★にぃちゃんといっしょ(兄ちゃんと燃える下心2)
サガは自分の膝枕で眠っているムウの柔らかい髪を撫でながら、注がれた教皇ワインを次から次へと飲み干した。そして、酒がすすむにつれて、サガの手つきが怪しく変化していく。頭を撫でていた手が、ムウの顎を掴んで頬を撫でまわしているのである。そしてついに、ムウの頬をつつきながら、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべ始めた。
それにいち早く気付いたシュラがデスマスクに目で合図すると、デスマスクは隣に座ったカノンに耳打ちした。サガは何といっても元偽教皇である。強姦の一つや二つおかまいなしな人格も、心の奥に潜んでいるのだ。もし、酔っ払ったサガがうっかりムウを襲おうものなら、シオンによって間違いなく冥界へと戻される。
カノン「おい、兄貴!もう帰るぞ!!酔いすぎて黒くなっても、俺はしらねーからな!」
カノンがすっと立ち上がり、サガに怒鳴ると、サガもグラスを置いて立ち上がった。しかし、何故かその手にはムウを抱えている。
カノン「おい、兄貴!ムウは置いていけよ。」
サガ「バカノン!ムウは教皇様にお返ししなければならん。」
アイオロス「サガァ。教皇は留守だぞぉ。ムウはシュラにおくらせるから、一緒に人馬宮に行こう。」
サガ「シュラはいかん。子供に子供の面倒を見させてどうする!」
アフロディーテ「だったら、私が連れて帰るから。サガ、ムウをおろして。」
サガはムウを受け取ろうと近寄ったアフロディーテをじーっと見据えた。その目はいつになく座っている。そしていきなり空いた手でアフロディーテの前髪を掴むと、ぎゅっと引き寄せ唇を重ねた。突然の事に、アフロディーテは酒で赤くなった顔を更に赤くする。
サガ「おやすみ、アフロディーテ。お前は双魚宮に帰りなさい。」
アフロディーテ「は、はい・・・。」
おやすみのキスにうっとりしながら、処女宮を去ってくサガを呆然と見送るアフロディーテの横を、カノン、アイオロス、デスマスク、シュラの4人があわてて駆け抜ける。あの様子からして、サガがムウをきちんと白羊宮に送り届けるとは思えなかったからだ。
案の定、サガはムウを小脇に抱えたまま双児宮の私室に帰った。
寝室のドアに手をかけるサガの肩を、カノンが掴む。
カノン「兄貴、ムウはやめておけ。殺されるぞ。」
サガ「なんだ、カノン。一人で眠れないのか。仕方のない子だな。しかし、兄さんは・・・大事な用事があるんだ。また明日な。」
サガの長い腕がカノンの首にすっと絡まり、そのまま同じ顔が重なった。
サガ「おやすみ、カノン。」
カノンはサガのおやすみのキス攻撃に呆然と立ち尽くすと、サガの言葉につられて『おやすみ』と返事をしてしまう。サガの寝室の戸がバタンと締まると、中から鍵のかかる音がした。
シュラ「おい、愚弟!おにーちゃんのチューにうっとりしている場合じゃないぞ!」
デスマスク「明日がサガの葬式になりたくなかったら、手伝え!。」
カノン「・・・・・・・は?、しらねーよ。もうああなったら、手遅れだ。あれは白サガ・・・、いや黒サガ・・・、黒っぽい白サガか、白っぽい黒サガか・・・、カフェオレサガだ。俺は風呂入ってから逃げる。」
シュラ「貴様それでも弟か!」
カノン「それがどうした!風呂だ!風呂!」
頭を掻きながらさっさと風呂に行ってしまったカノンに目くじらを立て、シュラとデスマスクはドアノブを掴み、がちゃがちゃとまわした。その手をさらに違う手が掴む。アイオロスである。
アイオロスはシュラの手ごとノブをひっぱり、ドアを無理矢理こじ開けた。そして、三人はサガの寝室になだれ込むと目を見開いた。
サガがベッドの上にムウを横たえ、体を重ねているのである。幸運なことにも、二人はきちんと衣服を身に纏っていた。靴まではいている。
