白羊家の食卓7(こたつみかん その2)

 

思わぬコタツの効果にアイオロスとアルデバランは顔を見合わせ、声を殺して笑らわずにはいられなかった。いつもならば、『食事が終わったら帰れ!』と追い出されてしまう居候たちであるが、シオンがさっさと寝たということは、しばらくこのままコタツに入っていても怒られないということである。

アイオロスはシオンの席に再び戻ると、テレビのリモコンをかちゃかちゃと変えはじめ、アルデバランはムウが消えた方をじーっと凝視している。
ムウはガラスの器にみかんを沢山のせ、台所から足早に戻ってきた。そしてアルデバランが座っている、長方形のコタツの辺の短い方に腰をおろす。
当然コタツはアルデバラン一人で埋め尽くされておりムウの入る余地はない。アルデバランがムウにコタツを譲ろうと席を立とうとすると、ムウはアルデバランの袖をつかんでそれを制した。

ムウ「私、別にコタツに入らなくても寒くないですから。」

アルデバラン「でも足が冷えてしまうぞ。」

ムウ「ジャミールのほうがもーーーーっと寒いから大丈夫です。」

アルデバラン「しかしなぁ、お前をそんな端っこに座らせるわけにはいかないだろう。」

ムウ「私はアルデバランの隣がいいんです。」

ムウは正座したままアルデバランにぴったりと体を寄せると、アルデバランはアイオロスの目を気にしながらも、ムウの体に後ろから手を回した。

アイオロス「おーおー、あついねー、教皇に見つかったら殺されるぞ。」

ムウ「アイオロスが席をどいてくれないからいけないんですよ。」

アイオロス「反対側が空いてるだろう。」

ムウ「そこに座ったらテレビが見えないでしょう。」

アイオロス「私の向じゃなくて、アルデバランの向だ。そっちにお前が座ればいいじゃないか。」

ムウ「そっちの席は方角が悪いから嫌です。」

アイオロス「方角?!何だそれは?!」

ムウ「東洋にはそういうのがあるんです!。」

プイと顔を背けるとムウは更にアルデバランに体を寄せる。戸惑っていたアルデバランではあるが、ムウにニッコリ微笑まれ、きれいに剥いたミカンを渡されると、だらしなく鼻の下を伸ばした。

アルデバラン「ムウの剥いてくれたオレンジは美味しいな。」

ムウ「女神が送ってくださったジャパニーズ・オレンジだから美味しいのですよ。」

アルデバラン「これは凄く甘いぞ。お前も半分食べろ。」

ムウはアルデバランに顔を向けると、瞼を閉じて口をあーんとあける。そこアルデバランは房を分けたミカンを入れた。

ムウ「アルデバラン、美味しいです。」

アルデバラン「ムウはオレンジを選ぶのが上手だな。」

ムウ「すっぱいオレンジだったらアルデバランが可哀想ですから。」

アルデバラン「ムウは優しいなぁ、はっはっはっ!」

隣でいちゃいちゃベタベタしているホモの馬鹿ップルを横目に、アイオロスは心の中で嫉妬の炎を燃やしていた。自分の恋人は絶対にオレンジなど剥いてくれないだろうし、むしろ剥けと命令してくるだろう。そもそもまず『コタツに入るくらいなら風呂だ、風呂!』と言って、自分の隣に座ってくれるかどうかも怪しい。

アイオロス「おい、ムウ。私にもオレンジをくれ。」

ムウ「そこに沢山あるでしょう。」

ムウは顎でミカンの山を指し示すと、新たに剥き終わったミカンをアルデバランに渡す。

アイオロス「そうじゃなくてだな、私にも剥いてくれと言ってるんだ。」

ムウ「不器用な貴方でも簡単に剥けますから、自分でやりなさい。」

アルデバラン「ムウ、私も自分で剥くから、食べたらどうだ?」

コタツの上にはムウがアルデバランのために剥いたミカンが沢山並んでおり、それに手を伸ばしたアイオロスの手をムウはピシャリと叩く。

ムウ「これはアルデバランのオレンジです。あげません。」

アイオロス「じゃあアルデバラン、そのオレンジをくれ!。」

ムウとアイオロスを見比べ、アルデバランは部が悪そうに頭をかくと、自分をじーっと見上げる紫色の瞳に再び鼻の下を伸ばした。どう見比べても、アイオロスよりムウのほうが可愛い。

