MISSIONN IMPOSSIBLE(File.20000 愛する二人、別れる二人 その1)

 

昼頃、私は教皇に呼ばれ教皇の間へと向かった。カノンとサガの仲を怪しまれた教皇は、私に二人の調査を命令されたのであった。
丁度いい、私もあの二人の関係が気になっていたところだ。

さっそく私は双児宮へと向かい、サガを訪ねた。私の突然の訪問にもかかわらず、サガは相変わらずの優しい笑顔で出迎えてくれた。サガは私をリビングへと通すと、冷蔵庫から冷えたコーラを出してくれた。

「それ俺のだぞ!!」

雑誌を手にし、ソファに踏ん反り返ったカノンが言った。相変わらずこの男は眉間にしわを寄せ、目つきが悪い。
どうやら私に出してくれたコーラはカノンのものだったらしい。しかし、それはサガが買ってきたものであったため、サガに窘められたカノンは私のことを一睨みすると、不機嫌そうに雑誌に目を戻した。

サガは、有事や訓練の時には後輩の私達に厳しいが、普段は穏やかで優しい。私は、向かいのカノンに見せ付けるように、サガに甘えることにした。サガは甘えてくる者を邪険に扱うことはしない。恐らく、カノンが甘えるということをしないから、その反動で他の者を受け入れてるに違いない。
私は、サガの肩に顔を預け、サガの名前を呼ぶ。

「お前は本当に落ち着きのない奴だな。」

そう言って、本を読む手をやめ、サガは私の髪を優しくなでた。私はそのまま頭をサガの膝の上へと移動させ、ソファに横になる。サガの身体から石鹸の芳香が漂い、私は思わずその香りに酔いしれた。サガは私の頭を膝の上に乗せながら、いつものように難しい本を読んでいた。
私がカノンの方へと寝返ると、カノンはサガのことをジーッと見つめていた。まるで、舐めるような嫌らしい視線だ。しかし、サガは本に夢中なのか、それに慣れているのか、まったく気にした様子がない。私と視線があったカノンは、私を一瞥すると再び雑誌を読み始める。しかし、先ほどからページが進んでないように見えるのは、私の気のせいだろうか・・・・。

私は、顔を上に向け、サガの顔を見上げた。私の視線に気が付くと、サガは本を僅かにずらし優しく微笑んだ。
私は思わず、サガの腰に両手をあてくすぐる。

「や・・・やめないか!!くすぐったい。」

サガは私の行動に笑い声を上げながら身体をよじらせた。その拍子に持っていた重い本がサガの手から落下し、私の顔面を直撃した。

「あ、すまん。大丈夫か?!お前が悪いんだぞ、いきなりこんなことをするから・・・、まったく。」

そう言いながら私の顔に被った本をどけると、サガは私の顔を優しくなでてくれた。言葉では怒っているが、その顔は笑っている。
私は凍て付くような視線を感じて、視線を移した。カノンが目を見開いて私を睨みつけていた。恐らく嫉妬心というやつだろう。サガに甘えている私のことが、羨ましくて仕方ないのだ。いや、羨ましいというよりも、サガに甘えている私が許せないのかもしれない。

「本当に猫みたいな奴だな。こんな巨大な猫はいるだけ迷惑だがな。」

懲りずに甘える私の喉を軽やかに撫でながら、サガは苦笑を交えて言う。私は思わず、顔を赤らめた。何故なら、喉を撫でられたと同時に、私の空腹を知らせる音がなってしまったからだ。そういえば、今日は昼食を抜いてしまったのだ。
サガは再び笑いながら、私の頭を膝の上から除けると、早めの夕飯を作ると言ってキッチンへと向かった。

カノンはキッチンへと消えるサガの姿を、サガの長い髪の毛先が消えるまで確認してから、私へと視線を移した。私のせいで生活のサイクルを乱され、しかもサガが目の前から消えたことに、そうとう怒っていたようだが口には出さなかった。

サガの作ってくれた食事は、私の嫌いなものは入っておらず、しかも美味い。私はサガの器用さにつくづく感心しながら、サガの作ってくれた料理を堪能した。しかし、サガの向かいに座ったカノンは、何も言わずに食べている。作ってもらっているのだから、礼や賞賛、感想の一つでも言えばサガも喜ぶだろうに。
そういえば、先ほどから見ていると、カノンとサガの間にはまったく会話がない。強いて言えば、食事が出来たときに交わした、

「食事が出来たぞ。」

「ああ。」

という、たった一言だけだ。やはり、この二人は仲が悪いのだろうか?教皇がお考えになっているような関係ではないのだろうか?

