★サガとお散歩
その日の空は晴れ渡り、エーゲ海からの風が潮と緑の香がを運び、いつになく爽やかだった。
その風に豊かな青銀の髪をそよがせながら、双児宮のテラスでカノンは大きく伸びをした。
こんな日は、どこか出かけたいものである。
カノンはテラスのフェンスに肘を付き、大きなため息をついた。このままフェンスに脚をかけ、聖域の緑の中に飛び出してもいいのだが、カノンには気がかりなことが一つあった。
それは背後のリビングで読書にいそしむ万年鬱男のサガである。復活してからのカノンは、シオンの命令でサガの監視の仕事をしていた。
口ではウザイとか面倒くさいなどと言ってはいるものの、本人はいたくこの仕事を気に入っていたりする。
なぜなら、素直ではないカノンはそれを口実にサガと四六時中一緒にいることができるからだ。
しかし傍から見れば、サガと一緒にいれて嬉しいのはバレバレなのだが、本人はまったく気がついていなかった。さて、そのサガといえば、今のところ僅かなアーレス信者を残すばかりで、聖域からは総スカンを食らっている状態である。もちろんそれは、サガの自業自得であるから仕方ない。何せ彼は裏切り者で極悪犯罪者だ。その罪をあげればキリがない。
どんなに善行を働こうとも、所詮は裏切り者。聖域を混乱に陥れた張本人だ。どんなに女神の慈悲で許されようとも、アイオロスがかばおうとも、世間は未だに彼を冷厳な視線で貫く。それほど彼は聖域の人々の心を傷つけてしまったのだ。
そして彼らの心も、女神に許されたからといってサガを許せるほど簡単には出来てなかった。デスマスクいわく、『サガは石やドロを投げられても仕方ない』程なのだ。
一度、アイオロスに連れられて聖域にある闘技場に足を運んだ彼であるが、周囲のその余りにも冷酷な視線に堪えかね、光速でその場から逃げ出し、近場の大木で首吊り自殺をはかろうとした。
以来、サガは極力人前に出ないように双児宮に引き篭もってしまっていた。「はぁ……うして私は生き返ってしまったのだろうか……」
ほとんど口癖になっているこの台詞を、サガは今日もまたつぶやいた。
読んでいた本を無造作に膝に置き、サガは床を見つめたまま鬱に入っていた。
どうやら本の一部に、サガの何かに触れる言葉があったらしい。
辛気臭いそのオーラにカノンは露骨に顔を歪め、そして今にもリストカットしそうな震える右手を、ガッと掴んで持ち上げた。「おい、外行くぞ、外」
「え?」
顔を上げたサガは真っ青で、瞳は波立っていた。
カノンはいよいよヤバイと思い、サガの手をひっぱり立ち上がらせる。「その本を持って、外行くぞ」
「ふざけるなっ。お前はどこまでわたしに嫌がらせをすれば気が済むと言うのだ……。外にでたくはないと、何度も言っているだろう。だいたいお前は気にならないのか……あの視線をっ!」
「別に。俺は最後は女神の聖闘士として戦ったんだ。なにもやましいことなんてないっ!」
胸を張ってそういうカノンをサガは恨めしく睨みつけ、ため息をついた。
自分もそう思えればどんなに楽かと。「とにかく、外に行くのは嫌だ」
「ったく、こうもずっと家にいっぱなしじゃ健康に悪いだろうが!」
「行きたければ勝手に行けばよかろう」
「あのな、そうもいかねー俺の事情ってのもあるんだ」
カノンはサガの行動観察の一環として、シオンから散歩につれていくようにと言われていた。
「お前のくだらぬ事情など、私はしらん」
「ちっ。いいから、外行くぞ、外。今日はいい天気だし、たまには外にでろ。でないと俺が監禁してるとか、なんだとか言われるんだよっ」
「なんだと?」
「なんだよ、お前知らないのか? 巷ではな、お前があまりにも外にでないから、俺が双児宮に監禁してるとかっていうくっだらねぇ噂があるんだとよ」
カノンはそう怒鳴ると、サガの手を引っ張った。
「ようは誰にも会わないようなところに行けばいいんだろう。だいたい聖域は馬鹿みたいに広いんだ、わざわざ人がいる所にいくてめぇが悪いんだろうがっ」
ぶっきらぼうにいうカノンにサガは瞳を瞬かせ、なるほどと小さく頷いた。
確かに今日はいい天気だ。最後に外に出たのは、教皇補佐の出勤の時に十二宮を上った時で、1週間以上も前の話しだった。
サガはたまには外で読書などもいいかもしれないと思い始めた。カノンはいそいそとキッチンへと消えるサガの背中を見て、ちょろいっと心の中でほくそえんだ。
