恋せよ乙女!(注:精神年齢が大人で、心の広い方のみ閲覧ください)

 

 

私の小さな胸は張り裂けそう。だって、だって、教皇様から直にお呼び出し!

もしかしなくても、私って出世頭?!これでイジメなんてことになったらどうしよう。でも、イジメられてもいい!だって私は教皇様に呼ばれたのだから!!

私はドキドキしている胸に手を当てて、教皇様の執務室のドアをノックすると、神官がドアを開けてくれた。

すごくステキ+*:・゚'☆:*:・°

教皇様の部屋は、広くて南向きで、ワイン色の絨毯はフカフカ、大きな机は白い大理石で超豪華。あの方も、ここにきてお仕事されているかと思うと、私はここに入ることが出来ただけでも幸せ者。

神官に頭を下げて待っているようにといわれたので、私は跪いて教皇様をお待ちした。

教皇様はすぐにいらっしゃった。

「面を上げる無礼を許すぞ。」

このお方様が本物の生教皇様!!

その大いなる慈悲深い小宇宙に私は震えがとまらなかった。黄金聖闘士の皆様とすこし違ったかんじの小宇宙は、威厳。200年以上も聖域を支えてきた偉大なる教皇様!

「辞令じゃ、お前は今日から白羊宮付じゃ。よしなに頼むぞ。」

え!?白羊宮!?これって夢?!

私がびっくりして、目を瞬かせていると、教皇様は仮面の下で笑われた。

「夢ではない。さっさと行くがよい。」

どうしよう!どうしよう!どうしよう!!!!
いきなりそんなこと言われても心の準備が出来ていない!!
だって、白羊宮にはあの方がいらっしゃるのに、いきなりだなんて!!

私は足をガクガクと震わせながら教皇の間を後にし、通用口の長い階段を下りて白羊宮へと向かった。

 

白羊宮に恐る恐る入った私は、緊張のあまり、声を出すことが出来なかった。だって、私は今から誰もがあこがれる黄金聖闘士さまの下で働くことになったのだから!
これがきっかけで、ステキな恋がはじまったらどうしよう+*:・゚'☆:*:・°
だめだめだめ。私とアリエス様はあくまでも上司と部下なんだから、変なこと考えたら駄目!
なーんて、アリエス様くらいステキな方だったら、恋人の一人や二人いてもおかしくないし、私なんて下っ端、相手にされるわけもないか。
でも、今日はなんだか、きっといいことがあるよ・か・ん♪

「だれです?」

透き通った声に私の体が震えた。この声は紛れもなくあの方!白羊宮を守護するあの方の声だ!
私は初めてお会いした時から、この声を一時たりとも忘れたことはない。ずっと私の心に響き続けるこの声。

緊張のあまり、硬直して返事の出来ない私に、白羊宮を守護するあの方、牡羊座の黄金聖闘士ムウ様が美しい姿を現した。

きゃーーーーー、アリエスさまと目があってしまった!!
うぁぁぁぁ!!ヤバイ!!私の心臓は爆発寸前!!

紫の長い髪にアメジストの瞳、長い睫、雪のように白い肌に、桜色の唇。まるでビスクドールのように綺麗な方。女性よりも美しい顔立ちと、優雅な身のこなしに私はおもわずうっとりしてしまう。

「名前くらい名乗ったらどうですか?」

しまった!失敗、失敗、大失敗!どうしよう〜〜〜(TдT)
私は大パニックでさらに動揺してしまう。うえぇ〜〜〜ん、印象超最悪決定だぁぁ(しょぼん)

「何をあわてているのだ?落ち着きなさい。」

ムウ様はなんて優しいお方なんだ!感涙!しかも、こんなダメダメな私ににっこり微笑んでくださっている。って、私がオロオロしているから笑われただけかも・・・。恥ずかしいーーーー(><)穴があったら入りたい!

私が震えながら名乗ると、ムウ様は口元に手を当ててまた微笑まれた。だめかも、ムウ様の美貌にクラクラきちゃってます。しかも、緊張しすぎて、お腹まで痛くなってきちゃうし。

「貴方のことは教皇様から聞いています。もっとも、貴方を白羊宮にと頼んだのは私ですが。」

え?

