掲載: 2000.7.2

上毛新聞 2000年7月2日付
「語るまち むら・松井田町」

 長野との県境に広がり、豊かな自然に囲まれた峠の町、松井田。西には四季折々、さまざまな表情を見せる碓氷峠が立ちはだかる。その険しい急坂で、アプト式鉄道、めがね橋、丸山変電所…と、次々に鉄道の歴史が誕生し、それとともに町も栄えてきた。一九九七年九月、長野新幹線の開業に伴って信越線横川駅―軽井沢駅間が廃止となった。そして昨年、鉄道文化を後世に伝えようと「碓氷峠鉄道文化むら」がオープンした。鉄道とともに歩み続ける松井田。二十一世紀はどんな歴史を生み出すのか。内田武夫町長が未来への夢を語る。

■廃止鉄路を生かしたい■

 「『災いを転じて福となす』じゃないけど、信越線の横川―軽井沢間廃止というデメリットをなんとしても町の活性化につなげることが、先輩から引き継いだ町長としてのおれの責任だったんさね。その第一弾が鉄道文化むら。結果的にはさ、一年で三十万人が訪れ、廃止前よりもたくさんの観光客が松井田に来てくれるようになってね。素晴らしい成果だと思ってるよ。でもね、どうやって今のにぎわいを続けたらいいかっていうことが、頭の痛い問題だいね」

 碓氷峠鉄道文化むらにはオープンから一年で、当初目標の十万人を大幅に超える三十万人以上が来園、運営は好調に滑り出した。しかし、「人気は一過性のもの」と懸念する声もある。

 「それでね、その問題を解決するために実現したい夢があってさ。観光列車を走らせたいんだよ。可能な限り安い経費でね。JR東日本と県にも協力していただき、廃止になった鉄路やトンネル、橋を観光資源として活用していきたいと思ってる。それが、二十一世紀の町づくりにもつながると信じてる。軽井沢をはじめ、信州の人たちも列車を通してほしいと願ってると聞いてるし、沿線市町村の協力もお願いしていきたい」

■軽井沢町も前向き姿勢■

 観光列車については、軽井沢町の佐藤雅義町長も乗り気。三月には両町長で会談し、観光列車運行を含めた何らかの方法で廃止鉄路を活用することを申し合わせた。

 「鉄路が傷む前にさ、せっかくある資源なんだから有効活用しないともったいないよ。それに、碓氷峠は中山道、信越線、上信越道が通っていて、昔から交通の要衝だった。松井田は『峠のまち』なんだよ。だから、峠には特別の思い入れがあって、文化むらのリピーター確保という目的だけじゃなくて、峠には観光列車を通したいと思うんさね」

 町企画財政課長、民生課長などを歴任後、収入役と助役を務めた。町長選は、九七年九月に初当選。三度目の挑戦で射止めた。

 「友人には『町長選は汚いし、銭がかかるからやめとけ』って言われたよ。でもさ、二回落ちてもやったのは、清潔な選挙のできる町にしたいという思いがあったし、『ここに生まれ住んで良かった』という喜びを町民に感じてもらえる町にしたかったんだよ。それに、小さいころ体が弱くていじめられっ子だったんだけど、その時に『よーし、今にみてろ』という根性が養われたんだと思う。だから、二回落ちても立ち向かえたんだろうね」

■職員に信頼「青年町長」■

 職員生活は三十八年間。役場の仕事は細かいところまで知っているため、職員からの信頼度は高い。

 「職員にとってはうるさい町長かも分かんないよ。でも、半面、仕事が分かってるから、何でも言ってくる。職員との気持ちの断層はないような気がするよ。やっぱりそれは職員だったことの強みかな。おれはそう思うんだけど…」

 行事などに出席した際には、だれにでも気軽に話しかける。カラオケに誘われて、歌いに行くこともある。

 「昭和四年生まれの七十だぜー。だからといって、おじいちゃんだとも思わない。『青年町長』だと思ってる。早寝早起きして健康にも気を付けているけど、町民と触れ合って、やりがいを持って仕事してるから、この歳でも活力があるんだろうね。そりゃあさ、女房と一緒に旅行もしてみたいし、山登りもしてみたいっていう気持ちもあるさ。でも、いくら忙しくったって、楽しく仕事ができる今が好きなんだよ」

 松井田町は県西部に位置し、森林に恵まれている。総面積は約一万七千五百ヘクタールで、そのうち森林面積が七七・五%を占める。人口は一九五四年の六町村合併当時は二万四千人余りだったが、現在は約一万七千八百人。高齢化率も二五・一%と県平均の一七・六%を大きく上回り、過疎化、高齢化が深刻な問題となっている。

 「碓氷峠鉄道文化むら」は九九年四月にオープン。園内の展示車両は当初の十五両から二十五両に増えたほか、峠越え専用電気機関車「EF63」を使ったシミュレーションも設置されるなど徐々に充実している。

 文化むらとほぼ同時期に完成した「碓氷峠くつろぎの郷公園」は、コテージや市民農園などが整備されている。西隣には、温浴施設などを備えた「松井田町うすい峠の森公園」が、来年四月にオープンする予定で、文化むらと同様、町の活性化の切り札として期待されている。また、旧信越線のアプト式鉄道時代の廃線跡を利用した遊歩道「アプトの道」が昨秋、一部開通。ウオーキングが企画されるなど人気を集めている。

 観光地としての要素が詰まっている松井田町だが、年間八百万人が訪れる大観光地の軽井沢や、秋間梅林、磯部温泉などの観光スポットがある安中市などとの連携が十分でない。観光客に“無駄”なく楽しんでもらうためにも、周辺自治体と協力した観光ルートを確立すべきではないだろうか。

(安中支局 浜名 大輔)


※本記事の転載については、上毛新聞社より許可を得ています。




信越本線・横川−軽井沢間の廃止、碓氷峠鉄道文化むらの開園で大きく変貌した横川地区。


JR横川駅の旧4番線ホームに留置されている碓氷峠専用電気機関車EF63の重連と189系電車「あさま」号。
前方には、碓氷峠鉄道文化むらと、104年の鉄道史を包み込んだ碓氷峠。鉄路はまだつながっています。

※写真ならびに写真キャプションは、新聞記事とは関係ありません。
撮影:碓氷峠鉄道文化むら応援団



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