きょうのわんこ

 

翌朝

すっかりシオンを信用しきっていたアステリオンとダンテの犬コンビは、只ならぬ気配を感じて白羊宮のリビングのソファで目を覚ました。

その途端。仁王立ちをしたジャージ姿のシオンが目に飛び込んできて、飛び起きた。

ダンテ「きょ、教皇ッ!?」

シオン「犬よ、散歩にいくぞ」

アステリオン「はえ?」

ダンテ「さん、ぽ?」

シオン「犬といったら、散歩であろう」

アステリオン「は、はぁ、確かにそうですが」

シオン「ついて参れ」

アステリオン&ダンテ「はいっ、教皇っ!」

シオンはアステリオンとダンテを連れて白羊宮を出た。

 

朝早くから聖域の見回りをしていたアルゴルとミスティは、はるか前方から走ってくるアステリオンとダンテに首をかしげた。

アルゴル「ま、まさかあいつら教皇の間から逃げ出したんじゃないだろうな?」

ミスティ「えぇ、まじでぇ? ケツ掘られたくらいで逃げ出すなんて、だから青銅にやられるんだよ」

アルゴル「お前もやられただろうが」

ミスティ「うっさい!! とッ捕まえて、教皇に突き出しちゃおうよ」

アルゴル「お前、仲間を売るのか?」

ミスティ「ここで私らが手柄を立てれば、目立つしー、出番増えるしー、教皇に名前覚えてもらえるしー」

アルゴル「お前なぁ」

ミスティ「それに、ここで見逃したらのがばれたら、私らの尻がヤバイかもよ」

アルゴル「う゛っ、それは勘弁……」

ミスティ「ということで、捕獲決定!」

ミスティは意気揚々とアステリオンとダンテの前に立ちはだかった。

アステリオン「おい、邪魔だ」

ミスティ「ここは通さないよ」

ダンテ「はぁ? お前、誰に口利いてるんだ」

アルゴル「お前ら、考え直せ。教皇に逆らうのはやばいぞ。いくら俺達が地味で目立たないからって、教皇に逆らえば大変なことになる」

アステリオン「あのな、そのせりふ、そっくりそのままお前に返してやる」

ミスティ「え?」

ダンテ「教皇様のお通りだ、お前ら道をあけろ」

シオン「ん? どうしたのじゃ?」

ダンテとアステリオンの後ろから呑気に歩いてきたシオンの姿に、ミスティとアルゴルの顔が蒼白になり、慌てて道をあけると地べたに這い蹲る。

アルゴル&ミスティ「げっ、きょ、教皇さっま!?」

シオン「なにごとじゃ」

アステリオン「いえ、なんでもございません教皇」

ダンテ「ささ、行きましょう」

シオン「うむ、その者達は見回りであるか?苦労である」

ミスティ「ははぁ」

シオン「では、行くぞ」

アステリオン&ダンテ「はい、教皇」

アステリオとダンテは、地に額を擦り付けてプルプル震えているミスティとアルゴルに勝ち誇った笑みを送ると、意気揚々と歩き出した。

ミスティ「今のなにあれ?」

アルゴル「あいつら教皇の前を歩いていたよな」

ミスティ「まさか教皇の護衛?」

アルゴル「そんな、白銀ごときが黄金聖闘士をさしおいて!?」

ミスティ「でも他にいなかったじゃないか」

アルゴル「あのポジションって、次期教皇と偽教皇のポジションだよな?」

ミスティ「……ていうか、なんであの二人が?」

アルゴル「お稚児さんじゃなかったのかよ?」

ミスティ「でも、掘られたような形跡なかったっぽくない? なんか顔も明るかったし、普通に歩けてたし」

アルゴル「まさか異例の大出世ってやつ?」

ミスティ「なんであの地味な二人が!! 出世頭はピンで下敷きにもなってる私たちでしょうが!」

アルゴル「そんな昔のこと、地味すぎて誰も覚えてないだろうよ……」

ミスティとアルゴルは仲間の出世に地団駄を踏んだ。

 