「貴方は覚えていないかもしれないが、貴方とは日本で一度会っている。どうせなら知った顔の方がいいと思っただけのことです。」

ムウ様が私なんかのことを覚えてくれていただなんて、これは夢!夢に違いない!もちろん夢の中でだって、ムウ様と海辺でお会いしたあのときのことを忘れるものですか!

ムウ様の細くて白い指が私の肩に伸びた。そして私の両肩にその手が置かれる。

うわ!何て長い睫だろう。それにキラキラされてる。ん?キラキラ?
なんだか世界がぼやけて見える。ムウ様の美貌にまいっちゃったのかな。

うそ!うそ!うそ!私の方に来る!!これって、間違い!?でもアリエスさまは私のほうを見ているし、やっぱり私に向かってきてるのかな!!!

きゃぁ〜〜〜〜〜!!(@@;;)
ムウ様の顔が大大大大大接近!!
今、瞼に触れたのって唇?!

「モーゼス、貴方は泣いているより、笑っていたほうが可愛いですよ。」

もしかして、キラキラしていたのって涙?
だって仕方ないよね、やっとやっとムウ様に会えたんだから。

私はムウ様の優しいキスに腰を抜かしてしまい、その場に座り込んでしまった。だめ、立てない。もう、全身がガクガク。

涙君、ありがとう+*:・゚'☆:*:・°

 

-3-

 

相方から冊子を渡されたアステリオンは、ペラペラとめくって苦笑いを浮かべた。

「これ、なに?」

「新しい自費出版だ。もらってくれ。」

「ああ、同人誌ね。また詩集か?」

「いや、今度は小説なんだが・・・。是非感想を聞かせてくれ。」

モーゼスがその図体に似合わず詩人であることは、相方であるアステリオンもよく知っていたが、小説まで自費出版するとは意外であった。

ペラペラとピンク地に小花の飛んだ表紙の本をめくり、淡い黄色の紙にピンク色の丸文字で書かれた文章をさっと斜め読みをする。

冊子から顔をあげたアステリオンは、相方の隻眼が真剣であることに冷や汗を浮かべた。

「・・・あのさ、これって・・・小説?」

「フィクションの恋愛小説だ。」

「アリエス様とモーゼスっていう名字の女の子の恋愛小説・・・なのか?」

首をひねるアステリオンに、モーゼスは顔を真っ赤にして頭を掻く。

「・・・ムウ様×俺なんだ・・・・。」

「は?」

「恥ずかしいな、二度も言わせるなよ!だから、ムウ様×俺!」

豪快に照れ笑いをしている姿は、青春真っ盛り体育会の17歳であるが、モーゼスは身長は2メートルを越え、体も筋骨隆々で、しかも隻眼なだけに、この小説の登場人物に当てはめるのは、はっきり言って不気味である。

「あのさぁ・・・この本のお前、身長160cmくらいだよな。7ページ目の『私はアリエス様の腕の中にすっぽり収まってしまった』って・・・、アリエス様は180cmくらいだったよなぁ・・・。お前のその体じゃ無理じゃないのか?」

「だから、フィクションだって言ってるだろう。」

「それとさ、この12ページ目の『私の細い顎』ってなんだ?お前の顎は岩だろう、岩!」

「フィクションだからいいんだよ!」

「お前、大体いつこんなに出世したんだよ。」

「小説の中で、白羊宮付なだけだ。フィクションくらい出世していてもいいだろう。」

「・・・、お前じゃないな・・・これは。」

冊子に登場する少女のような人物を自分だと言い張るモーゼスに、アステリオンは呆れはてて冊子を閉じる。あきらかにこれはフィクション以前の問題である。

「そうだ、今度”アイオリア様×お前”を書いてやろうか?」

「はぁぁぁぁん?!」

相方の申し出にアステリオンは露骨にいやな顔をした。

「アイオリア様がな、魔鈴を捨ててお前に求婚するんだ。きっと壮大なラブロマンスになると思うぞ!」

「いいや、書かなくていい!」

うきうきとおかしな妄想を語りだす相方に、きっぱりと断ったアステリオンは、小冊子を押し返してさっさと仕事に戻っていった。

その後、モーゼスがアステリオン主役のコピー同人誌を、頼んでもいないのに勝手に作り、アステリオン本人にプレゼントしたのは言うまでもない。


End