白羊家の食卓5(風邪ひき十二宮 その2)

 

執務室の社長椅子に座り、湯の張ったバケツに足をつけながら、シオンはブーブーと文句を言っていた。

シオン「まったく、何のための教皇代理じゃ、アイオロス!お前がここに座って執務をしておれ。余はムウの看病で忙しいのじゃ。」

アイオロス「どうせ白羊宮に戻ったって、またムウとSEXするつもりなんでしょう!」

シオン「あれはのぅ・・・ムウがびっしょりと汗をかいていたから、体を拭いてやっていたのじゃ。そしたらのぅ、ムウが余の耳元でハァハァと息を切らしておったから・・・。」

アイオロス「それは苦しくて息を切らせていたんでしょうが!大体なんでムウが風邪なんてひいてるんですか!!。」

シオン「それは余が知りたいのぅ。」

アイオロス「聖闘士が普通にしてて風邪なんてひくはずないでしょう。何やったんですか?このクソ寒い中、一晩中アオカンですか?それとも、すっ裸でどっかに放置していたんですか?!いくらでも心当たりがあるでしょう!!」

シオン「何でも余のせいにするでない。昨日は風呂じゃ、風呂。風呂でヤったのじゃ。ムウは声が小さいからのぅ、風呂じゃと声が響いてこれまたよいのじゃ。泡まみれのムウはまさに羊みたいで可愛いのじゃ♪四つんばいになってのぅ、余のモノをズッポリ根元まで挿し込んで、メーメーとではなくアンアンと鳴くのじゃ。ムウは可愛いのぅ、何であんなにかわゆいかのぅ。それでのぅ、あまりにかわゆいから、ついつい挿しっぱなしにしてしもうたのじゃ♪」

股間にムウの温もりを思いだし、シオンはニヤニヤしながら紅茶をすする。呆れながらも話を聞いていたアイオリアは、あまりにも破廉恥な内容に耳まで顔を朱に染めた。

アイオロス「やっぱり教皇が原因じゃないですか!!!一晩中風呂で羊プレイなんてやってたら、風邪ひくに決まってるでしょう!あんたは馬鹿ですか!!!」

アイオロスが大理石のテーブルを勢いよく叩いても、シオンは大して驚くこともなく、紅茶を飲みつづける。もちろんこの男に『反省』の文字は存在しない。

シオン「馬鹿に馬鹿とゆわれる筋合いはないのぅ。ムウは可愛いのじゃ、仕方あるまい。」

アイオリア「お言葉でございますが、そんなに可愛いのでしたら、もっと労わってあげても宜しいのではないでしょうか。」

シオン「ほうほう、獅子がムウを庇うとは珍しいのぅ。ムウに欲情したのか?」

アイオリア「ち!違います!!!いくらなんでも、あれはかわいそうだと・・・。」

アイオロス「そうですよ、教皇!風邪ひかせたうえに、犯して、教皇は本当にムウの師匠なんですか!。」

シオン「うるさいのぅ。余は童虎と違うて、そんな大声出さずとも聞こえるわ。」

白い裸体をさらして、ぐったりとしているムウを思い出し、アイオリアは再び顔を赤くした。いくら仲の悪いムウとはいえ、あの仕打ちに同情したのは本心である。

ようやく寝た頃だろうか?

何故だか分からないが、ムウの容態が気になり、アイオリアは執務室の窓、十二宮の方に目をやった。

 

シオンの唾液と精液でベトベトになった体を熱い湯で洗い、神官に届けさせた新しいシーツのうえで、ムウはようやく眠りについた。

普段ムウが家事を仕切っているので、貴鬼やアルデバランでも白羊宮の勝手がよくわからず、氷枕一つ作るのに、右往左往してしまう。朝から何も食べていないムウに何か作ってやろうと冷蔵庫を開けても、病人に食べさせる食事など知るはずもなく、結局何も食材を出さずに戸を閉めて、書棚から料理の本を探しはじめた。

一方その頃、白羊宮の前では二人のオカマが対峙していた。ピンクのワンピースに白いフリフリエプロン、頭にカチューシャをつけ、ばっちり慎吾ママメイクをきめたデスママ姿のデスマスクと、手に大きな薔薇の花束をもったアフロディーテである。

アフロディーテ「あら、デっちゃん。そのワンピースはおニュウね。」

デスマスク「そうともよ。お前、その箱はケーキだな?」

アフロディーテ「そういうデっちゃんこそ、そのクーラーボックスは蟹でしょう。」

デスマスク「そうともよ。というわけだ、お前は帰れ!」

アフロディーテ「冗談じゃないわよ!どさくさにまぎれて一人でいい子ぶりっ子しようったって、このアフロディーテさまが許さないからね!」

ムウが風邪をひいて倒れたことを嗅ぎつけた二人は、点数稼ぎに白羊宮を訪れたのである。ここで恩を売っておけば、後々聖衣の修復で苦労することもなくなる筈と、考えたのだ。

