新宿区後援・3月新宿フレンズ講演会


日本の訪問型支援−ACTを知る

講師 地域精神保健福祉機構(コンボ)

   ACT−IPSセンター  久永文恵先生

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【訪問型支援・アウトリーチとは】
 最近、アウトリーチという言葉を聞くことも増えました。これは英語で「手を伸ばす」ことで、「地域社会に手を差し伸べる支援活動」などと言われています。精神科の領域では、支援期間や医療機関に自発的に来ることができない、あるいは来ることを好まない人たちに対して、サービスを届けることを指しています。

 自分から「助けてほしい」とSOSを発信するのが難しい方も沢山いて、それは病状が重いということでもあり、生活が障害に影響されて困難になって外に出ることが難しい、あるいは医療機関や支援機関への不信感が強い場合もあります。また他にも障害や病気のある家族を抱えているなど複合的に絡み合って、地域の中で孤立しやすく、あるいは大きな事件や騒動がない限り放置されてしまう場合に、こういう訪問型のサービスが必要になります。

【安心感を届ける】
 
私は「地域」とはいったい何を指すのかと時々思うことがあります。病院外で生活することが地域で生活するということなのか。まずはその人が安心できる場所はどこなのかと考えたり、調子が悪くなったり行き詰った時に入院だけが解決策なのかと考えながら、ACTに関わっています。

 病院や施設に通う場合とは全く異なり、訪問サービスの特徴は本人が生活している場に支援者が出向くので、新しい風が入ってくるわけです。時にはそれを脅威に感じ、「何をされるのだろう」「強制的に注射されるのでは…」などと不安に思うので、訪問サービスではまずは安心感を届けることがとても大事になります。従って「この人に頼っても大丈夫」「自分の味方だ」と受け入れてもらえるまで丁寧に対応することが大切です。

 病気を治すことだけが目的はなく、生活の困難さを一緒に解決し、もう少し毎日が楽しいと思えるようにするにはどんな工夫が必要なのか、病気と付き合いながらどのような工夫ができるのかなどを一緒に考えていける利点があります。

【アメリカ発のACT】
 ACTは、Assertive Community Treatmentというアメリカで誕生したプログラムです。assertiveは「積極的」、支援者が病院で待っているのではなくて、積極的に地域へ出向いて利用者のところへ支援を届けようという意味が込められています。日本では「包括型地域生活支援プログラム」と意訳しています。

 アメリカの中西部ウィスコンシン州デーン郡の州都マディソン市で誕生しましたが、その背景には、1960年代に始まった脱施設化があります。州立病院の病床が削減されたのです。しかし、地域の資源を充実させないまま退院を促進したため、病院での生活訓練も上手く使えず、サービスに繋がらないまま退院してしまう状況に陥りました。結果的に頻回入院が増え、ひどい場合には治療も受けられず住む場所も失ってホームレス状態になる人も非常に増えたのでした。

 州立病院でACTの実践と研究が始まったのが1960年代後半です。病院内でも生活訓練をしますが、退院後に電子レンジを使おうとしてもスイッチの場所や機能が違う、バスの乗り方が地域で違うなど、個々の生活の場に合ったものでないと使えない。それなら病院での訓練よりも、生活の場で24時間支援したほうが良いのでは、という仮定を立ててプロジェクトを始めました。

 ACTとなったのは1972年で、設立者は「施設内で治療や安全性が提供されるというのは、誤った思い込みだ」と言っており、できるだけ制限の少ない環境の中で支援が提供できるようにという信念です。

【支援を自宅へ届ける】
 
ACTは「重い精神障害をもつ人が、住み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう、さまざまな専門家から成る多職種チームが、自宅などへの訪問を中心に支援を提供するプログラム」です。すでにある福祉や医療のサービスでは地域生活の継続が難しい方や、長期入院や精神科救急サービスの頻回利用者が対象になりますから、誰でも利用できるプログラムではないというデメリットがあります。

