ミロたんといっしょ20 (エピソード1 聖域デビュー)

 

この日12歳のサガとアイオロスと5歳のアイオリアは、教皇の間に呼び出されていた。

だが3人が教皇の間に行くと、まだ来客が終わっていないから謁見の間の外で待つように言われてしまい、3人は大きな扉の前でシオンの客が終わるのを待っていた。

扉がわずかに開いているのを知ったアイオロスは、不謹慎にも謁見の間の中を覗き見し、いったい誰が来ているのかと聞き耳を立てていた。

教皇シオン「ほうほう、お前の息子に聖域で神学を学ばせたいと?」

男「はい、我が息子もはや5歳。唯一の跡取り息子でございます。次期頭首として聖域に貢献できますよう、是非おねがいいたします」

教皇シオン「しかし5つでは、まだ神学を学ぶにはいささかはやかろう」

男「しかしながら教皇様、実は息子は親の私から見ても年のわりには聡明でございまして……」

教皇シオン「ほうほう」

男「5歳ですでに英語を解し、九九と割り算もこなせ、聖典を諳んております。実の子ながら、できたものだと常々自慢に思っております」

教皇シオン「なるほどのぅ、それは誠に聡明じゃ」

男「私もまだ幼い息子を聖域にいれるのはいささか早いとは存じましたが、ここはやはり聖域で神学を学ばせたほうが後々島の守り手として……」

教皇シオン「もうよい。よかろう、おぬしの息子を聖域であずかろうではないか。ただし、聖域は弱肉強食の世界じゃ。かつてこの地で勉学に励んだおぬしなら、それを知らぬわけでもあるまい。それでもよいのじゃな?」

男「はい」

教皇シオン「ふむっ、いいじゃろう。これもまた星がもたらす運命じゃ」

男「???」

教皇シオン「よい、連れて参れ」

男が頭をさげると、独りの神官が金髪の少年の手を携えて入ってきた。

教皇シオン「ほう、やはりのう。余の目に狂いはない」

男「へ?」

教皇シオン「最後に今一度聞く。この子を余に預けることに相違ないな?」

男「はい。アテナに誓って」

教皇シオン「よかろう。本日よりこの子供を正式に聖域に迎え入れ、そして将来黄金聖闘士となるべく修行を行うものとする」

男「は?」

男も少年も神官も、そして外で話しを聞いていたアイオロスとサガもその言葉に唖然となった。

男「お、お待ちくださいませ、教皇様。今、なんと?」

教皇シオン「余は同じことを二度もいわぬ。この子は、黄金聖闘士としての宿命を背負った子じゃ。黄金聖闘士となり地上を守るも、志半ばで命を落とすもこの子次第。そのほう、名前はなんじゃ?」

ミロ「ミロ!」

教皇シオン「ほうなるほどのぅ。本日より父母とはなれ、お前はこの聖域で聖闘士の修行をするのじゃ」

ミロ「え?」

教皇シオン「聡明なお前ならこの意味分かるであろう?お前もミロス島の跡取りであれば、聖闘士の存在くらいは知っておろう」

ミロはぶんぶんと頭を立てに振った。

教皇シオン「お前はそれになるのじゃ。後々、引退後には父の跡をつぎ、ミロス島を守る神官として人生を終えるがよい。では、アイオロスとサガよ、入って来い。お前はもう下がってよいぞ」

ミロス島を守る神官のミロの父は唖然としながら、聖域の最高権力者に逆らえるはずもなく混乱する頭を抱えて退いた。それと入れ替わりにサガとアイオリアを小脇に抱えたアイオロスが、謁見の間に入ってくる。

教皇シオン「アイオロス、サガ。今の話聞いておったであろう?」

アイオロス・サガ「はい」

教皇シオン「この子は蠍座の黄金聖闘士としての宿命を背負っておる子じゃ。訓練所にいれる手配は、すでについておる」

アイオロス「ということは?」

教皇シオン「この子がミロス島で生を受けたときから、聖闘士になることは決まっておったのじゃ。聖域に来るのが早いか遅いか、それは運命の歯車によるもの。まぁ、よい。この子が立派な聖闘士になるよう、しっかり面倒をみるのじゃぞ」

