★怪傑シュラ!(インターネット入門初級編その1)
シュラが、ムウから景品であてた最新型のパソコンを貰って数週間後のことであった。
シュラはいつものように起床し、シャワーを浴びた後のバスローブ姿のままコーヒーを片手にそのパソコンのスイッチをいれた。起動と同時にネットへ繋げ、新着メールを受信し終え、仕事と趣味をかねた『よからぬサイト』の世界に波乗りしはじめた。
聖闘士たるもの、世界の平和をみだす者を何人たりとも許してはいけない。特に、近年においてネット界の乱れは甚だしく、またこれにより現実世界が影響を受けていることは明白であり、シュラは自主的に目をつぶれないほどのよからぬサイトを発見し、ブックマークしたうえにシオンに報告することにしていた。ただし、目下のところ報告するだけに留まっているので、ほとんど趣味といっていい。なにしろ、250年フル活動していた柔軟な脳みそを持つシオンであるが、近年の著しいテクノロジーの進歩には未だについていけないので、ただ報告するだけの状態なのである。
シュラがネットの海をさまよっていると、磨褐宮に珍しい客が訪れた。
ムウ「お邪魔します。」
シュラ「珍しいな、どうしたんだ?」
ムウ「今日は頼みがあって来ました。」
シュラ「ほう、いいだろう。」
お約束でシュラはバスローブの紐を解いて、前をはだけた。
ムウ「何を考えているのですか。さっさとしまいなさい。」
シュラ「ちっ、SEXでないなら、いったい何の用だ?」
ムウ「貴方は、自分への頼みごと=SEXということしか考えつかないのですか?」
シュラ「あたりまえだろう。わざわざこの俺に頼んでまでしてもらいたいくらいのことだからな。」
ムウ「まったく。」
シュラ「呆れることではないだろう。SEX以外のことなら、他の奴らにでも十分間に合うだろ?」
ムウ「それは、自分にはSEXの能力しかないといっているようなものですよ。」
シュラ「黄金聖闘士相手に、他の能力をひけらかそうなんて俺は考えてないさ。俺以外にももっと優秀な奴が下(人馬宮)にいるからな。」
ムウ「それが、今回ばかりはサガでもアイオロスでもシオンさまでも駄目なのです。」
シュラ「ほう、いったい何なんだ?」
ムウ「それですよ、それ!インターネット!」
ムウはシュラの目の前にある箱を指差した。
シュラ「これか?返さんぞ。今更返せなど、しみったれたことを言うな。回線がつながっていない白羊宮には無用の長物だろう。」
ムウ「だから、ここに来たのです。インターネットを教えてください。私が景品であてたのは、最新型のインターネットだそうですね。日本製のソニーのミクロソフトというやつでしたか?日本製のは随分高いと聞きますが、私が無償であたなにそのインターネットを差し上げたのですから、私にインターネットを教えてくれても罰はあたらないでしょう。」
シュラ「は?お前何を言っているんだ?」
いつものように超でかい態度で自身満々すかして笑いながら訳のわからないことを言うムウに、シュラは唖然となった。
ムウ「とぼけても無駄ですよ。こんな格好でこんなへんてこな眉をしていますが、私だってインターネットくらい知っているのです。シオンさまやサガのように今も石器時代を生きている人間とは違うのです!」
シュラ「お前も似たようなもんだぜ。」
ムウ「何を言っているのです!私は現代っ子である証拠に、インターネットへの知識を深めているのです。もちろん、知識だけでは何の役にも立たないのは百も承知です。ですからこうして貴方にお願いに参ったのです。私は師をも操ることが出来ないインターネットを自在に操り、ワールドワイドにグローバルな生活を送るために、インターネットをやるのです!」
鼻の穴を広げてふんぞり返るムウの肩に手をおいてシュラは頭を振ると、小さくため息をついた。
シュラ「お前、インターネットって何だか知っているのか?」
ムウ「馬鹿にしないでください。それくらい知ってます。テレビの前に座って操作をすると何でも買い物ができるものでしょう!」
シュラ「すまん・・・・、頭痛くなってきた。」
ムウ「おや、大丈夫ですか。体調がすぐれないのなら、インターネットは明日にしましょうか。」
踵を返すムウの襟首を、シュラはむんずと掴んで帰るのを引き止めた。
シュラ「ちょっと待て!」
ムウ「?」
