★白羊家の食卓 その1(お料理行進曲)
いつものように白羊宮でムウ、貴鬼、アルデバランは3時のティータイムを過ごしていた。今日のおやつは、クリームたっぷりのシフォンケーキである。
そこへ、いつものようにミロが現れた。ミロ「ムウ。腹減った。何か食べさせてぇ〜。あ!美味そうなケーキじゃん。俺にも頂戴!」
ミロはそう言って、勝手に皿を取り、テーブルの上のケーキを取る。ムウは何も言わずに、その皿に生クリームを乗せると、貴鬼が紅茶をいれてくれる。
ミロ「うまいね、このケーキ。」
ムウ「シフォンケーキです。」
ミロ「ふーーん。」
アルデバラン「なんだ、ミロ。カミュはシベリアに帰っているのか?」
ミロ「なんで分かるんだ?」
アルデバラン「そりゃ、お前がここに来るっていうことは、カミュが仕事でいないか、シベリアにいるかだろう。」
ミロ「あっ、そうか。俺のことよく分かってるじゃん。」
カノン「おーい、ムウ!今日のおやつ何?」
今度はカノンが現れた。
カノンもミロ同様に、勝手に皿をとり、テーブルの上のケーキを取る。そして、ムウは何も言わずに生クリームを皿に乗せ、貴鬼が紅茶をいれる。カノン「あっ。俺、コーヒーにしてくれる。」
貴鬼「えー、もう紅茶いれちゃったよ。」
カノン「大丈夫、アルデバランがそれ飲むから。俺はコーヒーね。」
カノンは貴鬼に出された紅茶をアルデバランに渡した。
貴鬼「今日は、頭のいいほうのオジサンと喧嘩したの?」
カノン「ボケッとしてて、要領の悪い、病気のほうのオジサンは、デスマスクと日本出張だ。」
カノンがケーキを頬張りながら言う。
貴鬼「ふーーん、じゃ、後もう一人来るね、ムウさま。」
ムウ「そうですね。ケーキの用意でもしておきますか。」
ムウは新しい皿にケーキを乗せ、生クリームを乗せる。貴鬼は、カノンのコーヒーをいれながら、新しい紅茶の準備を始めた。
アイオロス「今日の夕飯は何だ!?」
そして、貴鬼の予想通りに、今度はアイオロスが現れた。サガと食事をしようと思っていたアイオロスは、サガが不在のためにそのまま白羊宮までおりてきたのだ。
ムウ「まだ決めていませんが。」
スカした笑顔のムウから出されたケーキを、アイオロスは当然のように食べている。
アイオロス「だったらコロッケにしてくれ。肉の入ったコロッケが食いたい。」
カノン「俺、かぼちゃのコロッケ!」
ミロ「蟹クリーム!!!」
ムウは深い溜息をつくと、アルデバランと共に買い物へと出かけた。
貴鬼「オジサン達、家でご飯を食べるならちゃんと手伝ってよ!!あーあ、このあいだ箱ごと買ったジャガイモが、もう全部ないよ。まったく。」
貴鬼は鍋に湯を沸かすと、大量のジャガイモとカボチャをその中へと入れ、ダイニングに戻って、お茶の片づけをする。
ミロ「なぁ、カノン。ヤらせろよぉ!」
カノン「ヤらせねぇって言ってるだろう。この発情蠍。」
ミロ「カミュがいなくて寂しいんだよ。」
カノン「しらねーよ!」
アイオロス「ミロは相変わらず所構わずだな。」
貴鬼「ほら、ジャガイモ湯だったよ!!しっかり剥いてね!!蠍のおじさんは、カボチャの裏ごしだよ。」
巨大なザルに上げられたジャガイモを、ダイニングに乗せると、貴鬼はアイオロスの隣に腰をかけて、芋を剥き始めった。
3人は、渋々手を洗うと、貴鬼にならう。
そこへ大量の荷物を抱えたアルデバランとムウが帰ってきた。
貴鬼「ムウさま、おかえりなさい。ジャガイモはオイラ達がやるから、まかせて!!」
ムウ「頼みましたよ。」
ムウはエプロンを着ると台所へと消えていった。アルデバランは、そのまま貴鬼の隣に腰をかけ、ジャガイモの裏ごしを始めた。
ミロ「なぁ、カノン。今夜一人だろう。寂しくない?」
カノン「寂しくない!」
ミロ「家に泊まりにこいよ。」
カノン「誰があんな汚い所に行くか、ゴラァ!」
ミロ「じゃ、俺が双児宮に泊まろうかなぁ。」
アイオロス「だったら、私はサガの部屋で寝たい。」
カノン「勝手に人ん家くるんじゃねぇよ!!」
