シオンさまといっしょ(道徳の時間)

 

双児宮

今日もアイオロスはサガにまとわりついて無駄に時間を過ごしていた。

アイオロス「サガぁぁぁぁ〜〜〜〜欲しいものない?」

サガ「ない。」

アイオロス「またまた〜〜〜〜。遠慮しなくていいんだぞ。欲しいものないか?」

サガ「じゃあ、二重人格が治る薬。」

アイオロス「・・・・・・。」

サガ「それが無理なら、カノンが更生する薬。」

アイオロス「・・・・・。」

サガ「どうした?私にくれるのではないのか?今すぐ探しに行ってきたらどうだ?」

サガは寝椅子に身を投げ、本から目を話さず、アイオロスをあしらった。

アイオロス「サガは意地悪だなぁ〜〜〜。もっと現実的なものにしてくれよ〜〜〜。」

サガ「・・・・・じゃあ、休暇だ。教皇から休暇を貰ってきてくれ。」

アイオロス「休暇?どうするんだ?」

サガ「温泉に決まっているだろう。」

アイオロス「休暇・・・温泉・・・サガと休暇、サガと温泉・・・・よし!まかせておけ!!!」

脳内にたちこめる湯煙の向こうに、裸のサガが手招きをする幻影を見たアイオロスは、双児宮を飛び出し、光速で教皇の執務室へと向かった。

 

教皇の執務室

アイオロス「聞いてください、教皇〜〜〜〜〜!」

シオン「なんじゃ、騒がしい。」

アイオロス「休暇を下さい!休暇!」

シオン「お前は休暇のついでに仕事をしているようなものではないか。」

アイオロス「ケチケチしないで、休暇を下さい!サガと私、二週間宜しくお願いします!。」

シオン「馬鹿は休み休み言え。休暇というのは仕事をしている者に与えられるものじゃ。お前達は、毎日が人生の夏休みではないか!。」

アイオロス「そんなぁ、暇つぶしの間に人生やってるような教皇に言われたくないです。私とサガは、教皇の面倒見るので疲れてるんです。だから、休みください。」

シオン「無礼者!貴様らヒヨッコに面倒など見てもらった覚えなどないわ!でてゆけ!!!。」

アイオロスはシオンに怒鳴られ、五感を剥奪される前に慌てて執務室から撤退した。

しかしこのまま手ぶらで帰っては、サガにあわせる顔がないので、アイオロスはそのまま裏口を抜けて白羊宮へと向かった。

 

白羊宮

アイオロス「おーい、ムウいるか?」

勝手に白羊宮に上がりこみ、私室内を見渡しても誰もいないので、アイオロスは台所に向かう。
どの宮よりも広い台所で、ムウは腰をかけてニンジンを剥いていた。

アイオロス「お前に、頼みがあるんだが。」

ムウ「夕飯のメニューならもう決まっていますから、明日にして下さい。」

口元にすかした笑いを浮かべながら、ムウは包丁を動かす手を止めず、そう答えた。

アイオロス「そうじゃなくて、教皇にさぁ、休暇くれるようにお願いしてれないか?」

ムウ「何で貴方とサガが温泉に行く為の休暇を、私がシオンさまにお願いしなければいけないのです?。」

アイオロス「何でしってるんだ?」

ムウ「貴方が休暇を欲しいなんて、大方そんなことだろうと思っただけですよ。」

アイオロス「だって、サガが休暇欲しいっていうんだから、仕方ないじゃないか。教皇はお前のお願いなら、何でも聞いてくれるだろう。」

ムウ「・・・・。何でも聞いてくれるのでしたら、私はとっくにジャミールに帰ってますよ。」

アイオロス「それはお前が・・・・。頼むよ〜〜〜。」

ムウ「嫌です。」

アイオロス「そこをなんとか〜〜〜〜。教皇のご機嫌とってくれるだけでいいからさぁ。」

ムウ「い・や・で・す。」

アイオロス「・・・・。わかった、ちょっと待ってろ。」

アイオロスはそう言うと、光速で白羊宮を飛び出していった。

1時間後、白羊宮に戻ってきたアイオロスが手に持っている箱を見て、ムウの紫色の瞳がキラキラと輝きを増した。
ムウは一目でそれとわかる箱を受け取ると、中身を確認し、すかした笑いを浮かべる。

