掲載: 2009.05.22


2009年4月18日早朝、碓氷峠鉄道文化むらへ向かう途中、国道18号旧道からアプト式旧線遺構の状況を駆け足で見てきました。以下、前置きが長くなりますがご容赦ください。

碓氷峠交流記念財団・碓氷峠鉄道文化むらが、モーターカーで線路敷地内の除草剤散布を定期的に行ってきていますが、土砂崩落対策までは当然のことながら(原因箇所が線路敷地外の広範囲に渡り、財団の管理区域外でもあり)手が回らないものと思われます。

このため、国道18号旧道から見える範囲でも、崩落・土石流跡や倒木が増え続けていることが確認でき、素人目にも危険な箇所が目立ってきているように感じます。特にこの数年、集中豪雨など極端な天候が増えたためか、沿線の荒廃が加速しているように感じます。

また、国道18号旧道そのものも年々荒廃が進行してきている印象があります。崖側の土砂崩落による通行止めが近年繰り返されていますし、山側の崩落も目立ち、土のう設置箇所が増えています。地形上、碓氷新線・アプト式旧線遺構の橋梁がある沢にそのような箇所が多いようです。そのような沢は一見して土石流の危険地帯であり、大量の土石や流木で沢が埋まってしまっているところも散見されます。吹きつけコンクリートや防石柵で防護されているはずの場所も旧道上に小石や木片が落ちてきていたりして、素人目には不安を感じます。

もし大規模な土砂崩落・土石流災害が発生した場合、碓氷峠の観光資源としての価値が大きく損なわれるだけでなく、安中市の財政規模から考えて復旧断念すなわち碓氷峠観光化施策の大幅縮小、観光鉄道方式での鉄路復活構想完全消滅という事態になりかねません。

このような事態が発生すれば、当然のことながら、富岡製糸場関連の世界遺産登録に大きなマイナスとなります。復旧不可能な土石流災害を理由としてアプト式旧線遺構が世界遺産候補地域から外されれば、もし世界遺産登録が実現したとしても安中市のメリットは大きく損なわれるでしょう。

これ以上荒廃が進まないよう、致命的な土砂崩落・土石流災害が発生しないような対策が急務だと感じます。これは安中市が主体となり、群馬県や国も一体となって取り組むべきだと思います。碓氷峠は全国屈指の急峻や地形であり地質的にも特異です。さらに新旧碓氷線ならびに国道18号旧道は線形上、土砂災害の影響をうけやすいわけです。碓氷峠を観光資源として重視するのであれば、さらには世界遺産の重点地域とするのであれば、この問題は座視できないのではないかと思います。不法侵入・窃盗・落書き防止対策の充実は当然として、それ以上の重点をおいて土砂災害防止対策を行うべきではないでしょうか。


なお、コメントは当サイト管理人の個人的なものです。碓氷峠鉄道文化むら等関係部所には関係ありませんし、当サイト関係者一致の公式見解でもありません。全ての文責は管理人一人にのみあります。

※目視ならびに撮影は全て国道18号旧道上あるいは旧道脇(線路敷地外の安全な場所)より行いました(撮影は、場所により望遠レンズ:130o相当を使用)。
線路敷地への立入禁止については、本ページ末尾をお読みください。


※本記事は、「アプトの道」区間以外のアプト式旧線遺構に対する旧道上からの見学ツアーを奨励するものではありません。現時点では、事前知識のない人たちが気軽に見学する場所としては未整備で、明らかに危険な場所もあるからです。

※本記事の類が、線路敷地への不法侵入を助長したり、窃盗や落書き常習犯への情報提供になってしまうのではないかという懸念が常につきまといます。我が国の文化財保護に対する民度は決して高くなく、加えて不況や社会不安の影響か人心荒廃・モラル崩壊が著しく、碓氷峠でも被害が増えているからです。しかし、情報統制しつつ良心に期待するという受動的スタンスでは限界にきているのではないかと感じ、敢えて現地の好ましくない状況をお知らせすることで問題提起になればと思い、本記事を掲載しました。

※地図や、遺構と国道18号旧道カーブ番号との対比については今回は掲載しませんでした。安中市による現地整備や保存計画、防犯対策が明確になった時点で、詳細な現地案内を掲載する予定です。

