白羊の食卓その12(愛のお雑煮大作戦)

 

獅子宮
アイオロス「リア、アイオリア!」
アイオリア「ああ、兄さん、もう仕事終わったの?」
雑兵達と新年を祝ってきたアイオリアは、ほろ酔いで上機嫌だった。
アイオロス「お前、魔鈴のエレファント・チチュー食ったか?」
アイオリア「は?象煮?」
アイオロス「今日、昼間白羊宮に魔鈴と星矢がきて、日本の伝統的な食べ物、エレファント・シチューをムウに作らせたんだ!」
アイオリア「そうか〜〜魔鈴、聖域にいるんだ〜へへ」
アイオロス「笑ってる場合じゃないぞ!ムウの作ったエレファント・シチューを食った魔鈴はな『こんな美味いエレファント・シチューを作れるムウの子供になりたい』って言って帰ったんだぞ!」
いつもなら、こんなことを言われた時点で顔を青くし、ガクガクと震え、自殺しようとするアイオリアが今日は珍しく不適に笑った。
アイオリア「兄さん、もうその手にはだまされないよ」
アイオロス「何だと?!お前、兄ちゃんを疑うのか?!」
アイオリア「そうだよ!!前回の『ミート&ポテト』、後で星矢に聞き直したら、全然違う食べ物だったんだぞ!!シャイナの作ったクソ不味いミート&ポテト食べたけど、全然ステーキでもなんでもない、ただの肉とイモの失敗したシチューみたいのだったんだからな!そうやって俺を煽って、魔鈴と俺を今すぐくっつけようとするのやめてくれよ!俺にだって心の準備って物があるんだから!」
真っ向から反抗してきた弟にアイオロスは立派な眉毛をピクリと吊り上げると、問答無用で顔面を殴り倒した。
アイオロス「馬鹿野郎!!お前は一体心の準備に何年かけているんだ!そんなんだからムウに魔鈴を寝取られるんだぞ!!」
アイオリア「それも星矢に確認した!魔鈴もムウを男として見てないんだよ!もう俺の事に首つっこむのやめてくれよ!」
アイオロス「大馬鹿野郎!!」
再び鶏パンチが炸裂し、アイオリアは鼻血を出して宙を舞った。
アイオロス「さっきから聞いてれば、星矢だのシャイナだの、お前は魔鈴から一言もきいていないじゃないか!!」
アイオリア「……そんなこと、恥ずかしくて聞けるわけないだろう」
アイオロス「魔鈴の本当の気持ちも確かめず、外野の情報だけど意気揚揚としているお前を見ているとな、兄ちゃん情けなくって涙がでてくらぁ……」
手の甲で滝涙をぬぐう兄にアイオリアはギョっとした。
アイオロス「いいか!魔鈴は『ムウの子供になりたい』っていったんだぞ!!それはすなわち、家族になりたいということだ!!」
アイオリア「それがどうしたの?」
アイオロス「超馬鹿野郎!!」
またまたアイオロスの鶏パンチが炸裂し、アイオリアは鼻血を出して宙を舞った。
アイオロス「だからお前はいつまでたってもリアたんなのだ!いいか、耳の穴かっぽじってよーーく聞け!家族になりたいってことは、『結婚したい』ってことを包み隠しているんだぞ!!お前には女心がわからんのか!!魔鈴は美味いエレファント・シチューが作れる男と結婚したいんだ!」
アイオロス「兄さん……それミート&ポテトと同じパターンだよ。兄さんこそ学習してないね……」
アイオロス「極馬鹿野郎!!」
またまたまたアイオロスの鶏パンチが炸裂し、アイオリアは鼻血を出して宙を舞った。
アイオロス「どうしてお前はそうやって後ろ向きなんだ!今回の兄ちゃんは違うぞ!!ちゃんとエレファント・シチューを食ってきた!」
アイオリア「……大体象って時点でおかしいよ……」
アイオロス「兄ちゃんもおかしいと思った。だがな、新年にしか食べられない特別な料理なんだ!」
アイオリア「……」
アイオロス「しかも美味い!」
アイオリア「……」
アイオロス「魔鈴が聖域にいるうちにエレファント・シチューを作って、アピールするんだ!」
アイオリア「でも、どうやって作るんだよ……」
アイオロス「シチューなんて具を突っ込んで煮ればいいだけだろう。ちゃんと中に入ってたものは覚えてきたから大丈夫だ!」
アイオリア「で?何が入っていたの?」
アイオロス「カブと、ニンジンと、鶏肉と、ハーブと、レモンの皮と、マッシュルームと白いのが入っていた」
アイオリア「白いの?象は?」
アイオロス「白いのが象だ!ぐにゃっとしてネバっとしているんだ」
アイオリア「どうして肉が白いんだよ……」
アイオロス「象の脂肪だろう」
アイオリア「でも、象の肉なんてどこで買うんだよ。俺、アフリカ行って象殺すのはいやだよ」
アイオロス「……それは兄ちゃんも嫌だ。アフリカ行けば象の肉が売ってるんじゃないのか?」
アイオリア「あ、そういえば、前にシュラがアフリカでシマウマのステーキ食べたって言ってた!」
アイオロス「よし!道が開けてきたぞ!明日はシュラに象の肉が帰る場所を聞いてアフリカだ!!」
アイオリア「兄さん、今度こそ俺、成功するような気がしてきたよ!」
こうしていつも通り甚だしく勘違いしたまま、アイオロスとアイオリアは明日に向けて筋トレをはじめたのだった。

