ミロたんといっしょ22(ミロたん初めての手術 その2)

 

双児宮

元々サガを訪ねる予定だったアイオロスは、双児宮を外側から大きく迂回した。気配を殺して私室のテラスに忍びこむと、聴覚を研ぎ澄まさせた。

サガ『ミロの調子はどうだった、カノン』

カノン『ああ、いつも通り楽しかったぜ』

サガ『楽しかったって、お前……』

カノン『だってさ、無防備に俺の目の前に尻を出してるんだぜ。そんな姿を想像してみろよ』

アイオロス(カノンの前に尻だと!?)

アイオロスは聞こえてきた会話に愕然となった。

サガ『デリケートな箇所なのだから優しくしてやらんといかんぞ』

カノン『優しくだと? そんな仏心は必要ないって。優しくしたところで痛い痛いって喚いて、どっちにしろうるせぇのなんのって』

アイオロス(優しくやる? 優しくしても痛い!? 一体の話だ!?)

サガ『そうなのか?』

カノン『ああ。俺だって最初は優しくしてやったんだ。だけどさ、先端でちょんって突いただけで痛くてギャーギャー悲鳴をあげてな』

サガ『可哀想に』

アイオロス(……先端でちょっと突くだと!? ミロの尻はそんなに狭いのか!? アイオリアとしてるなら、先端だけで痛がるなんてありえないだろう。ていうか、サガ公認でミロと浮気してるのか、どういうことだ!?!?)

カノン『もっと優しく、そっとやってくれないと困るっていうから、こっちだって頑張ったんだぜ。俺だって慣れているわけじゃないしさ』

サガ『そうだな、こういう事は手慣れた者がしてやったほうがすんなりと行くのだろうな』

アイオロス(カノンって、慣れてないのか。意外だな……)

カノン『とにかく本当に痛いらしくて、目に涙ためてガキみたいにピーピー喚きやがって、みっともないったらないぜ』

サガ『そう言ってやるな。ミロとて、こういう事は初めてなのだろう。闘いの時の痛みとはまた違うのかもしれん』

アイオロス(え!? ミロって初めてなのか!? アイオリアとは未だに清い関係なのか!? あいつはカノンに先を越されちまったってことか!?)

カノン『そうそう、それは言ってた。だがこっちはそんなこと知ったこっちゃないだろう。とにかく痛がって、ジタバタジタバタするから一回無理矢理押さえつけて、尻を開いて一気にぐっと押しつけてみたんだよ。そしたら、すっごい大きな悲鳴あげてさぁぁぁ。それで、さらにぐりぐり押しこんだら、もう大パニックだよ。相当痛かったらしくて、涙流しながらエビ反りになって、やめてやめてっ泣いてやんの!!』

アイオロス(何て乱暴な!!! ミロはカノンに無理矢理されているのか!? それをサガも了承してるってことなのか、まさかサガはまた黒くなったのか!?!?)

サガ『あまりミロで遊ぶな、可哀想じゃないか』

カノン『可哀想なのは俺だろう。毎日朝夕ミロの尻の面倒をみてやってるんだぜ』

アイオロス(毎日だと!? それも朝夕!?)

カノン『ミロがどうしても俺にやってほしいって言うんだから、むしろ感謝するべきだろう』

サガ『まぁ、そうなのだが。しかしアイオリアには、なぜ頼まなかったのだ』

アイオロス(無理矢理じゃなくて、ミロの方から頼んだだと!?)

カノン『だって、アイオリアって見るからに不器用そうじゃん。絶対痛くするし、失敗するから嫌なんだとさ。まぁ、結局どうあがいても痛いみたいだけどな』

サガ『しかしだな、アイオリアだって恋人なわけだし』

カノン『無理無理無理無理。それにアイオリアの方から、俺にお願いするって頼んできたんだぜ』

サガ『なんだと!?』

アイオロス(なんだと!?)

カノン『自分は不器用だから無理ってさ。で、それでも最初はアイオリアの目の前で、手本を見せてやったんだよ。そしてらミロのその痛がりように顔を青くしちまってな。そんな可哀想な事は出来ないってよ』

アイオロス(アイオリア、なんて情けない。それでもこのアイオロスの弟か!!!)

