兄貴といっしょ6(星空サイクリング)

 

ムウが懸賞であてたマウンテンバイクをもらったアイオロスは、それを肩にかついで帰ろうとした時、獅子宮でアイオリアにつかまった。

獅子宮

アイオリア「あれ?兄さん、何かついでるの?」

アイオロス「ああ、これか。自転車だ。お前、自転車も知らないのか?そうか……お前には苦労かけたもんなぁ。これは自転車といってな、人力で動く車なんだぞ。分かるか、アイオリア」

アイオリア「……兄さん。いくら俺が13年間虐げられていたからって、自転車くらいは知ってるよ……」

アイオロス「そうか。そりゃすまなかったな」

アイオリア「で、それどうしたの?」

アイオロス「ああ、ムウが懸賞で当てたやつをもらってきた」

アイオリア「へぇ〜。で、兄さんそれをどるすの?」

アイオロス「は?どうするも、乗るに決まってるだろう。人馬宮から崖をこれで下ったら楽しいだろうな〜〜(わくわく)」

アイオリア「え?兄さんって、自転車乗れるの!?」

アイオロス「バッキャローー!!お前、兄ちゃんを舐めてるのか?聖闘士が自転車くらい乗れなくてどうするだ、馬鹿!……まさか、アイオリア……」

アイオリア「ギクリ……」

アイオロス「ははぁ〜〜ん。さては、お前、自転車乗れないな??」

アイオリア「そ、そ、そんなことあるわけないだろう!俺だって聖闘士だよ、兄さん!!」

アイオロス「ほぉ〜〜」

アイオリア「ただ、乗ったことがないだけだよ……」

アイオロス「それって乗れないのと同じじゃないか」

アイオリア「そんなことないよ。乗れるって!!」

アイオロス「だったら乗ってみろ!」

アイオリア「え?別にいいよ。乗らなくても……」

アイオロス「ムウは乗ってたぞ」

アイオリア「うっそだぁぁぁ。それこそムウが自転車になんて乗れるわけないだろう。あいつは自転車なんて見るのも初めてだろう?」

アイオロス「だが乗っていた!(超能力で宙に浮いていたけどな)」

アイオリア「まじで?」

アイオロス「ああ。本当だ」

アイオリア「だったら俺も乗れないわけないよ」

アイオロス「じゃぁ、乗ってみろよ」

アイオリア「分かった…………兄さん、後ろおさえててくれる?」

アイオロス「ったく、仕方ない奴だなぁ〜〜」

アイオリア「そういうなよ。初めてなんだからさ……」

アイオリアはサドルをまたぐと、ペダルに足を乗せた。

アイオリア「兄さん……絶対にはなさないでくれよ!!ねぇ、兄さん、聞いてる!!」

アイオロス「分かってる、分かってる……さっさとペダルをこげよ、アイオリア」

アイオリア「う、うん。いくよ……」

ドテッ!

