ボクのお嫁においで

 

サガ「お呼びでございましょうか?」

教皇シオン「この馬鹿をムウの姉に会わせてやるがよい」

サガ「げっ!? またでございますか!」

教皇シオン「一番下の姉じゃ。お前も、あのときの話を聞いておろう。山羊がのう、ムウの一番下の姉の素顔を見たからというて、結婚すると言うておるのじゃ」

サガ「シュラ、本気なのか!」

シュラ「はい!」

教皇シオン「真実を教えてやるとよい。このままでは、女子共もいい迷惑じゃ」

サガ「はい、かしこまりました」

シュラは頭に?を何個も浮かべたまま、サガに手を引かれて教皇の間を後にした。

シュラ「真実ってなんですか?」

サガ「黙ってついてくれば分る」

シュラ「まさか、すでに婚約者がいるとかじゃないですよね! あんな可愛い子だから、他の男もほうっておかないだろうし、それに聖域はケダモノがいっぱいだし……。でも、俺は何があっても絶対あきらめません!」

サガ「それはないから安心しなさい」

シュラ「じゃ、一体なんなんですか、サガ」

サガ「だからそれは一緒に来れば分るから」

シュラ「そんな、ちゃんと話してください。アイオロスだって、俺が義理の弟になることを応援してくれてるのに、なんで教皇やサガは反対するんですか!」

サガ「義理の兄弟?」

シュラはしまったと口を押さえたあと、ぷうっと不貞腐れてサガを上目遣いで見る。

シュラ「サガはアイオロスに遊ばれてるんですよ。アイオロスにも婚約者がいるんです」

サガ「はぁぁぁ?」

シュラ「俺の彼女のお姉さんと婚約してるんですよ」

サガ「誰がアイオロスと婚約などしてるものか、馬鹿者め!」

サガが露骨に顔をゆがめて吐き捨てると、シュラは目を粒にさせた。

シュラ「それって嫉妬? やきもちですか? 衝撃の真実を認められないのは、サガじゃないですか」

サガ「ったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!! そんな馬鹿なところまでアイオロスの真似をしなくてもいいものを」