※梅雨から夏期にかけて雑草の勢いには相当なものがあり、新線に残されている架線にまで蔦草がとりついてしまっている箇所があるようです(旧道より目視できます)。このままでは、新線の架線断線や架線柱倒壊すら近い将来におこるのではないかと心配です。自然との闘いが年々厳しくなっているのは確かで、鉄路復活の具体的検討とは別に、現状保存のため徹底した除草が必要かと思います。財団もしくは安中市の方で市民を中心に除草ボランティアを組織するのも有効でしょう。市民が碓氷峠の価値を再認識する機会にもなり一石二鳥かと思います。鉄路復活の重要なパートナーとなる軽井沢町にも働きかければ、より大きな動きを作り得ると考えます。

撮影日:2009.04.18

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国道18号旧道より見るアプト式旧線遺構の様子。


碓氷第17トンネル(全長175.02m)。
熊ノ平〜軽井沢間に残る数少ないアプト式旧線遺構の一つです。
坑門デザインは熊ノ平を境に違うそうです(区間により設計者が違ったため、デザインが異なったという説があります)。
碓氷線に限らない話ですが、明治時代の鉄道建造物で並行して国道等がある場合、デザインで特に留意されたようです。その例に違わず、このトンネル坑門も結構凝った意匠のものです。
なお、アプト式旧線時代、この付近の国道は現在よりも数m下を通っていました。


同上。
碓氷第17トンネルは全体が残っています。熊ノ平から軽井沢寄りのアプト式旧線は、ほぼ全区間が粘着式新線下り線に流用され、同区間のトンネルや橋梁は全面的に改築されてしまいました。そのため、熊ノ平から軽井沢寄りの区間でアプト式旧線遺構が明確に残っているのはこの付近のみです(第11橋梁はコンクリート補強の上で流用)。
なお、熊ノ平から軽井沢までの区間に残る遺構は残念ながら国指定重要文化財指定から漏れてしまっています。


碓氷第17トンネルの横川側口。
熊ノ平から軽井沢寄りで全長が残っているのはこの第17トンネルのみです。第16号トンネル(下記)は軽井沢側口のみが残っています。
なお、軽井沢寄りの第18トンネルは入口付近より新線下り線と重なったため、横川側口トンネルポータルの一部のみ(トンネルはコンクリートで封鎖)が残っています。これについて旧道上からは目視困難です。草木が繁茂していない季節ならば旧道からでもかろうじて存在がわかります。


碓氷第16トンネル(全長265.39m)の軽井沢側口。
第16トンネルについては、この付近のみが残り、坑口から横川寄りは新線に流用されています。
土砂が流れ込み、入口に設けられた木製柵が半ば埋没してしまっています。


碓氷第13橋梁(全長51.74m、高さ10.06m。5連アーチ)。
通称「中尾橋」。アプト式旧線では全長において3番目です(2番目は第6橋梁ですが、全長はほぼ同じです)。
なお、第13橋梁、第16ならびに第17トンネルともに説明案内板の類は一切なく、非常に勿体ない状況です。
上画像の右手石垣下が改修前の国道18号跡です。画面奥の手前アーチ下をくぐって右奥へ回り込み(その先は新線下り線により分断されています)、ヘアピンカーブで奥側2つのアーチ下を左方向に出てきます。ただし、軽井沢側のアーチ下は土砂の堆積が著しく、国道18号の痕跡はわかりません。アーチ頂上部に今も残る警戒塗装だけが、かって国道が下をくぐっていたことを偲ばせます。
中尾川は土砂(旧道より目視できる範囲には巨石や倒木の蓄積はないようです)により改修前の国道の高さまで埋まってしまっています。中尾川源流に近いこの地点は、JR時代を通じてある程度の土石流復旧は行われてきたようです。しかし沢は既に埋まっており、中尾川は旧道下に埋められた小規模な暗渠を通じて流れている状況です。さらに、軽井沢川の壁面(画像左奥)の崩落もあり(近年、何らかの工事が行われた形跡はありますが、土止めの類はありません)、素人目には心配な状態です。


同上。
画面右端アーチ手前の改修前国道の欄干が見えます。
国道18号旧線のこの付近は、アプト式旧線廃線後、新線複線化・下り線建設工事に応じて改修されました。改修工事の結果、国道18号旧道のこの区間は嵩上げされヘアピンカーブは解消されました。これにより旧道から見ると第13橋梁はあまり目立たなくなってしまいました(気がつかない人も少なくないでしょう)。


