兄貴といっしょ(教皇さまのいいところ)

 

巨蟹宮
逆賊仲間のデスマスクは気心が知れている。
冥界編ではすっかりシオンに飼いならされていたデスマスクのことであるから、シオンのよいところの一つくらいは知っている可能性があるだろうと、サガは少しばかり期待した。
「デスマスク、教皇様のことで話があるのだが……」
「はぁん?」
悪人面をゆがめてデスマスクは眉を吊り上げた。
「何だ、またブスリと殺るつもりか?せいぜい返り討ちにあわねぇようにな」
デスマスクにまで勘違いされたサガは深いため息をつき肩を落とした。だが、デスマスクはそんなサガの様子など気にもせず
「俺っPiは今も昔もこれからも力こそ正義だ!だから、お前が暗殺を計画してることを、さくっと教皇にチクっておくからよ。首洗って待ってるこったな」
と邪悪に笑った。
今まで逆賊仲間だと思っていたのに、あっけなく裏切られたサガは思わずデスマスクの胸倉を掴み睨みつけた。
「デスマスク、耳の穴かっぽじってよーーく聞け。いつ私が教皇様を暗殺するといった。これ以上余計な罪を私に着せるのはやめてくれ。現状で精一杯なのだ」
デスマスクはサガの手を払うと鼻で笑う。
「サガで教皇といったら、イコール暗殺だろ。おめぇ、少しは自分の立場考えて話したらどうよ?」
まったくもってデスマスクの言う通りであり、サガは誤解される原因が話し方にあると気付きデスマスクに謝った。そして単刀直入に本題を切り出す。
「実はな病院で教皇様と上手くやっていけないからどうしたらいいのかを相談したら、教皇様のいいところを探せと言われたのだ。お前、思い当たるところはないか?」
「最初からそう言えよ。はー、あの爺さんのいいところねぇ……。ああ、200年間聖域を食いつぶさなかったところじゃねーの」
「それは老師様に言われた」
「ああ、信心深いなあのじーさん」
「教皇なんだから当然だろう」
「あー……うーーーん」
デスマスクもやはり唸り声を上げて悩みこんでしまう。童虎の言うとおり諸悪の根源のようなシオンのいいところを探すなど、大海原に落ちた花の種を探すようなものなのだ。
「あ!そうだ」
わざとらしく手をたたいたデスマスクにサガはパッと顔を明るくした。
「教皇はな、偽教皇と違って気前がいいな。ほれ、そこにある銀のワイングラスを見ろ」
デスマスクが指差した棚には花や鳥の繊細な彫刻が施されている2対の銀製のカップが飾られている。
「教皇と昼飯を食っているときにあれが出てきてな、あまりにもイカしてっからクレクレいったら、ポンとくれたのだ。銀無垢だぞ、銀無垢。どっかの偽教皇はてめぇばっかり贅沢しやがってケチクサかったからな」
「ふっ、お前だって私腹を肥やしていたではないか」
「おめぇと一緒にすんな、おめぇとよ。おめぇは聖域を食いつぶしたじゃねぇか。俺は罪人、おめぇは大罪人だ」
「ふ、片棒を担いでいたくせに何を言っている。まぁ、いい。そうか、教皇様は気前がよろしいのか……」
サガはふと疑問に思った。シオンに物を強請ったら、間違いなく見返りに体を要求されるであろう。ノン気のデスマスクはシオンに体を売ってまで銀のカップが欲しかったのか?はたしてそうまでして手に入れて「気前がいい」というのだろうか?
「デスマスク、あれを貰ってなにか見返りを要求されなかったのか?うなじ舐めさせろとか、裸で出勤してこいとか……掘らせろとか」
「いや、全然。『こんな素晴らしいもの見たことねぇ、デスマスク家の家宝にするからくれ』って言ったらくれたぞ」
「……またまたまたぁ、恥ずかしがることはないぞ。本当は教皇様にガバっとズボっと掘られたのだろう」
「おめぇと一緒にすんな。俺はホモじゃねぇ」
「うむ……、そうか……意外な一面をお持ちでいらっしゃるのだな……」
「まぁ、腐っても本物の教皇だからな。いいところの一つや二つくらいはあるだろうよ」
その後サガはデスマスクの作った昼食を一緒に食べたが、貰った銀のカップが、実は昔シオンが暇を持て余して作ったものだったので、大絶賛されて嬉しかったのでデスマスクに気前よくあげたという事実は、デスマスクの口から語られることはなかったのだった。

