★白羊家の食卓(メリーさんの・・・)
カノンとサガは、相変わらず一言も会話を交わさずに昼食を取っていた。今日の昼食はパスタである。
カノン「なぁ。今日の夕飯決まってんのか?」
サガ「もう夕飯のことか?」
カノン「いいだろう、別に!!でさ、シシカバブー食いたいんだけど。」
サガ「ししかばぶう?」
カノン「一昨日、羊のところで食ったんだよ。ん?なんだよその不満そうな顔は!もしかして、ジェミニのサガともあろう男が、シシカバブーも知らないのか?ふーーん、俺よりも出来のいい兄貴は、シシカバブーを知らないんだ。だっせぇ。」
サガ「むっ!」
カノン「まっ、取り合えず頼んだぜ。」
カノンは食事を食べ終わると、後片付けもせずに双児宮から出ていった。
サガ「ししかばぶう・・・・。」
サガはシシカバブーと呟きながら、昼食の後片付けをすると書斎へとむかい、シシカバブーの正体を調べ始めた。しかし、双児宮にある辞書や辞典にはシシカバブーは載っていなかった。ついで、料理の本を見てみるがそれにも載っていない。
サガ「ししかばぶう?しし・かばぶう?し・しかばぶう?ししか・ばぶう?ししかば・ぶう??」
ソファに座って一人でシシカバブーと呟くサガの姿を異様でしかなかった。
サガは、天蠍宮へと向かった。
カノンが白羊宮で飯を食べたということは、その席にミロもいた可能性が高いからだ。
天蠍宮
相変わらず散らかって足の踏み場のない私室のベッドの上で、ミロはまったりと横になってジャンプを読んでいた。
ミロ「あれ?サガ、どうしたんだ?部屋を片付けにきてくれのか?」
サガ「そうではない。一昨日は、白羊宮で食事をしなかったか?」
ミロ「一昨日・・・・・・?したよ。」
サガ「そうか。では、ししかばぶうというのを食べたであろう?」
ミロ「ああ。食ったよ。超うまかったぞ、あの肉!!」
サガ「やはり肉か・・・。」
サガはそのまま人馬宮へと向かった。
人馬宮
珍しく人馬宮に訪れたサガをリビングに通すと、アイオロスはお約束でいきなり抱きついた。
アイオロス「サッガァァァ!!どうしたんだ、お前から来るなんて珍しい。」
サガ「一昨日、ムウのところで食事をしなかったか?」
アイオロス「したよ。お前がいなかったらか、仕方なくムウのところで飯を食ったんだ。」
サガ「ししかばぶうというのを食べただろう?」
アイオロス「ああ。」
どさくさにまぎれてアイオロスは、サガの堅い引き締まった尻を撫でまわす。
サガ「どういう食べ物だった?」
アイオロス「どうって・・・・・・。串に刺さっていたな。」
サガ「串に?」
アイオロス「そうだな、串にささったハンバーグみたいだった。」
サガ「ミンチか・・・・。」
アイオロス「作るのか?」
サガ「ああ、明日にでも作ってみようかと思ってな。助かったよアイオロス。」
アイオロス「え?もう帰るのか?」
サガ「ししかばぶぅ・・・。」
サガは、すっかりヤる気満々のアイオロスから体を放すと、人馬宮から出て行った。
双児宮
双児宮に戻ると、サガは再び頭を抱えた。
サガ「シシカバブウとは一体何の肉なのだ・・・・。シシカバブウ・・・・・。ブウ・・・・。」
翌日の昼。
飯が出来たといわれてカノンはダイニングに入る。何故かそこにはアイオロスがいたが、無視してサガの作ってくれたシシカバブーを食べ始めた。
一口食べて、カノンは顔を歪めた。カノン「うっ・・・・。」
サガ「・・・・・。」
カノン「超まずい。」
カノンが叫んだのを見て、アイオロスも恐る恐るサガ手製シシカバブーに手をつけた。
アイオロス「うっ。」
カノン「なんなんだよ、これ。」
サガ「シシ・カバ・ブーだ!」
カノン「羊のところで食ったのと全然ちがうじゃねぇか!!これ、なんなんだよ!」
カノンはサガ手製シシカバブーの串を、サガに突きつける。
