兄貴といっしょ(誕生日プレゼント)

 

光速で説明書を熟読したサガは、相変わらず子供のように瞳を輝かせたまま顔をあげた。

サガ「すごいっ、アイオロス、本物だ! 本物のセグウェイだ!! あぁぁっ、なんてカッコイイのだろう! こんなカッコイイ乗り物、生まれて始めてみたっ!!」

うっとりするサガにシュラ達はポカーンとなった。

サガ「アアア、アイオロス。の、の、の、乗る前に、触ってもいいか?」

アイオロス「ああ、じゃんじゃん触ってくれ」

サガは頬を紅潮させ、子供のように目を輝かせながらセグウェイに手を伸ばす。恐る恐る指先で触れると、慌てて手を引っ込めほう〜っとため息を吐いた。

サガ「すごい、やっぱり本物だ。思っていたよりも全然すっごい、何倍もカッコイイ〜」

ミロ「(なにがどうすごいんだろう)」

アイオリア「(あれってかっこいいんだ)」

アイオロス「遠慮なく触って、乗っていいんだぞ!」

サガ「しかし私の指紋がついてしまう。それに土足で乗ったら汚してしまうではないか」

アイオロス「そんなの気にするな。すでにミロやアイオリアが乗った後だし」

サガ「なんだと!? ミロとアイオリアはもう乗ったのか??」

ミロ「え、うん」

アイオリア「俺は本当に乗っただけだけど」

サガは鼻の穴をぷっくり膨らませ羨望の眼差しで二人を見た。

サガ「で、どうであった?」

アイオリア「どうって?」

ミロ「こっぱずかしかった」

アイオリア「うん、皆が笑うし、早く降りたかった」

サガ「恥ずかしい!? なにが恥ずかしいのだ、かっこいいではないか!!」

サガは憤慨しながら恐る恐るステップへと一歩踏み出した。

両足をステップに乗せると、サガはゆっくりとハンドルを握り瞳を閉じてセグウェイの感動に浸る。そして大きく息を吸い込んだ。

サガ「あぁ……空気すらいつもと違う感じがする」

ミロ「いや、かわんねーよ!」

アイオロス「サガ、走らせていいんだぞ」

サガ「なに!? ほ、ほ、ほ、本当か!?」

アイオロス「ああ、走らせなきゃ意味がないだろう」

サガ「しかし、まだアイオロスは乗っていないんだろう?」

アイオロス「いいんだよ、私は別に乗りたくないし、こんなの」

サガ「え?」

アイオロス「あっ、いや……、まだ乗ってないけど、私はそういうの気にしないから」

サガ「し、しかし……」

ためらいの言葉とは正反対に、サガの顔はセグウェイを運転できる嬉しさでゆるゆるである。

アイオロス「わかった。じゃぁ、サガは私の代わりにセグウェイが安全にちゃんと動くか確かめてくれ。もし不具合があれば交換してもらわなくちゃいけないからな!!」

ぱぁーーーーっとサガの顔が更に明るくなった。

サガ「分った! アイオロスの安全の為に、私が試乗してやろう」

ウッキウキでサガはキーを回すとハンドルを前にゆっくりと倒した。

サガ「動いたっ!! アイオロスっ、動いたぞ!!!! すごい、うごいたぞーーーーーーっ!!!!」

アイオロス「そ、そうか。そんなに喜んでもらって、俺も幸せだ」

子供みたいにはしゃぐサガに、アイオロスは若干呆れながら、やはりその良さがちっとも理解できずに無理に笑顔を作って見せた。

その首にシュラとデスマスクは太い腕を巻きつけた。

デスマスク「おいごら、アイオロス。どういうことだ!」

アイオロス「なにが?」

シュラ「とぼけないでください。アイオロスは、セグウェイが何かも知らなかったくせに!」

デスマスク「あの馬鹿のハシャギ方はなだ!」

シュラ「俺たちは、まさかサガへのプレゼントを肩代わりさせられたんじゃないでしょうね!」

アイオロス「さすがにそれはない」

デスマスク「じゃぁ、お前はアレに乗るのか!」

アイオロス「あんな見っとも無いの乗れるわけないだろうがっ!!!……あっ、しまった!」

シュラ「ほう、ということは乗りもしない高い値段の玩具を欲しかったと?」

アイオロス「いや、そういうわけでは……」

デスマスク「だがお前はセグウェイがどんなもんかも知らねぇように見えたがなぁ」

アイオロス「……誰でも乗れる電動自転車だと思ってたのは確かだが」

シュラ「自転車が乗れないサガでも乗れる?」

アイオロス「あ゛っ、お前、誘導尋問は卑怯だぞ!!」

デスマスク「語るに落ちるとは、まさにこのことだな」

シュラ「さぁ、一体どういうわけか話てもらいましょうか、アイオロス」

アイオロス「分った、話せばいいんだろう、話せば」

アイオロスは溜め息をつくと、決まりが悪そうに話始めた。

アイオロス「先月くらいに、サガが突然セグウェイが欲しいって言い出したんだ。もちろん私は、セグウェイなんて知らなかったんだが、サガが『セグウェイがあればアイオロスと一緒にサイクリングにいけるんだ』と言っていたから、てっきりサガにでも乗れる自転車かと思ったわけだ。当然、私だってサガとラブラブサイクリングデートがしたい!! だが誰でも乗れる自転車の割には値段が高いそうで、サガは『貧乏だから買えないッ』と言ってしょぼくれていたわけだ」