 多職種チームという言葉を使いましたが、スタッフは「私は看護師だから看護だけ」「医者だから医療のみ」ではなく、例えば一緒に買い物に行く支援や市役所に手続きに行くなど、特に職種の専門資格がなくてもできることはどの職種でもするので、職種を超えてという意味を込めて最近は超職種チームと呼んでいます。

 特徴的なのは、日本ではまだ少ないのですが、就労支援の専門家がいるチームや、ピアスタッフ(当事者)が加わっているチームもあります。

 日中の訪問が基本ですが、24時間365日対応で必ずチームにアクセスできる形を取っています。先ほど包括型というところで触れましたが、生活支援や医療が統合しているプログラムです。

【ACTの仕事と特徴】
 幅広いサービス:ACTには多職種のスタッフがいるので、幅広いサービスのできることが強みです。様々な関係機関や支援機関と分担して全てをまかなう、ある意味で自己完結型の支援ができてしまいます。これが良い面を発揮することもありますし、そうでない場合もあります。

 良い面は、医療やサービスに対する不信感が強い利用者の場合、ACTのスタッフとの信頼ができそうな時に、その信頼性を通して他の組織が入らなくても幅広いサービスを提供できることです。半面、利用者と家族とACTの関係だけの狭い世界になってしまう面を持ちます。

 多面的な気づき:チームで関わることは、専門が違うため多面的に見ることができ、支援するスタッフ側も情報量が沢山得られます。利用者や家族を知る上ではメリットで、早い段階で問題をキャッチできて様々な困りごとに対応できるメリットもあります。

利用基準:「ACTは利用したくてもなかなかできない」とう声を聞きます。事業者数がまだ少ないことと、利用者の加入基準が決まっており対象者が限定されるからです。

関係づくり:民間のプログラムなので、本人が納得した上で同意しないと訪問できない。そこで関係作りを丁寧に行います。本人が拒否的で家族が困っていれば、家族から同意を得て家族訪問を続けます。ドア越しにひと声かけたり、会えなくても手紙を置くなど工夫して、脅威と感じずに何か一緒にできるのかなと思ってくれる時を待つなど粘り強く関わると、本人がそっと覗いて出て来たりします。

支援の内容:その人に必要であれば、日々の過ごし方、住居、社会資源に関することなど、できることはすべてやるのが基本です。チームのほとんどに精神科医がいて主治医になっているので、訪問して診断、処方が書けます。薬を取りに来られない方には薬を持って行きますが、できるだけ外に出てほしいので「今日は通院できそうだ」という時は、通院の同行支援もします。

 体の健康は大事に考えていて、きちんと血液検査を受けているかをチェックし、ちょっとした変化にも相談に乗ります。孤独を抱えている人が多いので、地域の祭りに行ったり、以前の関係を回復したい家族や友人のやりとりに関わったりもします。
 入院中も訪問して、退院後の生活を本人と医師や看護師と連携して退院計画を立てます。

家族支援:日本のACTの特徴的な取り組みだと思います。家族と同居している人も多いので、家族にも元気になってもらうためにできることを一緒に考えます。

就労支援:働きたくても一般の求人には乗りにくい人が多いので、例えば家でできる仕事を探したり、ポスティングを一緒にやってみたり、障害者枠で働いてみることなど支援しています。

情報共有:スタッフは毎朝ミーティングを行って利用者のことを共有します。前日の訪問中にあったこと、今日の訪問内容の予定や、「以前は寝たままで出て来なかったが、昨日は起きて待っていてくれた」などの変化も報告します。「急にもう来ないでと言われた。次の訪問はどうしたらよいか」など、困った状況には皆でアイデアや解決を考えます。病状や副作用など気になる場合には、精神科医が薬の処方を変えたり、訪問したりします。車での訪問が基本なので割り振りも決め、緊急な場合にどのように動くかを確認します。

