★MISSION IMPOSSIBLE(キノコの山)
目がさめると、見たことのない天井がそこにあった。アイオロスはカノンに盛られた毒キノコにより、初めて入院したのである。
周囲をキョロキョロと見回すと、すぐに巨体が目に入った。が、肝心のマイスイートハニー・サガは何所にもいない。アイオロス「おい、アルデバラン、サガは?」
アルデバラン「サガなら隣の病室ですよ。」
アイオロス「え?」
アルデバランはアイオロスにサガとアイオロスが入院に至る過程を説明した。
アイオロス「おのれ愚弟・・・・・、それより何で私とサガは同じ部屋じゃないんだ!」
アルデバラン「黄金聖闘士ですから、個室ですよ。」
アイオロスは腕に刺さった点滴を引き抜くと、いきなりベッドから起き上がる。アルデバランが慌ててアイオロスを取り押さえると、アイオロスは騒ぎ始めた。
アイオロス「はなせアルデバラン!私はサガの所へ行くんだ!!」
アルデバラン「いけません、アイオロス。ここは病院です、暴れないで下さい。先生がいいというまで、ちゃんと大人しくしていてください。」
アイオロス「看護婦さーーーーん、看護婦さーーーーーん、もう退院していいですかーーー!」
アイオロスに呼ばれて、駆け込んできた看護婦は、ベッドの上でアルデバランに取り押さえられているアイオロスを見て絶句した。
看護婦さん「アイオロスさん、ナースコールがありますから、それで呼んでくださいね。枕もとのボタンです。」
アイオロス「え、何?これ?」
アイオロスはナースコールのボタンを握ると、何度もカチャカチャ押して、看護婦さんにアピールした。
看護婦「私がここにいるのに押してどうするんですか!」
アイオロスが苦笑いしていると、女医さんと看護婦さんが白衣をなびかせアイオロスの病室へと駆け込んでくる。そして、元気いっぱいのアイオロスを見て眉をひそめた。
女医「元気そうですね、アイオロスさん。用もないのに呼ばないで下さい。点滴抜いちゃ駄目ですよ。」
アイオロス「先生、退院させてください。もう元気です。」
女医「検査が終わったら退院していいですよ。」
アイオロス「じゃあサガと部屋をいっしょにして下さい。」
女医「それは出来ません。」
アイオロス「またまたまたぁ、先生可愛い顔して冗談がきついなぁ。同じ部屋にして。」
女医「駄目です。大人しく寝てて下さい。」
アルデバラン「アイオロス、ちゃんと先生の言うこと聞いてください。黄金聖闘士が恥ずかしいですよ。」
アイオロスはアルデバランに取り押さえられたまま、看護婦さんに再び点滴をうたれると、ブーブーと文句を言いながらもベッドの中に留まった。
アイオロス「なぁ、アルデバラン。さっきの女医さんってサガも診てるのか?」
アルデバラン「そうだと思いますけど。」
アイオロス「けっこう美人だったよなぁ・・・。」
アルデバラン「なかなか綺麗な人ですよね。アイオロスは女性に興味があるんですか?」
アイオロス「サガが女だったらな。」
アルデバラン「は・・・はぁ。」
アイオロス「・・・・・・・サガは女に興味があるんだよな・・・・。」
シュラやデスマスクに黒いサガがおねーちゃんをはべらしていた過去を聞いたことのあるアイオロスは、眉間に皺を寄せた。
アイオロス「・・・・・・・・どうしよ!サガがあの美人の先生とくっついちゃったりしたら!!!」
アルデバラン「は?」
アイオロス「サガは病気だし、美人で女で、しかも医者だなんて!!サガはたまに結婚がどうとかとか話したりするし、ぅわーーーーーー!!!どうしよう!サガが先生と、わーーーー!」
再び点滴を引き抜き、隣の病室へ駆け込もうとするアイオロスを、アルデバランは全体重をアイオロスに乗せて取り押さえた。
アイオロス「はなせ、アルデバラン!武士の情けだ!!サガが、サガがーーーーー!サガがお嫁に行ってしまったらどうするんだ!!!サガーーーー!」
アルデバラン「ここは病院です、静かにして下さい!」
アイオロス「これが静かにしていられるか!サガーーー!サガーーー!愛してるぞーーーー!だから嫁になんていくなーーーー!私が必ず迎えに行くからなーーーーー!サガーーーーー!」
二つはなれたサガが入院している個室まで、アイオロスの叫び声はばっちり届いていた。
サガ「・・・・、うちの馬鹿がどうも申し訳ございません。」
サガはため息混じりに女医さんに頭を下げて謝った。
女医「サガさん、いちいち気にしちゃ駄目ですよ。べつに貴方は関係ないんですから。もっと気を楽にして下さいね。あ、明日カウンセリング入れておきましたから。」
サガ「どうもお手数をおかけ致します・・・・。」
そこへ、貴鬼を連れたムウが現れた。
ムウ「お見舞いにきましたよ、サガ。」
自分から目をそらすサガにムウは持ってきた書類封筒を渡す。
封筒の中からA4サイズの紙を取り出し、それを見たサガと女医は思わず口元が緩んだ。中に入っていたものは、シャカと仲良くスニオン岬の岩牢に入っているカノンの写真であった。
ムウ「最近のカメラはすごいですね。念写しなくてもちゃんと写るんです。」
貴鬼は手にもっていた小さなデジタルカメラをサガと女医に向けるとカチャっとシャッターを押した。
貴鬼「懸賞であたったんだよ。でね、山羊のオジサンに印刷してもらったんだ。」
数枚入っている写真を一通り見終わると、サガは写真を封筒に戻し、ムウに返却した。
女医「これなら、弟さんの心配はしなくて大丈夫そうですね。色々考え過ぎはよくないですよ。」
女医にポンと肩を叩かれ、サガは安堵の息をついた。
ムウ「他にも、波に飲まれるシャカとか、溺れるシャカとか、沢山撮ったんですよ。あ、ちゃんと、叫ぶカノンとか、溺れるカノンとかも撮ってきましたから。」
ムウが口元に薄ら笑いを浮かべて、サガにそう報告すると、再びアイオロスの叫び声が聞こえた。
サガ「ムウ、頼みがあるのだが・・・。」
ムウ「高いですよ。」
サガ「処女宮の庭から助けてやった分だ。」
ムウ「仕方ないですね。」
サガ「アイオロスを黙らせてくれ。」
ムウ「お安い御用です。」
しばらくして、クスクスと笑いながらムウが戻ってきたのを見て、サガは嫌な予感がした。
サガ「ムウ、一体何をしたんだね?」
ムウ「ご注文通り、アイオロスを黙らせてきました。あの様子ではしばらく口は聞けないでしょうね。」
サガ「何をしたんだ!?五感を剥奪したんじゃないだろうな?!」
ムウ「そんな野蛮なことしませんよ。ちょっと『サガが女医さんと結婚するかも。』と吹き込んだんです。カメラの写真を見せたら、すっかり信じてしまいましたよ。」
ムウからカメラを受け取り、小さな液晶画面に自分と女医さんの姿が映っているのを見て、サガは呆れてため息を吐いた。
ムウ「『点滴飲んだら死ねるだろうか?』とか言って、点滴のんじゃったり、窓から飛び降りようとしたり、スターライトエクスティンクションであの世に送ってくれと頼まれましたけど、面倒なので断りました。もう、この世の終わりみたいな顔して不て寝してますよ。相変わらず、アイオロスは単純ですねぇ。ははは。」
病院で騒いだ罰だと思いつつも、アイオロスの気持ちがちょっぴり嬉しいサガであった。