白羊家の食卓6(恋の肉じゃが その2)

 

双児宮か白羊宮で、茶でもご馳走になろうと人馬宮からおりてきたアイオロスが、獅子宮を通り抜けようとしたときだった。アイオロスはその光景に、わが目を疑い、光速でかけだした。
アイオリアが、獅子宮の梁にロープをかけ首吊り自殺を図ろうとしているのだ。

アイオロス「うおおおおおっ、アイオリア。お前、何をやっているんだ。」

アイオリア「止めないでくれ!俺は、兄さんの所に行くんだ!!」

アイオロス「馬鹿!!兄ちゃんはここにいるだろうがっ!!」

アイオリアの両足を抱え上げながら、アイオロスは手刀を放ちロープを断ち切った。

アイオリア「な、なんで止めるんだよ!」

アイオロス「お前こそ、なにを考えてるんだ、この馬鹿!!」

アイオリア「うるさい、兄さんに俺の気持ちがわかるか!!」

男泣きをしながらアイオリアは獅子宮の床に蹲った。
アイオロスもこれはいよいよただごとじゃないと、アイオリアの肩を抱いた。

アイオロス「どうしたんだ、アイオリア。兄ちゃんに言ってみろ。」

アイオリア「魔鈴とムウがデキてるんだ。」

アイオロス「はぁ?魔鈴とムウが?お前、その冗談は楽しいな。」

アイオリア「冗談なわけないだろう。だれが冗談で、首つるかよ!!」

アイオロス「ああ、そうだよな。すまん、すまん。で、なんでまたムウと魔鈴が?」

アイオリア「そんなこと知らないよ。魔鈴はムウがいいんだって。俺よりムウが・・・・。」

アイオロス「お前、魔鈴に嫌われるようなことをしたんじゃないのか?無理矢理襲ったり、後付回したり、時間構わず尋ねてみたり・・・・。」

アイオリア「兄さんじゃないから、そんなことするわけないだろう!俺はまだ、魔鈴の顔だって見たことないんだ。」

アイオロス「しかしだなぁ、女にふられたくらいで自殺する奴がどこにいるんだ。」

アイオリア「兄さんだって、サガに顔も見たくないって言われて、ふられたときに自殺しようとしたじゃないか!」

アイオロス「ああ、生きている意味ないからな。」

アイオリア「だったら俺の気持ち分かるだろう!!」

アイオロスは180度コロリと態度をかえ、アイオリアの肩に手を置いて同情した。

アイオロス「すまなかったな、アイオリア。でも、まだ魔鈴にふられたわけじゃないだろう。」

アイオリア「だって、魔鈴はムウが立派な男だって。もうムウは魔鈴と・・・・・・・・。今だって、魔鈴は嬉しそうにムウの所に戻って行ったんだ。」

アイオロス「だからって、魔鈴とムウがデキてることにはならないだろう。ほら、ムウだってお茶目な性格をしているから、ちょっと魔鈴に悪戯心で近寄っただけかもしれないし。」

アイオリア「イ、イタズラァァァ!?」

アイオロスの言葉に、アイオリアの妄想の堰は崩壊し、脳内から溢れ出した。

アイオリア「ま、魔鈴はムウに悪戯されて、そのままムウの虜に・・・・・・。だから、あんなによくムウのところに行くんだ。」

アイオロス「お前はアホか!!」

この場に第三者がいれば、お前に言われたくないと突っ込みを入れるところだが、アイオリアにはその余裕はなかった。そしてその第三者は、さすがアイオロスの弟だと至極納得したであろう。

アイオロス「とにかく、そんなに落ち込むなよ。まだムウと魔鈴がデキているって決まったわけじゃないだろう。ムウは聖衣を直す仕事をしているんだから、魔鈴と交流があってもおかしくないだろう。ほら、アイオリア。しっかりしろよ。」

アイオリア「下手な慰めはいらないよ、兄さん。魔鈴は今ごろ、ムウと白羊宮で・・・・・・。うおぉぉ、死なせてくれぇ〜!」

アイオロス「うわぁぁぁっ、待て待て待て!!サガみたいに自分の心臓を貫くのはやめろ。そんなに気になるなら、白羊宮に確かめに行けばいいだろうがっ!
大体、恋人を寝取られたなら、奪い返せばいいだろう!!
お前も兄ちゃんの弟なら、そんなにウジウジするな!!ほらっ、行くぞ!」