アルデバラン「すみません、アイオロス。これはムウが私にくれた大切なオレンジなので、こっちを食べてください。」

長い腕を伸ばしアイオロスの前にミカンの入った器を移動させると、アルデバランは目で謝った。アイオロスは頬を引きつらせながらミカンを鷲づかみにする。

ムウ「サガに剥いてもらえばいいじゃないですか。」

アルデバラン「サガはな、教皇だったからそういうことはしないらしいぞ。」

ムウ「裏切り者のくせに態度大きいですね。」

アルデバラン「サガは女王様気質だからな。」

ムウ「では、アイオロスは下僕なんですか?。」

アルデバラン「すっかりサガの尻に敷かれてるというかな、いいように調教されてるってかんじだな。」

本人を目の前にムウとアルデバランは見つめあいながら噂話に花を咲かせる。どうやらアイオロスの姿はすでに視界に入っていないらしい。

アイオロス「うるさい!サガだって私が頼めばオレンジの100個や200個剥いてくれるぞ!。」

ムウ「おや、アイオロス、まだいたんですか?。だったらオレンジ持って双児宮でも病院でも行って、サガに剥いてもらいなさい。」

そう言うとムウは超能力でガラスの器にミカンを追加する。アイオロスはコタツの天板を叩いて立ち上がると、器を抱えて白羊宮から出て行った。

ムウ「二人っきりですね、アルデバラン。」

アイオロスが出て行き、シオンが今の騒ぎでも起きてこないことを確認すると、ムウはアルデバランの肩に頭を預けた。

アルデバラン「二人きりだな、ムウ。」

アルデバランもシオンの気配に細心の注意をはらいながら、ムウの体を抱き寄せる。見上げていた紫の瞳を閉じたムウの唇に自分の唇を重ねると、アルデバランは堀コタツの中に入っている脚に力を入れ、中から出てこないよう、ミロの頭ぎゅうぎゅうと踏みつけた。

一方、みかんを抱えて双児宮に乗り込んだアイオロスは、すでに睡眠薬を飲んで就寝準備を終えたサガの部屋に乱入し、みかんを押し付けた。

アイオロス「サガ!頼みがある!!オレンジをむいてくれ!!」

サガ「は?」

アイオロス「私のためにオレンジをむいてくれ!」

サガ「用はそれだけか?」

アイオロス「ああ、それだけだ!」

サガは眉間に何本も皺を寄せ、みかんを掴むとそれを片手で握りつぶす。あっという間にみかんの小山を全て握りつぶすと、ガラスの果物皿にみかんジュースが波波と出来上がった。

あまりにも下らぬ用件を夜中に押し付けられた答えであることは明白で、サガの怒りが爆発する前にアイオロスはみかんジュースを飲み干し、礼を言うと光速で人馬宮へと戻る。
アルデバランが言ったとおりアイオロスはサガの尻に敷かれているのであった。

 

すっかりコタツを気に入ってしまった居候たちは、シオンに追い出される寸前までコタツにい続ける日々が続いた。特にミロにいたっては、掘りごたつの中に入ったまま出てこない。食事のときと、トイレと、たまの酸素補給に顔を出すくらいである。

聖域にも雪が降り始め、いよいよ寒さが厳しくなると、シオンもコタツから離れられない体になってしまった。執務に出かけて礼拝を済ますと、仕事を持って白羊宮に戻ってくるのである。

せっかくシオンがいなくなり、つかの間の休息を楽しんでいるムウにとって、これ程迷惑なことはなかった。執務当番の黄金聖闘士まで連れてきて白羊宮を臨時執務室にしているのである。

アルデバランと親しく話をすることもできないし、自分の寝室に逃げ隠れても、事あるごとにシオンに雑用をいいつけられ、その度に視姦される。視姦どころか、ついには執務の暇に日中からコタツの上でシオンに陵辱され、ムウはコタツに呪いの言葉を投げかけた。

最初は暖かいコタツの中での仕事に喜んでいた黄金聖闘士たちも、コタツプレイにはまってしまったシオンに困っていた。
シオンに命じられ教皇の間に使いッパシリに行かされ戻ってくると、ムウがコタツの上に裸体を預け、シオンに犯されているのである。だからといって仕事をサボるわけにも行かず、寒い宮の外か貴鬼が泣きじゃくっている金牛宮で、シオンの淫行が終わるのを待っていなければならないのだった。

ムウの尻に股間を挿しこんだまま引き抜こうとしないシオンに代わって、夕方の礼拝をしていたアイオロスは、毎日毎夕、日本にいる女神に『早く教皇がコタツの角に頭をぶつけて死にますように。』と祈りをささげた。しかし、シオンは死ぬどころかムウの精気を吸い取って、ますます盛んに淫行に励んでいる。このままでは埒があかないと、中国の方へ祈ってみると、天から声がかえってきた。


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