兄貴といっしょ8(正義の戦士アイスマン登場!)

 

これまたムウも茶色のブロックをせっせと組み立てている。

「ムウもウンコ作ってるのか?」

「ちがうもん。クマさんのクロスつくってるの」

「ベアの聖衣は青銅聖衣だぞ」

ムウは薄紫色のおかっぱ頭をフルフル振ると、

「クマさんのくまさんのクロスだもん!」

後ろに手を回して愛用のクマのぬいぐるみを取り出す。シオンの超能力で二足歩行するおなじみのムウのクマぬいである。

しかしその見慣れたクマがいつもと違っていた。なんとぬいぐるみがレゴで出来た帽子を被っているのである。

「クマさんのクロス、クマさんなんだよ」

アイオロスは首をかしげて帽子を被るクマを抱き上げた。なるほど、よくみればレゴで出来た帽子には、レゴの耳と鼻、目、そして口がついている。

三歳にしてこのクオリティのものを作るとは、さすがシオンの弟子である。

自分の弟にも見習って欲しいところだった。

「ムウ、お前もアイオリアにならってもっと子供らしいものつくったらどうだ?」

チビ二人を足して二で割ったらきっと程よく子供らしいものが出来るだろう。

ムウはコクンと頷いた。

「わかった。おっきクマさんのクロス作る! ムウのクマさんのクロスだよ」

「大熊座と小熊座ってことか……、そうじゃなくてだな。もっとリアにならって子供っぽいところ見せてみろよ」

「わかった。リアとおんなじウンチのクロスつくる!!」

ムウは小首を傾げた後、再び茶色のレゴを集め始めた。

アイオロスは額に手を当てると、子供の扱いの難しさに唸り声を上げる。

しかし、遊んでくれとギャーギャー騒がれるよりは、二人とも大人しくレゴブロックで遊んでいるのでこれ以上構わないことにした。

普段もこれくらい静かにしていれば、どれだけ楽かとアイオロスはため息をつきながらサガに視線を移す。

八つも下のチビたちと同じように、やはりサガも手元をせっせと動かしレゴブロックに夢中である。

一体なにを作っているのかと思ってみてみれば、サガは四角い箱のようなものを夢中で組み立てている。

みればサガの周りにはいろいろな形の箱のようなものが散らばっているではないか。

なるほど、サガは脳内で描いた設計図を元にあらかじめパーツを作ってから、最後に組み立てるつもりなのだとアイオロスは関心した。

もちろんこれらを見ただけでは、アイオロスには何が出来るのかわからない。さすがサガの頭脳は凄い、アイオロスは改めて彼の頭脳を羨ましく思った。

おそらくサガの脳内では壮大な図面が描かれているに違いない。ならばこんなに夢中になるのも仕方ないといえよう。

「で、サガはなにを作ってるんだ?」

サガはよくぞ聞いてくれましたとばかりにニパッと無邪気な笑顔を上げ、アイオロスに弾んだ声をあげる。

「風呂ッ!」

「ふろ?」

「うん、風呂っ!!」

キョトンと目を瞬かせるアイオロスに、サガは作りかけの箱を差し出した。

アイオロスはサガの入浴好きを良く知っている。しかしまさか風呂を夢中で作ってたとは、考えにくい。

アイオロスが知るサガは、十一歳とは思えないほどの知識と感性の持ち主なのだ。

ふとアイオロスの頭に電球が灯った。

きっとサガは家を作っているのだ。将来二人で住むラブラブ新居の創作なら、サガがこんなに楽しそうに微笑むのも納得がいくというものである。目の前にある風呂は、二人の新婚ラブラブ風呂なのだ。