シュラ「それで誕生日プレゼントに貰って、サガにそれを与えるつもりだったんですね!」

アイオアイオロス「そうじゃない! 話は最後まで聞け。私だってそこまで甲斐性なしではない! 当然、私が買ってやると言ったんだが、あいつは『お前に施しをうけるほど落ちぶれてはいない!』って言いやがった。ったく、無駄にプライドだけは高いから、参っちまう」

デスマスク「で?」

アイオロス「まぁ、それでも毎日物欲しそうに、セグウェイセグウェイって言うから、そんなに私とラブラブサイクリングデートがしたいのかと思って、それならデートの時にサガに貸してあげればサガも素直に受け取るかなと思ってな」

シュラとデスマスクは思わず頭を抱えた。

デスマスク「男のケツにしかれてんじゃねーよ、大馬鹿野郎」

シュラ「で、アイオロスは本当にあれとサイクリングデートがしたいんですか?」

アイオロス「いや、ちょっと無理! あれとは恥ずかしくて行きたくない」

シュラ「じゃぁ、どうするんですか、あれ!!」

アイオロス「どうするもなにも、最初の計画どおりサガに貸してやる……しかないだろうが。お前達が怒る理由も分る、私だって二人乗りラブラブデートなんかも考えてて、楽しみにしてたんだ!!! だが、なんだあの変てこなおかしな玩具は!! なんでサガはあんなもんがいいんだ!!!」

シュラ「アイオロス、落ち着いてサガという男をよーーく思い出して下ださい。あなたが一番サガという男を良く知っているはずです」

デスマスク「あいつは氷のピラミッドが真剣にカッコイイと思っている男だぜ」

アフロディーテ「教皇一族なオレ、カッコイイとか思ってるしね。あの頭の悪そうな冠とトゲトゲのついたプロテクターが、サガは真剣にカッコイイと思ってるのよ」

カミュ「巨大な肖像画もカッコイイと思っていたのですか?」

シュラ「当然」

ミロ「まさか二重人格も、カッコイイと思ってわざとやっていたとか?」

デスマスク「いや、そこまで器用な男じゃないから、あれは違う」

アイオロス「……確かに、あいつのセンスは昔からおかしかったが、それは子供独特じゃなかったのか!!」

アイオロスが引きつった笑みを浮かべていると、顔を火照らせたサガがセグウェイで横付けした。

サガ「見てくれ、アイオロス!! 思ったよりもスピードがでるのだぞ!!!」

アイオロス「サガ、楽しそうだな……」

サガ「ああ、すっごく楽しいぞ。こんなカッコイイハイテクマシーンを今までに見たことが無い!!」

サガの満面の笑みに、アイオロスは思わずウットリ見惚れた。

アイオロス「サガは可愛いなぁ〜」

シュラ「……、サガ、ショックを受けると思いますが、それはかっこよくないと思いますよ」

サガ「なにを言っている。これはカッコイイ!! なんていったって、世紀の大発明なのだぞ!」

デスマスク「今の自分の姿を想像してみろ、それに乗って聖域を走る姿を想像してみろ!」

サガはむっと顔をしかめると瞳を閉じた。そして、セグウェイに乗って颯爽と聖域を走り抜ける己を想像した。

サガ「あぁ、皆が私を見ているぞ、デスマスク!! 皆がセグウェイと私を羨望の眼差しで見ている!!」

ウットリ悦に入りながらサガは夢うつつに呟いた。

デスマスク「嘲笑を浮かべて見ているの間違いだろう」

サガ「アイオロス、乗ってみろ!! すっごくいいぞ!」

アイオロス「いや、私はいいや!」

サガ「なんだと?」

アイオロス「お前にそれ、貸してやるよ」

サガ「え? 貸してくれるのか?」

アイオロス「ああ、上手く乗れるようになったら、私にも乗り方を教えてくれ」

サガ「あ、ありがとう〜、アイオロスっ!!!」

アイオロスの適当な嘘にも関わらず、サガは感激のあまりにぎゅっとアイオロスの手を握る。アイオロスの鼻の下がべろーーーんと伸ばした。

サガ「そうだ! 私がうまく乗りこなせるようになったら、皆にも乗り方を教えてあげよう!」

シュラ「余計なことすんなよっ」

サガ「それから折角だし、皆でサイクリングに行こうっ!」

デスマスク「絶対無理!」

アフロディーテ「頭さげられても嫌だわ」

アイオロスたちは自転車に乗っている自分達の中で、一人セグウェイを走らせるサガを想像して引きつった笑みを浮かべたのだった。


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