大人の聖域童話・11人いる!(その1)

 

今日も窓から東のほうを見て呆然と立ち尽くすムウに、シオンはない眉を寄せた。
貴鬼が故郷に帰ってからというものの、ムウは毎日こうである。
ムウが紫の瞳で見ているのは、はるか東、ジャミールであることに間違いはなく、遠く離れたギリシアから見ることなどはできないのに、それでも東のほうを見てムウはため息をついていた。

そして今日もシオンは朝からそんなムウの尻を撫でて、せっせとセクハラに励む。
ズボンの中に滑り込ませようとしていた手をムウにピシャリと叩かれ、シオンは愛弟子の顔を覗き込んだ。

「つれないのぅ〜〜〜よいではないか。」

ムウがプイと顔を背けると、頭の動きに合わせて腰まで伸びた癖のない薄紫の髪がサラサラと舞う。それを見たシオンは、もとからいやらしい口元をさらにいやらしく釣り上げてニヤニヤと笑った。

背後からの嘗め回すような視線が途切れたことに気付いたムウは、振り向いた先にシオンの姿がないことに気付き首をかしげる。

いやな予感がする。

仕事のない時は四六時中自分に張り付いているシオンが突然姿を消したのである。どうせろくでもないことをする為に姿を消した違いない。

ムウは困った師に深いため息を吐くと、食器を洗いに台所へ向かった。

 

30分程すると、ムウは自分の城である台所をシオンに追い出された。

シオンは金属装丁の施された古書を調理台の上に置くと、棚や冷蔵庫の扉という扉をすべて開き、物色し始める。
きちんと整理整頓された棚の中に手を突っ込むと、力任せに目的のものを引っ張り出し、鍋達が大きな音を立てて崩れ落ちる。冷蔵庫の中身も同様に、きちんと整理されているはずがなだれを起こし、扉からどんどん冷気と食品がこぼれ落ちた。

怒りを押さえて呆れながらその様子をうかがってたムウは、己の予感がぴたりと当たってしまったことに、首を振り、当たらなくてもいい勘が欲しいものだと、呟く。

シオンは選び出した巨大なずん胴鍋を火にかけると、その中へ野菜や肉などをどんどんと投げ入れてゆく。しかし、よく見れば冷蔵庫の食材以外のものもシオンは手にしていた。明らかに、虫、雑草、木の根、何かの内臓、薬瓶等々・・・どうみても、妖しげな薬を作る魔女のようである。
最初は白い蒸気を上げていた鍋も、そのうち紫の煙を吐き出し、それが緑に変わり、終いには七色の煙を上げ始め、目まいと嘔吐を誘う匂いまで漂わせている。

「ゼロイチニーゼロサンサンサンノ〜〜〜キューレーロク〜〜〜」

ムウはシオンが鍋に向かって、何やらきいたことのない言語の呪文を魔女さながら唱えているのを見て、自分の死期が近いことを察した。自分の勘は必ず当たる。あの鍋の中身が自分に与えられることは間違いなかった。

どうせ逃げても、地球の裏どころか宇宙の果てまでシオンは追いかけてくるだろう。ムウは観念してソファーに腰をかけ、自分の最期が訪れる時を、冷や汗を流しながら待ち構えていた。

シオンはニヤニヤと笑いながら台所から出てくると、ムウの姿を見つけて、更にいやらしい笑いを浮かべる。ムウはシオンが手に持つスプーンを見て、震えてガタガタとかみ合わぬ歯をギュっとかみしめた。

「ムウよ、口をあけるのじゃ。」

ムウはシオンに逆らうことなく、小さな口をゆっくりと開く。桜色の唇に吸い付きたくなる衝動をこらえながら、シオンはムウの口にスプーンですくった、金色に輝く液体を落とす。

「飲め。」

師の命令は絶対である。こんなことなら死ぬ前にもっとケーキをたくさん食べておけばよかったなどと思いながら、ムウは舌の上に乗った液体を飲み込んだ。

「毒ですか?」

飲み込んでからムウは聞いた。普通は逆である。

「毒ではない。死にはせぬ。」

すると、自分は自分の知らない物体にでも変るのだろうか。
ムウの勘はやはり正しかった。徐々に意識が遠のき、師が耳元で囁き始めた怪しげな呪文も、どんどん聞こえなくなってくる。体が溶けているのだと気付いたとき、ムウは完全に意識を失った。

 

尻や股間、胸に感じる違和感に目を覚ますと、ムウは自分が生きていることに首をかしげた。シオンの作った怪しい薬?は失敗したのだろうか。尻を撫でまわす手を叩こうと、手首にスナップをきかせてはたくと、手は空を通り抜け、何も触ることが出来なかった。いつもならば、ピシャリと叩くはずである。しかし、依然尻を撫でまわす感触はなくならない。当たらないのならば口で言えばいいと、体を起こすと、ムウは紫色の瞳を点にした。