処女宮
サガの記憶が確かならば、今日の執務当番はアイオロスとアイオリアだ。獅子宮は無人だったので素通りし、処女宮へと入った。宮の中では相変わらずシャカ専用台座の上でシャカが座禅を組みながら眠っている。
「……シャカは人を見る目がないからな……」
自称もっとも神に近い男のくせして、偽教皇の正体を見抜けなかったシャカに、サガは苦笑いを浮かべてつぶやいた。
「……何をしているのかね?」
「ああ、起してすまなかったな」
「……寝てなどいない」
寝ていたではないかと口にださず心のかなで突っ込みを入れ、サガは立ち去ろうとしたが、シャカが引き止めた。
「で、何をしに来たのかね?」
「ああ……そのだな……」
「はっきりしたまえ!」
「教皇様のよいところを調べているのだが……」
「ほう……。それで、成果はあったのかね?」
「うむ、教皇様は聖域を200年以上も守り続け、信心深くて美形で気前がよいのだ」
「それだけかね」
「他に知らないか?」
「…………」
シャカは目を閉じたまま首をかしげて唸り声を上げた。そして天に指を掲げると
「神が教皇に良いところなどないと言っている!!」
と言い切った。
サガはシャカのまったく当たらない信託に頷き、やはりシオンにもいいところがあるのかと、調査を続けることにした。

天蠍宮
相変わらずゴミだらけで床の見えない天蠍宮にサガは眉根を寄せると、私室の入り口でミロを呼んだ。
「入ってこいよ〜」
と、ミロの返事はあったが、廊下まで物だらけで足の踏み場がない。
サガはゴミを拾いながらミロの巣にはいると、珍しくミロが机の上で鉛筆を持っているので、目を剥いて驚いた。
「どうしたんだ、ミロ?!お前は本物のミロか?!」
「うるさいなー!明日宿題提出しないと教皇に掘られちゃうんだよー」
これでこそ教皇シオンである。
ふてくされているミロの言い分に、サガは思わず頷いてしまった。
「教皇に掘られるとイかされまくっちゃって、3日は勃たなくなっちゃうからやなんだよな……」
シオンの絶倫ぶりはサガも知るところであるが、床上手なのは長所に入るのだろうかと、サガは小首をかしげる。
「で、サガは何しにきたの?部屋片付けてくれるの?宿題やってくれるの?」
「いやそのだな……お前に聞きたいことがあるのだ」
「はぁ?」
「教皇様のよいところはどこだと思う?」
「それって教皇の性感帯はどこかってこと?」
とんでもない新解釈にサガは思わずミロの頭を力いっぱい殴ってしまった。
「いてぇな!何すんだよ!これ以上バカになったらカミュに嫌われるだろ!!」
「大丈夫だ、それ以上馬鹿にはならん。私は教皇様の長所をきいているのだ」
「教皇の長所ねぇ……」
ミロはわずかな脳みそをフル回転させ唸り声をあげる。
「う〜〜ん……セックスが上手いところ?」
ようやく出てきた答えに、やはりミロはミロたんかとサガは苦笑いをした。
「他にはないか?信心深いとか、気前がよいとか」
「他ねぇ……うぅぅん……。あ!」
「何かあったか?」
「教皇頭いいじゃん。数字が沢山並んでるの簡単に計算しちゃうし、難しい本読んでるし、日本語の勉強してるし、いろんなこと知ってるし。ザツガクってやつ?」
「それを言うなら博学だ」
確かにシオンは博学である。2百年以上も無駄に生きていただけあって、何でもよく知っている。サガも子供の頃、シオンの博学ぶりに感心し、この方には知らないことなどないと思っていたほどだ。
ミロに部屋を片付けるように言ってサガは天蠍宮を後にした。

