にいちゃんといっしょ(童虎の誕生日)

 

童虎「皆の者、今宵は無礼講であるぞ。気楽にいくがよい」

絶対に嘘だ、と皆が思ったのは言うまでもなく。

童虎「ほれ、どうした?あきらかにヅラだろうという部長のヅラを取って、ペチペチと叩いても怒られない、あの無礼講じゃぞ」

いいや絶対に嘘だ、と皆が思ったのは言うまでもなく。

童虎「ほれほれ、どうしたのじゃ、元気がないのぉ。お気に入りのOLにお触りしても怒られない、あの無礼講じゃぞぉ〜」

絶対に絶対に嘘だと以下同文。

童虎「お局OLに結婚はまだかと聞いても怒られんし、酒の勢いで、フルチンになっても怒られない無礼講じゃぞ、のぉシオン?」

シオン「そうじゃ、今宵は無礼講じゃ。皆ゆるりとくつろぐがよい」

童虎「シオンもそういうておる、皆かたくなるでないぞ」

そのシオンの言葉が一番怪しいのを、本人と童虎を除く全員が知っていた。

しかし、アイオロスが無謀にも童虎の前に酒ビンを持って座り込んだ。

アイオロス「では、一つお聞きしたいことが!」

童虎「なんじゃ? なんでもいうてみよ」

アイオロス「サガは……」

童虎「廬山百龍覇ーーーーーーーーっ!」

アイオロスが、処女宮の天井を突き破り、キラリと夜空の星となって消えたのを見て、ミロたちは冷や汗を流し、無礼講という名の裏に隠れた恐ろしさに、改めて背筋を正す。

童虎「誕生日の時くらい、胸糞悪い名前は聞きとうないわ」

シオン「大人気ないことをするでない、無礼講というたのはお前ではないか。せめて昇龍覇にしておけ」

誰もが、どちらも変わらないと思ったのは言うまでもなく、改めて柱に貼られたデスマスク直筆の注意書を心の中で暗唱したのであった。

デスマスク「まぁまぁ、老師。空気の読めない奴のことなんざぁ忘れて、ぱぁっとやりましょうぜい!」

童虎「うむ、そうじゃ、そうじゃ!今宵は無礼講じゃ〜♪」

がしかし、童虎はムウの隣に寄り添って座るシオンを見て眉を寄せた。

童虎「おい、そこのボケ老人!」

シオン「ムウや、子供はすこーししか酒を飲んではいかんぞ」

ムウ「シオンさま、私はもう子供ではございません」

シオン「何をいうておる、余にとってお前はずっと子供じゃ」

童虎「ごらぁ、そこのボケ老人!呼ばれたら返事をせぬか!!」

シオン「たまには愛弟子と酒を酌み交わすのも悪くないのぉ。今度は日を改めて、静かにゆっくり酒を飲みたいものじゃのぉ、ムウや」

ムウ「私は皆と一緒のほうが……」

完璧に無視を決め込むシオンに、ついに切れた童虎がシオンの髪の毛を引っつかんだ。

シオン「何をする、ボケ老人!」

童虎「ボケ老人はお前じゃ。もう耳が遠くなったか!シオン、貴様何を飲んでいる?」

シオン「ワインに決まっておろう!」

童虎「男なら老酒を飲め!」

シオン「馬のションベンなぞ飲めるかっ!」

童虎「今宵はわしの誕生日だ、たまには大人しくいうことを聞いてわしの酒を飲め!」

童虎はシオンのワイングラスになみなみと老酒を注ぐ。 そしてシオンとムウの間に無理矢理尻を割り込ませ、ムウにしっしっと手を振った。

シオン「な!何をするのじゃ!余のムウを返せ!」

童虎「お前に老酒の味をたっぷり教えてやるわい。老酒が飲めぬなら、杏露酒、玖瑰露酒でもよいぞ」

シオンの思いっきり嫌そうな顔に、ムウたちは童虎に賞賛の拍手を心の中で送った。

が、そのムウ達の顔が、シオンと同じように強張った。

なんとアイオロスがサガをつれて戻ってきたのである。

正確に言えば、白目をむいて口から泡を吹いているサガを強制連行してきたようだ。

アイオロスはサガを床に放ると、サガに気合を入れて目を覚まさせた。

童虎「何をしにきた、サガよ!おぬし、またわしに嫌味を言われたいのか?」

サガ「は?え?はえ?げっ!?わ、わ、私はリビングで本を読んでいたはず……、ア、ア、アアイオロスが突然来て、それで、えっと……」

アイオロス「老師。サガに責任はありません。私が勝手に連れてきました!」

連れてくるなよと、アイオロス以外誰もがそう思った。

アイオロス「サガがいなければ、楽しくありません!」

童虎「わしはいないほうが楽しい!この裏切り者と同じ空気を吸うてるかと思うだけで、気分が悪くなる」

童虎はグラスを床に叩きつけると立ち上がった。

童虎「やめじゃ、やめじゃ、気分が悪い!誕生日ぱぁちーはやめじゃ!シオン、白羊宮に戻って、飲みなおすぞ!」

サガ「も、申し訳ありません、老師さま。私めは今すぐ退散いたします……」

アイオロス「それはダメだ!」

アイオロスが立ち上がったサガの腕を掴んだ。

サガ「放さんか、このばか!」

童虎「さっさとその薄汚い面をこのわしの前から消せ!さもなくば、おぬしの手足をもぎ取り瓶の中にいれ、二度とわしの前に現れることの出来ぬ身体にしてやるぞ」

アイオロス・ミロ・アイオリア・アルデバラン「げっ!?」

サガ「あばばばば」

童虎「そしたらのぅ、シオンにくれてやるわ。シオンは穴さえあればよいからのぉ」

シオン「……いらぬわ」

サガ「お許しください、老師さま。このサガ、今すぐに退散いたしますので……」

アイオロス「その必要はないっ!!」

童虎・サガ「なにぃ!?」

アイオロス「サガは女神にお許しを得て、今はこうして生きてます。それにサガはかつては裏切り者であったかもしれませんが、今は仲間ではありませんか!アイオリアやムウですら、サガのことは嫌いでも、そこまで露骨に嫌がらせをしませんよ!なのに、どうして老師さまは、そこまでサガを虐げるのですか!!」

ムウ「(私は、ねちねちチクチク嫌がらせをするのが好きなだけです)」

アイオリア「(オレはもう二度と関わりたくないだけなんだけどなぁ……)」

サガ「あぁ、もうやめてくれアイオロス。頼むから、これ以上喋るな」

アイオロス「お前は黙ってろ、サガ!」

デスマスク「そうだ、もうやめろ! 酒が不味くなる!」

アイオロス「うっせーんだよ。部外者はひっこんでろ!」

うるさいのはアイオロスで、部外者もアイオロスだ!と誰もが思ったのは言うまでもない。


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