★子羊といっしょ(かにさんと積尸気冥界波 その2)
積尸気冥界波の素振りは二万本を超えていた。
デスマスク「・・・・・!せきしき!」
老師「やはり出ぬか。よし、構えを変えてみよ。頭の上で手のひらを合わせるのじゃ!」
デスマスク「こうですか?」
老師の指示に従い、デスマスクは頭の上で手を合わせた。
老師「そうじゃ。そしてそのまま精神を統一し、気合を入れるのじゃ!」
デスマスク「はい!はぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・。」
ヨガのようなポーズをとりながら、デスマスクは瞑想をはじめる。
老師「よいぞ、よいぞ。その調子じゃ!」
デスマスク「はぁぁぁぁぁ・・・・・・・!せきしき!!!!」
老師「おおおお!出たぞ!出たぞ!ちょろっとだが、でおったぞ!!」
デスマスク「本当ですか!ィヤッホーーーーーーー!」
素振りすること3ヶ月。ついに姿を見せた積尸気に、デスマスクは嬉しさのあまり、大げさにガッツポーズをとって、小躍りした。
老師「よいぞ、よいぞ。そのまま続けるのじゃ!」
デスマスクは積尸気が出た縁起のいいポーズで、練習を再開した。
デスマスク「はぁぁぁぁぁ・・・・・・・!せきしき!!!!」
老師「出ておらん。もっと集中するのじゃ。」
デスマスク「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!せきしき!」
老師「駄目じゃ。」
デスマスク「はぁぁぁぁぁっぁぁ!!!せきしき!」
ムウ「はぁーーーせきちき。」
先ほど動いたきり、まったく動かずにいたムウが、座ったまま頭上で紅葉のような手を合わせ、デスマスクの真似をした。
ムウ「ろーしさま、でた!でた!」
老師「なんじゃ、ムウ?ちっこか?う●こか?」
ムウ「ちがう、ちがう、せきちきでたの!」
ムウは自分の頭上を一所懸命に老師に指し示す。
デスマスクはムウの頭上に、いくつもの星明りが瞬いているを見て絶句した。老師「ムウよ、それは積尸気ではないのぅ。」
ムウ「これもせきちきじゃないの?」
老師「ちと違うのぅ。」
ムウ「はーーーい。」
老師「デスマスクよ、ムウが出したのは積尸気ではないぞ。よって、真似せんでもよいからな。」
デスマスク「や、やだなぁぁ、老師。真似なんてしませんよ、ははは!」
図星されたデスマスクは笑ってごまかし、また人形のように動かなくなったムウをみて、小首をかしげた。
素振りが三万回を越えた頃、教皇が再び老師の目の前に現れた。
教皇シオン「おお、童虎。すまなかったのぅ。目が回るほど忙しくてな。」
老師「なになに、かまいやせんよ。」
教皇シオン「さ、ムウよ、帰るぞ。」
ムウ「ろーしさま、ありがとうございました。」
ムウは立ち上がり、老師に深々と頭を下げた。
教皇はムウの小さな体を抱き上げると、振り返り、緊張のあまり硬直しているデスマスクに声をかけた。
教皇シオン「蟹よ、積尸気は出るようになったのか?」
デスマスク「はい!ちょ、ちょこっとですが・・・・。」
教皇シオン「うむ。そなたには期待しておるぞ。がんばるがよい。」
デスマスク「は、はい!がんばります!!」
大滝の爆音に負けないくらいの大声で、デスマスクは返答した。
ムウ「かにさん、バイバイ。」
最後まで無表情だったムウが、教皇の腕の中からデスマスクにやはり無表情のまま手を振った。デスマスクがそれに気づいて手を振り返すよりも早く、教皇とムウは五老峰から姿を消していた。
教皇の間の私室
椅子に座ったシオンの膝の上で、ムウはシオンの長い銀色の髪を指に絡めて遊んでいた。
教皇の冠と仮面をはずし、机の上に置くと、シオンはムウの白く柔らかい頬に何度も口付けをした。そのたびにムウはくすぐったいのか、キャッキャと声を上げる。その顔は愛らしく笑っていた。シオン「ムウよ、今日は童虎と何をして遊んだのじゃ?」
ムウ「きょうはね、ろーしさまと、かにさんと、せきちきしたの。」
シオン「ほう、蟹と積尸気冥界波の練習をしたのか?」
ムウ「せきちきーーー!って、れんしゅうしたの。」
シオン「ほうほう、それで、ムウは積尸気冥界波を出せたのか?」
ムウ「ムウがだしたのは、せきちきじゃないんだって。」
シオン「なるほど、まぁよい。やってみなさい。」
ムウ「はーーい。」
膝に乗ったまま、ムウは頭上で手を合わせて、長い睫の瞼を閉じた。
ムウ「はーーーー、せきちき。」
ムウの頭上の空間が大きく歪み、幾つもの星明りが瞬きはじめる。シオンはそれを見ながら、顎に手を当てて考えはじめた。
ムウ「かにさんのせきちきは、くろかったの。ムウのはキラキラしてるから、せきちきじゃないの?」
自分を顔を覗き込む、紫色の瞳に気づき、シオンはムウの小さな唇に軽くキスをした。
シオン「・・・・ムウよ、それは積尸気冥界波ではなく、スターライトエクスティンクションじゃのぅ。」
ムウ「すたーらいとえくすてーしょん?」
シオン「スターライトエクスティンクションじゃ。しかしのぅ、そのポーズはかっこ悪いからやめなさい。」
ムウ「はーーい。」
一方その頃、五老峰
老師「よいぞ!!よいぞ!!積尸気が先ほどより大きくなりおったぞ!!」
デスカスク「ほんとうですか!!!よっしゃーーーーー!」
老師「その構えを忘れるでないぞ。さぁ、もう一度じゃ。」
デスマスク「はい!。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー、せきしき!!!」
シオンにかっこわるいと言われたポーズで、デスマスクは着実に積尸気冥界波を身につけていた。