兄貴といっしょ(奇跡の温泉ジャンダーラその2)

 

貴鬼を寝かしつけ、風呂上りのビールをムウと二人きりラブラブで楽しんでいたアルデバランは、今日二度目の邪魔者の訪問に、思わずムウを庇った。

サガ「さぁ、ムウ。温泉に行くぞ。教皇から許可を貰ってきた。」

アルデバランの背中からひょっこり顔を出し、ムウはない眉をひそめる。シオンはスターヒルに星見に行っており、サガは聖衣を纏って許可を貰ってきたという。脳裏には否応なしに十三年前のことが蘇ってしまった。

ムウ「まさか・・・シオンさまを殺してきたのですか?」

サガ「何を言っている、温泉に行っていいと許可を頂いたのだ。」

ムウ「ではシオンさまは生きているのですか?」

サガ「ああ、ピンピンしているぞ。さぁ、温泉に案内しろ。」

ムウは不審の視線をサガにおくると、サガが右手に抱えているものが双子座の聖衣のヘッドではなく、ヒノキの桶であることに気付き溜息をついた。どうやらシオンは本当に死んではいないようだ。確かにスターヒルの方向からシオンの小宇宙を感じ取ることができる。どうせなら殺してくれればいいものをと、気のきかないサガに、ムウは再び溜息をついた。

サガ「さぁ、どうした。温泉にい行くぞ。」

ムウ「え、ちょっと待ってください。今行ってもジャミールは夜中ですよ。」

サガ「月を見ながらの風呂も悪くない。」

ムウ「今日は新月です!」

サガ「なら、星を見ながら風呂だ!行くぞ!!」

サガは問答無用でムウの腕を掴むと、そのまま光速で十二宮を飛び出していった。

 

ムウがサガの手から解放されたのはチベットについてからであった。光速で連行されたため、はいていたスリッパはとっくの昔に脱げてなくなっている。

ジャミール暮らしの長いムウでも裸足は寒いのか、サガの手をバシバシ叩いて自由になると、超能力で私服に着替えた。

サガ「ムウ、温泉はどこだ?!」

ムウ「もっと上です。」

サガ「お前の超能力ならすぐに行けるだろう。」

ムウ「いくら貴方が黄金聖闘士でも、ここから一気に7000メートルまで登ったら倒れますよ。」

サガ「大丈夫だ、私は聖衣を着ている。」

ムウ「聖衣を着て温泉に入るのですか?」

サガ「う・・・・、それはいかんな。風呂は裸で入らねばならん。」

ムウ「それに、ジャンダーラは霊峰です。超能力で行くのは危険です。」

その場足踏みをし、先を急ぐサガにムウは呆れて溜息をつくと、雪の上を歩き始めた。ムウが歩いた後には1cm程度の深さの足跡が点々とつき、その後をサガが歩く。しかし、聖衣をまとったサガは一歩進むごとに深雪に埋もれ、10歩も進まないうちに頭まですっぽり雪の下に埋まってしまう。それでもサガはスキップに近い足取りで、除雪車の如くチベットの雪山を登っていった。

途中、何度か雪崩れに巻き込まれながらも、瞬間移動を多用して聖衣の墓場まで辿り着くと、ムウを出迎える幽霊達にサガは上機嫌に挨拶し、『ここの温泉はどうだ?』と早速温泉情報を収集するする。
幽霊からまともな情報を得られるはずもなく、とっとと先に行ってしまったムウの後をあわてて追うと、サガは星明りの下に雪に埋もれた古びた塔を目にし、早まる鼓動をおさえた。

サガ「ムウ!ここが温泉か?!」

ムウが塔の2階から顔を出したのを見て、サガはそこへと乗り込んだ。
しかし、塔の中に湯煙はなく、小さな机と椅子が2脚あるだけで、脱衣篭もない。ムウは暖炉の火をつけると、サガを睨みつけた。

ムウ「雪を払ってから入ってください。」

サガ「温泉はどこだ?」

ムウ「あと少し上です。」

サガ「上の階か?」

ムウ「違います。まだ山を登るんです。」

サガ「すると、ここは温泉宿か?」

ムウ「私の家です。少し疲れましたから、眠らせてください。」

不眠で山を登り、温泉馬鹿の相手に疲れたムウは超能力でムートンの敷布を取り出すと、それに包まり暖炉の前に寝転がる。

サガ「ムウ、寝るのはいつでもできるぞ。今は温泉だ。」

ムウ「温泉だっていつでも入れるでしょう。」

サガ「温泉は無限ではない!こうしている間にも枯れてしまうではないか!!」

ムウ「いい加減にして下さい!私は眠いんです!!。日が昇るまで待ちなさい!」

ムウは怒鳴ると頭をすっぽり敷布の中に隠し、ギャーギャー騒ぐサガを無視する。
温泉を目の前にお預けを食らったサガは、ショボンとしながら暗闇のジャミールの向こうにあろう霊峰ジャンダーラ温泉を見上げ、恐らく世界で一番高地にある温泉に思いをはせた。