3日後
獅子宮でなべの中を覗いたアイオロスは小首をかしげた。
アイオロス「おい、アイオリア。なんで赤いんだ?」
アイオリア「へ?何が?」
アイオロス「シチューだ、シチュー!兄ちゃんが食ったシチューはコンソメみたいな色していたぞ!」
アイオリア「はぁ〜、まったこれだから兄さんは……」
大げさに腕を広げ、アイオリアはあきれたというポーズをとった。
アイオリア「ここはギリシャなんだよ、兄さん。日本と同じ材料なんて手に入るはずないだろ。それなのに同じ物を作ろうとするから失敗するんだ。ギリシャ風のエレファント・シチューを作って『これがウチの味だ!』って言えばいいんだよ」
アイオロス「おお!流石兄ちゃんの弟だ!!」
アイオリア「しかも、料理したことないのに、自分で適当に考えて作るから失敗するんだ。今回は雑兵食堂のおばちゃんにシチューの作り方聞いてきたから、絶対に大丈夫だよ!」
アイオロス「どうした、アイオリア?!お前は本当に兄ちゃんの弟のアイオリアなのか?!アイオリアのくせに賢すぎだぞ!」
アイオリア「驚くのはまだ早いよ、兄さん。さぁ、食べてみてよ!」
寸胴鍋におたまを突っ込み、シチューを小皿にすくうと、アイオリアは自信万満にアイオロスへと渡した。
アイオロス「……」
アイオリア「……どう?」
アイオロス「……不味くない」
アイオリア「よし!」
アイオロス「すごいぞ、アイオリア!!大して美味くはないが、不味くないぞ!!兄ちゃんが食ったエレファント・シチューとまったく違うが、これだけ作れれば十分合格だ!!」
アイオリア「今度こそ、魔鈴喜んでくれるかなぁ?!」
アイオロス「当然だとも!これを喜ばない奴がどこにる!
アイオリア「兄さん、俺何だかいけそうなきがするよ!」
アイオロス「おう!今年のアイオリアは違うって所を見せてやれ!」
アイオリア「うん、俺がんばるよ!」

その日の夕方
小さな鍋に自信作のエレファント・シチューを移し、アイオリアは魔鈴の家を訪れた。
今回は自信があるとはいえ、やはり極度に緊張してしまう。顔を強張らせながら、震える声で魔鈴を呼ぶと、魔鈴がドアを開けた
アイオリア「まままままままままま、魔鈴。」
魔鈴「ん?どうしたんだい?」
アイオリア「あの、こここれ・・・・。」
魔鈴「ん?なんだい、これ?」
アイオリアが目の前に鍋を突き出すと、魔鈴は首をかしげながら、蓋を開けた。
アイオリア「これがウチのエレファント・シチューだ!食ってくれ!!」
魔鈴「へー、ギリシャにも雑煮があるんだ……」
アイオリア「ZOUNI?エレファント・シチューじゃないのか??
魔鈴「……」
アイオリア「ど、どうした魔鈴?」
魔鈴「これって象のシチューだよね?」
アイオリア「そうだ、エレファント・シチューだ」
魔鈴「……まさか、この肉って象の肉かい?」
アイオリア「そうだ!兄さんと二人でアフリカまで行って探してきたんだ!!」
魔鈴「……いらない」
アイオリア「は?」
魔鈴「いらないっていってんだよ!!こんなゲテモノ料理食えるかい!それもってさっさと帰りな!!」
アイオリア「がーーーん!!」
魔鈴が勢いよくしめた扉の前で、アイオリアはシチューがすっかり冷め切るまで呆然と立ち尽くしていた。
こうしていつも通り勘違いが勘違いを生んだアイオリアの恋愛お料理大作戦は、またしても失敗に終わったのであった。


End