白羊家の食卓(メリーさんの・・・)

 

カノンとサガは、相変わらず一言も会話を交わさずに昼食を取っていた。今日の昼食はパスタである。

カノン「なぁ。今日の夕飯決まってんのか?」

サガ「もう夕飯のことか?」

カノン「いいだろう、別に!!でさ、シシカバブー食いたいんだけど。」

サガ「ししかばぶう?」

カノン「一昨日、羊のところで食ったんだよ。ん?なんだよその不満そうな顔は!もしかして、ジェミニのサガともあろう男が、シシカバブーも知らないのか?ふーーん、俺よりも出来のいい兄貴は、シシカバブーを知らないんだ。だっせぇ。」

サガ「むっ!」

カノン「まっ、取り合えず頼んだぜ。」

カノンは食事を食べ終わると、後片付けもせずに双児宮から出ていった。

 

サガ「ししかばぶう・・・・。」

サガはシシカバブーと呟きながら、昼食の後片付けをすると書斎へとむかい、シシカバブーの正体を調べ始めた。しかし、双児宮にある辞書や辞典にはシシカバブーは載っていなかった。ついで、料理の本を見てみるがそれにも載っていない。

サガ「ししかばぶう?しし・かばぶう?し・しかばぶう?ししか・ばぶう?ししかば・ぶう??」

ソファに座って一人でシシカバブーと呟くサガの姿を異様でしかなかった。

サガは、天蠍宮へと向かった。
カノンが白羊宮で飯を食べたということは、その席にミロもいた可能性が高いからだ。

 

天蠍宮

相変わらず散らかって足の踏み場のない私室のベッドの上で、ミロはまったりと横になってジャンプを読んでいた。

ミロ「あれ?サガ、どうしたんだ?部屋を片付けにきてくれのか?」

サガ「そうではない。一昨日は、白羊宮で食事をしなかったか?」

ミロ「一昨日・・・・・・?したよ。」

サガ「そうか。では、ししかばぶうというのを食べたであろう?」

ミロ「ああ。食ったよ。超うまかったぞ、あの肉!!」

サガ「やはり肉か・・・。」

サガはそのまま人馬宮へと向かった。

 

人馬宮

珍しく人馬宮に訪れたサガをリビングに通すと、アイオロスはお約束でいきなり抱きついた。

アイオロス「サッガァァァ!!どうしたんだ、お前から来るなんて珍しい。」

サガ「一昨日、ムウのところで食事をしなかったか?」

アイオロス「したよ。お前がいなかったらか、仕方なくムウのところで飯を食ったんだ。」

サガ「ししかばぶうというのを食べただろう?」

アイオロス「ああ。」

どさくさにまぎれてアイオロスは、サガの堅い引き締まった尻を撫でまわす。

サガ「どういう食べ物だった?」

アイオロス「どうって・・・・・・。串に刺さっていたな。」

サガ「串に?」

アイオロス「そうだな、串にささったハンバーグみたいだった。」

サガ「ミンチか・・・・。」

アイオロス「作るのか?」

サガ「ああ、明日にでも作ってみようかと思ってな。助かったよアイオロス。」

アイオロス「え?もう帰るのか?」

サガ「ししかばぶぅ・・・。」

サガは、すっかりヤる気満々のアイオロスから体を放すと、人馬宮から出て行った。

 

双児宮

双児宮に戻ると、サガは再び頭を抱えた。

サガ「シシカバブウとは一体何の肉なのだ・・・・。シシカバブウ・・・・・。ブウ・・・・。」

 

翌日の昼。

飯が出来たといわれてカノンはダイニングに入る。何故かそこにはアイオロスがいたが、無視してサガの作ってくれたシシカバブーを食べ始めた。
一口食べて、カノンは顔を歪めた。