カノン『俺としては、いい加減そろそろ慣れて欲しいんだけどな、なかなかそうもいかなくて今日もジタバタジタバタしやがって。だから今日も一気にグリッと押し込んでやった』

アイオロス(一気にか、だから目に涙をためていたのか、可哀想に)

サガ『カノン。もしやお前、この状況を楽しんではいまいか』

カノン『楽しまなきゃやってられん、そうだろう』

サガ『……で。ミロの尻の具合はどうなのだ』

カノン『おう、尻にぽっかり穴が空いてる状態』

アイオロス(カノンにやられ過ぎて開きっぱなしってことか!?)

カノン『そうそう、最初の日なんてさ、どうなっているか見たいって言って、俺に写真まで撮らせたぜ、あいつ』

アイオロス(な、なんだと!? ミロの奴、一体どんな性癖をしているんだ!?)

サガ『写真を?』

カノン『しかも、俺のスマホで撮らせやがってさ。尻の穴どころか、ブラブラしてるもんまで丸見えの写真。こんなデータ持ってたら、俺の品性が疑われちまうっていうのに』

サガ『そうか、それは気の毒だったな』

カノン『んでな、その写真を自分のスマホに送ってくれっていうわけさ』

サガ『お前のスマホで見ればいいのに、わざわざ送らせたのか?』

カノン『おうよ。そもそも。最初からてめぇのスマホで取らせろっていうな。 もう俺の手、まじ震えたね。ぶるぶるに震えた。だって間違えて違うやつに送信したら、俺がただの変態野郎になるわけだろう』

サガ『確かに。お前、たまにミロ宛てのメールを私に送ってくることあるからな』

カノン『送信履歴から送ってるから、ウッカリ間違えることあるんだよ。で、そんな写真をお前に送ったら、と思うと本当に手が震えてさ』

サガ『そうだな。またスニオン岬行き確実だ』

カノン『だろう。でさ、送ったら凄い喜んでたわ。穴がぽっかり空いてるから凄いとか、これは痛いわぁぁとか』

サガ『相変らず無邪気なもんだな』

アイオロス(そう言う問題じゃないだろう、サガ)

カノン『しかも、アイオリアにも送れって言うから、さすがにそれは自分でやれって断った。そんなの突然送ったら、ライトニングボルト炸裂必至だからな』

アイオロス(ミロ……一体お前は何を考えているんだ)

サガ『まぁ、アイオリアとてそんな写真を送られても困るであろうな』

カノン『とにかく、今夜俺は用があるからミロに付き合ってやれない。だから、兄貴がやってくれよな』

サガ『うむ、分かった。上手くできるか分からないが』

アイオロス(なななななななんだと!? サガがミロとするだと!?)

カノン『お前は優しいからな、そこがミロの為にならんことを覚えておけ』

サガ『ああ、だがもう一度やり方を教えてくれないか、カノン』

アイオロス(うぇ!? まさかここでサガに実践するのか!?)

アイオロスは青い顔をして震えながらチラリと室内を覗き込んだ。

カノンは何かを握った風にした握りこんだ右手を、ぐっとと前に突出した。

カノン『だから穴がよく見えるようにミロの尻を押し開いて、手に握ったやつにたっぷりつけて、ぐっと一気に押しつける。そこで悲鳴をあげてジタバタしたら、馬乗りになってでも抑え込んで一気にぐりぐりとやるんだ』

サガ『……不安だ。初めてだから上手くできるだろうか。ミロに泣かれたら、途中でやめてしまうかもしれん』

カノン『気持ちは分かるが、そういうのはミロの為にならないから。それだけはよく覚えておけよ』

サガ『ああ、分かった。心を鬼にして最善をつくそう』

アイオロス(そ、そんな……サガがミロを……)

アイオロスは茫然自失となったまま双児宮を光速で飛び出した。

サガ「ん? アイオロスの気配がしていたが、一体なんだったんだ」

カノン「さぁ?」

 