重ね重ね、アイオロスには言われたくない台詞であるが、床にのの字を書いていじけているアイオリアの手をアイオロスは無理矢理引っ張って、獅子宮から連れ出した。

 

白羊宮

一方白羊宮では、メンテナンス作業を終えたムウが魔鈴達とお茶を楽しんでいた。

ムウ「聖衣のほうは、特に問題ありませんでした。よければお茶でも如何ですか?」

魔鈴「ああ、悪いね。」

シャイナ「お言葉に甘えて。」

既にダイニングでは貴鬼が人数分のチョコレートシフォンケーキに生クリームを添え、紅茶を入れて待っていた。

シャイナ「もしかして、これってあんたが作ったの?」

ムウ「そうですが。」

シャイナ「へぇー、牡羊座のムウが料理が得意って本当だったんだ。」

魔鈴「これがさ、めちゃめちゃ美味いんだよ。」

ムウ「さぁ、どうぞ召し上がってください。」

自分の手料理を誉められて嬉しいのか、ムウはニコニコと笑いながら席につくと、貴鬼がその隣、シャイナと魔鈴は向いに腰をかける。

貴鬼「魔鈴さん、さっきどこに行ってきたの?」

魔鈴「ああ、アイオリアのところだよ。アイオリアが何かムウのことを誤解しているみたいだったからね。それでちょっとさ。」

ムウ「ほう。で、アイオリアは何と?」

魔鈴「そうそう、それがさ・・・。あいつ、何だかショック受けてたみたいで茫然となってたな。」

シャイナ「あんた、アイオリアに何ていったんだ?」

魔鈴「いや、そのまま、『外見で判断するな、ムウは立派な男だ』、って。」

シャイナ「それが何でショックなんだよ。」

魔鈴「さぁ?もしかしたら、ムウが男だって分かったのがショックだったのかな。」

シャイナ「ぶっ!!それって、アイオリアはムウが女だと思ってたってことか!?」

魔鈴「だって、他に理由は考えられないだろう?それに、あいつ結構抜けてるからね。ふふふっ。」

シャイナと魔鈴は仮面越しに声を上げ、肩を揺らして笑ったが、ムウとしては複雑というよりもムカツク気持ちでいっぱいであった。

ムウ「(おのれアイオリア・・・・・。)」

魔鈴「あのさ、ムウ。」

ムウ「なにか?」

魔鈴「どうでもいいけど、あのさ・・・・・。」

ムウ「ん?どうかしましたか?」

貴鬼「魔鈴さん達、具合でも悪いの?さっきから、全然食べてないよ。」

魔鈴「そうじゃなくてね。あんた達がいたら、私達食べれないんだけど。」

ムウ「ああ!それは気がつきませんでした。」

ムウは、ポンと手を叩いて古典的な仕草をすると、超能力で2枚の長い白い布を取り出した。そして片方を貴鬼に渡し、それを両目にあて頭の後ろで結んだ。
ムウが布で目隠しをしたのを見て、貴鬼もそれに習う。

ムウ「どうぞ。これで仮面を外しても平気です。」

シャイナ「それじゃ、あんたが食べられないんじゃないのかい?」

ムウ「大丈夫です。聖闘士なら、目隠しなど目隠しのうちに入りませんよ。」

唇をつりあげて笑うと、ムウの前に置かれたティーカップが音もなく移動し、ムウの手の中へと納まった。

貴鬼「ムウさま。見えないよぉ。」

ムウ「貴鬼。お前も聖闘士なら、視覚にたよるのではない。」

貴鬼「・・・・はい、ムウさま。」

貴鬼は超能力でフォークを手元に引き寄せると、目の前にあるケーキに辺りをつけてフォークを指した。

ガッ!

貴鬼のフォークは見事はずれ、テーブルを叩く。

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ・・・・・・・・・・・。

貴鬼のフォークは何度もテーブルを叩いた。

ガッ、ガッ、ガッ・・・・・・・・・・・ムニッ!

貴鬼「やったぁ!」

何回もテーブルを突付いた後、貴鬼はフォークから伝わるケーキを刺した感触に舌なめずりをした。しかし、貴鬼が指したフォークはお約束で、斜め前に座った魔鈴のケーキだった。
グイッと身を乗り出し、限界まで手を伸ばしているのに、貴鬼はそれが自分の目の前にあるケーキと信じて疑わない。
魔鈴はシャイナと顔を見合わせて声を殺して笑うと、貴鬼の手元にあるケーキをそっと自分の手元に引き寄せた。


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