シュラ「お前のその適当な知識は一体どこからきてるんだ?」
ムウ「どこからとは?」
シュラ「だから、そのインターネットの知識は誰の受け売りだとういのだ。」
ムウ「受け売りではありません。ちゃんとアルデバランから聞いたのです。」
シュラ「なるほど。アルデバランが話すパソコンの話で、理解できないところや自分の知識の範疇外の部分を適当に補うとそうなるのか・・・・。」
ムウ「??」
シュラ「とんでもない間違いだな・・・。」
ムウ「間違いなのですか?インターネットでは買い物ができないのですか?」
シュラ「いや、そういう意味ではなくてだな・・・。」
ムウ「でしたら、教えてください。世界のありとあらゆる食べ物をインターネットで買いたいのです!」
未知の食べ物へ思いを馳せながらやる気満々のムウを見て、一体その揺ぎ無い間違った自信はどこから来るのかと、シュラは頭を振った。
シュラ「ふぅ、分かった。お前に教えてやるから、ここで待っていろ。」
ムウ「わかりました。」
ムウの肩に手をおいて大きくため息をついたシュラは、書斎に向かった。しかし、すぐにその足を止めパソコンを物欲しげに眺めていたムウがいるリビングに光速でもどる。
シュラ「ムウ!そのパソコン・・・、インターネットには絶対触るなよ。」
ムウ「なにをけち臭いことをいっているのです。触るくらいいいではありませんか。」
シュラ「いいか、よぉく聞け。パソ・・・・インターネットはなぁ、お前みたいな初心者が勝手に触ると爆発するようになってるんだ。」
ムウ「え?まさか・・・。」
シュラ「お前でも分かるように言えば、インターネットは最新技術のグローバルでワールドワイドなハイテクマシンだ。だから、初心者探知センサーもついている。爆発したら、二度とインターネットが出来ないぞ!それどころか、爆発させた者はインターネットのブラックリストに載り、世界中のインターネットから拒絶されることになるのだ!」
ムウ「最新技術で、グローバルなワールドワイドなハイテクマシン・・・・が、爆発?ブラックリスト・・・・。」
シュラの言葉をかみ締めるように繰り返し、ムウは恐るべきインターネットの機械に思わずごくりとのどを鳴らした。
ムウ「わかりました。」
机の上にあるパソコンの前で目を輝かせていたムウは、シュラに言われパソコンを触ろうとしていた手を引っ込めた。
しばらくして高さ40cmもあろうかというくらい本を抱えて戻ってきたシュラは、リビングのソファに座ってキッチンから勝手に持ってきたであろうクッキーを一人で食べているムウを見て、安堵のため息をもらした。
シュラは、ムウの『わかりました』という返事を信じていなかったのである。パソコンに関して無知のムウがパソコンになにをするか分かったものではない。リビングのテーブルの上に、シュラはどさっとその本の山を乗せた。
ムウ「おや、読書ですか?」
シュラ「そうだ。」
ムウ「なるほど。私がインターネットをしている間、貴方は読書をするんですね。」
シュラ「ばーか。これは全部お前が読まなければいけない本だ。」
ムウ「むぅ・・・。私は本を読みにわざわざ来たのではありませんよ。」
シュラ「いいか、まずはお前のその間違った知識から正さなければ、お前にインターネット、いやパソコンは教えてやれん。」
ムウ「なんですと!?私の何が間違っているのです。それに私が教えてもらいたいのは、インターネットです!」
シュラ「だからそれが間違っているというんだ!!いいから、このマニュアルを読め。お前も俺と同じ黄金聖闘士ならこれくらいの量1時間もかからんだろうが!いいから、読め!」
ムウ「まったく、仕方ないですね。」
ムウは仕方なさそうな態度を露骨に出しながら、目の前にあるパソコン基礎知識その1を手にとり、パラパラとめくっていった。
1時間後。
ムウ「読み終わりました。」
速読で一気にマニュアルを読み終えたムウは、いよいよインターネットの実践編だと意気込んだ。
リビングのすみにおかれたパソコンデスクに向かっていたシュラは、くるりと椅子を回転させた。
シュラ「全部か?」
ムウ「全部読みましたよ。」
シュラ「よし。じゃ、ここに座れ。」
ムウ「いよいよ、インターネット実践編ですね!」
嬉しさのあまりムウはたった今シュラが座っていた椅子にテレポートした。