一方ワンコ二人はというと。

アステリオン「なぁ、ダンテ。俺達、今、めちゃめちゃ美味しくないか?」

ダンテ「このまま教皇に気に入られて、教皇付き白銀聖闘士なーんてことに!?」

アステリオン「さらにその実績が買われて、次期教皇アイオロスさま付きなんてことにも」

ダンテ「参謀長も夢じゃなかったりして?」

アステリオン「パエトンですらなれたからな、俺らにも可能性あったりなーっ!」

シオン「(アホじゃのう)……犬よ」

アステリオン&ダンテ「はいっ、教皇!」

アステリオンとダンテは見えない尻尾を音速で振って、シオンに振り返った。

シオン「準備運動は終わりじゃ」

アステリオン「準備運動?」

シオン「走るぞ、ついてまいれ」

アステリオ&ダンテ「はい、教皇ッ!」

シオンは光速で走り出した。

 

 

白羊宮

トレーニングを終えて十二宮に戻ってきたアイオロスは、犬二匹を肩に担いで白羊宮の階段を上るシオンの後ろ姿に、首を捻った。

アイオロス「とうとう犬を食っちゃったんですか? しかも青姦ですか?」

シオン「余は犬は食わぬ。散歩にもついてこれぬとは、聖闘士のくせに柔じゃのう、途中でバテおった」

アイオロス「光速で走ったんじゃないでしょうね」

シオン「あたりまえであろう」

アイオロス「光速で走っちゃ、白銀には追いつけないですよ……」

シオン「全面ドッグランの聖域じゃ、一緒に走らねば散歩の意味がないではないか」

アイオロス「老人は老人らしく、ゆっくり散歩すればいいのに……」

シオン「なにかゆうたか?」

アイオロス「いえ、なにも」

シオンにギロリと睨まれたアイオロスは慌てて口を閉じた。

シオン「余は風呂にはいってくるゆえ、犬に水をやってくれ」

アイオロス「え? 私がですか? 犬の面倒は飼い主がみてくださいよ」

シオン「白羊宮で勝手に風呂にはいって飯をたかっておるのじゃから、それくらいせい」

アイオロス「はい、はい、分りましたよ」

シオン「ハイは一回でいい」

アイオロス「は〜い」

アイオロスは嫌々返事をすると、目を回して床に転がっているアステリオンとダンテにため息をついた。

アイオロス「おい、起きろ。起きろってば。お前ら仮にも聖闘士だろう、それくらいでばてるな」

アイオロスはパチパチと頬を叩いてみたが、アステリオン達はまだまだ目を回している。

アイオロス「まったく、・・・・(おい、貴鬼)」

貴鬼「(オイラの小宇宙に直接かたりかけるのは、射手座のアイオロス)」

アイオロス「(お約束はいい、バケツに水を入れてもってこい)」

1分後貴鬼がバケツを持って現れると、そのバケツの中の水をアステリオンたちにぶちまけた。

アステリオン「!!!!」

ダンテ「うわっぷ!」

アイオロス「おう、目が覚めたか」

アステリオン「じ、次期教皇!?」

ダンテ「ここは?」

アイオロス「白羊宮だ。散歩の途中、目を回したんだとよ」

アステリオン「え? じゃぁ、どうやってここに?」

アイオロス「教皇が担いで来た」

ダンテ「まじですか!?」

アイオロス「おう、珍しいこともあるもんだな。普通なら、そのまま放置プレイが基本なんだが」

アステリオン「もしかして俺達、教皇に本当に大事にされてる!?」

アイオロス「さぁな、取りあえず尻が無事かどうかだけ確認しておけ」

ダンテ「…………痛くない、です」

アステリオン「大丈夫そうです……」

貴鬼とアイオロスは驚きを満面に浮かべて、互いの顔を見合った。信じられないのである。

ダンテ「やっぱり俺達、……」

アステリオン「教皇に気に入られてるんだ!」

アステリオンとダンテは互いに顔を見合わせてニヤリと笑ったのであった。


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