 

サガ「おい、ムウ。夜があけたぞ。温泉だ、温泉。」

サガに体を揺すられムートンの中から顔を出したムウは、目の前でブラブラ揺れているそれに吐き気をもよおし、再び敷布に包まった。朝っぱらからサガの股間をどアップで拝んでしまったのである。
よく考えてみれば、サガが全裸ということは、自分が犯される可能性が高いことに気付き、ムウはあわてて敷布から飛び出した。

サガ「日が昇ったら温泉に行く約束だろう。聖闘士が約束を破ったらいかんぞ。」

しかし、今のサガには性欲よりも風呂欲が最優先のようだった。全裸ではあるが、小脇にしっかりと風呂桶を抱えている。

ムウ「まさか、ここから裸で風呂に行くつもりですか?」

サガ「すぐ近くなのだろう?。聖衣を着ていては風呂に入れまい。」

ムウ「いくら近くても、そんなみっともない事しないでください。」

サガ「みっともない?!私のどこがみっともないというのだ!!」

自信満万に腰に手を当て、サガは自分のイチモツをムウに見せつける。ムウは呆れて首を振ると、サガの股間をチラっと見て鼻で笑った。

ムウ「ふっ・・・・アルデバランに比べたら、まだまだですね。」

サガ「それはすまなかったな・・・。あいつと比べられたら適わん・・・。」

風呂桶の中からタオルを出し、サガは腰にタオルを巻くと、窓を開けて飛び降りた。外はマイナス20度を下回っており、雪の混ざった強風にサガの腰タオルはバタバタとなびくと、あっという間に凍ってしまい、筋肉で引き締まった尻も自慢の股間も丸出しである。

ブルーシープのように凍った断崖絶壁を軽やかに登ってゆくムウに続いて、凍ったタオルを腰につけたサガも裸足で軽やかに登ってゆく。いつ根をあげるかとムウは時たま振り向くが、サガは裸のまま小宇宙を燃やして岩肌にしがみつき、突風にすらびくともしない。それどころか、顔には満面の笑みが浮かんでいる。真の温泉馬鹿に、ムウは肩をすくめると雲の先を指差した。

ムウ「サガ、あそこがジャンダーラです。」

サガ「どこだ?!どこにある?!見えんぞ。」

ムウ「雲の向こうですよ。今、連れて行ってあげますから。」

そういうと同時に、ムウはサガと供に瞬間移動で断崖絶壁から姿を消した。

 

足場の不安定な断崖絶壁の一本道におろされたサガは、あわててムウの後についていった。しかし、歩くそばから足場が崩れ落ちる。念動力で飛ぼうとしても何かに邪魔され、うまく念が集まらない。

ムウ「ここは霊山ですから、そうは簡単にいきませんよ。」

サガ「自力で歩けということか?」

ムウ「そういうことです。」

すでに先を歩くムウにサガは不適に笑うと、ヒノキの桶をフリスビーのように投げた。そして気合一発、天高く飛び上がると、そのままヒノキの桶を追うように宙を舞い安定した足場へと着地する。『決まった』と青い巻き毛をかきあげようとしたが、その髪はすでにジャンダーラの冷気で凍っていた。

ムウ「馬鹿なことしていないで先に行きますよ。まったく、いつもの鬱なサガはどこへ行ってしまったんですかね。」

風呂桶片手にご機嫌のサガに、ムウは小首をかしげた。冥闘士サガの勢いに風呂馬鹿が重なって、誰も知らないサガと変わり果てている。
凍った岩場を更に上へと進むと、サガは突如大鷲の群れに襲われた。

サガ「ムウ!お前のペットであろう、躾がなっていないぞ!!」

ムウ「しりません。」

サガ「こら!私の大事な髪を食うんじゃない!!!」

大鷲に髪の毛を引っ張られ、サガは風呂桶を振り回して暴れる。それでも大鷲の群はサガへの攻撃をやめない。サガは静かに小宇宙を燃やすと、小宇宙を爆発させ大鷲の群に一匹残らず光速拳をたたきつけ、退治してしまった。

ムウ「あーあ・・・可哀想に。今晩は鷲鍋ですかね。」

サガ「そうだな、鍋でも焼き鳥でもお前の好きにするがいい。で、温泉はどこだ?」

ムウ「ここですよ。」

ムウの後ろにはキラキラと七色に輝く湯煙を上げながら泉が湧き出ており、サガは目をむくと桶を抱えて突進した。


Next