磨羯宮
「シュラ、いるか?」
サガは1階から2階の私室にいるであるシュラに声をかけたが返事はなかった。
階段を上り、勝手に部屋へ上がりこむと、シュラはソファーの上でいびきをかいて夢の中だった。侵入者に気付かないほどの熟睡振りとは、今日は朝帰りでもしたのであろうか。
サガはシュラの鼻をつまみ、口を手で押さえると、程なくして息の詰まったシュラが苦しそうに目を覚まし暴れ始めた。
「おはよう、シュラ」
「ゲホッゲホッ!この大罪人!!!今度は俺を殺す気か!!」
目に涙を浮かべて咳き込むと、シュラはサガの胸倉を掴んだが、それはすぐに払われてしまった。
「お前など殺しても1ユーロの得にもならん。いいから私の質問に答えろ。教皇様のいいところはどこだ?」
「はぁぁん?んな下らない事で俺の昼寝を邪魔しないで下さい」
クッションを敷きなおし再び寝ようとしたシュラの鼻をサガは力いっぱいつまんだ。
「お前にとっては下らないかもしれんが、私にとっては重要な問題なのだ。教皇様の長所はどこだ?言え!言うんだ!!」
「ぎゃーーーー!らりふるんへふか!!!」
サガの手を払い飛ばし、シュラは鼻を押さえてうずくまる。
取り乱しているサガには逆らわないほうが良い。
シュラの勘がそう告げた。
「……なんですか、一体。いつから教皇萌えになったんですか?」
「もえ?何だそれは?私は医者から言われて教皇様のよいところを調べているだけだ!」
「はぁ……教皇のいいところね……うぅ〜〜〜ん」
シュラもまた唸り声をあげ、首をかしげたまま固まってしまった。
「あ、あった」
わざとらしく手を叩いたシュラは、唇を吊り上げいやらしく笑った。
「流石シュラだ。で、何だ?」
「なかなか綺麗な顔してるんですよ、あの教皇。もうちょっと弱かったら掘ってみたいんだけどなぁ……教皇がアンアン喘いでるの見たくありません?脚なめてぇーーーー!」
「そ、それは既出……」
サガは顔を赤くして口篭もった。すると、シュラは粒目を剥いて仰天する。
「何!?俺以外にも教皇掘りたいって考えている奴がいるんですか?!老師ですか?カミュですか?!俺と老師とカミュでアテナエクスクラメーションして教皇を輪姦か……悪くはないなぁ……」
「そんなこと考えるアホはお前しかおらん!!教皇様の素顔が綺麗だということだ!」
サガに頭を殴られて、シュラはうずくまった。
「他には?」
「……いってぇぇなぁ……他ですか?うーん……セックスが上手いところとか、どうですかね?何度かうっかり掘られちゃったんですが、気持ちよくってイきまくっちゃいましたよ」
「そ、それも既出だ。そういうことから離れろ!」
「あ、絶倫なところ。よくムウを拉致って監禁してたじゃないですか。俺も絶倫だけど、相手が干からびるまで掘るのは難しいですねぇ」
「だから下半身から離れろといっているのが分からないのか!」
再びサガに頭を殴られ、シュラはうずくまった。こぶのできた頭をさすりながら、シュラは教皇の長所を考えてみたが、思い浮かぶのは下半身のことばかりである。
「ぅ〜〜〜ん、あのじーさん下半身以外にとりえあるのか……?」
「それがわからないからきいているのだろう」
「ぅ〜〜〜ん、あっ、あった!」
サガは片眉を吊り上げ、下品な話をしないようにシュラをにらみつけた。
「カリスマですよ、カリスマ性。冥界でサガが女神のために十二宮へ行こう!って言ったところで誰もついていかなかったでしょうね。俺は絶対いきませんよ」
「ぅっ……それはたしかに……」
「あのじーさん、カリスマの塊っていうか、妙な迫力ありますよねぇ……。有無を言わせない迫力って言うんですか?」
「口答えしたところで『うろたえるな小僧』で吹き飛ばされるからな」
「教皇たるものあのくらい強引にみんなを引っ張っていけなきゃダメってことですかね。やっぱり本物は違いますねぇ、サガ」
「ぅっ……そ、そうだな。やはり私ごとき若輩がなりきれるものではないな……」
グサグサと古傷を抉るシュラに居た堪れなくなり、サガは礼を述べて部屋から出て行った。


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