サガ「し、しかし、まだこの子は幼すぎます」

教皇シオン「アイオロスの弟は一足はやく訓練にはいっておるではないか。余に口答えするでないぞ、サガ」

サガ「は、はい」

教皇シオン「この聖域で生きるも死ぬもそれは星と神だけが知っておる。お前たちがとやかく言ってもはじまらん。では、よろしく頼むぞ」

教皇シオンはそういうとゆっくりと席を立ってカーテンの奥へと消えていった。

残されたサガとアイオロスは、ポカーンとしているミロを見ながら彼らもまたポカーンとなった。

アイオロス「えっと……俺は射手座の黄金聖闘士アイオロスだ。こっちは双子座のサガで、これが俺の弟アイオリアだ。えっと、ミロだっけ?よろしくな」

ミロ「……?」

サガ「どうしたのかな?やっぱりお父さんと突然離れちゃったし、教皇さまのおっしゃることは難しかったのか?」

アイオロス「おい、小僧。お前はこれから聖闘士の訓練するだ。分かるか?セイントだ。ミロス島にいたんなら、セイントくらいしってるだろう?」

ミロ「ちょいとそごのあんちゃ。おでは小僧であらないべさ。おではミドス島の神童と呼ばれたミロだぁ。バカにしとると?」

アイオロス・サガ「?」

アイオリア「兄ちゃん、この子何しゃべってんの?」

アイオロス・サガ「さぁ?」

サガ「この子ミロス島から来たんだよね。ミロス島って、ギリシャだよね、アイオロス。」

アイオロス「間違いない。俺が知っているミロス島はギリシャだ」

サガ「一体、この子何語を喋ってるんだろう。スペイン語でもイタリア語でもないし……。また言葉覚えなくちゃいけないのかなぁ……」

アイオロス「え?それは勘弁してくれよ……イタリア語とスペイン語でいっぱいいっぱいだ」

ミロ「おい、そこのこわっぱ!今、おでのことバカにしたべ?おめさ、おでのことばわからねぇでか?」

ミロが鼻をすすりながらアイオリアに近づき指差した。

アイオリア「???兄ちゃぁぁぁっぁん」

サガ「ねぇ、ミロ。私が言ってることは分かるかな?」

ミロ「わかるっぺよ。おめさ、双子座のサガだべ。こげなべっぴんさんがおるとは、サングヂュアリもすみさおけねでなぁ」

サガ「……えっと、そう……双子座のサガだよ。じゃぁ、こっちのお兄さんは?」

ミロ「このいもくっせぇ兄ちゃは、アイオロスだべ。風の神さんと同じ名前じゃん!」

アイオロス「風の神さん??……」

アイオロスはしばらく考えるとポンっと手を打った。風の神さん=風の神様と理解したのだ。

アイオロス「ほぉ、風の神の名を知ってるのか……」

ミロ「あったりめぇでないかい、ごっしぱら焼げるでないかい。おではじきミロス島のとうしゅだぁ!そげなこつしらんとどうするね!余計なおせわやけど、サガはぎだぐにの神さんの名前だべさ」

アイオロス「?」

ミロ「そっちのおなごはアイオリアだっちゃ?おなごにしちゃ男みたいだなぁ。嫁の貰いてさなかとね、こわいなんやさぁ。」

アイオリア「え?ボク……??兄ちゃん、この子今なんていったの?」

アイオロス「俺も分からん……サガは?」

サガ「アイオロスも分からないものを私が分かるわけないだろう?この子は私たちの言っていること、分かっているみたいだけど」

ミロ「んだども、きょうごうさまがわぁもセイントになるってぬかしてじょいした。ちうことは男だでか?そげなこつありえんじゃろ」

アイオリア「??????」

アイオロス「あっ、そういえばさっき、この子の父さんが頭がいいっていってたな。だからギリシャ語を理解してるんじゃないか?」

サガ「でもこの子の言ってることば、たまにギリシャ語混じってるよね」

アイオロス「ああ、分かった。自分の国の言葉とギリシャ語が混じってるんだ」

サガ「自分の国の言葉って、この子ギリシャ人だろう?」

アイオロス「そっか……一体こいつ何語喋ってんだろう?お前、何人?」

ミロ「そげなこっつきまってるべや。おではちゃきちゃきのミロス島っこじゃ!」

サガ「??何人なんだろう?ミロス島とはいってるけど」

アイオロス「チャキチャキという国のミロス島か?」

サガ「チャキチャキなんていう国聞いたことないよ」

アイオロス「あなたはギリシャ人ですか?」

ミロ「んだ!おではゲリィシャ人だす。サングヂュアリがこげなしばれるとは思わんかったわ……」

ミロは大きく頷くと、ずびっと鼻をすすったのであった。

 