サガはムウのふくよかな頬を両手で撫でまわすと、顔を重ねて頬を摺り寄せた。青銀の髪をかきあげると気絶しているムウに馬乗りになった。そして両手を再びムウの頬に添え、不気味な低い笑い声を部屋に轟かす。
三人が最早これまでと、覚悟を決めたそのとき、サガの手が動いた。
フニャフニャ
サガの手はムウのふくよかな頬を揉んだ。
ビヨーン
そして引っ張る。
ムニムニ
ひねる。
フニャフニャ
また揉む。
ビヨーン
また引っ張る。
サガ「わーーははは!伸びろ!!伸びるのだ!わーーはは!星矢より伸びるか比べてやる!」
すっかりムウの柔らかい頬が気に入ってしまったサガは、撃沈しているムウの頬を伸ばして悦に入っているのである。
三人はあまりの馬鹿馬鹿しさに床に座り込み、呆れはてて肩を落とす。
酔ったサガは単なる頬伸ばし魔であった。
激しい頭痛で目を覚ましたサガは、気だるい体をゆっくりと起こそうとしたが、自分が腕に抱いてるものに気付いて、飛び起きた。まだ日は昇りきっておらず、部屋は薄暗かったが、それでもそれが何であるかサガにははっきり分かった。いや、覚えていた。ムウである。そして、恐る恐るムウの乱れた髪を頬から払うと、短い悲鳴をあげてしまった。
アイオロス「んん!どうした!サガ!」
サガの悲鳴にパチクリと目を覚ましたアイオロスは、ベッドの上で戦慄くサガに声をかけた。アイオロスを見つめるサガの瞳は涙で潤んでいる。
サガ「アイオロス・・・私は大変なことをしてしまった。」
アイオロス「大丈夫だ。ムウもお前もきちんと服を着ているだろう。」
サガ「そうじゃなくて・・・ムウが・・・。」
サガが震える指でさした方を見て、アイオロスは思わず吹き出してしまった。ムウのふくよかな頬が更にふくよかになっているのである。泥酔したサガは嬉々として一晩中ムウの頬を掴んでは伸ばし、ムウの頬はパンパンに膨れ上がり、倍以上の大きさになっていた。
サガ「ムウをベッドに連れ込んで、しかもこんな顔にしたなんてバレたら・・・教皇に殺される。」
アイオロス「落ち着け、サガ。大丈夫、私がついているから心配するな。」
サガ「し、しかし!!」
アイオロス「とりあえず、ムウの顔を元に戻そう。ここにムウを連れ込んだことはもうどうにもならないが、デスマスクやシュラ、それに私も泊まったんだから大丈夫だ。ムウが起きる前に顔を戻そう。」
サガ「冷やせば元に戻るか?」
アイオロス「ダメだ、ムウが起きる。ヒーリングだ。ヒーリングにしよう。」
サガとアイオロスはムウの頬に手を添えると、二人で小宇宙を燃やした。しかし、ムウも黄金聖闘士である。黄金の小宇宙を注がれた事に気付かぬはずがなく、パチパチと小さな音を立て瞼を開いた。
ムウ「あなた達、何をやってるのですか?」
サガとアイオロスは光速でムウから手を離すと、笑ってその場を取り繕う。ムウは体をブルッと震わすと、ゆっくり体をベッドから起こした。
ムウ「サガ。お手洗いをかして下さい。」
サガ「あ、ああ・・・廊下の突き当たりだ。」
ムウが超能力で消えてからしばらくすると、寝室まで便器の水を流す音が聞こえた。
サガ「しまった!!」
アイオロス「どうした?」
サガ「手洗いの流しに鏡がある・・・。」
案の定、手洗いの方から聞こえてきた悲鳴にサガはベッドの上に崩れ落ちた。
サガ「終わりだ!殺される!」
アイオロス「私がいる限り、お前を殺させはしない。必ず私が何とかするから。いいか、何があっても堂々としていろ!」
サガ「アイオロス・・・・。」
アイオロスは縋るような瞳のサガを部屋に残して、一人廊下へと出て行った。
両手で頬を押さえ、眉根を寄せて睨みつけるムウに問い詰められ、アイオロスは額に冷や汗を沢山浮かべた。
