人馬診療宮

 

人馬宮でサガといい事に及んでいたアイオロスは重ねた唇をはなし、僅かに眉を寄せた。
唇と唇を唾液の光る糸がつなぎ、サガは恍惚と瞳を震わせている。
糸を断ち切るように真っ赤な舌を自らの唇に這わせると、アイオロスの唇から切れた光の糸が、サガの唇から鍛え上げられた四肢に吸い込まれた。
その唾液の筋を、首筋から唇までゆっくりと舐めあげ、アイオロスは再び眉根を寄せた。

サガはいきなりの大胆なアイオロスの舌づかいに思わずため息をもらし、次の行動をいまかいまかと心待ちにしていた。

いつものアイオロスならば、ここで震える瞳に軽く労わるようにキスをし、頬、耳たぶ、首筋からさらに下へと愛撫するはずである。少なくともサガはそう期待し、瞼を閉じて待っていた。

しかし、それはいつまでたっても与えてもらえず、突然走った直接的な刺激にサガは瞼を見開き、声を洩らした。

「ア、アイ・・・ォ、ロス……っ!?」

サガのそれは、唇と唇とのキスだけで僅かに熱を帯びていた程度であった。それを無骨なアイオロスの手にいきなり握りこまれたのである。

いまだかつて、アイオロスがこ のように性急に求めてきたことは無い。
サガは身を捻り、拒否の反応をしめすが、アイオロスがそれをやめる気配はない。それどころか手の動きはますます激しくな り、いやでもサガの欲情を奮い立たせた。

アイオロスはただひたすら手でサガのそこに愛撫を送り、他には一切触れようとはしない。
立っているのも辛くなったサガの膝は自然と折れ曲がり、背後のベッドに腰をかける形となった。

アイオロスはそれを見計らったこのように、サガの下肢に顔を埋めた。アイオロスは屹立したそれをジッと見つめながら上下に愛撫し、双球を揉みしだく。
生ぬるい粘液が秘孔と双球の間を往復した時、サガの口からあられもない嬌声と雫が零れ落ちた。

アイオロスの手の平のなかで、サガのそれが一層脈打つのが分かる。
快楽を与えるよりもまるで射精を性急に促すかのように、アイオロスはそこだけに愛撫を集中させた。

先端から僅かに白濁したものがサガのものを伝い流れると、アイオロスは一気に口腔へと咥え込んだ。

普段なら焦らして焦らして焦らしまくるアイオロスの愛撫が、この日はまるで正反対であり、サガは困惑しながらもそれに翻弄され溺れていった。

「あっ、……や、やめ………ッ…」

未だ拒否の言葉を放ちながらも、サガは着実に解放への道を進んでいく。こんな過程もおろそかな、手抜きの愛撫に不満はたらたらではあるが、欲望の印が精巣から精管を一気に抜けていくのが、サガにもアイオロスにも分かった。

「だ……だめだ………、も…う………っ」

そう絶叫に近い喘ぎを放った瞬間、アイオロスの瞳が妖しく光り、サガの欲望の味が彼の口いっぱいに広がった。

ぐったりとしたサガとは対照的に、アイオロスは口の中をモゴモゴとさせ、舌でそれを転がし、まるでサガのそれを丹念に味わっているようであった。

ゴクン

アイオロスの咽喉が音をたてたと同時に、彼は難しい顔になってうーーんと唸り声をあげた。

われに返ったサガは、キッときつくアイオロスを睨みすえ、右脚に力を込めてアイオロスのわき腹に蹴りを落とそうとした。

「やっぱり」

放たれたサガの蹴りを手を上げて防いだアイオロスは、唇の端から零れる精液を親指でぬぐい満足気にうなずく。

「なにが、やっぱりだ。一体、何のつもりだ、アイオロ………っ!」

サガが叫ぶと同時に、精液に濡れた親指をアイオロスはサガの口の中に突っ込んだ。自分の精液の味が口の中に広がり、サガは目を見開き、身体を紅潮させた。

こんな辱めを受ける覚えは、サガにはない。
がりっと、勢いよくアイオロスの指を噛む。ささやかな抵抗だった。

アイオロスはその痛みも気にせず、サガを見下ろした。

「お前さ。昨日、何かいやなことあっただろう?」

「は? 今日は、というよりも、たった今あったが、昨日は無い!」

「嘘言うなよ、サガ……。昨日は鬱だっただろう? また胃薬か睡眠薬飲んだんじゃないか?」

「ど、どうしてそれを……」

ため息交じりに言うアイオロスに、サガは瞳をそらした。
確かに昨日、調子が悪くてくすりを飲んだのである。

「だって、サガの口の中苦かったし……」

「え?」

「それに、精液もちょっと苦かった」

「は?」

「口の中が苦かったのは胃が荒れている証拠だ。精液がいつもの味と違うのは、体調が悪いせいだ。私を甘く見るなよ! いつもより苦かっただろう?」

「な、なんだと? 自分の味など……知らん」

サガは大きく瞳を見開いて、全身を真っ赤に紅潮させるとアイオロスをにらみつけた。
だがその態度はアイオロスに、すべてが真実であることを告げていた。
アイオロスは唇を得意げに吊り上げる。

「ふふっ、やはり図星だな。あれだけ薬は飲むなっていったのに、本当にサガはいうことをきかない奴だな。ったく、主治医のいうことは聞くもんだぜ!」

血が流れる親指を笑顔で目の前に突き出し得意満面なアイオロスに、誰が主治医だ!とパンチを軽く一発くらわし、サガは屈辱に顔を真っ赤に染めながら部屋から出て行ったのであった。

 


end