アイオリアはペダルにかけた足に力を入れた瞬間横に倒れた。

アイオリア「にぃーさんっ!!おさえててくれるって言ったじゃないか!!」

アイオロス「あっ!?すまん、すまん。もう一回やってみろ!」

アイオリア「今度こそちゃんとしっかりおさえててくれよ!!」

アイオロス「大丈夫だって。兄ちゃんを信用しろ!」

アイオリア「本当かなぁ……もう……。それじゃ、いくよ」

アイオリアはペダルをこぐと3mほど進み、

ドテッ

またこけた。

アイオリア「兄さんっ!!!」

アイオロス「あっ、すまん。すまん!」

を繰り返すこと10回。

アイオリアはヨタヨタと自転車をこぎながら10mほど進むと、アイオロスに向かって叫んだ。

アイオリア「兄さん。おさえてる?おさえてるよね!」

アイオロス「ああ、おさえてるぞ。後ろ見てみろ!」

アイオリア「うん……あ゛っ!兄さんっ!!おさえてるっていったじゃないか!!!」

真後ろにいるはずのアイオロスがはるか遠くにいることを知り、アイオリアは自転車をこぎながら叫んだ。

アイオロス「おい、その前にもっと自分の状況考えてみろ。お前、一人で乗れてるんだぞ」

アイオリア「あ゛っ!本当だ……。なんだ自転車って簡単なんだね」

アイオロス「だから言っただろう。お前は聖闘士なんだから、乗れてあたりまえだ。ムウですら乗れたんだからな(超能力をつかったけどな)」

アイオリア「でも、なんでムウは自転車なんて欲しがったんだろう。あいつ、テレポート使ったほうが移動は早いのにな」

アイオロス「サイクリングに行きたかったんだとさ。教皇に外出止められてるからな。サイクリングを口実に外に出たかったんだろう」

アイオリア「あぁ、なるほどね。あいつ、浅はかだね」

アイオロス「はははっ、教皇がそう簡単に外出なんてさせてくれるわけないのにな……あっ!そうだ!」

アイオリア「ん?どうしたの、兄さん?」

アイオロス「そうだ、いいこと考えたぞ!!俺も自転車でサイクリングだ!」

アイオリア「は?」

アイオロス「サガとサイクリング!!サガを後ろに乗っけて、腰に手を回してギュゥ〜〜ってしがみついてもらうんだ!」

アイオリア「また、そういうことを……」

アイオロス「そうと決まれば善は急げだ!」

アイオロスは自転車を肩に担ぐと、来た道を引き返していった。

 

双児宮

勝手にリビングに押しかけた自転車を肩に担いだアイオロスを見て、サガとカノンは目を点にした。

アイオロス「サガっ!!サイクリングに行こう!!」

サガ「は?」

アイオロス「サイクリングだよ、サイクリング!ムウから自転車をもらったんだ」

サガ「そうか。よかったな……」

アイオロス「ああ、だから一緒にサイクリングに行こう!」

サガ「せっかくの誘いは嬉しいが、遠慮しておく」

アイオロス「え?でも今日はいい天気だぞ。たまには外に出るのもいいんじゃないか?」

サガ「気を使ってもらって悪いが、私は自転車を持っていないのでね」

アイオロス「そんなこと分かってるさ。だから私の後ろに乗れよ!」

アイオロスは自転車のサドルをまたぐと、右手の親指を後ろにクイッとしならせた。サガの眉間にさらに皺が寄った。

サガ「どこに乗れと?」

アイオロス「だから、私の後ろだ!自転車で風を切って走るのは気持ちいいぞ、サガ!」

サガ「自分の自転車をよく見てから言うことだな、アイオロス。いくら私でもそこに座るのは無理そうだ」

アイオロス「え?」

アイオロスは振り返り自転車を見た。アイオロスがもらった自転車にはもう一人乗れるようには作られていなかったのである。

アイオロス「あ゛っ……」

カノン「馬鹿め」

サガ「そういうことだ。いいサイクリングを楽しんでくれ。それじゃ……」

アイオロス「ちょっと待った!だったら私の自転車を使ってくれ。なっ、サガ。たまには外に出ろよ」

サガ「結構だ」

アイオロス「遠慮するなよ、サガ」

サガ「遠慮などしてはいない」

アイオロス「だったら、乗れよ!!」

サガ「しつこいぞ、アイオロス。私は乗らないといっているのだ!」

アイオロス「あ!分かった、サガってば、もしかして自転車乗れないんだろう?」

カノン「ぷっ!」

カノンが思わず吹き出すと、サガの顔は真っ赤になった。

サガ「それがどうした。何か問題でもあるのか、アイオロス!」

アイオロス「え?本当に乗れないのか?」

アイオロスとしては、「そんことない、貸してみろ!」という台詞を期待していたのだが。かえってきた返事に思わず目を丸くした。

サガ「だから、それがどうしたのだ!」

アイオロス「あっ、あれだ!乗れないんじゃなくて、乗ったことがないんだろう?だったら、挑戦してみろよ。私が後ろをおさえていてやるからさ!」

サガ「失礼なことをいうな、自転車くらい乗ったことはある!」

アイオロス「……そうだよな。確か、1回だけ交代で下の村で自転車借りたもんな!!……ということは、やっぱりサガ、自転車乗れないのか?」

カノン「双子座の黄金聖闘士サガさまは自転車のれねぇんだよなぁぁ、ぶはははははっ!」

サガ「それがどうした!乗れないと何か問題でもあるのか?!」

アイオロス「サガぁぁ、自転車は怖くないぞ。ムウやアイオリアだって乗れるんだからさ。なぁ、サガ。乗ってみろよ」

サガ「断る!」

アイオロス「大丈夫だって。私がおさえててやるからさ」

サガ「しつこい!」

アイオロス「アイオリアだって、さっきまで自転車乗れなかったんだぞ。でも私ガ訓練してやったから、あっという間に乗れるようになったんだ。だからサガだって大丈夫だって」

