空白の誕生日(その2)

 

そして翌日。

今日は17歳の誕生日である。

16歳の誕生日は、夜の3時過ぎに終わり、アイオロスはさっき寝たばかりの身体を起こしてシャワーを浴び、リビングでコーヒーを飲んでいた。
一服したら、トレーニングに行くつもりである。

時刻はとうに8時を過ぎいた。
人馬宮の扉が荒々しく開かれた音が、私室内に響き渡った。

アルデバラン「おはようございます、アイオロス。」

現われたのは、小脇にビールの樽を抱えたアルデバランである。アイオロスは眉間に皺をよせ、脳裏をかすめるいやな予感を口にした。

アイオロス「・・・・、おはよう、アルデバラン。まさか、今日も?」

アルデバラン「もちろん、今日も貴方の誕生日ですよ。なんていったって、まだ16歳ですからね。今日でようやく17歳ですよ。」

アイオロス「・・・・・・・。おまえ、酔ってるだろう?」

アルデバラン「へ!?酔ってなんていませんよ。今日は、朝一でドイツからビール買って来たんですよ、ビール!!!」

アルデバランは真っ赤な顔をして、アイオロスに答えた。明らかに昨晩の酒がまだ残っている。

アイオロス「あのな、無理して祝ってくれなくてもいいんだぞ。」

アルデバラン「無理なんてしていませんよぉ、アイオロス!」

アイオロス「さすがに2日間も飲みっぱなしでは、皆つらいだろう?少し休んだらどうだ?」

アルデバラン「何を言っているんですか、アイオロス。皆、貴方のことを祝いたいんですよ、さぁ行きましょう。」

アイオロス「うおっ!なにをする、やめろ!!」

アイオロスは、酒を飲む理由が欲しいだけだろうと内心思いながら、いきなりアルデバランにビア樽と同じように肩に担がれ、人馬宮を連れ出された。

 

金牛宮。

金牛宮には、巨大なビールサーバや樽が所狭しと置かれ、テーブルには牛肉の塊がドーーーンとのっている。アルデバランお得意の料理、シュラスコである。そして、既に準備を終えた仲間達が、アイオロスを待っていた。

心なしか昨日よりも人数が減っているのは気のせいではない。

アイオロス「あれ?なんか、今日は人数が少なくないか?」

シュラ「アフロディーテは、寝不足で肌が荒れたから今日は休むって言ってました。」

デスマスク「シャカとカミュは仕事だぜ。」

アルデバラン「アイオリアとミロは酔いつぶれて、双魚宮で寝ていんでさっき無理矢理連れてきたんですが・・・。まだ起きないようですね。」

アイオリアとミロは金牛宮のリビングで顔を真っ赤にし、高いびきをかいてぐっすりと寝ている。アルデバランがアイオロスを連れてくる前に、双魚宮から運び出されたのにも気がついていないらしい。

ムウ「アイオロス、今日はチーズケーキにしてみました。」

アイオロスはムウに渡されたチーズケーキと、アルデバランが買ってきたビールをチビチビやりながら呆れたふうに頷いた。

アルデバラン「ああ、それからこれ。サガからの誕生日プレゼントです。」

アルデバランは思い出したように、サガから預かったアイオロスへの誕生日プレゼントの赤いバンダナが入った袋を手渡した。アイオロスは落胆するのを隠さなかった。

アイオロス「・・・・、ということは、サガは来ないのか?」

デスマスク「サガは今日は病院に行くって言ってたぜ。」

シュラ「カノンにはあとで、俺から料理を持っていく約束をしてますから。」

アイオロス「ああ、そう。」

アイオロスは憮然として答えたが、それに関係なくアイオロスの17歳の誕生日は盛り上がっていった。

ムウ「明日は何のケーキにしますかねぇ・・・。」

 

