ミロたんといっしょ(ミロたんと弟子)

 

「カミュのバカ!わーーーん!」

ミロはカミュの顔面をグーで殴ると、涙をちょちょぎらせ宝瓶宮から走り去った。

白羊宮

「わーん!聞いてください、教皇!」

号泣しながら駆け込んできたミロに、シオンは読んでいた新聞を畳み、ない眉を寄せた。ソファーの上に寝転がってせんべいを食べながらTVを見ていた童虎も、視線をミロにうつした。

「二十歳にもなってわんわん泣くでない」

「だって、だって、だって教皇、カミュが!!」

シオンの脚にすがりつき、ミロは泣きながら鼻をすする。

「また夫婦喧嘩ですか?」

ミロが泣きながら十二宮を下ってくる原因の半分はカミュとの喧嘩であり、二人の喧嘩にすっかり慣れてしまったムウは、呆れながらシオンに紅茶をいれた。

「聞いてください、教皇。カミュが俺より弟子の方が大事だって言うんです!」

「何がいかんのじゃ。当然であろう」

答えたのは童虎であった。

「そのような下らぬことで、いちいち泣きつくでない、馬鹿者め」

シオンにシッシとあしらわれても、ミロはシオンの脚にすがりついたまま訴えた。

「だって、だってだって、氷河はともかく、クリスタル聖闘士より俺のほうが下っていうのは絶対納得いきません!」

ミロ曰く、カミュの脳内は
氷河・アイザック>>>>>>>クリスタル聖闘士>>ミロ
であり、全身タイツのオヤジより格下に扱われたことが、ことさら気に入らなかった。

「弟子は問答無用で可愛ものじゃ。お前も弟子をとればわかるであろう」

シオンは新聞を広げなおし、ミロに目もくれず言った。

「弟子は家族同然であるからのぅ」

追い討ちをかけるように、童虎がTVをリモコンでかえながら呟く。
長老二人に相手にされなかったミロは、悔しさの余り唇を噛締め、ムウを睨みつけて同意を求めた。

「ミロは両親とカミュとどちらが大事ですか?」

「んなの、両方に決まってんじゃん!」

ムウの質問にミロは即答した。

「どちらか選べといわれたらどちらじゃ?川でのぅ、お前の母親とカミュが溺れているとしよう。どちらを先に助けるのじゃ?」

「そ・・・それは母親です。俺のおふくろは普通の人ですから・・・」

童虎の質問に言葉をつまらし、少し考えてからミロは答えた。

「やはりミロも家族の方が大事ではないですか。弟子は家族も同然です。カミュが弟子を選んだのは当然でしょう」

カミュの弟子馬鹿を訴えにきたのに、同意が得られず、しかもムウに正当化されミロはついに逆切れした。

「だったら、お前は教皇と、貴鬼とアルデバランが溺れていたら誰から先に助けるんだよ!」

「貴鬼に決まっているでしょう」

ムウが即答すると、紙の破れる音が室内に響いた。シオンが読んでいた新聞を真っ二つに引き裂いたのだ。

「なぬ?!ムウや、お前は貴鬼が一番大事と申すか!?」

師の問いにムウは肯いた。

「弟子が一番大事です。それはシオン様も同じでございましょう?」

「う・・・、それはそうじゃが・・・」

「シオン様は、シオン様の師と老師と私が川で溺れていたとしたら、誰を先に助けてくださいますか?」

「決まっておろう、ムウじゃ」

意地の悪い笑いを浮かべ、童虎が話しに割り込んだ。

「シオンよ、師が草葉の陰で泣いておるぞ〜。お前は酷い弟子じゃのぅ。師の大恩を忘れたのか。それではムウに嫌われても仕方ないのぅ〜」

煽る童虎に、シオンは頬を引きつらせ、額に青筋を浮かべる。

「忘れておらぬ!師も敬愛しておるわ!」

「酷い!シオン様は私のことは愛して下さっていないのですね・・・」

「そのようにはゆうておらぬであろう!」

「では、私と師とどちらが大事でございますか?」

「余はお前が一番大事じゃ」

「でしたら私も貴鬼が一番大事です」

「よいか、ムウよ。お前は余のことだけを想っておればよいのじゃ」

「・・・・・・ではシオン様も師のことだけを想っていらっしゃるんですか?」

「余とお前は別じゃ!つべこべ言うでない!」

「ううう・・・私のことを大事だとか、愛してるとかおっしゃっていても、本当はお師匠様のほうが大事なのですね。やはりシオン様は私の心と体を弄んでいただけなのですか・・・。ムウ、悲しい・・・おいおいおい・・・」

「だから、何でそうなるのじゃ!?」

「では、私のことを一番大事に想ってくださっているのですか?」

「当然じゃ」

「では、私も貴鬼が一番大事でございます」

「・・・余はこーーんなにムウのことを想っておるのに、お前は冷たい弟子じゃのぅ・・・小さい頃はあーんなに余になついておったのに・・・余がいなくなると、ぴーぴー泣いていたのはウソ泣きだったのか?」

「子供のときの話を持ち出すのはやめてください」

「ふー、誰のおかげで、大きくなれたとおもうておるのじゃ。余が毎日おしめをかえて、ご飯を食べさせ、風呂にいれてやったのに・・・お前のような冷たい弟子は、いつか自分の弟子にも冷たくされるのじゃ」

「私と貴鬼は深い信頼で繋がっております。シオンさまと一緒にしないで下さい!」

「ほうほう、お前が貴鬼と同じくらいのときは、余と毎日ラブラブであったのうぅ〜。せいぜい貴鬼に弟子が出来ぬよう、女神に祈るがよい」

「う・・・、貴鬼に弟子が出来ても関係ありません」

「しかしのぅ、お前が関係なくとも、貴鬼は弟子の方が可愛かろう。弟子はかわゆいのぅ〜なんでこんなにかわゆいかのぅ〜」

「・・・シオン様だって、弟子の可愛さをよくおわかりではありませんか。私も弟子の方が大事です!」

「ほうほう、では貴鬼も弟子の方が大事じゃのぅ」

「貴鬼に弟子なんかいません!」

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卵が先か鶏が先か、シオンとムウの超低レベルな言い争いは何度もループし、最初は耳を傾けていた童虎も呆れてあくびをすると、唖然としているミロに声をかけた。

「よいかミロよ。あのようにのぅ、弟子とは特別な存在なのじゃ」

「・・・なんか分かったような気がします」

「弟子と比べたお前が悪い。弟子の話は禁句じゃ」

「はい・・・カミュに謝ってきます」

ミロが白羊宮を後にし、宝瓶宮に辿り着いても、シオンとムウの言い争いはまだまだ続いていた。


End