アルデバラン「ミロはそんなに一人が寂しいのか?」
ミロ「ううん。股間が寂しいんだよ。カミュの奴、もう3日も帰ってきてないんだもん。」
アルデバラン「たった3日も我慢できないのか?」
ミロ「カノン、掘らせろよ!」
カノン「しつけぇぞ。てめぇでヤればいいだろう!」
アイオロス「ははははっ。ミロ、そんなにヤりたいなら、私をヤるか!?」
アイオロスは芋を手に持ちながら立ち上がると、腰を少し曲げてミロに尻を向ける。
アルデバラン「ははははっ。なんなら私のはどうだ!?」
貴鬼「オイラのは?」
アルデバランと貴鬼も、笑いながらアイオロスの真似をした。
ミロ「お前達となんてヤりたくねぇよ!!」
ミロはプゥと頬を膨らませ、ブツブツ文句を言いながら、芋の皮をむいていった。
夜になって教皇の執務から帰ったシオンは、白羊宮にいるカノン達を見て眉を潜めた。アルデバラン一人でも十分に邪魔なのに、更にゴツイ男が3人も増えていたからである。
食事の前のお祈りが終了すると、ムウがシオンに食事を給仕する。
シオン「お主たち、白羊宮で何をしておる?」
アイオロス「夕飯を食べにきたんですよ。」
シオン「またか・・・・。おぬし達、いい加減自分の宮で食事をせい。でなければ、外に食べにいったらよかろう。」
アイオロス「そう仰るんなら、サガを出張にやらないでください。そしたら、私は双児宮で食事をしますから。」
カノン「そうだ、そうだ。兄貴がいないから、ここで飯を食うしかないんだ!」
ミロ「ついでに、カミュも宝瓶宮からの外出禁止にしてください。すぐにシベリア帰っちゃうんですよ。」
ムウ「お待たせしました。」
シオンの食事を給仕し終わったムウが、大皿に盛られてたコロッケをテーブルの上に置いた。
ミロ「ムウ、どれが蟹クリームコロッケだ?」
ムウ「その俵型が蟹クリーム、小判型がミートコロッケ、円形のがカボチャです。」
アルデバラン、貴鬼、アイオロス、ミロ、カノンは、勢いよく皿に手を伸ばした。
ミロ「あ!蟹クリームは俺のだからな。俺がムウに頼んだんだ、食っちゃ駄目だからな!!」
カノン「なんだと?」
アルデバラン「だったら、ミロはカボチャとミートは食べないんだな。」
ミロ「ううん。俺は食っていいの!」
アイオロス「訳の分からない事を言ってるんじゃない!」
隣に座ったアイオロスにでこピンを食らったミロが仰け反った。
ミロ「なにすんだよ!俺が蟹クリーム食べたいって言ったんだからな!!」
アイオロス「我侭を言う奴は、帰れ!!ここで飯を食うな!」
ミロ「なんだと!?お前の宮じゃないだろう!!」
シオン「蠍よ、アイオロスの言う通りじゃ。騒ぐのであれば帰るがよい。」
シオンに一睨みされ、ミロは渋々と蟹クリームコロッケを皆に譲った。
5人はムウの作ったコロッケを夢中で頬張り、口の周りをパン粉だらけにしながらパクついた。
貴鬼「射手座のおじさんなにやってるの?」
貴鬼は目の前に座ったアイオロスが、パンを半分に割っているを見てきいた。アイオロスはそのパンにキャベツとミートコロッケを挟むと、ソースをかける。
アイオロス「コロッケパンだ。美味いんだぞ。」
そういって、アイオロスはコロッケパンを食べながら満面の笑みを浮かべる。
アイオロス「なんだ、コロッケパンを知らないのか?お前達も食べてみるか?」
アイオロスは、テーブルからパンを取ると、貴鬼の為にコロッケパンを作りはじめた。
ミロ「俺も食いたい!!」
カノン「俺も!!」
アイオロス「挟むのはミートコロッケがいいぞ。これが一番美味いんだ。」
アルデバラン、ミロ、カノンはアイオロスの真似をしてコロッケパンを作り、口に運ぶと満面の笑みを浮かべた。
貴鬼「射手座のおじさん、これ美味しい!!」
貴鬼も、アイオロスからコロッケパンを貰うと微笑む。
シオン「アイオロス!下品な食べ方をするでない!」
アイオロス「何を言ってるんですか、教皇。これが美味いんですよ。教皇こそ、相変わらず不味そうな飯食ってますね。」