アイオロス「これでどうよ?」

ムウ「仕方ないですね。明日朝一番でシオンさまにお伺いを立ててみるといいでしょう。」

アイオロスはムウの返事に手をパタパタさせ、鶏のように走って自宮へ戻っていった。

 

次の日

アイオロスは言われた通り、朝一番でシオンが出勤してくるのを執務室で待ち構えていたが、シオンは重役出勤時間が過ぎても一向に姿をあらわさなかった。

礼拝の時間になっても現れないので、アイオロスは仕方なく代わりに礼拝を執り行い、さらにそれからしばらくして、シオンはようやく執務室に現れた。

アイオロス「教皇、おはようございます・・・、っていう時間ではないのですが・・・。」

シオン「おお、すまんのぅ。」

アイオロス「寝坊ですか?」

シオン「余が寝坊などするはずあるまい。ムウが『もっと、もっと』とねだって、余から離れなかったのじゃ♪。ムウはかわゆいのぅ〜〜〜♪はははは!!!」

上機嫌に高笑いするシオンに呆れながらも、アイオロスはすかさず休暇届を差し出した。

アイオロス「教皇、ここにサインを下さい!ここです、ここ!。」

未だ股間に残るムウの温もりに酔いしれているシオンは、目の前に差し出された書類をちらりと見ただけで適当にサインをすると、再び愛弟子の痴態を思い出して悦にはいる。アイオロスが書類を握り締めて光速で部屋から出て行ったことも気にせず、シオンはそのまま上機嫌で執務についた。

 

双児宮の通路を掃除していたサガは、巨蟹宮から降ってきた光速鶏に抱きつかれ、その場に尻餅をついた。

アイオロス「サガぁぁぁぁぁぁぁぁ!!休暇だ!休暇!教皇から休暇を貰ってきたぞ!」

サガ「嘘をつくな・・・あの教皇がくれるわけなかろう。」

アイオロス「本当だぞ!本当!ほら!休暇届にサインをゲットだ!」

サガはアイオロスの手から2枚の休暇届を毟り取ると、我目を疑うかのように、かっと瞳を見開いた。

アイオロス「な!本当だろ!教皇の気が変わらないうちに、今すぐ出かけよう!な!な!な!」

自分に跨り、唇を突き出してくるアイオロスをはらいのけ、サガはもう一度明るいところで休暇届のサインを確認すると、光速で身支度を整え、温泉に出かけていった。

 

3週間後

今日もアイオロスはサガにまとわりついて無駄に時間を過ごしていた。

温泉から帰ってきたサガは上機嫌で、アイオロスに嫌な顔一つせず、というより、アイオロスを見ていなかった。

アイオロス「サガぁぁぁぁ〜〜〜〜温泉よかったなぁ!!他に欲しいものない?」

サガ「温泉・・・・・いい!」

アイオロス「また、温泉?!」

サガ「・・・・次の休暇はいつだ・・・・、温泉・・・・いきたい。」

アイオロス「・・・・・うーーん、すぐは無理だけど、また貰ってきてやるからな。むはぁっ、またサガと温泉かぁ。」

 

ブラジル出張から帰ってきたアルデバランは、沢山のお土産を持って白羊宮に行くと、貴鬼が一人でぽつんと寂しそうに座っているのを見て、顔を青くした。

案の定不安は的中し、ムウは体調が悪くて寝ているという。

シオンの部屋で白い顔を更に白くし、死体のように眠るムウは、アルデバランが事情を知るに十分だった。シオンから性的な暴行をうけたことは間違いない。

夕方頃、フラフラと起きてきたムウは、冷蔵庫から大きな箱を取り出すと、貴鬼とアルデバランと一緒に三時のおやつを食べ始めた。ケーキの箱の大きさに驚いたアルデバランは尋ねると、ムウは青白い顔に満面の笑みを浮かべて、アイオロスから貰ったと答えた。