夜間の対応:24時間対応ですが、夜間や休日は電話対応が多いです。もちろん訪問が必要な場合には行きますが、夜の電話はあまりありません。ふだん電話をかけて来ない人からの電話は「これは大変だ」ということもあります。寂しくて頻回にかけてくるとスタッフも消耗するので、「あくまで緊急電話」と言い聞かせているところもあるようです。心配な時は家族が電話してくることもあります。

 「24時間対応は大変でしょう」と言われるのですが、日中の関わりをきちんとしてお互いが納得できて安心できる形にしておくと、電話は少なくなり、本人も自分で対処できることが増えていきます。

【利用者のニーズに沿って】
 こういった様々な支援をスタッフが一方的に計画を作って進めるのではなく、「今、必要なことは何だろうか」を本人と確認して一緒に取り組んでいくことが、良い関係を作るきっかけになるようです。

 言葉で言うとシンプルですが、「こうしたい」と言っても、次の日には「やはり止めます」と上手く行かないことも沢山あります。支援者側が相手の言うことを上手く聞き取れていなかったり、お互いの誤解が生じたり、時には支援する側は結果が見えないと不安になるので価値観を押し付けてしまい、本人がやりたくないことを「やろうね」と差し出してしまうこともあります。実際にサービスを実施して成果を検証し、修正しながら歩んで行くことが大事です。

 強みとしては、主治医と多職種のスタッフがすぐにコミュニケーションが取れて、すぐに方針が立てられる、それを利用者や家族に提案できます。365日対応で、困ったことや不安なこと、やりたいこと、危機への対応、なんでも相談してもらうスタンスを取っています。

 就労支援のスタッフがチームにいると、「仕事ができない」と思っていた人たちが、できる範囲の仕事を見つけやすくなるメリットがあります。働くことで病気が悪化するのではないかと支援者側も恐る恐るですが、「働きたい」という気持ちは大事にして今できそうなこと、例えば学習塾の採点など自宅でできる仕事を探すなど、ちょっとした隙間の仕事を見つけます。ストレスがかかるので大変ですが、働くことは元気になる1つの要素で、自分に役割が生まれて誰かの役に立つ、お金を稼げるとかで元気になることがあります。

【家族も元気に】
 家族支援が日本のACTの特徴だと言いましたが、ウィスコンシン州のACTでは1人暮らしの人がほとんどで、家族に会うことはまずありません。日本は同居が多いこともあり、最初は家族への支援で入ることが多いです。

 スタッフ2人で訪問して、1人は利用者、もう1人は家族の困り事や希望を聞いて進めることも多いのです。ある例では、母親が息子を置いて仕事に行けないと躊躇していましたが、「息子さんは昼まで寝ているので、朝のうちに仕事したらどうですか」と提案し、近くのスーパーの品出しを朝の2時間くらいやり、息子さんが心配な時には私たちが訪問することになりました。

【各地のACTの現状】
 ACTは、まだ活動が広がりません。政府や自治体にACTとして確立された財源がなく、診療報酬など今の制度は訪問支援には使いにくいのです。訪問看護ステーションの制度では件数を増やさないと経営が回らないので、ACTのようにじっくり関わって1日に2、3件では赤字になる。使える制度が少ないことが大きな障壁です。。

 日本全国では、まだ20くらいしかありません。人口10万人あたりに1チームあるのがよいと諸外国では言われていますが、それには程遠い数です。現在ACTを広げようとして、「ACT全国ネットワーク」という任意団体を作っていますが、20の事業所と、いずれACTをやりたいという13事業所が加盟しています。

 それぞれは、クリニックを立ち上げてACTを行っている、大学病院の中で訪問チームを組んでいる、福祉サービスを使って運営、元々病院にいたスタッフがクリニックや訪問看護を立ち上げている等が多いです。行政がやっているところでは、名古屋市で「愛知県精神医療センター」がACTの活動をしています。「ACTが近くにない」と言われている通り、これしかないのが現状です。「ACTを広げましょう」という支援者側の視点だけではなくて、ACTの加入基準に該当する人がどれだけ地域にいるのかを調査し、他に訪問サービス施設はどれくらいあるのか等、地域の状況を考え、利用者側のニーズを汲み取りながらACTのチームを作っていくことが重要です。

