★ミロたんといっしょ(ミロたんと虫歯 その2)
教皇の間から双児宮に戻ってきたサガは、脂汗を流しながら床にのた打ち回るミロを見て絶句した。
サガ「何をしたカノン?」
カノン「こいつが幻朧拳かけてくれっていうから、ちょっとサービスしてやったのさ。」
サガ「・・・・愚かな。」
カノン「そろそろ起こしてやるか。」
カノン後頭部をはたかれて、ミロはようやく幻朧歯医者拳から解放された。
ミロ「ふざけんな!何で病院にムウがいるんだよ?!え?!ムチムチでピチピチの看護婦さんでてこねぇじゃねぇか!」
カノン「さぁねぇ〜〜〜。」
ミロ「ぐは、カノンが二人いる?!まだ幻朧拳の続きか?!」
サガ「私はカノンではない。サガだ。ミロ、そこに座りなさい。」
悲痛な面持ちのサガに、思わずミロは従ってしまった。目の前で自殺でもされたらたまらないからだ。
サガ「十二宮が正露丸臭いから何事かと思えば・・・・一体どうしたのだ?」
ミロ「歯が痛い。」
サガ「・・・・・それでカノンに幻朧拳で歯医者を見させたというのか。」
ミロ「だって、歯医者行ったことないから。TVでやってる歯医者って痛そうだし。」
サガ「お前は黄金聖闘士であろう。情けない。」
ミロ「聖闘士だろうとなんだろうと、痛いものは痛い。ぅおおお、いてぇぇぇ・・・・。」
サガ「早く病院に行ってきなさい。」
ミロ「アナザーディメンションで虫歯だけ飛ばしてくれない?」
サガ「・・・・。そういうことはムウに頼みなさい。」
ミロ「そ、それは・・・・(汗)。」
カノン「アナザーディメンションは根性で戻ってこれるからやめたほうがいいぞ。さっさとムウ先生のとこにいって来い。」
サガから渡された健康保険証を片手に、ミロは金牛宮を通り抜け、白羊宮に向かった。幻朧拳効果で、ムウの顔など見たくもなかったが、歯医者に行くよりかはマシかも知れないと思い、立ち寄ることに決めた。
ムウ「虫歯ですか。」
ミロ「何で知ってるんだよ?!」
ムウ「顔がはれています。」
ミロ「え、マジ?!」
ムウ「一時的に痛みはやみますが、正露丸で虫歯は治りませんよ。」
ミロ「ガーーーーーン!!そうだったのかぁぁぁ。」
ムウ「はやく歯医者に行きなさい。」
ミロ「・・・虫歯だけテレポテーションで飛ばしてくれない?」
ムウ「今すぐ歯医者にあなたを飛ばしてあげましょう。正露丸臭くて迷惑です。」
ミロ「い、いいよ!自分で行くから。じゃあな!」
走って白羊宮を出たはいいが、ミロが向かったのは金牛宮だった。
アルデバラン「ここは歯科じゃないぞ。」
ミロ「げげ、何で知ってるんだよ。」
ムウ「やはり病院に行く気はなさそうですね。」
二人にはさまれミロは一瞬動揺したが、双児宮からカミュが走ってくるのを見ていつもの不敵な笑いを浮かべた。
カミュ「ムウ!ミロを捕まえてくれ。」
あっけなくカミュに裏切られ、ミロはすぐさま逃走体制に入る。
ミロ「冗談じゃねぇ、捕まってたまるもんか!」
が、その体は自分の思い通りに動かなかった。ムウの念動力ですっかり動きを封じられている。
ミロ「超能力とは卑怯だぞ!。正々堂々と俺と勝負しろ!」
カミュ「往生際が悪いぞ、さぁ、病院へ行くんだ。」
ミロ「やなこった!小宇宙と気合いで治らないなら、俺さまは愛と正義で虫歯を治してみせるぜ。」
この期に及んで、抵抗を試みるミロであったが、次々と黄金聖闘士達が金牛宮に押しかけてきたので、ついにあきらめざるをえなかった。
デスマスク「ぐははは、やはり病院へ行かなかったか!!」
シュラ「くそう、俺の負けだ。」
カノン「やったぜ!夕飯おごれよ、シュラ!」
アイオリア「見損なったぞミロ!」
アフロディーテ「バカねぇ〜アイオリア。おこちゃまが歯医者に行くわけないでしょう。」
ミロはあっという間に、両手両足をデスマスク、シュラ、カノン、アイオリアに取り押さえられ、もはやアテナでもない限り、逃亡は不可能となった。
ミロ「お前ら8対1なんて、女神の聖闘士がこんなことしていいと思ってるのか!!!こらぁぁ、カミュ!!それでも親友か!!」
アフロディーテ「おだまり!正露丸くさいでしょ!!」
ミロ「くらぇぇぇ!!正露丸口臭攻撃!」
ミロが息を吐くより先に、その口をカミュが手で塞いだ。親友の行動パターンを熟知しているのか、すばやく的確な対応である。
カミュ「これ以上十二宮を正露丸臭くされると困る。親友として今すぐお前の虫歯を治してやろう。」
