11月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

  病気があっても健康に!

 講師 東京医科大学精神医学教室准教授、

     茨城医療センターメンタルヘルス科科長 市来真彦先生

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 今日は1テーブルに4人、男女が交互に座って話し合うディスカッション形式。薄紫色のスーツに黄色いネクタイのダンディな先生の、「こんにちはー!皆さんは顔見知り?初対面?そう、両方なんですね。知らない同士の方が楽しいですヨ。せっかくなので初めてのご挨拶をしましょう。はい、お互い前の方、隣の方、斜めの方と順番に握手ゥ!、はい『こんにちは!!』」という大きな明るい声に、みんな引き付けられて会は始まった。

皆さん、「健康」ですか?

 では、最初に質問です。皆さん「健康ですか?」と尋ねられた時に、

「◎とても健康、○まぁ健康、△どちらかというと健康ではない、×思いきり不健康」

と4つに分けると、今のアナタの健康状態はどれでしょう?1人1回手を挙げてください。数えてみましょう。

「◎は4人、○は12人、△は4人、×は0人」ですか。

 それでは次の質問です。いま私が「健康ですか?」と聞いたときに、皆さんはご自分なりにどれを選ぼうかと考えたと思います。その時に、おそらくご自分でそれぞれ持っていらっしゃる「健康のものさし」に合わせて、自分が健康かどうかを決められたはずなのですね。例えば「自分は病気を持っているけれども、安定しているから○」だとか、「最近、薬が増えちゃったから△かな」とか、「膝が痛いから△くらいかな」とか。これを「自分の健康のものさし」と呼ぶのですが、そのものさしに添って答えを選んだことになるのです。それでは皆さんの「健康のものさし」がどのようなものだったか、グループで話し合ってみてください。

<テーブル毎のディスカッション>

「健康のものさし」は何ですか?

 それでは皆さんの「健康のものさし」がどのようなものか聞いてみましょうね、さてどんな話が出ましたか? 

A班「なぜ、◎ではないか、○、△、×ではないのか、と考えました。例えば過労、疲れているから○じゃない、不健康の△になってしまう。それから、Yさんは持病があるのですが、主婦でご飯つくりをしているので○です」

 なるほど。Yさんは「主婦なので、毎日の食事を作る。それができるということは○」と考えた。「家庭での役割を果たしている」ということですね。よい評価だと思います。

B班「私は先週の成人病検診で異常がなかったので○です。Zさんはちょっと病気があるので△ということでした」

 なるほど。B班の皆さんは「病気があるかないか」ということが「健康のものさし」なのですね。

C班「一昨日まで引きこもっていたので、相対的に比較すると、昨日と今日は○です。Cさんは陰性症状があるので、△ということです。それからDさんは睡眠不足で、精神症状があるので△」

 なるほど。C班の皆さんは「病気の症状の程度」を「健康のものさし」にしているのですね。慢性的な持病を持っていると、このように答える人が多いようですよ。その他どうですか?

「私は悪いところが思い当たらないので◎」

「わたしは病気があるのですが、体調もいいし、精神的にも落ち着いているので◎」

「私はもともと貧乏なのですが、今の生活は安定しているし、心も健康なので◎です」……など。

いろいろな答が出てきましたね。

 ありがとうございました。今のお話を元に、私は皆さんの「健康のものさし」をA、B2つのグループに分けました。私はこういう話を、家族・当事者の会や高齢者、子育て支援の場などでいたします。すると他にもいろんな答えが出てきますので、その答えも入れてみましょうね。

 A班の内容は簡単に言えば「病気があるかないか、症状が落ち着いているか不安定か、検査の結果が正常値かどうか、薬の量が多いか少ないか」といったことです。例えば健診の結果に問題がある、高血圧や高脂血症、いま怪我をしている、頭痛がある、症状が出ているとか、薬の有無や量。快食快眠快便という言葉もここに入りますね。