キッチンへ行ったサガは、冷蔵庫の隣にあるボックスから丁寧に畳まれた白いコンビニのナイロン袋を手に取ると、その中に冷えたミネラルウォーター二本を入れ、本を片手に宮を出た。
カノンはキッチンから慌ててスナック類とアルコールを持ち出すと、サガがぶら下げたナイロン袋に勝手に押し込み、その後をついていった。サガは双児宮を出ると、階段を下らずに脇に入った。そしてナイロン袋を腕にかけ、両手でローブの裾をたくし上げると、一気に崖を駆け降りた。
これはサガが、金牛宮や白羊宮を通って他の黄金聖闘士達と顔をあわせないようにするために考えた策だった。
そして十二宮を出るとテレポートで消えてしまい、カノンはサガの小宇宙を辿り慌ててその後を追ったのであった。
二人は人気のない山奥に来ていた。
サガは日のよくあたっている一本の大木の下に腰を下ろし、本を開いた。
カノンはナイロン袋から普段つまみにしているピーナッツやクルミと、それから隠し入れたビールを取り出すと地を軽く蹴り、木にのぼった。
その木はかなりの太さがあり、枝分かれした幹にカノンはバランスよく跨ると、大木に背をもたせかけてビールを片手に一杯やり始めた。ちらりと下に視線を向けると、木々の間から刺す光を受けてサガの青銀の癖毛が美しく輝いている。
どうやらサガは本に夢中のようだ。
ふとその手が横に伸び、傍らのミネラルウォータを掴む。蓋を開け、くいっと顔を少しあげ咽喉を潤した。
カノンはその一挙一動を見つめ続けた。
まるでサガがカノンの酒のつまみのような状態だった。やがてカノンは顔に視線を感じて、首を捻った。すると澄んだ小さな瞳と視線が合った。
それはこの大木を根城にしているリスだった。リスは巣穴から小さな顔を覗かせ、カノンをじっと見つめている。
カノンはギンッと視線に小宇宙を込めて、リスをにらみつけた。
リスにですら、サガに見とれていた自分を見られるのは許せなかったのだ。
恐怖を感じたリスは、ぼわっと全身の毛を逆立て慌てて巣穴に戻った。頭の上で一瞬膨れ上がった好戦的な小宇宙にサガは顔を上へと向け、眉間にしわを寄せてカノンを仰ぎ見た。
カノンはふんっと小さく鼻を鳴らし、上からサガをちらりと一瞥しながら右手につまんだピーナッツをひょいっと口に放り込んだ。サガが再び視線を本に戻すと、カノンはほっと小さく息を吐いた。
しかしサガの澄んだ蒼い瞳に吸い込まれそうになったカノンの手は、小刻みに震えていた。「いかん、いかん。俺は何やってんだ……」
カノンは頭を小さく振ると小袋に指を入れ、ピーナッツをひとつ取り出した。しかし手はまだ震えが収まっていない。
「あっ」
カノンが小さくもらした瞬間には、ピーナッツは指から零れ落ちていた。
ピーナッツは重力に任せまっすぐに下へと落ちていく。その先には、サガの青銀の癖毛が。カノンは思わず身を乗り出し、ピーナッツの行方を追った。
すると、その視界の端を茶色い物体が駆け下りた。
「ん?」
頭の上に何かが降ってきた感触とその気配にサガが本から視線をはずすと、広い肩の上に小さなつぶらな瞳を輝かせたリスが首をかしげているではないか。
サガは一瞬目を見開いてキョトンとなった。先ほどカノンに視線で追いやられたリスは、カノンの手の中のピーナッツを狙っていたのである。そしてピーナッツが手から落ちるや、リスはそのピーナッツを追うように巣穴から飛び出し、サガの肩に飛び移ったのだ。
サガが瞳を瞬かせるとリスも小さな瞳を瞬かせ、その広い肩を伝い長い青銀の癖毛を掻き分けて反対側の肩へと素早く移動した。
およ?、とカノンは身を乗り出した。
「こ、こら。やめないか・・・」
サガがくすぐったそうに身をよじると、リスはうれしそうに再び右肩から左肩へと飛び移った。
とたんにサガの身体がビクリと跳ね上がったのを、カノンは見逃さなかった。白い肌は急速に赤みを帯びていき、血の気の色を失っていた唇は赤く染まりそこから熱っぽい吐息がこぼれた。
リスが何度も肩から肩へと往復するたびに、サガの身体はプルプルと小刻みに震え、息が荒くなっていった。
ついには、あっと小さなため息まで漏らす始末である。
カノンは幹の上から口元に笑みをたたえてそれを眺めていた。カノンにはわかっていたのだ。リスが往復するたびに、その豊な尻尾がサガの首筋や頬をくすぐり、そこを性感帯とするサガの身体はいやでも反応してしまうということを。