同上。
右端のアーチ下をくぐっているのが改修前の国道18号跡です。
第13橋梁はかって第3橋梁に次いで有名でした。熊ノ平から軽井沢寄りのアプト式旧線ルートの大部分が新線下り線に改修利用されましたが、この付近だけは反向曲線(S字カーブ)解消のため新線ルートから外れ、これら遺構が残されました。第13橋梁は新線に隣接していたためJR時代になっても保守用通路として管理されていました。
上記はいずれも国指定重要文化財指定から漏れてしまっていますが、保存状態は指定箇所とあまり遜色なく、国道18号旧道から見学が容易であることもあり、安中市の史跡指定等を行い、保存整備を行うのが望ましいと思います。

※第17ならびに16トンネル内および第13橋梁上は立入禁止です。トンネルについては入口付近の柵から内側、第13橋梁については旧道側のガードレールから先へは絶対に入らないでください。
なお、旧道脇より第13橋梁が容易に見えるのは晩秋から初春期のみです。夏期になると草木が繁茂して確認が困難ですし、不用意に草木に接近するとスズメ蜂などの危険がありますので全景を撮影するのは諦めるのが無難です。



国道18号線旧道から見える範囲でも、各所でこういう土石流跡が増えています。奥は新線。旧道上に停車した車中より撮影。
このままではいずれ新線橋梁が流されるか埋没し、国道18号旧道も寸断されるでしょう。
土のうで土石流が旧道に流れるのに備えている箇所も増えました。国指定重要文化財指定箇所も同様で、土のうにより旧道と遺構が分断されている所もあり、重要文化財としては異例かつ危険な状態になっています。


旧道山側に並べられた土のう。
旧道に土砂が流出してくるのを防止する目的でしょうか。数箇所に置かれています。
このままでは新線ならびにアプト式旧線遺構に甚大かつ回復不可能な被害が及ぶ惧れがありますし、国道18号旧道が寸断されてしまう事態にもなりかねない箇所が増えています。安中市と国が協力して復旧工事ならびに対策を早急に行うことが望まれます。


熊ノ平信号場へ通じる補修用トンネル入口。また落書きが増えました。

※熊ノ平構内は立入禁止が明示されており、ゲートは施錠されています。立入禁止柵や表示の有無に関わらず、いかなるルートでも、構内への侵入は禁止されています。



熊ノ平付近。
熊ノ平から横川寄に残るアプト式旧線遺構は国指定重要文化財に指定されています。


アプト式旧線敷地で工事中の重機。
現在、碓氷第3橋梁から熊ノ平までの区間で遊歩道「アプトの道」の延伸工事が行われています。


碓氷第6橋梁(全長51.86m、高さ17.37m)。
第3橋梁に次ぐ規模です。一つのアーチと長い側壁が特徴で、高欄部分のみアプト式旧線遺構で唯一のフランス積になっています(他の遺構はイギリス積)。また、関東大震災による補強工事の跡がなく、建設時の原型を保っています。橋梁としては特異かつ印象的な形状です。
この橋が跨ぐ沢も、瓦礫や倒木が増えてきています。
また、第6橋梁の横川寄の壁面(画像右手)に旧道からも確認できる縦方向の大きなクラックが出てきており、何らかの補修工事が必要ではないかと思われます。
進行中の「アプトの道」延伸工事に際して、崩落危険箇所がある長大トンネルとともに、対策が施されると思いますが。


碓氷第5橋梁(全長15.79m、高さ8.84m)。
小規模な土石流や倒木で沢が埋まり始めています。


碓氷第5橋梁と碓氷第7トンネル(全長75.44m)横川側口。

※橋梁上ならびにトンネル内へは絶対に入らないでください。
また、土砂や土石流、流木が堆積している危険箇所も少なくないので、旧道脇の説明板から先へは入らないほうが無難です。
国指定重要文化財に相応しい保存整備と展示方法を実現すべきと思います。こういう部分での正攻法かつ地道な取り組みこそが、碓氷峠の価値をより高め、世界遺産国内候補選定にも寄与すると思います。
「アプトの道」延伸で「線」の状況は改善されると思いますが、本来は「面」で捉えた整備が望ましいでしょう。具体的には土石流堆積の撤去ならびに防止、アプト式旧線廃線後に繁茂した草木の伐採(周辺の自然保護、土石流防止対策とのバランスで総合的に判断する前提で)、見学コース・駐車休憩場所の明示や説明板のさらなる充実などです。
その際、旧道側より遺構に接近できる境界線を明示するのが望ましいと思います。滑落の危険がある斜面や沢に見学者が不用意に入らないようにするためです。境界柵(周囲の景観と違和感がない前提)があれば、事故防止とともに落書き等の犯罪抑止にもなるでしょう。

