真実の仮面 その7(飛び出せ!青春!)

 

すっかり体力は回復したものの、目の前に狙った獲物がいるというのに、手も足も出すことが出来ず、シオンの苛立ちは限界に達していた。他の獲物を求めて、外へ遊びに行こうにも、女神の結界が十重二十重にめぐらされ、金牛宮から一歩も外に出ることが出来ない。

シオンの獲物、つまりシオンがいまだ手を出せずにいる双子座の聖闘士と一つ屋根の下に閉じ込め、しかも監視をつける、女神のシオン軟禁作戦は大方成功していた。

双子座、牡牛座、天秤座、射手座の黄金聖闘士4人も敵に回しては、流石のシオンもどうすることもできない。そこで、シオンは机に向かい脳をフル回転させ、双子座襲撃計画を練っていた。

三時のお茶を運んできた童虎とタウラスは、机に広がった紙の山に眼を見張った。紙には見たこともない図形や、数式でびっしりと埋まっている。それが頭を抱えてペンを走らせているシオンの手から生み出されたものであることに間違いはなかったが、それが何を意味するかは、二人にはわからなかった。

童虎「なんだ、これは?落書きか?紙を無駄にするな。」

シオン「ふ、これはジェミニ襲撃計画だ!」

タウラス「何だ、また馬鹿なことを考えていたのか。」

童虎「俺には落書きにしか見えないがなぁ。」

シオン「猿のおまえにはわかるまい。おまえが持ってるのはアナザーディメンションの多様性の検討だ。」

童虎「そんなもん検討してどうする?」

シオン「猿でもわかるように説明してやろう。」

童虎とタウラスにシオンは練りに練ったジェミニ襲撃計画の詳細を説明したが、二人はシオンが言うところのアナザーディメンションやアトミックサンダーボルトの原理とその応用を理解することが出来なかった。

タウラス「しかし、シオン。その計画を俺達に話してしまったら意味がないのではないか?」

シオン「これは失敗策だ。」

童虎「・・・・・・わからん。」

シオン「その少ない脳みそで考えてみろ。三人いたら何ができる?」

タウラス「あ!アテナエクスクラメーション!」

シオン「そういうことだ。」

童虎「どうしてお前は、その頭脳を他のことに使わんのだ。」

シオン「私の頭だ。私がどう使おうと私の勝手だろう。」

童虎「どうして薬の発見や、算術の発展に使わぬ?」

シオン「算術が発展したところで、ジェミニが掘れるのか?」

タウラス「シオンは下半身が伴ってないと、頭が動かないんだぞ、童虎。だから、シオンに算術の開発は無理だ。」

シオン「はぁ・・・・・・・掘りたい。」

タウラス「なんだ、足りないなら、今すぐ抱いてやるぞ。」

隣に座ったタウラスの長い腕に抱きしめられて、シオンは深いため息をついた。
ジェミニに夜這いをかけないように、シオンはタウラスに抱かれて毎晩眠っていた。ジェミニを襲撃しようとベッドから抜け出てみるものの、双子座の聖衣の喋るマスクに騒がれたり、リビングで待ち構えている射手座に捕まったりで、一向にジェミニを襲うことどころか近寄ることも出来ないでいた。

