★Happy Birthday(双子の誕生日)
いつものようにサガは双児宮でまったり鬱々と過ごしていると、デスマスクが現れた。
デスマスク「よぉっ!邪魔するぜ、キッチン貸せ」
サガ「一体どうした?」
デスマスク「はん?どうしたもこうしたもねぇーだろうが。まさかお前、今日が何の日か忘れたわけじゃあるめぇな」
サガ「今日?デスマスクが双児宮で飯を作る日か?」
デスマスク「あちゃーーーっ。お前、マジで忘れてんの?今日はてめぇの誕生日だろうが!」
サガ「あっ!」
デスマスク「13年間一人だったからすっかり忘れてたんだろう」
サガはこくりと頷いた。
デスマスク「そんなこったろうと思ったぜ。じゃぁ、キッチン借りるぜ」
サガ「私の誕生日とお前がキッチンを借りるのと何が関係あるのだ!」
コンコンッ
キッチンを勝手にいじりはじめたデスマスクに声をかけたサガの耳に、再び来客を告げる扉の音が響いた。
アフロディーテ「サッガーー!お誕生日おめでとうっ!」
サガ「ア、アフロディーテ!?」
アフロディーテ「今日はサガの誕生日でしょう。十三年間偽者やってて、どうせ誰もサガの誕生日なんて覚えてないと思ってね。だから私がお祝いして、あ・げ・る!お邪魔しますっ〜♪」
デスマスク「よぉっ、やっぱり来たか!」
アフロディーテ「デッちゃん!なんであんたがここにいるのよ!」
デスマスク「お前と同じ考えさ」
アフロディーテ「へぇ、デスマスクがそこまでサガ思いだとは知らなかったけど。もしかしてあんたサガに惚れてるの?」
デスマスク「ばっきゃろー!俺はただ酒が飲みたいだけだ!」
アフロディーテ「ふ〜ん」
デスマスク「ぼぅっと突っ立てないでてめぇも手伝え」
アフロディーテ「しょうがないわねぇ〜。サガぁ、ちょっと待っててね。美味しいもの作ってあげるから」
サガが嬉しさに滝涙を流そうとすると、三度を来客を告げる扉の音が響いた。
シュラ「よぉっ、誕生日おめでとうございます。裏切り者の誕生日なんて誰も祝ってくれないだろうから、酒持って来ました。二人で細々と誕生日やりましょう」
サガ「シュ、シュラ、お前まで」
シュラ「というのもありますが、この人が昨日からうるさくてね」
シュラがひょいと身体を横に動かすと、背中を丸めてオドオドするアイオロスが現れた。
アイオロスは4月のムウの誕生日以来、サガに口を利いてもらえていなかった。
アイオロス「あの……誕生日おめでとう、サガ。お祝いしに来たんだが、いいかな」
13年のうちに、すっかり自分の誕生日のことを忘れていたサガは、仲間たちの心意気に滝涙を流したのであった。
室内に漂う美味そうな香に目を覚ましたカノンは、リビングに出ると眼を丸くした。
リビングでは真昼間から年中三人とアイオロスとサガが酒を飲んでいるのである。
カノン「およ!?お前ら一体なにしてんだ?」
デスマスク「おぉ、愚弟!誕生日だ、誕生日。極悪人を祝う誕生日だぜ!」
シュラ「お前も来いよ」
カノン「誕生日?」
カノンは滝涙を流しながら酒を飲んでいるサガを見て、あっ!と叫んだ。
カノン「あっ、そうか。今日は5月30日!?」
小さい頃から存在を隠され、海底時代は身元を隠していたカノンも、自分の誕生日の存在をすっかり忘れていた。
アフロディーテ「ほらぁ、愚弟も、来た、来た!この私達が腕によりをかけて作った料理、食べなさいよ!」
アイオロス「そっだぞ、カノン。今日はめでたい誕生日だ」
カノン「おうよっ、しかたねぇな」
デスマスク「そういいながら、嬉しそうにしてんじゃねぇよ。ほれ、飲め」
カノン「おうっ」
サガ「皆、ありがとう……」
カノン「これ、美味いッ!」
デスマスク「だろう!?俺様特性のピザだ。ありがたく食え!」
シュラ「じゃ、もう一回。誕生日おめでとぉ〜」
アイオロス・デスマスク・アフロディーテ「おめでと〜〜〜っ!」
カノンはこうして誕生日を祝ってもらうのは初めてだった。仲間というのも悪くはないなと、生まれて初めてカノンは心の中で涙をほんの少し流した。
アイオロスはサガに許してもらいすっかり上機嫌ヘベレケでサガに抱きつき、アフロディーテはサガの隣にピッタリくっついてサガに酒を注ぎ、デスマスクとシュラはカノンを囲んで酒を酌み交わした。
地味に行われた誕生日が終焉をむかえた夜、突然青い顔したカミュがミロを連れて現れた。
サガ「?カミュどうした?」
カミュ「申し訳ありませんでした、サガぁぁぁーーーーーーーっ!」
サガ「ど、どうした?」
カミュ「この水瓶座のカミュともあろう男が、大切な貴方の誕生日を今の今まで忘れておりました。このカミュ、貴方と共に冥闘士となって闘ったというのに……」
ボタボタと滝涙を流しながらサガの前に膝をついた。