犯罪抑止については、遺構への落書きは当然として煉瓦・石材抜き取りも禁止を明示し、多発箇所・懸念箇所への防護柵(アクリル板等の透明素材も有効かと思います)設置が望ましいと思います。
それと同時に、周囲に散乱する煉瓦片・石片(風化による崩落もあるでしょうが、旧線工事時に発生した廃材が沢や旧道境界部分の補強に流用されたのかも知れません)の持ち帰りを禁止する掲示も必要かと思います。遺構本体だけではなく、周辺の景観全体を面として保存する観点が大事です。

「アプトの道」全線開通を契機に、案内を兼ねた防犯監視員(土砂災害等の危険箇所確認、周辺自然保護確認を兼ねるとさらに有効)を任命し常時巡回させる方法もあるかと思います。
この点で、旧国鉄OBの方達や公式ファンクラブ・ボランティアの応援はもちろん必要ですし、有効でしょう。しかし、閑散期(犯罪多発期でもある)の監視、監視ポイントの選定や効率的な巡回ルート策定を考えれば、安中市あるいは財団が組織的恒常的に取り組んでいくのが大前提となると思います。監視に必要な専門技能を持ち現地に詳しい人材を年間通して活用し(関係OBの嘱託契約等)、知識と技能を持ったボランティアを計画的に育成していく(OJTだけでなく、講習会を実施して安中市独自の資格を与える制度等)ような取り組みです。育成されたボランティアは観光シーズンの人員不足を補うと共に、将来の人材運用・育成の核にもなる可能性があります。


碓氷第4橋梁(全長9.76m、高さ4.42m)。
旧道からはこの部分しか見えません。従って沢の上流がどうなっているかわかりません。旧道から見える範囲では土砂堆積は少ないようです。


乙横坑。
工期の短縮のため、複数の長大トンネルで横坑が掘られました。アプト式旧線最長の第6トンネル(全長546.17m)に下記甲横坑とともに残存しています。

※旧道上より望遠レンズで撮影。崖上にあるため接近は不可能です。


甲横坑。
沢の土石流や倒木が増え、年々目視が難しくなっています。
わかりにくい画像で申し訳ありませんが、国道18号旧道より望遠レンズで安全に撮影するのにはこれが限界です。

※これ以外のアングルでの撮影は、現状では滑落の惧れがある危険撮影だと言わざるを得ません。横坑内の侵入はもちろん禁止ですが、付近への接近も危険を伴うため自粛するべきだと思います。事故が発生すれば地元への迷惑になります。


碓氷第3橋梁(全長91.06m、高さ31.39m)。
アプト式旧線橋梁遺構最大にして、碓氷線のシンボルとも言えるものです。
現時点で、横川から延びる遊歩道「アプトの道」は、この第3橋梁までが整備完了して公開されています。
※第3橋梁から軽井沢方向、熊ノ平までの旧線遺構については「アプトの道」延伸工事中で、立入禁止です。


同上の橋脚。
残念ながら落書き(釘状のもので煉瓦を掘り込んでしまうという修復が極めて困難な悪質極まりないもの)がさらに増えているようです。全く理解し難い蛮行です。
このような状況は世界遺産候補選定の際にマイナス評価となるはずで、遺構を防護策で隔離するような対策が必要になるかも知れません。

※碓氷線で立入が許可されているのは「アプトの道」遊歩道として公開されている新線:上り線の文化むら〜坂本付近ならびにアプト式旧線遺構:坂本・峠の湯付近〜第3橋梁(通称めがね橋)までです。新線、アプト式旧線遺構ともに左記以外の区間への立入は禁止されております。熊ノ平信号場構内も立入禁止です。当然のことながらトンネル内や橋梁上への立入もできません。
現地では全線復活へ向け準備が進められています。碓氷線鉄道用地は廃線「跡」ではなく、所有者管理者が明確であり、鉄道としての復活構想があります。どういう理屈があろうと鉄道用地内への無断立入は鉄道復活への妨害行為となりますので絶対にしないでください。
もし鉄道用地内に不審な人物を見つけた場合は碓氷峠鉄道文化むらへ通報してください。

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