  B班は少なかったです。例えば「将来の夢、人間関係、赤ちゃんの寝顔」などですね。例えば「将来の目標が見えていると健康で○だけど、見えないと不健康だ」、「人間関係がうまくいってないから△」という意見が出たのは高校生でした。子育て支援教室では、「赤ちゃんの寝顔を見ていると自分も落ち着くから○だけれど、むずかっていると私の気持ちが落ち着かないから△」といっていましたよ。

 さて、私は皆さんの発表を聞きながら、A、Bと2つのグループに分けましたが、果たして私はどのような基準で分けたと思いますか? 皆さんで話し合ってみてください。

<ディスカッション>

・・・・中略・・・・

病院に行く目的は?

 では、「いま定期的に病院に通っている方、何人くらいいますか?」…あ、結構いますね。「かつて定期的に通院したことがある人?」…はい。増えましたね。では、「これまで病院に定期的に行ったことがない人?」…はぁ、この人たちが私の経済を圧迫しているのですね。(爆笑)

 では、「病院に何をしに行っていますか?」皆さんで話し合ってみてください。

<ディスカッション>

 この班の方々から聞いてみましょう。「病院に何をしに行っていますか?」

Aさん「症状を取ることと、安心感を得る」そうですか、なるほど。

Bさん「薬をもらいに行くことと、話を聞いてもらうことです」ホゥホゥ、そうなんですね。

 服薬の問題については、精神科においてもよく話されますね。話を聞いてもらうといっても、Bグループのような夢の話とか赤ちゃんの寝顔の話などはありません。「うちの猫が10匹子供生みまして」なんて話をすれば、医師は「うちはペットショップじゃありません」なんて(爆笑)。そちらのメガネを掛けた方、いかがですか?

Cさん「精神科では話を聞いてもらうこと、内科ではお薬をいただきに行くこと、治してもらうことです」

 はい、ここなんです。圧倒的に「治してもらう」と言う人が多いのです。先ほどのAグループでも「症状を治してもらう」とありましたね。

「治る」とは「元通りになる」?

 「病院にいくのは、治してもらうこと」という意見がありました。じゃあ、病院に通って治っていますかね?

 では次の質問です。「病気が治るって、どういうことでしょう?」皆さんで話し合ってみてください。

<ディスカッション>

 答を聞いてまとめてみましょうね。

「症状が取れること」

「症状が安定する」

「症状が治まる」

「日常生活に支障がないくらいになる」

「健康な状態に戻ること」

「症状に支配されなくなる」

「自然治癒力で治ること」

はい、これ以外に何か思いついた意見がありますか?

「爽やかな気分になる」ホゥホゥ、新しい意見が出ました。

 色々な意見が出ました。私の経験では、慢性の病気を持っていない人たちに同じ質問、すなわち「治るってどういうことですか?」と聞くと、決まって「病気のない状態に戻る」と言います。あとは「後遺症が残らない」とか言います。

 そこで質問、「精神科の病気って、元の状態に戻ると思いますか?」皆さんで話し合ってください。

<ディスカッション>

 では、「精神科の病気は、元の状態に戻る」と思う人は手を挙げてください…何人かいらっしゃいますね。

 「戻らない」と思う人は?…元の状態に戻らないと思う人のほうが多いですね。

 私は「精神科の病気は元に戻らない」と思っています。いや、むしろ「元の状態に戻らない方がいい」と思っています。このように言うと、患者さんやご家族によっては、「エッ、戻らないんですか」と驚いたり、がっかりする人もいます。「そんなことを言う医者はけしからん!」と言って席を立たないでくださいよ、話は最後まで聞いてくださいね。(笑)