翌日。

今日は18歳の誕生日である。

ムウ「今日はパリブレストにしてみました。18歳の誕生日おめとうございます。」

鼻腔を刺す甘ったるい香に、アイオロスは目を覚ました。飛び込んできたのは、リング状のケーキとムウである。

しかも、ムウはアイオロスに馬乗りに跨り、微笑みを浮かべていた。

目を覚ますと同時に、思い切りその香を吸い込み、アイオロスはむせ返った。

アイオロス「げほっ・・・・・・・ム、ムウ!?ここで何をしている?」

ムウ「今日は、私が迎えに来る当番なんです。皆、連日の宴会で疲れてますから、誕生日も当番制にしたんです。」

アイオロス「そ、そんな無理をして祝ってくれなくても、私は構わないのだが。」

ムウ「そんな事言わないで下さい。毎日お菓子やケーキを食べても怒られないのは、アイオロスの誕生日が毎日あるからなんですよ。私の楽しみを奪おうと言うんですか?」

アイオロス「・・・・・・・・。」

ポロリと本音がでたムウをアイオロスは白い目で睨みつけた。

この分だと、他の連中も毎日朝から晩まで酒を飲める口実程度にしか思っていないのだろう。

ムウ「さぁ、行きますよ。」

ムウはアイオロスの手を掴むと、問答無用でテレポートで白羊宮へと瞬間移動した。

 

白羊宮。

白羊宮では、すでに準備が整えられており、豪華な料理や酒が所狭しと並べられている。
そこへ、寝起きのままの姿、パンツ一丁のアイオロスが現れると、いっせいにみな祝いの言葉を述べた。

アイオロス「ちょっと待て、ますます人数が減ったような気がするんだが・・・。」

シュラ「なに言ってるんですか、アイオロス。今日はたくさんいるじゃないですか。ほら、ムウなんか4人も・・・・・・・!!」

すでに4日連続で飲みつづけていたシュラは、酒が抜けきれずテンションは最高潮のまま、ヘラヘラと笑いながら、アイオロスの肩に手を回して酒くさい息を吐いた。
どうやら、シュラにはムウが4人に見えるらしい。

アイオロス「シュラ。無理しなくていいから、少しやすめ。」

シュラ「だ、だいじょうぶれすよぉ〜〜〜〜〜・・・・・・。」

アイオロス「お前、ろれつが回ってないじゃないか。」

シュラ「やだなぁ、アイオロス。回れますよぉ〜。」

酔っ払いのシュラは、アイオロスの言葉に何故かクルクルと回転しながら、その場に倒れたまま動かなくなった。

アルデバラン「ははははっ、シュラはもう潰れたんですか。情けないですねぇ!」

アイオロス「で、今日は随分と人数が少ないようだが・・・・。」

アルデバラン「ああ、今日はカミュとミロが執務なんです。」

貴鬼「獅子のオジサンと、乙女のオジサンと、双子のオジサンと、蟹のオジサンはムウさまが恐いから、今日は遠慮しておくって。よかったね、射手座のオジサン。今日はムウさまの作った料理食べ放題だよ。」

アフロディーテ「ムウは皆から嫌われているからね。」

ムウ「むかっ!!!べつにアフロディーテだって、無理してこなくても結構ですが・・・・。」

アフロディーテ「おっと、口が滑っちゃった。本当のことをいわれたからって、そう怒りなさんな。」

ムウはふくよかな頬を更に膨らませて、アフロディーテを睨み付けるが、アフロディーテは軽くウィンクをしてそれを流した。

アフロディーテ「因みに、愚弟ちゃんもあんたの誕生日なんて祝いたくないって、さっき料理だけ持って行ったわよ。ああ、それからこれ、サガからの誕生日プレゼント。」

アイオロスはアフロディーテが投げた小さな紙袋を受け取ると、溜息をついた。

アイオロス「あのさ、何も無理に祝ってくれなくてもいいんだが・・・・。気持ちだけありがたく受け取るから、毎日パーティをしなくてもいいんだぞ。」

アフロディーテ「何言ってるの。せっかく祝ってやるって言ってんだから、大人しく祝われてなさい。」

貴鬼「ムウさま。明日は何のケーキ作るんですか?」


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