カノン「うっ・・・・。」

サガ「・・・・・。」

カノン「超まずい。」

カノンが叫んだのを見て、アイオロスも恐る恐るサガ手製シシカバブーに手をつけた。

アイオロス「うっ。」

カノン「なんなんだよ、これ。」

サガ「シシ・カバ・ブーだ!」

カノン「羊のところで食ったのと全然ちがうじゃねぇか!!これ、なんなんだよ!」

カノンはサガ手製シシカバブーの串を、サガに突きつける。

サガ「だから、獅子とカバとブウの肉をミンチにして、臭みを取る為に香料やにんにくをたくさん入れてみた。」

カノン「はぁ?」

アイオロス「・・・・サ、サガ。ブウの肉ってなんだ?」

サガ「そうなんだ。そのブウというのが分からなくてな。いろいろな辞書を調べてみたんだが、ブウが分からんのだ。で、豚はブウと鳴く事を思いだしたんだ。」

アイオロス「で、豚肉を入れたのか?」

カノン「で、ライオンとカバの肉を混ぜたのかよ、馬鹿じゃねぇのか!こんな不味い飯食えるか!!!」

カノンはそういうと双児宮を飛び出した。

サガ「やはり怒ったか・・・。朝一でアフリカまで行き、そういう珍味を食べさせてくれる店に頼み込んで、分けてもらったんだが。」

アイオロス「サガぁぁぁ・・・。シシカバブーがなんだか分からないなら、素直に白羊宮に行けよ。お前だって男なんだから、料理が出来ないことくらい何の恥でもないんだぞ。」

サガ「・・・・・。あまり白羊宮には世話になりたくないんだ。」

アイオロス「だからって、ライオンとカバの肉はどうかと思うぞ。昼間なら教皇もいないから、白羊宮に行ったらどうだ?私も一緒にいってやるからさ。」

サガ「・・・・・、そうだな。」

サガは溜息をつきながら、重い足取りでアイオロスと共に白羊宮へと向かった。

 

白羊宮

白羊宮では双児宮を飛び出したカノンが、ムウ達と一緒にちゃっかり昼飯を食べていた。

サガ「ムウ。教えて欲しい事があるんだが・・・。」

ムウ「ええ、構いませんよ。シシ・カバブーのことですね?」

サガ「何故、分かる。」

ムウ「先ほどカノンが、『兄貴は馬鹿だ!!』と言ってうれしそうに話してくれました。ライオンとカバと豚の肉で作ったらしいですね、サガ!!」

カノン「ばっーーーーか!」

ムウがニヤニヤと笑うのを見て、己の無知に顔を赤らめると、カノンがダイニングから顔をだし野次る。

ムウ「ブウが豚肉とは、なかなか無い発想ですよ。」

サガ「・・・・。」

ムウ「しかも、ライオンとカバの肉でしたか?よく手に入りましたね。」

サガ「・・・・・。」

ムウ「ライオンとカバと豚の肉のミンチなんて聞いたこと無いですよ。本当、馬鹿ですねぇーーーー!!」

サガは眉間にシワを寄せ俯いた。

サガ「で、ムウ。シシカバブーとは一体、なんなのだ?」

ムウ「羊ですよ、羊!」

サガ「ひ、ひつじ?」

ムウ「ええ。あの日、シオンさまが朝から羊が食べたい!羊が食べたい!というので、シシカバブーにしたんですよ。」

アイオロス「(それはムウが食べたいってことだろう・・・。)」

ムウ「サガもシシ・カバブーを食べてみますか?」

サガ「ああ。もし手間でなければ・・・・。」

ムウ「構いませんよ。」

ムウがすかした笑みを浮かべてキッチンへと向かおうとすると、サガはムウの腕を掴んだ。

サガ「ムウ!もう一つ教えてくれ。」

ムウ「なんですか?」

サガ「シシ・カバブーはどこの料理なんだ。」

ムウ「イスラムですよ。」

サガ「イ、イスラムか・・・・・・・・・。どうりで探しても無かったわけだ。」

サガは愕然となりつぶやいたのをムウは聞き逃さなかった。

ムウ「まさか、サガ・・・。」

サガ「アフリカの民族料理かと思って、その方面ばかり調べてしまった・・・。」

ムウ「・・・図書館でですか?」

サガ「ああ。スペルが分からなくてな、苦労したんだ。しかし、イスラムだったとは・・・。」

アイオロス「もしかして、人馬宮の帰りに図書館に行ったのか?」

サガ「ああ。あの後、ずーーーーーっと探し回ったんだが、見つからなかった。」

ムウ「サガ・・・。聖域の図書館には料理の本は置いてないと思いますが。」

サガ「しかし、シシ・カバブーがなんであるかくらいは、調べることが出来ると思ってな。イスラムだったとは、不覚だった・・・。」

情けないといった風にサガが頭をふると、ムウはスカした笑みを浮かべながらキッチンへと消えていった。


end