マッサージ

 

「んん……疲れたなぁ……」

教皇の代理を務めているアイオロスは執務椅子に背中を預けて呟いた。

シオンが休暇に入ってから2週間が経っている。

その間、アイオロスは教皇代理として執務をこなさなければならない。もちろん、代理を務めるにあたりサガが補佐につくことは13年前から決まっている。

「すこし休憩しようか」

サガはそういって神官を呼び出し、アイオロスが好むコーラーとお茶菓子を頼んだ。

アイオロスは大きく伸びをしながら目を丸くした。

「珍しいね、サガから休憩するなんて」

「ここ数日、アイオロスは頑張ってくれたからね。私はそんなに鬼ではないよ。ただアイオロスがいつも真面目に仕事をしないから……」

ちょっとムッとなってサガはチラリと白い視線をアイオロスに送った。

アイオロスは真面目にやれば教皇の執務をきちんとこなせるのだが、サガに構って欲しくて真面目に仕事をしないことが多かった。真面目に仕事をしたときは、それこそサガが偽教皇をやっていた時と同じくらい普通に執務をこなせるのだ。

「いやぁ、流石に仕事がたまってきちゃったし、そろそろ教皇も帰ってくるしなぁ。仕事が終わってなかったら、サガも怒られちゃうからさ。俺は別に怒られても全然平気だけど、サガまで怒られるのは勘弁だもんな!」

「だったら最初から真面目にやってればいいだろう。真面目にやれば仕事もたまらないんだから」

「う〜ん、それはちょっと無理だな。俺の性に合わん」

「まったく……」

約10日分ためていた執務を2,3日で殆どを片付けてしまったアイオロスに、サガは心底あきれて溜め息をついた。

「仕事なんて気ままにやればいいんだよ。一週間や二週間遅れたくらいで世界が破滅するわけでもないしな。急ぎの仕事はちゃんとやってるんだし。もっと普通に誉めてくれよ」

アイオロスは苦笑いを浮かべながら首と腕を回し鈍った身体をほぐした。

「調子にのるな、アイオロス」

サガはまたムスッと顔を顰めながら、アイオロスの後ろに回って肩に手を置いた。

まさか首を締められるのかと思ったアイオロスは一瞬ビクリと身体を震わせたが、サガの手から安らかな小宇宙が肩を通して伝わってきて、瞳を瞬かせながら首だけで振り返った。

「サガ?」

「でも……、アイオロスが肩をこらせるまで頑張ったのは事実みたいだ。疲れたろう?」

サガは静かに笑顔を作るとアイオロスの肩にマッサージを施し始めた。アイオロスはその笑顔に思わず頬を染めると、瞳を閉じて黙ってサガの手の癒しに身を任せることにした。

が、しばらくするとアイオロスはその手に手を重ねた。

「もういいよ、サガ。お前のほうが俺のサポートで疲れてるだろう? 今度は俺がやってやるよ、座って」

アイオロスが立ち上がりサガに執務椅子に座るように促す。サガはキョトンとなった後苦笑し、

「いや、私はいつものことだから大丈夫。風呂に入って自分で揉めばよくなるし」

「いいから座れよ。俺ばっかりやってもらっちゃ悪いからな」

「いや、それよりもお前の肩のほうがこってるだろう? 凄いガチガチだったぞ」

「それはしばらく身体を動かしてないからだ。生活が元に戻ればすぐに戻る。私はお前の身体のほうが心配だ」

「いや……でも」

「わかった、じゃぁこうしよう!!」

アイオロスはぽんっと手を叩いてにこっと笑い、サガに手を伸ばした。

コンコン

「失礼します。お茶をお持ちいたしました……」

ワゴンにコーラー、コーヒー、プリンとクッキーを乗せた神官は、執務室に入って硬直した。

彼がそこで見たのは、サガとアイオロスが向き合って互いの肩と肩を揉んでいる姿であった。

納得いかなさそうに困った顔で頬を染めながらアイオロスの肩を揉むサガと、妙案を思いついて目を輝かせ微笑むアイオロスは、神官が来たことにしばらく気がつかなかった。

(04/01/17)


end