ギャーギャーと騒ぎながら、我先にと白羊宮へ侵入してきたオカマ二人に、貴鬼とアルデバランは慌てて静かにするよう命令した。

貴鬼「オジサンたち!やっとムウさま寝たんだから、静かにしてよ!」

デスマスク「おう、騒いでたのはアフロディーテだ。そうムウに伝えてくれ。」

アフロディーテ「ちょっと、騒いでたのはデっちゃんでしょう!!!」

アルデバラン「だから、静かにして下さい!!」

アルデバランに頭上から睨まれ、デスマスクとアフロディーテはあわててお土産を差し出す。

デスマスク「おう、ムウが風邪で倒れたってきいたからよう、デスママがきてやったぜ。これは見舞いの蟹だ、蟹!」

アフロディーテ「アフロもねぇ、お見舞い持ってきたのよぉ。ほらぁ、薔薇の花にぃ、ムウちゃんの大好きなケーキ。」

貴鬼「ぅわーい!おじさんたち有難う!きっとムウさま喜ぶよ!!」

ケーキの箱を受け取ろうと、貴鬼が手を伸ばすと、アフロディーテは箱を持ち上げた。

アフロディーテ「だ・め。これはムウの。ムウに直接渡さなきゃ意味ないの!!!」

貴鬼「ちぇーーー、おいら朝からご飯食べてないのに〜〜〜。」

貴鬼は腹の虫をグルグルと鳴らしながら、デスママスクを見上げる。いつもならば、女子供でも容赦なく蹴散らすデスマスクだが、今日は皆のアイドル・デスママの上に点数稼ぎで来ているため、そうはいかない。

デスマスク「いいか、小僧。ムウに、デスママが来て親切にしてくれたって、報告するんだぞ!」

貴鬼「え、親切にしてくれるの!オイラも蟹食べていいの?」

デスマスク「おうともよ!」

貴鬼「わーーい、蟹だ!蟹!」

白羊宮オカマ対決に一歩出遅れたアフロディーテは舌打ちしてデスマスクを睨みつける。下心丸出しのアフロディーテとデスマスクに呆れながらも、アルデバランは助けにきてくれた仲間に感謝した。

 

昼過ぎ、手洗いの水の流れる音からムウが目を覚ましたことに気付いた一同は、雪崩れ込むようにムウの部屋へと押しかけた。

ムウは頭まで布団をすっぽりかぶり、布団の中で丸まりながらゴホゴホと咳き込んでいる。

貴鬼「ムウさまぁ、大丈夫?」

ムウ「・・・貴鬼、風邪がうつるから来るんじゃない。」

布団の中からボソボソといつもより更に小さな声で答えたムウの返事にデスマスクはニヤリとわらった。これで一人戦線離脱である。

デスマスク「おう、小僧。ムウママがおめぇのこと心配して言ってんだ。さっさと出てけ。」

貴鬼「そんなぁ、ムウさまぁ・・・。」

アルデバラン「お前はまだ子供だからな。ムウの言うとおりにするんだ。」

貴鬼はデスマスクにつまみ出されると、部屋の外で唇を尖らし、ブーブーと文句を言う。

アルデバラン「ムウ、何か食べて薬飲まないと駄目だぞ。とりあえず起きような。」

しかし、ムウは布団の中で咳き込むだけで、返事をしない。アルデバランは布団を引き剥がすと、ムウは大きく咳き込んだ。

アフロディーテ「無理矢理布団剥がしたらかわいそうでしょう〜〜〜。ムウの好きなケーキ買ってきてあげたから、これ食べて薬飲んでねぇ。」

デスマスク「そんなもんじゃ栄養にならねぇぞ、俺っPiが作った蟹雑炊食いねぇ!。」

アルデバランに体を起こされ、枕に寄りかかったムウは、差し出されたケーキと雑炊に、うつろな目を瞬かせる。

ムウ「・・・どうもすみません。」

がっくりと肩を落とし、溜息混じりにそう言うと、ムウは小さく頭を下げた。

どうせ『点数稼ぎですかぁ?毒入りですかぁ?』と嫌味の一つや二つは言われることを覚悟していたデスマスクとアフロディーテは、ムウの意外な態度に驚きを隠せず、互いに顔を見合わせる。ムウは青白い顔を布団に埋めて、再び咳き込んだ。

デスマスク「お、おう、家の事はこのデスママが面倒みてやっからよ!ゆっくり休んでろよ!!」

アフロディーテ「食べたいものがあったら、何でもアフロにいってね。パリでもロンドンでも行って買ってきてあげるから。」

ムウ「・・・・有難うございます。」

布団に顔を埋めたまま答えたムウに、デスマスクとアフロディーテは笑いを引きつらせながら、アルデバランに雑炊とケーキを渡して部屋を出て行った。

デスマスク「あれは重症だな。『有難うございます。』だとよ。どこの羊だ?!」

アフロディーテ「なんか、真っ青だったしね。あれは青ムウ?」

しかし、程なくして部屋から出てきたアルデバランが手に持っているものを見て、二人は先ほどの言葉を取り消した。デスママの蟹雑炊はほとんど食べた形跡が見られなかったのだ。

デスマスク「けっ!やっぱり俺っPiの作った物なっか、食えねぇってーのか!」

アルデバラン「ムウは本当に具合が悪いんです。勘弁してくださいデスマスク。ちゃんと私が毒味してあげても食べなかったんですから。」

デスマスク「ゴラ!お前もいちいち俺っPiが作った物を毒味してんじゃねぇぞ!!!」

アルデバラン「し、しかしですねぇ、ご飯を食べさせないと薬も飲めませんし・・・。」

アフロディーテ「デっちゃん、ムウってば、本当に具合悪いみたいよ。ケーキも食べてない・・・。重症だね、これは。」

アルデバランから奪い取ったケーキの箱を開け、アフロディーテはまったく手がつけられていないケーキを見てそう呟いた。


Next