シュラ「???」

眉間に何本もの筋を浮かべてブツブツ呟くサガを見て、アイオロスに捨てられておかしくなったのかなとシュラは首をひねったのだった。

人馬宮までつれてこられたシュラは、待っていたアイオロスとデスマスクにさらに首をひねることになった。

が、アイオロスの婚約者の話をしてしまったことがばれ、ここでサガとアイオロスの愛憎千日戦争が始まるのではないかと、冷や汗を流した。

案の定、サガはアイオロスの耳を思いっきり引っ張った。

アイオロス「言われたとおり、デスマスクをつれてきたぞ、サ、いでででででででで」

サガ「ご苦労さま、アイオロス。ところで、お前は後輩に一体何を吹き込んだ?」

アイオロス「な、なにをって?」

サガ「誰が誰の婚約者だ、馬鹿者!!」

シュラ「あわわわわわ、サガ、お、落ち着いて。アイオロスだって男なんだから、やっぱり女の子の方がいいんですよ」

サガ「馬鹿な勘違いをするな、シュラ!」

シュラ「え?」

サガはアイオロスの耳を下に引っ張っていた手を乱暴に離すとデスマスクを手招いた。

サガ「この顔に見覚えはないか?」

シュラ「デスマスクです」

サガ「よぉぉぉく、見てみなさい」

シュラ「よぉぉぉぉく見てみても、デスマスクです」

サガはデスマスクの髪の毛を二つに分けて、ツインテール状に握った。デスマスクは苦笑いを浮かべながら、シュラに手を振る。

サガ「これでもか?」

デスマスク「よぉ。シュラ」

シュラ「……ツインテールのデスマスク?」

サガ「お前は本当にムウの姉が好きなのか!!」

シュラ「好きです!! それとデスマスクの一体何が関係あるんですか!」

デスマスク「こいつマジで馬鹿だな、サガ」

サガ「……デスマスク、例のものを」

デスマスク「おうよ!」

デスマスクは手に持った仮面をぱかっと被った。

サガ「これでどうだ、シュラ」

シュラ「どうって……、なにが?」

サガ「はぁぁぁぁぁ、まったくどうして分らないのだ!」

アイオロス「恋は盲目だからだろう、サガ」

サガ「お前は余計な口を挟むな、話がややこしくなる」

アイオロス「そんな、つれないなぁ。たとえサガがどんな姿であろうと私がサガを好きなように、シュラもデスマスクがどんな姿であろうと大好きなんだろう」

デスマスク「うげぇ、やめろよ。俺は女の子が好きなんでい!」

シュラ「え? 俺がデスマスクを好き?」

アイオロス「ああ、デスマスクと将来結婚するだろう、お前」

シュラ「えっ!? えっ!?」

アイオロス「たまには女装してもらえるといいな」

シュラ「え? 女装?!」

シュラは目を白黒させながら、目の前のデスマスクを見た。

ネイビーブルーの超短いツインテール、日に焼けた素肌、白い歯、大きめのつり上がった瞳のデスマスクが、笑顔で片手をあげる。

シュラの顔は見る見る色を失っていった。

デスマスク「女にガッツいてる男はかっこ悪いぜ、シュラ」

シュラ「え!? あっ、あえ!? うそ、なんで、まじ!? どうして、あぁぁ、かみさまぁぁ」

サガ「ようやく分ったか、シュラ」

デスマスク「ていうか、なんで仮面外れて素顔を見たときに気がつかねーんだよ、馬鹿」

シュラ「だってアイオロスは、俺が話したとき何も教えてくれなかったじゃないですか」

サガとデスマスクがギロリとアイオロスをにらみつける。

アイオロス「だって、ほら、男が好きって恥ずかしくていえないのかと思ってさ。だって、普通はすぐにデスマスクって分るだろう?」

シュラ「そんなぁ、じゃ、アイオロスの婚約者のムウの二番目のお姉さんっていうのは?」

アイオロス「サガに決まってんだろう」

シュラ「サガ!? 何でサガがムウのお姉さん!?」

サガ「そ、それはいろいろと事情が……もごもご」

シュラ「ていうか、なんで女装なんかして人騙してんだ、デスマスク、ごらぁ!」

デスマスク「はぁ? 俺だって好きで女装してたわけじゃねぇ。勝手に間違えたお前が悪いんだろうが!」

シュラ「ふざけんなよ! てめぇ、女装趣味があるって言いふらしてやるからな!」

デスマスク「なんだと!? だったらこっちは、その女装した俺に結婚申し込んだ馬鹿だと言いふらしてやるぜ!」

シュラ「お、おのれデスマスクぅぅぅぅぅーーーー」

サガ「やめないか、お前達!」

シュラ「だって、だって、ボクのお嫁さん……」

涙を浮かべたシュラに、サガは溜息をついた。

サガ「仕方ないだろう、あれは正真正銘のデスマスクだったのだ。ムウがどうしても誕生日に姉が欲しいといってな、それで仕方なく我々が姉になったんだ。お嫁さんは諦めなさい、シュラ」

シュラ「うわーーーーーん」

ぶわわわわっと涙を浮かべたシュラは、ぎゅっとサガに抱きつくと涙と鼻水をサガの服で拭ったのだった。

 

それから数時間後。

すかり不貞腐れたシュラに、アイオロスは苦笑を浮かべた。

アイオロス「もういい加減機嫌直せ」

シュラ「だって俺のお嫁さん……」

アイオロス「デスマスクを嫁にすればいいだろう?」

シュラ「やだ、あいつ男だもん。それに、性格悪いし、乱暴だし……」

アイオロス「じゃぁ、なんでデスマスクを好きになったんだよ」

シュラ「俺が好きになったのはデスマスクじゃなくて、ムウのお姉さんです」

アイオロス「ツインテールにしてただけだろう? 性格だってあのままだし、顔だってほとんど同じだ」

シュラ「そ、それはそうですけど……」

アイオロス「ていうことはさ、お前の好みってデスマスクなんじゃないのか?」

シュラ「え? 俺の好みが?」

アイオロス「ああ、そういうことだろう?」

シュラ「でも、男だし」

アイオロス「だからなんだ? 性別なんて関係ないだろう」

シュラ「関係なくないですよ……」

アイオロス「たまたま相手が男なだけだ。そんなこと小さな問題だ、俺とサガを見れば分るだろう?」

シュラ「……、そうなんですかね」

アイオロス「そうとも。俺の嫁さんはサガ、お前の嫁さんはデスマスクでいいんじゃないのか、あはははは」

シュラ「……でも俺、やっぱり女の子がいいなぁ」

アイオロス「女も男も大した違いはない。子供を生めるか生めないかの差だけだ。俺はサガが男だろうと何だろうと、愛している。だからお前もデスマスクの性別なんて気にするな。好きなら素直になれよ」

シュラ「……俺の理想の好み、なのかなぁ」

こうしてシュラは着実にデスマスク萌えを養っていくのであった。


end