白羊家の食卓 その1.5(お料理行進曲番外編)

 

次の日。

出張から帰って、久しぶりにゆっくりと家で寛いでいたサガを、アイオロスが訪ねて来た。

アイオロス「サガぁぁ、今日の夕飯なに?」

サガ「まだ決めてないが。何か食べたいものでもあるのか?」

アイオロス「サガが食べたい!!んーーー。」

サガ「やめないか!」

チュゥの形を唇に作って迫ってくるアイオロスの顔を、サガは手で押しのける。

ミロ「サガァ〜〜〜。ご飯食べさせて。」

そこへミロが現われた。

アイオロス「(ちっ、いい所だったのに。)おい、ミロ。まだカミュは帰ってきてないのか?」

ミロ「うん。まだ帰ってきてないんだよ。しかも白羊宮に行ったら、教皇に追い出されちゃった。で、今日のご飯何?」

サガ「まだ決めてない。」

ミロ「俺、コロッケパン食いたい。」

アイオロス「なんだ、気に入ったのか?」

ミロ「うん。あれめっちゃ美味いよ、コロッケパン。」

サガ「また、コロッケパンか。あんなもの何が美味いんだか・・・。」

ミロ「あれ?コロッケパン知ってるの?美味いじゃん!」

サガ「ああ。パンのコロッケだろ?」

アイオロス・ミロ「え?」

サガ「だから、パンを揚げたものだろ。昨日カノンが食べたいというから・・・。」

アイオロス「作ってみたのか?」

サガ「ああ。」

ミロ「パンのコロッケを?」

サガ「ああ。あんなもののどこが美味いんだ?パンにパン粉をつけて揚げるなど、愚の骨頂だ!」

アイオロス・ミロ「ぶははははははっぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」

くだらないといった風にサガが言うと、アイオロスとミロは顔を見合わせ、腹を抱えて大爆笑した。

サガ「な、なんだ!何がおかしい!」

アイオロス「サガは可愛いなぁ。」

ミロ「馬鹿だよ、馬鹿!!」

サガ「お前達に馬鹿などと言われたくない!」

アイオロス「サガ、コロッケは知ってるよな?」

サガ「当たり前だ。馬鹿にするな!」

アイオロス「コロッケパンというのはな、パンにコロッケを挟んだやつだ。コロッケのサンドウィッチみたいなもんだな。」

まだ腹を抱えて爆笑しているミロの隣で、アイオロスが目に涙を溜め、笑いを堪えながら言った。

サガ「え?パンのコロッケじゃないのか?」

サガが顔を真っ赤にしていうと、二人は頷いた。

アイオロス「そうか、そうか。今日はコロッケパンにしような、サガ。ミートコロッケとキャベツの千切りを作ってくれ。後は私がやろう。」

程なくして、サガが作ったコロッケをアイオロスがパンに挟み、コロッケパンは完成した。

ミロ「うん。ムウのコロッケよりは味が落ちるけど、美味いぞ。」

サガ「そうか。これがコロッケパンか。」

ミロ「そういえば、カノンは?」

サガ「知らん。昨日から帰ってきてない。」

アイオロス「(だったら今夜泊まろうかなぁ・・・・。)」

 

そこに24時間ぶりにカノンが帰宅する。乱暴に玄関の扉を閉めると、すぐに自室へと入ってしまった。

サガ「カノン、夕飯が出来てるぞ。」

カノン「外で食ってきたからいらねーよ。」

サガ「そうか・・・。」

サガが部屋から出て行って、しばらく経つとミロが入ってきた。

ミロ「おい、愚弟!飯食わないの?コロッケパンだぞ。」

カノン「兄貴のやつ、またあれ作ったのか?」

ミロ「サガのコロッケパンも美味いぞ、ほら?」

ミロは食べかけのコロッケパンをカノンに見せる。

カノン「あ!なんだよそれ。」

ミロ「コロッケパンだぞ。パンのコロッケじゃないからな。ってお前は、分かってるのか。」

カノン「どうしたんだよ、兄貴が作ったのか?」

ミロ「そう、サガが作ったんだ。アイオロスから作りかた教えて貰ったんだよ。」

カノン「なんだと!!」

 

カノンは慌ててダイニングへと向かった。

カノン「兄貴、俺にも食わせろ!!」

アイオロス「すまんな、カノン。これが最後の一個だ。」

そういって、アイオロスが最後の一口のコロッケパンを口に運ぶ。

カノン「なんで、残してくれなかったんだよ!!」

サガ「お前が食事はいらないと言ったんだろう。」

カノン「コロッケパンだなんて一言も言ってなかったじゃないか!?」

サガ「お前が聞かなかったから、言わなかっただけだ。」

カノン「くっそぉ!!」

アイオロス「なんだ、そんなにコロッケパン食べたかったのか?」

ミロ「だったら、また作ってもらえばいいじゃん?」

ミロの言葉にカノンはサガを見るが、サガは真顔でカノンの視線に答えた。流石に、昨日のことがあっては、「作ってくれ。」とは言いにくかった。

ミロ「そんなに食いたいなら、俺がやるよ。夜食用にキープしといたんだ。」

ミロは冷蔵庫からラップに包まれたコロッケパンを取り出した。

カノン「あ!くれ、くれ!!」

ミロ「ただじゃやらないぞ。ヤらせろ!!」

カノン「ヤらせるか、ごらぁ!」」

ミロ「だったら、このコロッケパンは俺んだ!」

カノン「てめぇ、卑怯だぞ!!」

カノンは、ミロの胸倉を掴むと怒鳴る。

ミロ「なんだよ、俺とやろうってのか?ヘッポコのくせに!!」

アイオロス「(両方へっぽこだろう。)」

カノン「望むところだ!!」

アイオロス「お前達、喧嘩をするなら外でやれよ。」

カノン「うるせー、お前に言われなくたって分かってるよ。発情蠍、表でろ!!」

ミロ「望むところだ!」

カノンは手を放すと苛立ち気に私室の玄関を開け放ち、ミロと共に外へ出た。

その途端、背後でカチリと音がして振りかえる。

カノン「しまった!!」

ミロ「なんだ!?」

カノン「あの鶏野郎、謀ったな!」

アイオロスの手によって、再び同じ手口で双児宮から締め出されたカノンは、扉をドンドンと乱暴に叩いたが、もちろん中からの反応があるはずもなかった。

カノン「ごらぁ!鶏!!!あけろ!!あけやがれーーーー!!!」


アイオロス「お夜食ゲットだぜ!むはっ!」