてキッチンの手伝いをさせられているのか、哀れなやつめ。

『人の家のキッチンで何をしているのですか?』

俺は突然ムウに声をかけられて、ビックリした。こいつ、工房にいたんじゃなのか?

『いや・・・・・、いいベンチだな、って思って。』

俺が咄嗟に誤魔化すと、ムウはすかして笑った。

『そうですか。あなたにもそれの良さがわかるとは思いませんでした。でしたら、一つお譲りしましょう。・・・・、そうですね、サガの分も持って帰ってあげなさい。きっと喜ぶでしょう。』←いかんのぅ

ムウは超能力で、ラップの芯を集めて作ったベンチもどきを取り出した。しかも、2個。

一つは俺用、もう一つが兄貴用ということらしいが・・・・。いくら偽善者兄貴でも、それはよろこばねぇだろう。

まぁ、いい。1個はジーサンに提出して、1個は兄貴にプレゼントだな。

『そういえばさ、お前工房で仕事していたんじゃないのか?そろそろおやつを作る時間か!?』

『いえ。工房で、これを作っていたのですよ。』

これ?

ムウは変な紙くずを俺に差し出した。

『紙くずか?』

『か、紙くず!?失礼な事言わないでください。これは、はがきですよ、はがき。牛乳の空きパックで作ったんです。これで懸賞に応募すると良く当たるんです。ふふっ。』←いかんのぅ

ムウは得意気に言ったが、俺にはどう見ても紙くずにしか見えなかった。こんな紙くずではがきかよ。こんなので手紙貰った奴もいい迷惑だろうな。

が、ここで馬鹿にすると、シャカの二の舞になるので、とりあえず誉めておく事にした。こいつも誉めておけば機嫌がいいからな。←ムウはかわゆいのぅ

『おや、カノンにこれの良さまで分かるとは、意外ですね。それじゃ、もっといいものを差しあげましょう。貴方が仕事をする時にでも使ってください。』

ムウが次の俺にくれたのは、またまた紙くずだった。

しかも束になった紙だ。

『な、なんだよ。これ。俺は手紙なんてださねぇぞ。』

『メモ帳です。新聞に入っていた広告を丁度いい大きさに揃えて作ったのです。』←いかんのぅ

メ、メモ帳・・・・?広告??

ムウがくれたメモ帳とやらをパラパラとめくると、確かに裏には聖域洋品店の広告とか、食堂のお知らせとかのチラシだった。

貴鬼も普段はこの広告の裏を使って聖衣の勉強とかをしているらしい。←いかんのぅ

んなもの、いちいち作らずに、ノートと鉛筆がなければ、地面に木の棒でかけばいいんだ。←そういう問題ではない
俺も昔、兄貴との勉強を逃げ出して捕まった時に、その場で土に字を書いて馬鹿みたいに勉強させられたもんだぜ。

とりあえずこれも、貧乏くさい証拠ということにして、ジーサンに提出する事に決定だな。


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