 精神科の病気って一言で言うと「敏感病」なんですね。たいへん大雑把な言い方をすれば、「敏感なことから被害妄想になる」のが統合失調症で、落ち度やうわさなどに敏感で「自分は駄目だぁ」と悲観してしまうのがうつ病、逆に「俺はなんでもできるんだぁ」と思い込むのがそう病だ、と言えるのです。いずれにしても、周りの人が「そんなに気にしなくていいんじゃないの」と言っても、ご本人は気になって気になってしょうがない、というのが精神疾患の特徴だと思っています。だから精神科の病気は、まとめると「敏感病」と言えるのです。

・・・・中略・・・・

心の支えになったもの

 さて、私がそうした考えに至ったいきさつをお話したいと思います。私は千葉大学を卒業し、大学で診療したあと、千葉県の突端、漁師町の館山に赴任しました。最初そこで何が困ったかというと「言葉」でした。町の人しか分からない言葉があるんですね。お年寄りの人たちは診療中でもそのような言葉ばかり使われるので本当に困りました。辞書代わりに言葉の分かる隣にいてくれる看護婦さんだけが頼りでした。

 昔は「往診」と言って、「訪問診療」がありましたが、一時期往診は減ってしまいましたよね。そんな時代でもその病院はお年寄りを中心にけっこう往診をしていましたが、患者さんは私のような若い医師を歓迎してくれて、帰ろうと思うと白衣の裾を握られて帰れず、大変でした。(笑)

そんな中で、記憶に残る女性がいました。その方は半身麻痺で、右手、右足がやられてしまっていたのですね、つまり右が「ハンシン」で左が「キョジン」(右が阪神、左が巨人)⇒(爆笑)……ま、それはどうでもいいことで、その方はそんな苦しい生活でありながら、私が毎月往診に行っても、一言も「辛い」とか「苦しい」とか言わないのです。私は不思議に思って5ヵ月くらい経ったときに「どうしてそんなに我慢しているんですか」と聞きました。すると、その方は「今の私は幸せです」なんて言うんです。利き手と利き足がやられてしまって半身麻痺の状態なのにですよ?

 訳を聞くと、十何年前にご主人を亡くし、遺産相続で息子や娘たちが大ゲンカになってしまって、誰も家に寄り付かなくなっていた。けれどお母さんであるご本人が病気になって障害を持ったら、それまで散り散りだった息子や娘たちが、お母さんの様子を見に再び訪れるようになり、そこで顔を合わせるうちに兄弟姉妹で再び話ができるようになったというのです。それで「私は病気を持ってよかった、幸せです」と感じるようになったといういきさつだったのですね。

 私は、その話を聞いて本当にびっくりしました。つまり、私も病気を治すということは、先ほど皆さんが考えたように、「症状が辛い」「痛い」「数値がいい・悪い」「薬が多い・少ない」といったことを何とかすることだと思っていたのですが、健康になるということはそれだけではなくて、彼女の場合であれば、「子供たちが仲よく暮らしていること」すなわち病気と直接は関係ないことがあることに気がついたのです。

「病気度」と「元気度」 

 そんなことから、私は健康の概念というものを考え直しました。そんなときに自治医大の一期生である石川雄一先生と出会いました。彼は私のこのような考えを見事に整理してくれました。すなわち「健康とは病気でないことではなく、マイナス要因の病気と、プラス要因の元気のバランス、つまり『健康=病気(マイナス要因)+元気(プラス要因)』である」ということです。彼はこの考え方を病気軸と元気軸からなる「二軸の論理」と呼んでいました。

 まず「病気度」を計りましょう。病気を全く感じない、安定している、これを0にします。そして、これまで一番つらかった、あるいは死ぬんじゃないかと思った、これを−10とすると、皆さん、「今の病気度はいくつになりますか?」はい、考えてグループで発表してください。

<ディスカッション>

 はい、ではお聞きします。

0の人は?…6人

−1〜2…8人

−3〜4…8人

−5…1人

−6〜7…1人

−8〜9…0

−10…0

− 

 10の人はここにいるより、今すぐ病院に行った方がいいですね。(爆笑)