食事をした後、キッチンで片付けをするサガを私は手伝うことにした。しかし、いるだけ邪魔だと言われてしまい、しかたなくサガの様子を伺うことにした。きっとサガは、客である私に手伝わせるなど気が引けたに違いない。
カノンは相変わらずリビングで雑誌を読んでいた。何時間かけてあの雑誌を読むつもりなのだろうか。

片づけが終わったサガはコーヒーを片手に本を読み始めた。カノンも相変わらず、サガの向かいに座り黙って雑誌を読んでいた。一体この兄弟はどうなっているのだろうか。

しばらくしてサガは風呂に入るといって、リビングを出ていった。カノンは一緒に入らないのだろうか?私がカノンに確認すると、カノンは露骨に嫌そうな顔をし、

「そんなことするわけないだろう。」

と怒鳴った。何もそんなに怒らなくてもと、私は思った。本当は一緒に風呂に入りたいに違いない。私は、カノンがどういう反応をするか探るために、サガと一緒に風呂に入ることにした。
サガは私が一緒に風呂に入りたいというと、一瞬顔をしかめ、

「何を考えているんだ?」

と言った。まさか、私がサガに何かよからぬことなどするはずがない。したところで、アナザーディメンションで異次元に飛ばされるのは自分でもよく分かっている。

サガも、私が説明すると納得し、風呂に入ることを許可してくれた。
私は風呂に入ったサガの裸身を見て、思わず自分のものと比べてしまった。サガの身体は均一に鍛え上げられ、無駄なものが一切ない整った身体だった。私のは上半身に偏っている。
これがアイオロスやカノンが夢中になる理由なのだろうか。いや、カノンはまだ確定したわけではないのだが。

私は身体を洗っているサガの背中を流すことにした。世話になっているせめてものお礼だ。しかし、サガは私の申し出に戸惑っているようだった。
私は先ほどと同様に何もしないことを約束し、サガの背中を洗い流した。そのついでに、サガの肩のマッサージをする。
私の両手がサガの肩にかかると、サガは身体をビクリと震わせた。

「何をする!?」

再びサガが顔をしかめた。私は、サガの凝っている肩をマッサージするだけだと説明した。サガは何をそんなに怯えているのだろうか。やはり、普段からカノンやアイオロスに襲われる心配をしながら生活しているせいだろうか。
しかし、サガの実力であれば、私を含めてアイオロスやカノンを拒むのは容易いだろう。やはり謎だ。
サガはマッサージが終わると、私に礼をいい巨大なバスタブに浸かった。私も身体を洗うと、サガの近くに腰を下ろす。

そういえば、カノンはどうしたのだろうか。私は、風呂の入り口が見える場所へと移動し、腰を下ろした。入り口の曇りガラスの向こうに何者かが居たのを見逃さなかった。その影の色からして、恐らくカノンであろう。風呂の入り口に背を向けて湯に浸かっているサガは、まったく気がついていないようだった。
サガの風呂を覗いていたのだろうか、それとも私とサガの関係を嫉妬して様子を見にきたのか・・・。
しばらくすると、カノンの影は消えてしまった。
サガの風呂を覗いて、自分の用は済んだからだろうか?

サガは頭髪と同じ色の長い睫毛をふせた顔に水滴を輝かせ、まるで眠っているかのように静かに、身体を湯に預けていた。
それにしても長い。こんなに長い時間風呂に浸かっていて、湯疲れしないのだろうか。
もう20分以上も風呂に浸かっている。限界をとうに超えていた私は、サガに一言言ってから風呂から上がることにした。

私が風呂から出た後も、サガは長々と風呂に浸かっていた。私はカノンに、サガの風呂はいつもこんなに長いのかときいてみた。私はカノンの返事に思わず目を見開いた。サガの入浴時間は2時間は普通だということだった。2時間は普通ではなく異常だ。いくら風呂好きでもそこまで長い時間入っているわけが無い。
しかし、サガはカノンの言う通り、それから2時間くらいしてから風呂から上がってきた。

カノンは、サガが入ったあとに風呂に入ったが、すぐに風呂から上がってきた。カノンはサガと違って風呂が短いらしい。まさか、私がサガに何かするのではないかと心配で、早く出てきたのだろうか?


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