獅子宮

アイオロス「アイオリアーーーーーーーーッ」

獅子宮に響く兄の怒声にアイオリアは自室から回廊に飛び出した。

アイオリア「ど、どうしたの、兄さん」

アイオロス「アイオリア、お前ってやつはぁぁぁ」

アイオリア「に、兄さん!?」

アイオロス「お前、ミロの身体の世話を他人に任せるなんて、それでも血が通った人間かぁぁぁぁ」

アイオリア「な、なんでその事を知ってるんの!?」

驚いたアイオリアに、アイオロスは今まで聞いた話が事実であると改めて確信して涙を流した。

アイオロス「お前は、ミロを愛しているんじゃなかったのか!」

アイオリア「愛してるよ。だけどこれとそれは別問題だ。俺は不器用だし、ミロだってそれを分かっててカノンに頼んだんだ。これはミロの為なんだって」

アイオロス「そんなわけあるか!!! 最初から上手くできる奴なんて一握りだ、この俺だってサガとの初めては上手くいかなくて大変だったんだぞ。だから初めてなんてそんなものだ、そう簡単に他人に任せていい問題じゃないだろう、この大馬鹿野郎がぁぁぁ」

思いっきり殴り飛ばされ吹っ飛ばされたアイオリアは目を白黒させた。

アイオリア「え? サガとの時? 兄さん、何言ってるんだ?」

アイオロス「確かに、最初は怖い。どっちも初めてならなおさらだ。だけど、その痛みは仕方ないこと。だが日々愛を重ねていくうちに、その痛みが快楽となり更なる愛が育まれていくのだぞ。それを無責任に他人に任せるなど言語道断」

アイオリア「ふぇ!? 兄さん?」

アイオロス「進んで他人に頼むミロもミロだが、それを止めないお前を、俺はもはや男としても弟としても認めんっ!!!!!!」

アイオリア「ちょ、ちょっと待ってよ兄さん」

アイオロス「うるさい!黙れ、アイオリアッ」

ミロ「ちょ、アイオリア!? アイオロス!? どうしたんだよ」

アイオリアを訪ねたミロは、そこで暴れているアイオロスに絶句した。

騒動を聞きつけて隣宮のシャカやデスマスクまでもが獅子宮に駆けつけた。

アイオロス「ミロ、カノンに面倒を見てもらっているというのは本当か」

ミロ「え、なんでそれを? まさか、サガが喋ったのか!? だからサガに頼むのイヤだったんだよ」

アイオロス「馬鹿野郎、サガにはお前の面倒など絶対にみせん。この俺が許さんっ!」

ミロ「そ、そんな大袈裟な。ていうか、何怒ってんだよ、アイオロス」

アイオロス「確かに、そういうことを愛もなしに出来る者が大勢いるのは知っている。ミロがそうだというのなら、俺は責める立場にない。だがアイオリアともしないで、他人にさせるのは納得がいかん。ましてや、サガにさせるなど、お前はどういうつもりなんだ」

ミロ「愛って、なに? させるってなんのこと?」

アイオロス「なんのことだと!? お前、アイオリアを愛していたんじゃなかったのか!!」

ミロ「愛してるよ、でも、これとそれは別だろう。なぁ、アイオリア」

アイオリア「ああ。だけど、兄さんはなんか勘違いしてて、言ってる事がよく分からないんだよ」

ミロ「アイオロス、どうしちゃったの?」

アイオロス「とぼけるなっ!!! 」

デスマスク「アイオロスの奴、荒れてるなぁ」

シャカ「案ずるな、今サガを呼んだ」

デスマスク「その前に、アイオリアが生きているかどうか」

シャカ「落ち着きたまえ、アイオロス。一体なにをそう熱くなっているのだね」

アイオロス「……それは、ミロがアイオリアの代わりに他の者と体の交わりを。しかも複数と……」

ミロ&アイオリア「はぁぁぁぁぁ!?」

デスマスク「まじで!? で、お前がそんなに怒ってるってことは、サガもそのうちの一人ってことか」

アイオロス「まだだが、今夜しようとしている」

シャカ「待ちたまえ、アイオロス。そんな不道徳な事をミロがするとは思えん。もし仮にそうしなければならない事情があるのだとしたら、とは考えなかったのかね」

アイオロス「そうしなければならない事情だと!?」

シャカ「さよう。アイオリアがそれをなせない、ということだ」

アイオロス「なんだと!?」

ミロ&アイオリア「ちょ、待ってくれ。一体何の話をしてるんだよ!!!」

アイオロス「……したくても、できないのか、アイオリア? だからカノンとしてるのを見たり、写真を送らせたりとかしたのか」

アイオロスは号泣すると、アイオリアの手を握った。

アイオロス「すまん、アイオリア。俺が馬鹿だった、お前の気持ちも考えないで責めたりして。一番辛いのはお前だよな、アイオリア。本当にすまん……可哀想にアイオリア……」