カノン「転ぶのが怖いんだろう、チキン野郎!」

アイオロス「愚弟はうるさい、黙れ!サガは聖闘士なんだぞ、自転車なんて簡単に乗れるさ!」

サガ「……自転車に乗れないと何か問題でもあるのか?」

アイオロス「いや、だってサガともあろう男が自転車に乗れないなんて……さ。聖闘士なんだし……」

サガ「聖闘士は自転車にのれなくてはいけないのか、アイオロス!いつ、だれが決めたのだ!えっ!?」

アイオロス「いや、そうじゃなくて。聖闘士ならバランス感覚も運動能力も優れているから、自転車なんて簡単だと……」

サガ「ほう。では私は聖闘士が失格だとでも?」

アイオロス「いや、そういうわけじゃないけど」

カノン「自転車乗れなきゃ、人としてヤバイだろう」

サガ「自転車に乗るのは聖闘士にとって、そんなに必要なことなのか!では、お前は女神の危機に聖衣を着て自転車でかけつけるのか?えっ!?」

アイオロス「何もそこまで言ってないだろ……」

サガ「いざとなったら自転車で光速で走ったら、足で走るよりもテレポートするよりも早いのか!?どうなんだ!!」

アイオロス「んなわけないだろう」

カノン「自転車のほうが壊れるぜ」

サガ「自転車はこの地上の愛と正義を守ってくれるのか!」

アイオロス「……」

サガ「自転車は女神より大いなる慈悲と力を持っているとでもいうのか、アイオロス!」

アイオロス「そんなわけないだろう」

サガ「では、自転車がいったいどれほどのものだというのだ。たかが自転車ではないか。それを乗れないことに、一体なんの問題があるのだ!」

アイオロス「サ、サ、サガ、落ち着け。これは遊びだよ、遊び。自転車は遊びだ。娯楽だよ」

サガ「ふっ、そうか。娯楽程度のものも満足にできない私を馬鹿にしにきたのだな、アイオロス」

アイオロス「そうじゃなくて……私はただ、お前とサイクリングを……」

サガ「ちょっと自転車を貸してみろ」

アイオロス「乗る気になったのか!?」

サガは口をへの字に曲げると自転車を肩に担いだ。

アイオロス「サガ?自転車は担ぐ物じゃなくて、乗るものだぞ」

サガ「そんなこと分かっている。私を馬鹿にするな、アイオロスッ!」

サガはそう怒鳴ると双児宮から出て行ったので、アイオロスとカノンもその後を追った。

サガは下におりず、上に向かっていった。辿り着いた先は教皇の間である。

 

教皇の執務室

自分からは滅多に来ないサガが執務室を訪ねてきたので、シオンは思わず仮面の下でいやらしい笑みを浮かべた。

シオン「サガよ、ちこう」

サガ「はい、教皇さま。伺いたいことがございまして、参上いたしました」

サガはドンッと執務机の前に自転車を置いた。

シオン「ほう、自転車か。これは確かムウが懸賞とやらで当てたものじゃのぅ」

サガ「左様でございます。教皇さま、ご無礼を承知でお聞きいたしますが、自転車には乗ったことがございましょうか?」

シオン「いや、ない」

サガ「では、教皇さまは自転車はお乗りになれないと、そう解釈してよろしいでしょうか?」

シオン「ふむ。必然的にそうなるのぅ。自転車は乗ったことがないから、乗れぬかもしれん。まぁ、自転車など乗る必要もないから、気にしたことも無い。それがどうかしたのか?」

サガ「なんでもございません。ありがとうございました」

サガはニヤリと満足げに笑うと再び自転車を担いで出て行った。

シオン「はて、一体なにかのぅ?」

 

サガが執務室を出たところで、アイオロスとカノンはサガを捕まえた。

アイオロス「サガ。大丈夫か?、教皇になにかされなかっただろうな?」

サガ「アイオロス。私は自転車など乗れなくてもよいのだ」

アイオロス「なに?」

サガ「教皇さまも自転車をお乗りになったことがない。ということは、教皇さまも自転車が乗れないということだ。だから偽教皇である私も自転車には乗れなくて良いのだ!!」

アイオロス「な、なんていう強引な……。お前、そこまでして自転車に乗りたくないのか」

カノン「……兄貴、必死だな」

サガ「しつこいぞ、アイオロス。教皇さまが乗る必要がないとおっしゃられたのだから、私も乗る必要がないのだ!!そんなに自転車が好きなら、自転車と結婚しろ!!」

アイオロス「え!?そ、そんなぁぁぁぁ」

大幅にもくろみが外れたどころか、すっかりサガの機嫌を損ねてしまったアイオロスであった。


カノン「ふっ、馬鹿め」