ムウ「これはどういうことですか!!」
アイオロス「こ、これって?」
ムウ「とぼけないで下さい!私の顔です!誰ですか、私の顔にイタズラしたのは。」
アイオロス「お、覚えていないのか?」
ムウ「・・・、覚えていません。」
アイオロス「そうだよな、あれだけ酒を飲めば覚えていないよな。」
ムウはアイオロスから自分が教皇のワインを一本丸ごと全部一人で飲み干し、そして酔いつぶれたことを聞かされた。まったく記憶のない出来事にムウは頬に手を当てたまま小首をかしげる。しかし、どう頑張っても思い出せない。
ムウ「酔いつぶれたのと私の顔が腫れるのと、どう関係あるのですか?」
アイオロス「わ、私がやったんだ。お前を叩き起こそうと思って、こう、ペシペシと頬を叩いたんだが・・・私も酔っ払ってたみたいで、力が入ってしまったんだな。」
紫色の瞳に覗き込まれ、アイオロスは思わず視線をそらす。目を合わせたら、絶対にウソと見抜かれるだろう。
ムウ「・・・、本当ですか?」
アイオロス「ああ、本当だ。」
ムウ「では、何で私はサガのベッドで寝ていたのですか?本当はサガが私に暴力を振るったんでしょう。」
図星をつかれ、アイオロスの鼓動は一気に高まった。おそらくムウにはもうウソだとばれているだろう。しかし、それでもアイオロスは嘘をつき通す必要があった。本当のことがばれたら、ムウは間違いなく教皇に言いつけ、サガは教皇に嬲られ、殺される。
アイオロス「サガがな、お前を送ってってくれたんだぞ。・・・双児宮で力尽きたけど。別に尻は痛くないだろう?頬以外にイタズラされた形跡あるか?」
ムウ「・・・ありませんけど。」
アイオロス「ノンケのデスマスクも一緒にお泊りしたんだ、女神に誓ってエッチな事はしていない!大体、お前にそんなことをしたら、教皇に殺される。」
ムウが納得いかなさそうな顔で睨み続けるので、アイオロスは更に続けた。
アイオロス「頬のことは謝るけど、悪気があってやったわけじゃないんだ。だから、許してくれ。それとな、お前はもう子供じゃないんだから、意識がなくなるまで酒を飲むんじゃないぞ。貴鬼が起きる前に早く白羊宮に帰れ。頬は自分のヒーリングで治せるだろう。」
しかし、まだムウは睨み続けている。
アイオロス「意識がなくなるまで酒飲んで、朝帰りしたのが教皇にバレたら、お前だってタダじゃ済まないだろう。この事は私も黙っているし、皆にも黙らせるから、頬のことは許してくれ。頼む!」
痛いところをつかれ、ムウは小さくため息をつくと『わかりました』と返事をし、キラキラと星明りを残して瞬間移動でその場から消えた。白羊宮に戻ったのであろう。
部屋の中で廊下の会話を聞いていたサガは、ドアを開けると、なんとも情けない顔でアイオロスに謝った。
サガ「すまない、アイオロス・・・。私のために嘘をつかせてしまって・・・。」
アイオロス「お前に沢山酒を飲ませた私も悪いんだ。気にするな。」
サガの潤んだ瞳にアイオロスは頬を緩ませ、ぐちゃぐちゃに乱れた青銀の頭を抱き寄せた。
よし!いいムードだ!
心の中でガッツポーズを決め、しばらくサガの頭を抱いていたアイオロスは、その手を解くとサガの顎に手をかけ、顔を上げさせる。そして、サガと熱い口付けを交わそうとした。
アイオロス・サガ「う゛!!!」
だが、二人の間を強烈な匂いが引き裂く。他ならぬ互いの酒臭い口臭であった。その匂いたるや、二人の愛をもってしてもかなわぬほどである。
アイオロス「・・・、続きは今晩してくれるか?」
サガ「・・・そうしよう。流石にちょと・・・。」
苦笑いしながら、サガとアイオロスはもう一眠りしようと寝室へ戻ったのであった。
もちろんその後、勝手に教皇のワインを持ち出したことになっていたアイオロスが、シオンにこっぴどく怒られたのは言うまでもない。