宮廷料理とまではいかないが、ムウがシオンに出す料理は、レストランのディナーのような料理である。銀の豪奢な皿にチョコッと乗せられた料理に、綺麗なソースがかかっていたりするのである。
もちろんアイオロス達にとっては、そんな料理よりも大皿に盛られたコロッケの方が美味しく見えるのであった。貴鬼「ムウさま。コロッケパン美味しいよ!」
シオン「ムウ!あのような下品なものを食うでないぞ。」
ムウ「はい。(コロッケパン・・・食べたい。)」
ムウは血の涙を流しながら、シオンの言葉に頷いた。ムウの食事もまた、アイオロスの言うところの不味そうな飯である。
そして、ムウの食べたいものリストの中に、コロッケパンがインプットされたのは言うまでも無い。
翌日。
出張から帰ってきたサガは、教皇に報告を終えると双児宮へと戻った。リビングのソファで雑誌を読んでいたカノンは、雑誌から顔を上げずにサガに言う。
カノン「兄貴。夕飯決まってんの?」
サガ「まだだが・・・。」
カノン「俺、コロッケパン食いたいんだけど・・・・。」
サガ「コロッケパン!?なんだそれは?」
カノン「昨日、ムウの所で食ったんだよ。」
サガ「しかし、作り方が分からん。」
カノン「んなもん、ムウの所に聞きに行けよ。」
サガ「そんなに食いたいのなら、お前がムウに聞いてくればいいだろう。」
カノン「あ?俺が聞いたって分かるわけねぇだろう。いいから、聞いてこいよ。」
ようやくサガのほうに顔を上げたカノンは、顎をシャクって、行って来いという仕草をする。
サガ「それが人に物を頼む態度か!」
カノン「ひと?何言ってんだよ、兄貴なんて人種は人じゃねんだよ!人以下だ、人以下!!」
サガ「なんだと!?」
カノン「いいから、頼んだぜ。コロッケパン。」
サガ「カノン。待て!」
カノンはサガの肩を丸めた雑誌で軽く叩くと、そう言い残して、自室へと消えていった。
夜になって、飯が出来たと言って呼ばれたカノンは、いそいそと自室から出るとダイニングに向かった。
カノン「なんだよ、これ?」
サガ「コロッケパンだ。」
カノンの席に置かれている物体は、どう見ても昨晩のコロッケパンとは違うものだった。
カノン「これは揚げパンだろうが!!」
サガ「パンのコロッケだろう。人以下の私にはこれが精一杯だ、すまんな。」
しれっとした顔でパスタを食べるサガの額には、青筋が浮かんでいる。
カノン「しかも、ピーマンとか入ってんぞ、これ!!」
パンの間から覗く物体に、カノンは眉根を吊り上げて怒鳴った。
1時間前・・・
額に青筋を浮べ、眉間にシワを寄せたサガは、キッチンへと向かうと、フランスパン並の大きなパンに小麦粉をつけると、とき卵を刷毛で丁寧に塗った。紙に広げたパン粉の上に、そのパンを置くとゴロゴロと転がしてパン粉をつけてみたが、思うようにパン粉はつかなかった。もう一度、とき卵を塗ってから、パンにパン粉をバンバンと力いっぱい叩きつけたのであった。そして、それを油でこげるくらいまで揚げると、真中を切って、ピーマンとニンジンとセロリをたっぷり入れたのである。
サガ「人以下の私は、お前の嫌いなものまで覚えてられないようだ。文句があるなら食わなくていい!」
カノン「なんだと!?ちくしょう、今すぐ表ででろ!!」
カノンは、サガの胸倉を掴むと怒鳴る。
サガ「いいだろう。」
サガが静かに返事をするのを見て、カノンは手を放すと苛立ち気に私室の玄関を開け放ち、外へ出た。
その途端、背後でカチリと音がして振りかえる。
見ると、そこにサガの姿はなく、玄関の扉があるだけだった。その扉はかたく閉じられ、鍵までかけられている。
カノン「ごらぁ!兄貴!!あけろ!!あけやがれーーーー!!!」
カノンは扉をドンドンと乱暴に叩いたが、もちろん中からの反応があるはずもなく、カノンは捨て台詞をはきながら金牛宮に出ていったのであった。
カノン「ちくしょう!!おぼえてろよーーーーーーーーーーー!!」