リスはサガが何もしないと確かめると、安心したようにサガの頭のてっぺんに器用によじ登り、そこにあるピーナッツを拾い上げた。
そして頬袋にそれをしまうと、あっという間にサガの頭から幹へと移り巣穴へとよじ登っていった。サガはリスが立ち去ったのを確認すると、ほぅとまだ余熱の残るため息をはいた。
カノンはというと、さらにピーナッツを小袋から取り出し、ニヤニヤとそれを眺めた。そして巣穴からさっきのリスがまたひょこっと顔を出し、カノンのほうを見ているので思わずニヤリといやらしい笑みを浮かべてしまった。
今度はリスとカノンの利害の一致である。カノンはリスを追っ払うような行動はしなかった。カノンはピーナッツを持った手をすっと外に伸ばした。
その手を視線で追ったリスの背筋がピンと伸びる。「Go!!」
カノンは小さく言うと、親指と人差し指をぱっと開いた。間に挟まれたピーナッツが重力のままに落下し、リスは巣穴から飛び出した。
「な!? また来たのか? いったいなんだと……あっ…」
サガはまたリスの尻尾にくすぐられ身悶えた。カノンは声を殺してそれを眺めた。
「や、やめないか……んっ」
サガはびくびくと震えるも、リスを手で叩いたり、本で叩いたりして追っ払うことはできなかった。相手は純朴な瞳を持つ小動物なのだ。
カノンが声を殺して笑っていると、彼は再び顔に視線を感じた。見ると、巣穴からもう一匹、サガと戯れているリスをうらやましげに眺めるようにしてリスが顔を出しているではないか。
カノンはパチンッと指を鳴らした。巣穴のリスは、びくりとカノンのほうへと慌てて身体を向ける。巣穴のリスはそのカノンの手の中にあるものを見て、小さなつぶらな瞳を輝かせた。
カノンはすっと手を外に伸ばし、「GO!!」
再び小さく言ってピーナッツをサガの頭の上に落とした。
巣穴のリスは飛び出した。サガめがけて、ではなくピーナッツを追って。
そしてそのあとを追うかのように、カノンも幹を飛び降りた。まったく抵抗をしないサガに安心したのか、はたまた身体からにじみ出る優美かつ雄大な小宇宙に安心したのか、リスはサガのビヨンビヨンにはねた頭の上で、夢中でピーナッツを頬張っていた。
サガはようやくリスから開放されたかと一息つくも、もう一匹現れたリスに再び首筋をくすぐられ、サガの身体は静まる暇がなかった。
さらに、スッと音もなくカノンが目の前に着地し、そのなんともいえない卑下たる表情にサガは恥辱にかっっと頬を染め、カノンをにらんだ。が、「んっ……」
カノンが小袋からピーナッツをつまみサガに向かって投げると、頭の上のリスがすかさずサガの首筋へと絡まり、サガは再びピクンと身体を震わせ声を震わせた。
カノンはさらにピーナッツをサガの身体のあちらこちらに投げつけた。
二匹のリスはそれを追って、サガの身体中をチョロチョロと這い回る。
特に首筋に集中するように、カノンはそこに向かってピーナッツを投げつけた。「やっ…やめないか。カノンッ!」
サガは咽喉をそらせ、あえいだ。
尻尾の心地よさに思わず恍惚となってしまいそうになる自分を必死に叱咤し、平常心を取り戻そうとはぁはぁと肩で息をしながらカノンをにらみつけた。
だが、カノンはニヤリと謎の笑みを浮かべ、ちっともサガの眼力に屈しなかった。
それどころか、リスの鼻っ面にピーナッツを突き出してニヤニヤと楽しそうにリスの気を引いて楽しんでいる。鼻っ面に現れたピーナッツに最初のリスが反応した。恐る恐ると鼻を突き出し、ヒクヒクと鼻を動かした。
サガはカノンの行動を制止したかったが、できなかった。
目の前にあるカノンの手をはたこうものなら、おそらくリス達を怖がらせてしまうだろう。それに二匹目のリスはいまだに楽しそうにサガの首の周りをクルクルとまわりながら尻尾でそこをくすぐり、ピーナッツを探している。サガの頭の上にいるリスはすっかり安心しきった様子で、カノンの手の中のピーナッツに口を近づけた。
それを見計らったように、カノンはすばやくその手を下に下ろした。
リスは首をかしげ、サガは目を見開いた。カノンはあいているほうの手で突然サガの上衣の胸元を引っ張ったのだ。
そしてその中に、ポトンッと一つ落とした。「なっ!?」