そして、そのアイオロスが手に大きな箱を持って白羊宮に現れたのを見て、アルデバランは眉をひそめざるを得なかった。

アイオロス「おう、お前のおかげでまた休暇もらえたからな。これはお礼だ。」

ムウ「わざわざすみませんね。」

アイオロス「お土産も買ってきてやるからな。」

ムウ「よろしく頼みますよ。」

巨大な箱をそのまま冷蔵庫にしまうと、ムウは何事もなかったように残りのケーキを食べ始める。

アルデバラン「またアイオロスからケーキを貰ったのか?」

ムウ「サガと二人分ですから。」

アルデバラン「二人分?」

ムウ「休暇が欲しいから、シオンさまのご機嫌をとってくれって、頼まれたんです。これはそのお礼です。」

ムウに一点の曇りもない微笑を向けられ、アルデバランはそれが食べてはいけないケーキである事をムウは知らないのだと確信し、フォークを置く。そして、そのまま席を立つと十二宮を上っていった。

 

二度目の休暇を貰ったサガは、うっきうきで鞄に荷物を詰めていた。

アルデバラン「ちょっとお話があるのですが。」

突然現れたアルデバランにサガは驚きもせず、荷物を詰める手を休めずに話を聞いた。

アルデバラン「その・・・、ご存知の通り、ムウは純聖域育ちですから、あのようなことをさせないで下さい。」

サガ「ん?、私は何もしてないぞ。私は温泉で忙しいのだ。」

アルデバラン「ムウに、教皇様のご機嫌をとるように頼んだではありませんか。」

サガ「は?何のことだ?。私はムウに物を頼むような、命知らずな真似などしてはおらん。」

アルデバラン「アイオロスが休暇が欲しいから、教皇の機嫌をとってくれと・・・、そのですねぇ・・・。」

サガ「・・・・、どういうことだ?」

アルデバランから詳しい事情を聞くと、サガは鞄を投げ捨て人馬宮へと光速で走っていった。

 

アイオロス「サガ〜〜〜、もう準備終わったのか?、私の股間はいつでも準備万端だぞぉぉ〜〜〜♪」

サガ「アイオロス!!お前、ムウに頼んで休暇を貰ったというのは本当か!」

アイオロス「そうだけど。」

サガ「この、大馬鹿!!!休暇は取り消しだ!」

アイオロス「え?何で?」

サガ「何でもへったくれもあるか!。」

アイオロス「サガぁぁ、何怒ってるんだよぉ?温泉だぞ、温泉。」

サガ「お前はムウが教皇様の機嫌をとるために、何をしているのか知っているんだろう!」

アイオロス「知ってるけど、それがどうかしたのか?」

サガ「・・・・・・・・・。・・・・いいから、ちょっとこい!!。」

アイオロスはサガに耳たぶを掴まれたまま、光速で白羊宮まで引っ張られていった。

 