ミロ「フガムガムムウムガ(訳:親友ならその手を離せ。)」
カミュ「虫歯をアルデバランに一気に抜いてもらうのと、ムウに削ってもらうのとどっちがいい?選ばせてやるぞ。親友だからな。」
ミロ「ムガフガフウガグググ(訳:ふざけんな、どっちもごめんだ)」
カミュ「そうか、ムウに削ってもらうほうがいいのか。ムウ、お手数だが宜しく頼む。」
ミロ「フガァァーーーーーーーー(訳:やめろーーーー)」
いつかどこかで見た光景。ミロが見たムウの微笑みは幻朧拳に出てきたムウ先生と一緒だった。
アフロディーテ「武士の情けで、麻酔かけてあげるから、安心して削ってもらいなさい。」
アフロディーテがミロの鼻に赤い薔薇の花を押し付ける。しばらくは息を止めて我慢していたミロだが、ついに薔薇の香りをかいでしまうと、首がダラリと前へ落ちた。
カミュ「おい、ミロ?!大丈夫か?!」
アフロディーテ「あら〜〜〜ん、効きすぎちゃったかしらぁぁ。」
シュラ「そ・・・・それは本当に麻酔なのか?」
アフロディーテ「さぁ、どうかしらねぇ。」
バカ騒ぎを見かねて、ついにサガまでも双児宮からおりてきた。カミュの腕のなかで白目をむいているミロを見て、サガの顔面は蒼白になる。
サガ「な、何をしているんだ?!お前達?!ミロは生きているのか?!」
アフロディーテ「ちょぉ〜っと麻酔が効きすぎただけよ。」
カノン「あ、兄貴ちょうどいいや。ミロたんを歯医者に連れて行ってやれよ。」
サガ「なんで私が・・・・。」
カノン「だって、保険証渡したの兄貴じゃねぇか。」
カミュ「この件に関してはミロは私の言うことを聞いてくれないのです。」
ムウ「では、宜しくお願いしますよ、サガ。さぁ、皆さん解散しましょう。」
一方的にミロを押し付けて、黄金聖闘士たちは自宮へと足早に戻っていく。気絶したミロをカミュから託され、サガの心労はまたしても溜まっていった。
歯科でサガは気絶しているミロにかわって歯医者の質問に答えていた。
歯医者「今日はどうしたんですか?」
サガ「連れが虫歯のようで・・・。」
歯医者「ご家族ですか?」
サガ「いえ、職場の同僚です。」
歯医者「気絶してるんですから、歯科より先に総合病院に行ったほうがいいですよ。」
サガ「・・・・馬鹿って総合病院で治るものなんでしょうか?」
歯医者「さ、さぁ・・・どうでしょう。」
サガ「体だけは殺しても死なないくらい丈夫ですから・・・・。どうか虫歯を治してやってください。お願いします。」
歯医者「あなた、随分ストレスたまってますねぇ。体によくないですよ。」
サガ「・・・やはり分かりますか。」
サガは端正な顔を強張らせて、うなだれ気味の頭をあげる。歯医者の哀れみにあふれた眼が、ミロではなく自分に向けられているものだと知ると、サガの心労はますます溜まっていった。歯医者はそれ以上何も言わず、ミロの虫歯治療にとりかかった。
歯科の待合室で眼を覚ましたミロが見たのは、歯医者に何度も頭を下げているサガの姿であった。声を出そうとしたが、口内が麻酔で痺れていて上手く喋ることができない。目覚めたミロに気づいたサガが振り返ったが、その顔はいつにも増して疲れていた。
サガ「もう治療は済んだから帰るぞ。」
ミロ「ひょひょはほんもののはいひゃか?(訳:ここは本物の歯医者か?)」
サガ「そうだ。先生にきちんと御礼を言うように。」
ミロ「へんへひ、はりはとよ!(訳:先生ありがとよ)」
サガ「本当にどうもありがとうございました。」
看護婦にいつまでも手を振るミロの襟首を掴み、サガは歯医者を後にした。
1週間後。いつものようにミロは宝瓶宮に押しかけ、カミュにおやつをご馳走になっていた。
ミロ「見て見て♪」
カミュ「なんだ、また虫歯か?」
大きく口を開けてミロはカミュに顔を突き出した。
ミロ「こないらぬいらろこ、はははへてきたんらへ(訳:こないだ抜いたところ、歯がはえてきたんだぜ。)」
カミュ「鮫じゃないんだから、はえてくるわけないだろう。」
ミロ「ほんほらっへ、ほら(訳:本当だって、ほら)」
カミュは正露丸の臭いがしなくなったミロの口を覗き込む。ぽっかり抜けた奥から2番目の歯の跡に、確かに小さく白いものがはえていた。
ミロ「やっぱり小宇宙だよ!虫歯ももうちょっと頑張れば小宇宙と気合でなんとかなったかもなぁ。」
カミュ「・・・・・・まさかあの虫歯は。」
ミロの虫歯は二十歳になっても残っていた乳歯であった。