サガが驚愕の声をあげるよりも早く、リスはピーナッツを追ってサガの胸元に飛び込んだ。それを確認したカノンは、ぱっとその手を上衣から放した。
ビクンッと、今まで以上にサガの身体が大きくゆれた。そしてサガは手を地面につき、胸をそらせた。布地の上からリスがサガの服の中を這い回っているのがわかる。「あっ…ん、あっ・・・・」
サガの顔はすでに耳まで真っ赤になっていた。ビクンビクンとゆれる身体は、リスの毛が、その小さな足が服の中で生肌の上を這い回るせいだ。
しかもサガの性感帯の一つである首筋には、もう一匹のリスがせわしなく尻尾でサガに愛撫を与えている。「あうっ………そ、そこは!」
サガの眉間にきゅっと皺がより、いっそう艶っぽい上ずった声が口をついた。見ると、右胸の部分が膨らんでいる。
リスがピーナッツと間違えてサガの乳首を小さな手でつかんでいるのは明らかだった。「あっ…んっ……」
サガは喉をのけぞらせた。
カノンはいよいよもって楽しくなり、首筋にいるリスの首根っこをむんずとつかみ、サガののけぞる胸元を引っ張り、中に無理やり押し込んだ。
このとき、すでにサガはリス一匹に乳首を弄ばれ、カノンの行為に抵抗する気力も余裕もなくなっていた。サガの身体が再びビクビクとのたうつ。
「ひっ……ぁ……」
サガは唇をかみ締めた。見ると、もう片方の胸も膨らんでいる。
両方の胸をリスが弄んでいるのだ。「あっ…痛っ……んっ…いっ……あぁーーー」
サガがいっそう激しい声を出してのけぞった。おそらく乳首に歯を立てられたのだろう。サガは苦悶に表情をゆがませていた。
「兄さん、もしかしてリスに感じちゃってるのか?」
カノンはニヤニヤと笑いながら言った。サガの身体に欲情とは別の熱が走る。
「ふ、ふざけるな。こ、これをどうにかしろ!」
「べチンってつぶしちまえばいいだろう?」
「な!? そ、そんなこと・・・・あっん」
「かわいそうで出来ないっていうのか? それはいいわけだろう。本当は気持ちよくて、気持ちよくて仕方ないじゃないのか? ねぇ、兄さん」
「ば…、ばかを言うな」
「でも、ほら、もうこんなになってるぜ」
「ふぅ……んっ」
カノンは意地悪く笑うと、ローブの上からサガの下肢をなでさすった。
サガのそこは、リスの乳首愛撫ですでに長衣の上からうっすらと分かるくらいになっていたのである。
乳首をリス、一番敏感な部分をカノンにまさぐられ、サガの腰は飛び跳ねた。「ほぉら、身体は正直だな。本当はここもリスにいじって欲しいんじゃないのか?」
「んあっ…や、やめ……カノ…ンッ!」
カノンがナデナデとなでると、サガは切ない声をあげながら身悶えた。
その表情と声に、プチッとカノンの何かが切れた。
「もうたまらん」
「わっ…。や、やめないか!!」
今のサガはほとんど無抵抗といっていい。カノンはそのままサガに覆い被さった。そして両足を割って入り、長衣をめくりあげる。
「俺がここを可愛がってやるリスになってやるーーーーーーーっ!!」
「ああぁぁぁっ」
木々の間にさえずる小鳥の鳴き声を、サガの嬌声がかき消した。
「俺はサガのリスだぁぁぁぁ」
そう叫ぶのと同時に、カノンはがばっと飛び起きた。
寝汗で髪の毛が顔や体中にベットリと張り付き、はぁはぁと肩で息をしながら手元を見つめた。
トランクス一丁だった。腕の中には、涎のしみがついた白い枕がある。
カノンは思わず頭を抱えてしまった。「まじか!? 夢オチかよ! そうだよな。そう都合よくいくわけ無いよな。ってか、サガのリスってなんだよ。リスって……。アホか、俺はっ!」
カノンは自分の夢に自ら突っ込みをいれつつも、さっきまで見ていた夢を思い起こして思わず顔をほころばせた。
カノンの脳内では、リスの歯型くっきり乳首から血を滴らせ、大きく足を広げた全裸のサガが恥も外聞もなく大きな声であえいでいた。「でも、悪くないよな」
らしくもなくポォッと頬が染まり、口元が緩んでしまうのを止められない。もちろんトランクスの前が膨らむのも止められない。
カノンはへらへらと夢の中のサガに思いをはせながら立ち上がり、カーテンをぱっと開いた。
すでに昇りきっている朝日がまぶしい。
今日はいい天気である。きっと風は心地よく、爽やかだろう。
「今日は、兄貴を散歩にでも連れ出すか。ピーナッツとビールを持って」
カノンは窓を開きながら大きく伸びをしながら、そうつぶやいたのであった。