サガ「だから、獅子とカバとブウの肉をミンチにして、臭みを取る為に香料やにんにくをたくさん入れてみた。」
カノン「はぁ?」
アイオロス「・・・・サ、サガ。ブウの肉ってなんだ?」
サガ「そうなんだ。そのブウというのが分からなくてな。いろいろな辞書を調べてみたんだが、ブウが分からんのだ。で、豚はブウと鳴く事を思いだしたんだ。」
アイオロス「で、豚肉を入れたのか?」
カノン「で、ライオンとカバの肉を混ぜたのかよ、馬鹿じゃねぇのか!こんな不味い飯食えるか!!!」
カノンはそういうと双児宮を飛び出した。
サガ「やはり怒ったか・・・。朝一でアフリカまで行き、そういう珍味を食べさせてくれる店に頼み込んで、分けてもらったんだが。」
アイオロス「サガぁぁぁ・・・。シシカバブーがなんだか分からないなら、素直に白羊宮に行けよ。お前だって男なんだから、料理が出来ないことくらい何の恥でもないんだぞ。」
サガ「・・・・・。あまり白羊宮には世話になりたくないんだ。」
アイオロス「だからって、ライオンとカバの肉はどうかと思うぞ。昼間なら教皇もいないから、白羊宮に行ったらどうだ?私も一緒にいってやるからさ。」
サガ「・・・・・、そうだな。」
サガは溜息をつきながら、重い足取りでアイオロスと共に白羊宮へと向かった。
白羊宮
白羊宮では双児宮を飛び出したカノンが、ムウ達と一緒にちゃっかり昼飯を食べていた。
サガ「ムウ。教えて欲しい事があるんだが・・・。」
ムウ「ええ、構いませんよ。シシ・カバブーのことですね?」
サガ「何故、分かる。」
ムウ「先ほどカノンが、『兄貴は馬鹿だ!!』と言ってうれしそうに話してくれました。ライオンとカバと豚の肉で作ったらしいですね、サガ!!」
カノン「ばっーーーーか!」
ムウがニヤニヤと笑うのを見て、己の無知に顔を赤らめると、カノンがダイニングから顔をだし野次る。
ムウ「ブウが豚肉とは、なかなか無い発想ですよ。」
サガ「・・・・。」
ムウ「しかも、ライオンとカバの肉でしたか?よく手に入りましたね。」
サガ「・・・・・。」
ムウ「ライオンとカバと豚の肉のミンチなんて聞いたこと無いですよ。本当、馬鹿ですねぇーーーー!!」
サガは眉間にシワを寄せ俯いた。
サガ「で、ムウ。シシカバブーとは一体、なんなのだ?」
ムウ「羊ですよ、羊!」
サガ「ひ、ひつじ?」
ムウ「ええ。あの日、シオンさまが朝から羊が食べたい!羊が食べたい!というので、シシカバブーにしたんですよ。」
アイオロス「(それはムウが食べたいってことだろう・・・。)」
ムウ「サガもシシ・カバブーを食べてみますか?」
サガ「ああ。もし手間でなければ・・・・。」
ムウ「構いませんよ。」
ムウがすかした笑みを浮かべてキッチンへと向かおうとすると、サガはムウの腕を掴んだ。
サガ「ムウ!もう一つ教えてくれ。」
ムウ「なんですか?」
サガ「シシ・カバブーはどこの料理なんだ。」
ムウ「イスラムですよ。」
サガ「イ、イスラムか・・・・・・・・・。どうりで探しても無かったわけだ。」
サガは愕然となりつぶやいたのをムウは聞き逃さなかった。
ムウ「まさか、サガ・・・。」
サガ「アフリカの民族料理かと思って、その方面ばかり調べてしまった・・・。」
ムウ「・・・図書館でですか?」
サガ「ああ。スペルが分からなくてな、苦労したんだ。しかし、イスラムだったとは・・・。」
アイオロス「もしかして、人馬宮の帰りに図書館に行ったのか?」
サガ「ああ。あの後、ずーーーーーっと探し回ったんだが、見つからなかった。」
ムウ「サガ・・・。聖域の図書館には料理の本は置いてないと思いますが。」
サガ「しかし、シシ・カバブーがなんであるかくらいは、調べることが出来ると思ってな。イスラムだったとは、不覚だった・・・。」
情けないといった風にサガが頭をふると、ムウはスカした笑みを浮かべながらキッチンへと消えていった。