白羊宮ではアルデバランがムウになんと説明していいのか分からず、困っていると、飛び込んできたサガとアイオリアに救われる形となった。

サガ「ムウ、お前に酷いことをさせてすまなかったな。」

ムウ「はぁ??、何のことですか?」

サガ「この馬鹿に頼まれて、教皇の機嫌をとってくれたんだってな。」

ムウ「あ、そのことでしたら気になさらないでください。ちゃんと、アイオロスからケーキもらいましたから。」

アイオロス「ほら、だから誤解だって言ったじゃないかぁ。だからぁ、温泉いこ、サガぁぁ。」

サガ「それがいかんと言っているのだ!!!!!!!ムウ、お前は教皇様の機嫌をとるために、その・・・教皇様と性交を重ねているのだろう。」

ムウ「別に、いつものことですから。」

アイオロス「そうだそうだ、何がいけないっていうんだ。」

サガ「わかった。じゃぁ、次からは休みが欲しいときは私は教皇様の寝室に行ってサインを貰ってこよう。教皇様は尻を開けば、ご機嫌が宜しくなりそうだからな。」

アイオロス「何言ってるんだ、サガ!!お前はそんな事しちゃだめだ!」

サガ「私が駄目なら、ムウも駄目に決まっているだろう!。私は他人に売春させてまで、休暇が欲しいとは思わん!!」

ムウ「失礼なこと言わないで下さい!私は売春なんてしていません!!」

アイオロス「そうだ!そうだ!」

サガ「アイオロス!!お前は黙っていろ!いいか、ムウ、お前は多分人間なんだ。だからな、その、体で物事を解決しようなんて考えてはいけないんだ。」

ムウ「その、『多分』というのは余計です。」

アイオロス「聖闘士は体が資本だ!肉体で解決して何が悪い!」

サガ「違う!そういう体ではない!」

アイオロス「じゃぁ、何だって言うんだよ。」

サガ「アイオロス、いいからお前は黙ってろ!。ムウ、そんな、プライドのないことをしてはいけない、お前は黄金聖闘士なんだぞ。」

ムウ「はぁ?女神を二度も裏切っておいて、プライドもなくのうのうと生きている貴方には言われたくありません。」

サガ「う゛・・・・そ、それはそれ、これは、これだ。教皇様に体を売らなくても、口で言えば済むことだろう。」

ムウ「だから、売春なんてしてません。」

アイオロス「サガぁ、売春って言うのは、エッチしてお金貰うことだぞぉ。」

サガ「あーーーーー!、だーかーーらーー!性交渉と引き換えに、教皇様に己の望みを叶えてもらうことはいけないことだと言っているのだ!。」

アイオロス「サガがエッチさせてくれるなら、何でもサガのお願い聞いちゃうけどなぁ♪」

サガ「それが間違っているというんだ!いいか、お前たちのやっていることは売春と大差ないんだ。」

ムウ「くどい!!私は、売春などしていないと言っているでしょう!。ちょっと私が頑張ってシオン様と長く寝ていれば、私は食べたいものが食べられるし、貴方は休暇を貰えるしで、いいじゃないですか。物を貰わなくったって、どうせ毎日シオンさまに犯されるんですから。」

アイオロス「そうだ、そうだ!!

サガ「アイオロス!黙れ!!。だからだなぁ・・・・その・・・・。」

それが売春であることを説明するには、ムウの存在自体を否定しかねない事であり、サガは言葉を詰まらせた。

サガ「う・・・・う゛・・・・・・・・・・・・・・・、アルデバラン!お前からも何とか言え!!!」

アルデバラン「え???私ですか???」

アルデバランを見上げるムウの紫の瞳は、黄金聖闘士らしい自信に満ち溢れており、アルデバランもなんと説明していいのか分からず、ムウの肩に手を置いたまましばらく見詰め合っていた。

アルデバラン「ムウ・・・そのだなぁ、お前がそういうことをすると、私は悲しい。だから、もうやらないでくれ。」

ムウ「アルデバランが?」

アルデバラン「菓子が食べたかったら、私がいくらでも買ってきてやるから。だから、もうしないで欲しい。」

ムウ「・・・・、アルデバランがそう言うならわかりました。もうしません。」

偏屈、変わり者で名高いムウが、不気味なまでに物分りがいいのを横目で見て、サガはなるほど、と肯いた。

サガ「アイオロス、私はこういうことが大嫌だ。だから、二度とするな。今度やったら絶交だからな。」

アイオロス「え?!絶交?!」

サガ「そうだ。」

アイオロス「・・・、わかった。しない。」

こうして純聖域培養の本能だけで生きているムウとアイオロスに、一般的な社会道徳をどう教えるかで、サガとアルデバランは頭を抱える日々がしばらく続くのであった。

 


End