ミロ「ていうかさ、もういいじゃん。思い出したんだからさぁ、カミュ泣くなよ」
デスマスク「そういう小僧、お前はどうなんだ?」
ミロ「俺?全然覚えてなかった。カミュが思い出して、そういえばそうだったかも〜って」
シュラ「まぁ、普通はそうだな。カミュは思い出しただけ偉いさ」
ミロ「で、デスマスク達はなにやってんの?」
アフロディーテ「決まってるじゃない。誕生日パーティ」
ミロ「え?」
デスマスク「裏切り者の極悪人だからな、俺たちくらいしか祝ってやれねぇだろう」
ミロ「へぇ〜。じゃ、俺も入れてよ。腹減っちゃった」
アイオロス「残念だな。もうお開きだ」
シュラ「そうそう。事情が事情なだけにいつもみたいにオールナイトというわけにもいかんしな」
ミロ「ええーーーーっ!!だったら外に飲みに行こうよっ」
サガ「ありがとう皆。私はもう十分だから、後は皆で飲みにいってくるといい。カノン、お前は行くのだろう?」
カノン「おうともよっ!まだまだ飲みたりないしなっ!」
サガ「後片付けは私がやるから、皆行って来るといい」
カミュ「待ってください、サガ。せめて誕生日プレゼントを!!」
カミュは涙にぐしょぐしょになった紙袋をサガに手渡した。
ミロ「さっき慌てて一緒に買いに行ったんだよ」
サガ「ありがとう、ミロ、カミュ」
シュラ「あっ、俺も誕生日プレゼントがあるんです。っていっても、酒ですが」
サガ「ありがとう、シュラ」
アフロディーテ「私も、私も!サガのために、バラの香のバスオイル持って来たのぉ!」
デスマスク「俺も持ってきた。多分サイズはあってるとおもうが、サンダルだ」
アイオロス「もちろん私もあるんだぞぉ、サッガ!愛のプレゼントぉ〜」
唇を突き出したアイオロスの頬を押しながらサガは皆に礼を言った。
デスマスク「愚弟からはないのか?」
カノン「あん?あるわけねぇだろうが。ていうか、ほれ」
カノンは手を前に突き出した。サガ以外全員が首をかしげた。
シュラ「何をやってるんだ、カノン」
カノン「だから、ほら!」
アフロティーテ「は?」
カノン「だから、ほれ。俺も仕方ないから貰ってやるよ」
アイオロス「何を?」
カノン「だぁかぁらぁーーっ、プレゼントだよ、プレゼントッ!さっさとプレゼントよこせ、ごらぁ!」
ミロ「なんで?」
カノン「なんでって、誕生日だからだろうが!!」
カミュ・アイオロス・ミロ・シュラ・デスマスク・アフロディーテ「え!?」
カノン「お前ら、誕生日祝いに来たんだろうがっ!」
ミロ「そうだけど…」
カノン「だったら俺にもよこせよ」
シュラ「いや、お前にやる必要はないだろう。今日はサガの誕生日だ」
ミロ「んだ、んだ。お前ちょっとずーずーしいじゃん?」
カノン「はぁ?なんで兄貴だけなんだよ」
アイオロス「だから、今日はサガの誕生日だろう?」
カノン「おうよ。だから俺にもよこせ」
ミロ「なんで?ていうかさ、お前の誕生日いつよ?」
カノン「はぁ?」
シュラ「そういえば、俺達、カノンの誕生日しらんな」
カノン「もしもし、お前たちおつむのほうは大丈夫か?」
アフロディーテ「愚弟よりはね」
カノン「あのな。今日は俺の誕生日でもあるんだが」
ミロ「え?そうなのっ!?!?!」
カノン「俺と兄貴は一応双子なんだが……」
ミロ・カミュ・アイオロス・シュラ・デスマスク・アフロティーテ「あ゛ッ!!!」
シュラ「そういや、そうだったな……」
ミロ「すっかり忘れてた」
カノン「わ、わすれてた!?じゃぁ、今までのパーティは?」
アフロディーテ「サガの誕生日パーティ。愚弟含まず!」
デスマスク「もしかして、今までお前の誕生日を祝ってもらってるつもりだったのか?そりゃすまなかったなぁ、ぐははははっ」
カノン「うっ……」
アイオロス「そうか、双子だからカノンもサガと同じ誕生日なんだよな。全然気がつかなかったな」
ミロ「俺、初めてカノンの誕生日知ったよ。そうだよな、サガと同じだよなぁ〜」
カノン「うっ、うっ……」
デスマスク「まぁ、今回はしゃーねぇな。お前も悪人なんだから、そんなこと気にすんなっ。さぁ、飲みに行くぞ、てめぇら!」
ミロ「おう、行く、行く!!」
シュラ「じゃ、お暇します」
サガ「ああ、今日はありがとう」
アイオロス「お前らさっさと飲みに行け。小遣いやるから、行ってこい」
ミロ「やったぁ。アイオロス太っ腹ぁ〜カノンも行く?」
シュラ「せっかくだから、これからお前の誕生日、祝ってやってもいいぞ」
カノン「誰が貴様らなんかと行くか。てめぇらに祝ってもらう必要などないっ、バカ野郎ッ!俺は一人で飲む」
カノンは怒鳴ると光速で双児宮を出て行った。
こうして誰も知らないカノンの誕生日はこうして寂しく終わったのであった。