【ACTの課題と大切なこと】
 多職種のスタッフがいて自己完結型のサービスが提供できることは、良い点もあればマイナス点もあります。目が届き過ぎて管理的になったり、地域の施設化になってしまうのは怖い。例えばデイケアにちょっと行かなかったら「アウトリーチです」と称して来られても、常に監視されている気持ちになるかもしれません。

 訪問が日常化すると何を目指しているのかが薄れてきてしまいます。「やってあげる」ことがチームで容易にできてしまうので、利用者ができることを替わりにやってしまうことが続くと力を奪うことにもなり、それがアメリカでも問題となって、当事者の団体からの批判が強まったことがあります。

 個別支援は利用者とチームの関係だけに陥りがちなので、ACTだけで孤立しないように、外にどうやって繋ぐのか、他の社会資源や当事者同士のグループが近くにあれば一緒に行ってみること、保健所などの行政との連携も大事です。

 本人や家族の願いは、「普段は良いが、困った時に来てほしい」「24時間、相談できる安心感を」でしょう。契約がなくても緊急時は動けるようにという課題になりますが、ACTだけでなく、24時間対応の制度を地域に作っていくことが必要です。また、利用者と家族とスタッフが協働するという文化の構築もしなければなりません。

 通院や通所ができるようになったらACTは終わりではなく、サービスをつなげてアウトリーチがなくなっても本人が安心できる体制を作ってから卒業する、あるいは訪問の支援が必要になればまた使える、という保証ができることも必要です。

 ACTは日本では歴史が浅いのですが、利用者が地域で生活できることは、その地域は多様性を受け入れる住みやすい土壌があると感じています。

私は親戚が躁うつ病を患い、その時に私はすでに福祉の仕事をしていたのですが、「なんで俺の気持ちが分からないのか」と話を聞いてもらえませんでした。第三者が入ることが大事だと思って繋げたところ、その状況を受け止めて安心できるという感覚をその人が作り出してくれました。家族だけで抱え込まないことがとても大事だと思います。  〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 
  桜が散り、つつじが咲き始めた。日本の四季の移り変わりの美しさに感謝感謝である。

 そして今月はコンボの久永さんからACTの詳しいお話を伺った。聞いていて、まさに理想の治療形態であるとうなずけた。

 この病気の特質である病識において通院、入院を拒否する人が多い。それ対してACTから当事者に向かっていくという訪問医療を主体に行っている。その根幹には安心を届けるという。病気を治すだけでなく、生活の困難さを解決し、毎日が楽しくなるようにするにはどんな工夫が必要かを当事者と一緒に考える。

 スタッフには看護師、PSW、作業療法士、精神科医、ピアスタッフ等多職種チーム編成で治療に当たる。24時間、365日対応である。この体制が20年前にできていたら私の息子も違った結果を生んでいたかも知れない。

 息子はある晩トイレに入って騒ぎ始めた。私は入院していた病院に連絡したが、守衛から「いま誰もいないので明日の朝に」と冷たく電話を切られてしまった。やむなく、警察に連絡し、彼は医療保護になって入院となった。

 しかし、久永さんはACTの課題を次のように述べている。つまり出過ぎの危険である。「なんでもやってあげる」が行き過ぎると利用者の力を奪ってしまうというのだ。

 さらに、ACTだけで孤立しないように、外部とどのように繋がっていくのか。他の社会資源や当事者グループ、保健所などと連携していくことが大切であると。

 最後に通院、通所ができるようになったらACTは終わりでなく、本人が安心できる体制を作ってからであるという。あくまでも「安心」がACTの基本理念であると判った。  嵜

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp