白羊家の食卓10(たまごクラブ その2)

 

シオンの寝室

童虎「して、いったい何なのじゃ?ムウたちへの嫌がらせにしては、ちと幼稚で無理があるのう」

シオン「嫌がらせではない。お前のせいじゃ」

童虎「ほう〜、またわしのせいか。シオンが麻呂眉なのも、女神が女性なのも、空が青いのも全部わしのせいと昔からゆうておったからのぅ」

シオン「そうではない。本当にお前のせいで、卵がいやなのじゃ」

童虎「わしのせいで卵が嫌いになるほど、お前は可愛い男であったか?牡羊座アリエスのシオンもずいぶんと落ちぶれたもんじゃのぅ。卵が嫌いなのを、わしのせいにするとはのぅ」

シオン「ふんっ。お前にはわかるまい。240年近く生きておった余でも、あれは今でも夢に見るほど……」

童虎「は?卵が夢に出てくるのか?」

シオン「違うというておろう。だからお前のせいなのじゃ!!お前が、聖戦のおり……」

童虎「わしは卵などぶつけてはおらんぞ?それに、それくらいで卵が嫌いになるほど、お前は弱虫ではあるまい」

シオン「ああ、もう。いい加減にしろっ、童虎!」

童虎「それはこっちのセリフじゃ、シオン。お前のいうてることは、さっぱりチンプンカンぴーじゃ!」

シオン「だから、お前が爺からその体に脱皮したであろうが!」

童虎「それがなんの関係がある」

シオン「お前にはわからんであろうが、あの紫のよぼよぼの乾いた皮にピリピリっとヒビがはいり、あまつさえそこから光が幾重にも放たれるさま……」

シオンはガクガクプルプルと体を震わせた。

シオン「あんなもの見せられては、誰でも卵が食えなくなるわ!とにかくお前のせいなのじゃ。死んでわびよ!」

童虎「話をすりかえでない。わしの脱皮と卵、どう関係がある。まった、これだからボケ老人は面倒くさいのじゃ」

シオン「だからいうておるではないか!!お前の脱皮姿、卵にそっくなのじゃ!!」

童虎「なぬ!?」

シオン「爺の時、お前の頭は卵みたいヒビが入って、割れたではないか。しかも、なかから気持ち悪いものがでてきおった!!あの衝撃、今でも忘れられん!ソレさえなければ、あの時お前の息の根を止められたものを!!」

童虎「は?気持ち悪いとは失礼な!!かっこよいではないか!」

シオン「気持ち悪いどころではない。どこの世界に脱皮する人間がおるのじゃ!」

童虎「スペクターにおるじゃろう?お前、かつての聖戦のときは、気持ち悪いスペクター共を笑ってなぎ倒しておったではないか」

シオン「お前の脱皮はそれ以上に衝撃的だったのじゃ。あれは放送してはいかん……」

童虎「だからデぇブイデーなのじゃろ?」

シオン「話をすりかえるでない。とにかくお前のせいじゃ。死んでわびよ!」

童虎がニヤリを笑ったのを見て、シオンは無い眉を寄せた。

シオン「誰にもいうでないぞ。この教皇たる牡羊座のシオンが、お前の脱皮を見て卵を食せなくなったなどとは……」

童虎「そんなこと分かっておる。わしはお前と違って慈悲深いからのぅ。それよりも、そんなに気持ち悪かったかのぅ……、かっこいい登場の仕方かと思うたのじゃが……ショックじゃ」

シオン「余のほうがショックが大きい……。卵のヒビ……あれを見るたびに、お前の脱皮を思い出すのじゃ」

見た目18歳、中身老人の二人は同時にため息をついた。

 

教皇の間

朝から気分の悪いシオンは、その日の執務当番であるアフロディーテとシャカに気を取り直して、期待に股間を膨らませていたシオンは、仮面の下で無い眉をつりあげた。

シオン「お前達、その手に持っているものはなんじゃ?」

シャカ「みて分からないのかね?」

アフロディーテ「卵です!」

シオン「分かっておる。何故に、それを持っておるのじゃ?」

シャカ「なにか問題でもあるのかね、教皇」

シオン「執務にそれは必要あるまい」

アフロディーテ「何をおっしゃっております。魔よけですよ、魔よけ」

シャカ「まさか、教皇たるもの、卵が苦手ではあるまい」

アフロディーテ「まさか、そんなことあるわけなじゃない、シャカったら」

アフロディーテはシャカの瞼の奥の瞳と目を合わせると、互いに唇をつりあげた。

シオン「童虎か?」

アフロディーテ「何がでしょうか?」

シオン「童虎から聞いたのか?」

シャカ「神が、『教皇は卵が嫌い』だといったのだよ!」

シオン「ふむ、童虎じゃな。ちと待っておれ」

シオンは目をつぶるとそのままテレポートで消えた。

 

白羊宮

ムウ「おや、シオンさま、お早いお帰りで」

シオン「ムウ。童虎はどこじゃ?」

ムウ「老師さまでしたら、天秤宮かと。まさか、卵が怖くて教皇の間からお逃げになられてきたのですか?」

シオン「なぬ!?お前まで知っておるのか?」

ムウ「ええ」

シオン「おのれ、童虎め……」

ムウ「老師さまがどうかされましたか?」

シオン「余を裏切ったのじゃ。誰にも話すなというたのに」

ムウ「それなら御安心ください、シオンさま。老師さまは約束どおり、どなたにもお話にはなられておりません」

シオン「なぬ!?」

ムウ「シャカに教えたのは、私です」

ニッコリと微笑むムウに、シオンはむうと唸って、冷や汗を流した。

シオン「どうしてそれをムウが知っておるのじゃ。童虎が話さねば、お前がそれを知るはず……」

ムウ「アイオロスも貴鬼も、アルデバランもカノンも知ってますよ」

シオン「どういうことじゃ?」

ムウ「寝室のドア越しに盗み聞きしました。あれだけ大きな声でおっしゃられれば、盗み聞かなくても聞こえます」

シオン「……。では、なぜ乙女達に教えた?」

ムウ「シオンさまは、私達には内緒にするようにとはおっしゃられませんでした」

シオン「ということは……」

ムウ「はい。今頃は、アイオロス達も皆に教えていることでしょう」

シオン「おのれ、ムウ。仕置きが必要かのぅ。近う」

ムウ「はい」

ムウはニッコリと微笑むと、珍しく進んでシオンに歩み寄ると、その手を取った。そして、なんとその手の上に卵を乗せた。

シオン「こ、こ、これは!!!!」

ムウ「ヒビ入りゆで卵です。シオンさまのために紫に塗っておきました」

シオン「ひ、ひぇ!」

シオンはその場から卵を残してテレポートした。

 

夕方。

執務から帰ったシオンは、食卓に並んだ料理を見て、ない眉をひそめた。ゆで卵が山盛りおかれているのである。
しかもどの卵も、ご丁寧に紫色をしており、中には笠までかぶった卵まであった。

童虎「今日の執務当番はどうしたのじゃ?早く帰らせたそうじゃのぅ」

シオン「いったいこれはなんじゃ?」

シオンは童虎を無視してムウに怒鳴った。

ムウ「卵ですか、なにか?」

シオン「なにか?、ではなかろう。余が嫌いなのを知っておって、何故に……」

ムウ「好き嫌いはいけません、シオンさま。私は13年前に亡くなられた師に、そうきつくいわれました」

アイオロス「あっ、私も昔教皇にきつくいわれたなぁ」

ムウ「克服するにはどうしたらいいんでしたっけ?」

アイオロス「首からぶら下げる!これ最強だ!」

ムウ「なるほど……」

シオン「いい加減にせい、お前達。気分が悪い、今宵は教皇の間に泊まる」

シオンは頬を引きつらせたままテレポートした。

ミロ「教皇が卵怖いってマジだったんだ。てっきりまたカノンが俺を騙してるのかと思ったぜ」

 

翌日。

シオンは出勤してきたカミュとアイオリアにない眉をひそめた。紫色の卵を持っているのである。

カミュ「おはようございます、教皇」

シオン「お前たちもか……」

カミュ「こうすれば、教皇に襲われないと皆が教えてくれました」

アイオリア「卵が夢に出てくるほど恐ろしいとか……」

シオン「知っておるなら、余の前にそれを見せるでない」

アイオリア「しかし、教皇に襲われずに仕事をするには、これしか方法がありません」

シオン「もうよい、お前たち今日は帰れ」

シオンは頭を押さえながら、シッシッと手を振った。

昼になって、執務室にムウが現れた。

シオン「どうしたのじゃ、ムウ?尻が寂しくなったか?」

顔を上げたシオンは、ムウの他に、ミロ、シュラ、カノンが後ろにいるのを見て、ない眉を顰めた。

シオン「ほうほう。ギャラリーがいるほうがよいのか?」

ムウ「お昼を届けにまいりました」

シオンの戯言を軽く無視したムウは、手にもった籠をシオンのデスクにのせると、シオンは仮面の下で頬を引きつらせた。
籠にかけられた白いの布下は、どうみてもアレしかありえなかった。

シオン「おぬし、この余に嫌がらせをするつもりか?」

ムウ「いえ、これもシオンさまのためでございます。好き嫌いはよろしくありません」

ムウはニヤリと笑うと、籠の上にのった白い布を取った。その下から現れたのは同然卵である。しかも、御丁寧にヒビいり紫卵であった。

シオン「う、うろたえるな、小僧ーーーーっ!!!」

卵とムウ、ミロ、シュラ、カノン、が宙を舞った。だが、落ちてきた卵が額に当たったシオンは、小さな悲鳴をあげてその場から姿を消した。

卵は衝撃で無数のヒビがはいっており、まるで童虎の脱皮寸前のようであった。

その日、シオンが白羊宮に帰らなかったのは言うまでもない。

 

さらに翌日。

この日の当番のミロとアルデバランも紫卵を持って出勤した。尻に危機感の無いアルデバランは、日頃ムウとともに虐げられている腹いせのためである。

ミロ「おはようございますっ!!」

シオン「お前たち、いい加減にせい。牛、お前までなぜに卵を持っておる。余はお前の尻など興味などない、早々に捨てよ」

アルデバラン「ムウから、教皇の好き嫌いをなおして欲しいとお願いされまして。教皇、好き嫌いはよろしくありません。好きでも食べられない人間が、世界には五万といるんですよ」

シオン「わかっておる」

シオンは視界に卵が入らないように目をそらした。最初からそうすればよかったのである。

シオン「して、蠍よ。宿題はどうした」

ミロ「やってません」

ミロは卵を持って勝ち誇るように言った。

シオン「ほう。では仕置きが必要じゃのぅ」

ミロ「そんなこと言ってもダメです。今日の俺はいつもと違うんですから!!」

シオン「何が違うというのじゃ?」

ミロ「ほら、教皇♪」

ミロはシオンに卵を突きつけた。

シオン「ほう……随分と卑怯なまねを」

ミロ「教皇だって、権力に物を言わせて俺のこと襲ってるじゃないですか」

ミロはほらほらと、両手にもった卵をシオンに見せ付けた。だが・・・。

シオン「たわけが」

ミロ「え?」

シオンはミロの手の中の卵を取ると、それをグシャリと握りつぶした。

シオン「3日も毎日嫌がらせを受ければ、慣れるわ。この余を誰だと思っておる」

ミロ「えっ!?えっ?」

シオン「牛よ、今日はもう帰ってよいぞ。それと、今晩は精力をつけるため卵料理をたっぷり用意するようにゆうておけ」

仮面を取ったシオンは、この上なく極悪な笑顔を浮かべてアルデバランに言うと、ミロの手を引っ張った。

ミロ「きょ、教皇??」

シオン「ふふふっ、覚悟するがよいぞ、蠍よ」

ミロ「あきゅ〜〜〜〜〜〜〜〜」

デスクに押し倒され、光速でズボンとパンツをめくられたミロは、尻に生卵をなすりつけられながらそのままシオンに突っ込まれた。

こうして、3日限りのシオンの弱点は嫌がらせが過ぎたために、あっという間に克服されてしまったのであった。


end