執務室

執務に戻ってから30分ほどたった後、アイオロスとサガがミロとアイオリアを連れて現れた。

アイオロス「聞いてください、教皇……」

教皇シオン「どうしたのじゃ?」

アイオロス「ミロは何人なんですかね?」

教皇シオン「は?お前、ミロス島を知らぬとは言わせぬぞ」

アイオロス「そりゃ、ミロス島くらいしってますよ」

教皇シオン「では、何人かわかるであろう」

アイオロス「でも、俺の知らない言語喋ってるんです」

教皇シオン「子供であるからのぅ、言葉が拙いのはいたし方あるまい。お前の弟となら意思の疎通も図れるのではないか?」

アイオロス「いや、アイオリアでも無理でした。アイオリアの奴、ミロの宇宙語に怖がっちゃって……」

教皇シオン「宇宙語とな?蠍よ、ちこう」

ミロ「???」

サガ「教皇さまがお呼びだよ。さぁ、行って」

ミロはサガに背をつつかれて、慌ててシオンの前に出た。

教皇シオン「どうした蠍よ?何か喋ってみるが良い」

ミロ「ぎょうごうさま。おではさそりじゃなかんべさ。ミロス島の神童のミロだべよ!」

教皇シオン「なるほどのぅ、ちとなまりがひどいのぅ、蠍よ」

ミロ「さそりでなかね!おではミロだっぺ!」

教皇シオン「ほうほう、そであったな。じゃが、おぬしはいずれ蠍座の聖闘士になるのじゃ。聖闘士に名は不要。いずれはスコーピオンさまと呼ばれることのほうが多くなろう」

ミロ「ぎょうごうさま、おではミロス島で父ちゃのあどづいで神官さなるだよ。セインドになれんのはうれしかばい。んだどもミロス島はおでが守らんといかんとよ。ぎょうごうさまのお力でなんどがしてちょーよ」

教皇シオン「ほうほう。そなた幼い割にはしっかりとしておるのぅ。関心、関心。しかし、蠍よ。星の運命は変えられん……この教皇でもな」

ミロ「そげなこつゆうたら、おでの島はどうなるのだがや?」

教皇シオン「うむ。おぬしの父はまだ現役で活躍しておるであろう?、蠍。おぬしはミロス島のために、そして父の期待に応えるためにも聖闘士として訓練に励めばよいのじゃ。聖闘士になってからでも、ミロス島を守ることはできる。時として聖闘士は神官としての役割をしなければならんときもある。いや、むしろ聖闘士は最も教皇に近い神官といえなくもないのぅ」

ミロは大きな瞳をキラキラ輝かせてシオンを見上げた。

教皇シオン「わかったか?、蠍よ。これは女神の地上代行者である教皇自らの命令にも等しい。おぬしも聖域に属する者なら、余の命令は逆らうことは許さん。女神がおぬしに聖闘士になれとゆうておるのじゃ」

ミロの大きな瞳はさらにキラキラ輝いた。

ミロ「ぎょうごうさま!おでセインドになるだ!絶対になるだよ!」

ミロはローブの越しにシオンの足にギュッとしがみつけると、鼻水をこすりつけて頬をスリスリした。

教皇シオン「よいよい、おぬしは頭の良い子じゃのぅ」

一方はよく知るギリシャ語、一方はギリシャ語のような謎の言語で普通に会話がなりたっている二人を見て、サガとアイオロスは呆然となったのであった。

教皇シオン「しかしすこしばかりなまりがあるのぅ。これではサガもアイオロスも分からないのは当然じゃ。いや、黄金聖闘士がたとえなまっていてもギリシャ語が解せないのは、問題かもしれん。本来ならば語学を学ばせながら訓練をつませるところであるが……」

シオンは仮面の顎を撫でさすり、無邪気に瞳を輝かすミロと、呆然としているサガとアイオロスとアイオリアを見た。

教皇シオン「うむ。蠍よ、アイオロスとサガから標準語も学ぶが良い。そしてサガとアイオロスよ、お前達も方言を覚えておいて損はない。聖域で使われているギリシャ語がすべてではないことをよく知る機会じゃ」

アイオロス・サガ「え!?」

教皇シオン「この子はのぅ、ミロス島なまりのギリシャ語をしゃべってるのじゃ」

アイオロス「ミロス島なまり?」

サガ「ギリシャ語ってなまりあるんですか?」

教皇シオン「地方によって少し違うのじゃよ。よって共に生活し、ギリシャの方言に造詣を深めるがよい。分かったな」

サガ・アイオロス「はい。分かりました……」

こうしてサガとアイオロスは、デスマスク、シュラ、アフロディーテ、アイオリアの4人に加えミロも面倒を見ることになったのであった。

 

一週間後の日曜日。

訓練所に入っていたミロとアイオリアがアイオロス達の元に返ってきた。

アイオリア「アンちゃ!!」

アイオロス「!?!?」

アイオリア「アンちゃ、あいだがったべ!ボク、ちょっとは筋肉ついてきたちゃ?」

サガ「???」

ばっちりミロのなまりがうつったアイオリアに頭をかかえたサガとアイオロスであった。

 


End