シオン「なぁ、そろそろ私は飽きただろう。」

タウラス「そんなことはない。俺は一生面倒見てもいいんだぞ。」

童虎「そうだそうだ、このまま金牛宮に嫁入りしろ。」

シオン「ふ、それでは世の中の男が悲しむではないか。」

童虎「誰も悲しまん!この俺が保証する!!。」

タウラス「そんなことはないぞ、童虎。シオンは綺麗だし、可愛いしでモテモテだからなぁ。こうやってお前を独占できるなんて、いくら女神に感謝しても足りないくらいだ。」

のろけるタウラスにシオンはがっくりと肩を落とし、童虎はそれを見て腹を抱えて笑った。

シオン「はー、ジェミニに絞るからいけないのかな。」

童虎「俺を襲うなよ?!」

シオン「動物に手を出すほど落ちぶれてはおらん!。」

タウラス「いくらお前でも女神の結界から出ることはできんだろう。」

シオン「しかし、お前達は出入りしているではないか?」

実際ジェミニとサジタリアスは現在夕飯の買い物をしにふもとの市場へ出かけていた。

シオン「出られないのは私だけなら、他にいい方法があると思うのだが・・・・。」

タウラスの腕を解くと、シオンは紅茶を持って席を立ち、テラスで瞑想をはじめた。

 

童虎「どうして、ああも下半身でしかものを考えられないのかなぁ。」

シオンの底知れぬ実力をここ半年間でまざまざと見せ付けられた童虎は、台所で天秤宮から持参した中華鍋を洗いながら呟いた。

しばらくすると、テラスの方から声にならないかすれた悲鳴を童虎の耳は捕らえた。タウラスとシオンしかいないはずだが、悲鳴はどちらのものでもない。手にした鍋とお玉を持ったままリビングへ走り、テラスのシオンにむけて、左手の中華鍋を勢いよく投げつけると、見事鍋はシオンの頭部に直撃した。

シオンの下では全裸のピスケスが水に濡れた姿で怯えていた。

テラスに敷かれた石畳に中華鍋が落ちた音でタウラスも駆けつける。
恐怖心に支配され、動くことの出来ないでいるピスケスの小さな体をシオンから引き剥がすと、タウラスは鍋に当たって頭を抱えているシオンの頭を思いっきり叩いた。

タウラス「何をやっているシオン!!!!!!」

童虎「どうしてピスケスがいるんだ?!」

シオン「瞑想してたらな、こいつが水浴びしているのが見えたから、呼び寄せたのだ。」

童虎「おい、なんで、シオンの呼びかけについてきたんだ?!」

ピスケスは大きな瞳から涙を零しながら首を横に振った。

童虎「いくらシオンでも、お前が拒絶したら念動力で飛ばすことはできまい?!。」

シオン「ところがどっこい、できるんだな。」

童虎・タウラス「何だと?!」

シオン「いいか、見てろ。」

シオンは頭に手を当てたまま、銀色の睫の瞼を閉じて静かに小宇宙を高めてゆく。眉間に皺を寄せ、一瞬気合を入れると、シオンの目の前に買い物に行ったはずのジェミニがあらわれた。

シオン「どうだ!すごいだろう!!!」

ふんぞり返るシオンをめにして、ジェミニは手に持っていた買い物袋を落とした。

ジェミニ「え?!何?!どうしたの?!」

シオンが呆然としているジェミニの体を抱き寄せ、唇を重ねると童虎は右手に持ったお玉で、シオンの後頭部を力いっぱい殴る。シオンがひるんだ隙に、ジェミニは念動力でタウラスの後ろに移動した。

シオン「何しやがる!このエテ公!!!!」

ジェミニ「それは私のセリフだ、シオン!。ピスケス!君まで?!」

シオン「そうともよ。スニオン岬の岩牢で、念動力に磨きがかかったらしい。ここから出ることができないんなら、呼び寄せればいいのだ。はははは!。」

ピスケスをジェミニに預けると、タウラスはシオンの顔面に鉄拳を叩き込んだ。

タウラス「いい加減にしろ、シオン!。こんなことばっかりして、お前・・・また岩牢に閉じ込められたいのか。」

床に倒れたままシオンはタウラスを睨みつけたが、タウラスの瞳に涙が溜まっているのを見て顔を背けた。

シオン「・・・私のことはお前が一番よく解っているだろう。」

タウラス「だったら、女神に謝れ。一人で行くのが嫌なら、俺も一緒についていってやるから。」

 

結局シオンは7ヶ月に及ぶ禁欲生活に耐え切れず、ついに女神に「二度と悪さをしません」と謝罪した。

 


End