アイオロスはそんな可愛い一面のあるサガにニヘラと笑い、既に完成しているパーツを一つ手に取る。

箱のようなものをひっくり返せば、ベッドにもみえる。

「じゃぁ、これはベッドかな?」

差し出された箱をサガはひっくり返すと、

「風呂!」

と再び微笑んだ。

反対にアイオロスの笑顔が凍りつく。多分聞き間違いに違いない、アイオロスはめげずに違うパーツを手にとる。

「じゃぁ、これは?」

「もっと大きい風呂!」

「……」

さらに違うパーツを手にしたアイオロスを見て、

「それはムウ用の小さな風呂、こっちはアイオリア用の風呂で、これは教皇の間にある風呂、これは私が入る風呂で、こっちはアイオロスも入れる風呂」

とサガは自信満々に答えたのだった。

これではアイオリアやムウとなんら変わりない。アイオロスは笑みを顔に貼り付けたまま、返す言葉を捜した。

おそらく他の箱状の物も、風呂なのだろう。

良く見れば四角以外にも多角形なものや、屋根がついている物、なんだか判別しがたいオブジェがついている物などさまざまである。

たった一時間の間にこれだけ組み立てたのは凄いと思うが、それが全て風呂とは。

しかしアイオロスが呆れている間も、サガはせっせと風呂を組み立てていく。

アイオロスとしては、いつシオンが戻ってくるかもしれない寝室に長居をするのは御免であった。しかも自分はレゴの面白さを理解できない。

アイオロスはサガとアイオリアを連れて帰ろうと立ち上がった。

その時、彼の踵は何かにぶつかった。

ん? と振り返ってみると、そこには透明のブロックで出来た完成度の高い四角推のレゴ作品があった。

それはサガが作ったにしては風呂らしくなく、アイオリアには決してまねできない完成度である。

「なんだ、これは良く出来てるじゃないか、ムウが作ったのか?」

「ちがうよっ」

アイオロスが手にした透明な四角推を見上げたムウは、おかっぱ頭を振る。

ということはサガが作ったことになる。

大きい風呂だの小さい風呂だの、風呂のことは良く分らないが、これならアイオロスにでも分る。

ようやくこれでアイオロスも無言の三人の仲間入りが出来そうだ。

世界的にも有名なこの建築物を知らない人間のほうが少ないだろう。

「さすがサガ、このピラミッドは良く出来てるなっ!!!」

ニパッと再びサガが顔を上げてアイオロスを見上げた。

よっしゃ食らいついた! とアイオロスは心の中でガッツポーズをすると、サガに身体をくっつけるようにペタンと隣に腰を下ろした。

「でも、サガ。ピラミッドは茶色だ。石灰岩とかで出来るんだ、この色はおかしいよ」

「いいんだよ、アイオロス。これは氷のピラミッドなんだから」

「氷のピラミッド!?!?」

はて、氷で出来ているピラミッドなんてあっただろうかと、アイオロスは記憶をたどった。

南米やアジアにもピラミッド型の建物はあるが、目の前にあるのはどう見ても最も有名なエジプトのピラミッドである。違うところといえば、それが透明なブロックで組み立てられていることだった。

「この氷のピラミッドはシベリアに建てるんだ」

「建てる? うーーん、確かに氷で出来たピラミッドは綺麗だよね」

アイオロスはサガに話をあわせた。

確かに氷のピラミッドはキラキラ光って綺麗だろう。サガにはそういうものが良く似合う。

「これはアイスマンの秘密基地なんだよ」

はぁ? とアイオロスは目を点にさせた。

「アイスマンって? マンガか何か?」

「マンガなんて見たことないよ。アイスマンは正義の味方なんだよ、アイオロス」

目を輝かせていうサガは真剣そのもので、アイオロスはただ黙って次の言葉を待つしかなかった。

「アイスマンは地球温暖化を防ぐ正義の味方なんだ。地球温暖化によって溶ける北極や南極の氷を守るんだよ」

「はぁ」

とアイオロスは気の抜けた返事をしたあと、

「そしたら俺達聖闘士は必要ないよな」

笑いを堪えて無理に話をあわせてみる。

サガは首を横に振って、自信満々な笑みを見せた。

「聞いて驚かないでくれ、アイオロス。アイスマンとは世を忍ぶ仮の姿、本当はみずがめ座の黄金聖闘士なんだ!」

全然世を忍んでない、と氷のピラミッドを見てアイオロスは心の中で突っ込みを入れた。

「僕たち聖闘士は、表立って行動できないだろう。だからみずがめ座の聖闘士が教皇一族の命令を受け、隠密的に地球を守るんだよ。氷のピラミッドは秘密基地でもあり、その正義の象徴でもあるんだ!!」

「ちょっと待って、なんだよそのめちゃくちゃな設定は!」

「めちゃくちゃ。どこがめちゃくちゃなんだよ。みずがめ座の聖闘士は水と氷を自在に操ることができるんだ。だったら、北極の氷を再び凍らすことだって出来るじゃないか」

「そうだけどさ。でも教皇一族ってなんだよ。教皇は、代々黄金聖闘士の中から選ばれてるだろう。いつから世襲制になったんだ」

「うん、それは外向けの話だよ。アイスマンは謎の組織『教皇一族』の直属の活動部隊ということで、世間に思わせておくんだ。太古の昔から世界の平和を守ってきた教皇一族となれば、人々だって安心してアイスマンに平和を任せられるだろう?」

同意を求められたアイオロスは、きゅっと固く結んでいた唇を開いた。

「ていうか、部隊っていうことは、他にもいるのか?」

「ああ、アイスマンには仲間がいるんだ。アイスマンはアイスマンの頂点に立つ人間で、その下には白鳥座の聖闘士や水晶聖闘士がアイスマンミニとして活躍してるんだ。他にも弟子達が地球温暖化の為に活躍するんだ」

どうにも理解しがたい設定にアイオロスは言葉も無かった。


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