アイオリア「待って、兄さん。何でそう言う話になってるんだよ、それに俺はできないとかそんなんじゃないよ。ちゃんとミロとはしてるってば」

アイオロス「そうだな、アイオリア。お前にだってプライドもある、そういうことにしておこうな」

デスマスク「俺も黙っておいてやるよ、アイオリア」

シャカ「うむ、ここは慈悲の心の見せ所だな」

デスマスクとシャカが男気を見せていると、サガとカノンが獅子宮に上がってきた。

サガ「一体どうしたというのだ?」

ミロ「助けてサガ。なんかすごい勘違いの末にアイオロスが暴走してる」

サガ「アイオロスが?」

カノン「お前じゃなくて、アイオロスってのは珍しいな。どうしたんだ?」

ミロ「わかんねぇよ。アイオロスが、カノンと俺がエッチして、アイオリアがEDとかって騒いでんだって」

サガ&カノン「はぁぁぁぁぁ?」

カノン「アイオリアって不能なのか、まだ若いのに?」

ミロ「んなわけあるかよ。ただ、今は俺の尻が駄目だから我慢してもらってるけど、俺達ギリシャ人だぜ、お察しだろう?」

カノン「だろうな」

サガ「アイオロス、落ち着け。一体どうしたのだ」

アイオロス「サガ、お前もお前だ。どうしてミロの面倒なんて引き受けた。例えそれが無償の愛からくる行為であっても、俺は他の誰かと身体を重ねることを絶対に許さん」

サガ「……アイオロス、少し落ち着こう。誰と誰が身体を重ねると?」

アイオロス「お前とミロがだ。とぼけても無駄だ、俺はさっき双児宮でお前達二人の会話を聞いていたんだからな」

サガ&カノン「???」

双子は顔を見合わせ首を傾げた。そんな会話をした覚えは当然ないからだ。

サガ「その私がミロと身体を重ねる、というか面倒をみるのはいつの話だ」

アイオロス「今夜だろう。サガが、カノンの代わりにミロの尻の面倒をみにいくんだろう」

サガとカノンはああっとため息交じりに頷いた。そもそもの勘違いの発端がようやく見えてきたのだ。

サガ「ああ、そうだな。ミロの尻に出来たオデキの術後のケアをしにな」

アイオロス「へ!?」

サガ「もう一度言おう。ミロの尻の手術で取ったオデキの跡の薬の塗布だ」

デスマスク「お前、ケツにオデキできたのか?」

ミロ「そうだよ、悪いかよ!」

デスマスク「で、手術でとったのか?」

ミロ「だからそうだって」

シャカ「それはいつのことだね」

ミロ「四日前。二週間前くらいから尻が痛くて日に日に痛みが増すから、アイオリアに見て貰ったらぷっくり腫れててさ。それがだんだん大きくなってくから、仕方なく病院で取ってもらったんだよ」

シャカ「なるほど、知らなかった」

ミロ「皆に知られたら、絶対にからかわれて馬鹿にされるから内緒にしておいたんだよ」

デスマスク「で、なんでカノンが面倒を見ることに?」

シャカ「アイオリアは不器用だからであろう」

ミロ「そうそう。毎日朝晩薬塗って絆創膏貼らなくちゃいけないだ。自分でできないから、カノンに頼んだんだよ。カノンなら友達少ないから絶対喋らないだろうし」

サガ「ということだ、分かったかアイオロス?」

双児宮で盗み聞きした会話の全てが繋がり、アイオロスはがっくりと膝を折った。

デスマスク「内緒にしておいた方が面倒くさいことになったな」

ミロ「うん……」

シャカ「では、今夜は私がミロの面倒をみてやろう」

ミロ「なんだって!?」

シャカ「アイオロスはサガがするのを快く思っていない、だから私がお前の尻に薬を塗ってやるといっているのだ。案ずるがいい、私は慈悲深い」

にやりと笑ったシャカに、ミロは顔を青ざめさせた。

そしてその日の夜、天蠍宮からミロの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。


end