★MISSION IMPOSSIBLE(file.555 女神の箒 その2)
カノンはこの日はいつになくご機嫌だった。兄は病院で治療を受けている為に家にはいないし、買い物をしたらオバチャンにりんごを2個もおまけしてもらった。カノンはチュッパチャップスを口にくわえ、鼻歌を歌いながら買い物から帰ってきた。
「あぁ??なんだ?ムウんとこで、なんか小さいのとデカイのが騒いでんぞ?」
カノンは白羊宮の階段で騒いでいる二人に気がついた。そして、大きいほうの人物を見て絶句した。
ラダマンティスに冥界で追い廻わされ、挙句の果てには同僚と自分の奪い合いを始めたあの馬鹿面を、カノンは忘れていなかった。
カノンはその場に立ち止まり、しばらく考えると深い深呼吸をし、息を整え行動にでた。まずは口に含んだキャンディをボリボリと噛み砕き飲みんだ。そして、髪の毛を手櫛で何度もきれいに整え、服の誇りを払う。着ていたTシャツの裾をピシッと直し、足元にある水溜りを鏡の変わりにし自分の顔を見た。
そして、眉根を手でシゴキ押し広げるしぐさをし、ニッコリと笑って見せた。その笑顔はどうもギコチない。自分でもそう思ったのか、カノンは小首を傾げながら、何度も水溜りに笑いかけた。「これでよしっ!」
カノンはそう呟くと歩きはじめた。その動きは、やはりぎこちない。
ラダマンティスは小宇宙を高め、このふざけた餓鬼を次の一撃で黙らせようと身構えた。対する貴鬼も相変わらず竹箒で身構えていた。
「おや、貴鬼。お客さんかい?」
「そ・・・・・・その声は、カノン・・・・・・!!」
ラダマンティスが拳に小宇宙を集め、拳を繰り出そうとした瞬間、後ろから聞こえた懐かしい声に振り向いた。
「すきあり!!」
バッッチィーーーーーーン!
貴鬼は、ラダマンティスがカノンに振り向いた瞬間に竹箒を反対に持ち替え、その柄で力一杯ひっぱたいた。
「くぉのぉ、クソガキィィィィーーーーーーー!!」
ラダマンティスはカノンが居ることをすっかり忘れて、貴鬼を振り返った。しかし、貴鬼はラダマンティスをひっぱたくと同時にカノンの後ろへとテレポートし、ラダマンティスにあかんべをした。
その姿を見たラダマンティスの怒りは頂点に達し、カノンの後ろに隠れた貴鬼に掴みかかろうとした。「やめないか、子供相手に大人気ない!」
ラダマンティスはカノンに言われて、我に返った。貴鬼はカノンの後ろでクスクスと笑っている。
「ク・・・・・くぅァノン、会いたかったぞぉ。」
ラダマンティスはカノンの手を握り、熱い抱擁をしようとした。カノンは右手を前に突き出し、ラダマンティスの身体を止めた。
「残念だが、私はカノンではない。」
「へっ??」
「私はカノンの双子の兄、カ・・・・・サガだ!」
貴鬼は笑いが止まらなかった。貴鬼はカノンが最初に声をかけたときから、その異常さに気がついていた。カノンがサガの穏やかな表情や仕草を真似ているのは一目瞭然であった。頭の回転が速い貴鬼は、その咄嗟の判断でカノンの芝居に合わせたのだった。でなければ、カノンの後ろになど隠れるはずが無かった。
「カノンの兄・・・・・・?なんとそっくりな・・・・・・・。」
「君は、私の可愛い弟になの用だね?」
ラダマンティスはカノンと瓜二つの兄の姿を見て、動揺している。カノンは、サガのマネをしてラダマンティスに聞いた。しかし、カノンのサガの真似は表情もぎこちなく、その言葉も到底サガのものではなかった。
そんなカノンの仕草が益々貴鬼の笑いを誘い、貴鬼はカノンのTシャツの裾を握り締め、目に涙を溜めながら笑いを堪えた。「えっと、あっと、その・・・・・、カノン・・・・・弟さんを私にください。えーーと・・・・。」
「お兄様と呼ぶがいい!」
「はい!弟さんを、私にください、お兄様。」
「ふっ、カノンが欲しいだと。カノンは私の大切な大切な弟なんだが・・・・・・。」
「お・・・・お兄様、そこをなんとか!!このラダマンティス、弟さんが頂けるのでしたら、なんでも致します。」
カノンはニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべた。悪乗りし始めていたカノンのサガの真似はすでに原型を留めていなかった。
「ほう、ならば・・・・・。私の前にひざまずくことだ!そして大地に頭をこすりつけ、この私をおがめ!」
「へへっーーーー。お兄様ぁーー!」
ラダマンティスは本当にひざまずき、カノンを拝み始めた。貴鬼とカノンの我慢は限界に達していた。貴鬼はカノンの後ろに隠れ、カノンの尻を叩きながら、声を出さずに爆笑した。カノンの肩も笑いを我慢し、小刻みに震えている。
「カノン、やっとお友達ができたのか?よかったな。」
ギクリ!
カノンは後ろから声を掛けられ、凍りついた。そこには病院から帰ってきた本物の兄の姿があった。サガはひれ伏していえるラダマンティスの前にしゃがみ込み、語りかけた。
「ラダマンティス君・・・・・・・と言ったかな?」
「はっ??」
ラダマンティスは目の前に現れたサガの顔を見た。どう見てもカノンにしか見えない。しかし、隣に立っている男もカノンにしか見えない。
「そんなにカノンのことが好きか??」
「はいっ!!」
「そうか、カノンはこんなに思ってくれる人がいて、聖域一の幸せ者だな。」
ラダマンティスは赤ベコのごとく何度も頷いた。その目は真剣そのものだった。
「ラダマンティス君、弟を頼んだぞ。冥界に連れていくなり、煮るなり焼くなり好きにするがいい。」
そう言うと、サガは立ちあがり白羊宮に歩き出した。ラダマンティスは、歩き去ったサガと目の前に立っているカノンを交互に見つめ、動揺している。ラダマンティスには、未だにどちらがカノンか分からなかった。
「だ・・・・・だまされるな!あ・・・・・・・・あっちがカノンだ!いやぁ、カノンはオイタが過ぎて困るなぁ・・・・。」
カノンは額に汗を浮かべ、遠ざかるサガを指差し叫んだ。
するとラダマンティスは、立ちあがりサガめがけて突進し、後ろから抱きついた。「くぅァノ〜ン。俺と一緒に冥界に行こう!アイアコスとミーノスからは俺が守ってやるからぁ〜。」
次の瞬間、ラダマンティスの鳩尾にサガがの右腕から繰り出された肘鉄が入った。
ラダマンティスがひるんで手を放すと、サガは身を返しアナザーディメンションを繰り出した。「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!カノンってこんなに強かったっけぇーーーーーーーー?」
ラダマンティスは異次元に跳ばされながら、カノンの強さに驚いて星となった。