シオンが自分の尻を撫でまわしているのである。

しかし、撫でまわしているのは自分の尻ではない。

反対側のソファーで目を点にしている自分とムウはしばらく見詰め合っていた。

「成功じゃ〜〜成功じゃ〜〜〜流石は余じゃ〜〜。ムウはかわゆいのぅ〜〜〜。」

抱きついてこようとするシオンに鉄拳を食らわせようと、手を伸ばすが空を切る。確かに当たったた筈だが当たっていない。

「痛いのぅ〜〜ムウはつれないのぅ〜〜〜」

ムウの繰り出した拳を掴んで、シオンはすりすりとその手に頬を寄せる。しかし、ムウの手は空を打ち、すぐさまひいたはずである。

奇妙な感覚にムウは首をかしげた。シオンが掴んでいるのは目の前にいる金色の髪に緑色の瞳をした自分の手で、たしかに自分の手にもシオンの肌のぬくもりを感じる。

「何なのですか?!これは!!!」

二人のムウの声が同時に響いた。耳の内と外とでは聞こえ方が異なる為、ムウには二つの声にきこえる。しかし、シオンには一つの声にしか聞こえない。

「これは何ですか!」

ムウが金髪のムウを指差すと、金髪のムウも同時にムウを指差す。その動きはまったく狂がなく、映画のようである。

「ドッペルゲンガーの応用みたいなものじゃのぅ。魔術じゃ、魔術。金髪のムウもよいのぅ。」

顔を近づけ無理矢理唇を奪ったシオンに、金髪のムウはバタバタと暴れた。同時に何もされていない紫の髪のムウも暴れる。

「ふむ・・・・おかしいのぅ。お前達は同じムウじゃのぅ。」

ムウの口内を舐めまわした舌を抜くと、シオンは小首をかしげて呟いた。

「同じ?偽物はそっちです!」

と同時に二人のムウが互いを指す。

ムウは再び色の違う自分と見詰め合うと、うんうんと肯いた。

「なるほど、私を双子にして、変なイタズラする気だったのでしょう!。」

「何をゆうておる、貴鬼がいなくなってお前が寂しそうだからのぅ、余が友達を作ってやったのじゃ。」

「・・・これは友達ではなく、私です。」

「よいではないか。ほれ、二人で話をするがよい。」

「それは無理です。私たちの意思は独立していません。」

底意地の悪い笑いを浮かべながらムウは右手を上げた。すると金髪のムウもまったく同時に右手を上げる。ソファーから立ち上がるのも首を動かすのも、瞬きするのもすべて同じ動きである。

「二人で話したって、一人でべらべらしゃべってるのと代わらないじゃないですか!サガと一緒にしないでください。」

「よいではないか、よいではないか。余はのぅ、ムウならば何でもよいのじゃ。」

二人のムウはシオンの邪悪な笑いに身震いする。そして、やはり二人まとめてシオンに小脇に抱えられ、寝室へと連れて行かれてしまった。

 

 

シオンはムウの胸にかかった金色の髪をはらうと、その白い胸に昨晩の情事の跡がついているのを見て、笑った。

「ほうほう。お前達はまさに同一人物ということか。」

二人のムウは同時に呻き声上げた。シオンの性器に秘穴を貫かれているのは金髪のムウであるが、紫の髪のムウもシオンの激しい腰の動きに合わせて、一緒に嬌声を上げる。股間の上にムウをのせ、隣にもう一人ムウをはべらせ、シオンのモノはいつにもまして元気爆発だ。

師が望むままに体を動かし、自ら快楽を貪っている金髪のムウの淫靡な姿は、いつものシオンが愛するムウと何ら変らない。ムウはエメラルドの瞳に薄く涙を浮かべ、金色の髪を振り乱しながらも、師の許しが出るまで貪りつづける。

「ふむふむ、お前がいくと、お前もいくのかのぅ。」

シオンはそう言うと、上に乗ったムウの中心へと手を伸ばし、熱く硬くなった部分を手でしごき始めた。もう半ばいきかけてきたムウは師の繊細で巧みな手さばきに、すぐさま崩れ落ちそうになる。

そして、シオンの横で、先ほどから口付けしか施されていない紫のムウも、その中心には何も触れられていないのに、白い露を零しながら、もう一人のムウと同じように喉をそらして嬌声を上げた。

「シオンさま・・・もう駄目です・・・。あ、あ、ぁ・・・・。」

精液をシオンの手の中にとばし、金髪のムウが堕ちると同時に、紫髪のムウもシーツを汚す。手についた弟子の体液を舐めながら、シオンは満足げに笑い、二人のムウの頭をいとおしげに撫でたのであった。


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