 さあ、では次に「元気度」を計りましょう。いきなり「元気度を計れ」と言われても「元気度」自体になじみが薄いでしょうからまずは元気度を計るもの、すなわち「元気の素(もと)」が何かを考えてみましょう。「元気の素」とは、「こんなことをすると自分は元気になる」ということです。

 さぁ、皆さんそれぞれ自分の「元気の素」は何かを考えて、グループで発表してみてください。

<ディスカッション>

 では、続いて皆さんの「元気の素」を使って元気度を計ってみましょう。好きなことが満たされている状態を元気度+10とし、満たされていない状態を元気度0とします。「元気度はいくつになりますか?」はい、考えてグループで発表してください。

<ディスカッション>

それでは聞いてみましょう。

+10だった人は?…1人

うわー、すごい、おめでたい人が1人いました。(拍手)

+8〜9…4人

+6〜7…11人

+5…8人

+3〜4…6人

+1〜2…1人

0…0

はい、ありがとうございました。

「元気の素」がいくつありますか?

 それでは次の質問です。皆さんの「元気の素はいくつありましたか?」

 3つ以上あった人…、2つあった人…、1つの人…、0だった人…、はい。「元気の素」は種類がいろいろで、複数あった方がいいです。

 つまり「元気の素」は、スポーツと音楽、読書といったような組み合わせや、外で楽しむものと、家の中でできるものという組み合わせ、他には1人で楽しめるものと誰かとやるもの、といったように毛色の違う組み合わせの「元気の素」があると、1つがうまくいかなくなったときに、もう1つの方で補えるのでいいと思いますよ!

「病気」と「元気」の足し算を

 さて、これまで考えてきた、先ほどのマイナスの「病気度いくつ」と、プラスの「元気度いくつ」を足してグループで発表してください。「私、さっきいくつと言ったかなあ?(忘れちゃった)」という人は、別な病気かもしれませんから、あとで私の茨城の病院の診察の予約をしてください。(爆笑)

<ディスカッション>

では、合計数を発表してください。

−10…0

−6〜9…0

−5…0

−1〜4…1人

ちょうど0…2人

+1〜4…17人

+5…4人

+6〜9…8人

+10…0

 さて、この数値を元に4つに分けて、最初の数値と並べて比べてみましょう。こんな数値になりました。

 途中から参加者が増えていますから人数では比べられませんが、全体的に△が減って○や◎が増えているのがわかります。この理由を考えてみましょう。最初私は漠然と「健康ですか?」と聞いただけでした。この時点では、皆さんの健康の基準を、Aグループ「自分・目に見える・体のこと」と、Bグループの「他者・目に見えない・心のこと」と分けたとすると、圧倒的に皆さんはAの病気軸を中心にして判定していたのです。

 しかし、その後私が二軸の論理、「元気の素」の話をしたことによって、プラスの要因が入ってくることになり、最初△だった人の一部が○に、○だった人の一部が◎に変化したから、割合も変化したのですね。このように「元気軸」の考え方を加えていくことを習慣づけると、ご自分の健康というものの考え方が、よりプラスの方向になることが分かります。

 「病気軸」を減らすのは、プロであるお医者さんの力を借りましょう。しかし「元気軸」というのは人によって異なりますから、自分で、仲間と一緒に作っていく必要があるのですね!

 ですから、これからは「病気があっても元気で生きていきましょう!」ただし、病気がひどい場合は、元気づくりだけでも駄目です。きちんと通院・服薬して、ある程度頑張って病気をコントロールして、プラス元気づくりをしっかりやっていく。これが、これからの皆さんの人生を必ず幸せにできるものと確信しております。

                      *

 では、最後に今日、私の話の中で最も記憶に残ったことは、どんなことでしょうか。皆さんで一言ずつグループで話し合ってください。

<ディスカッション>

 いま皆さんが話し合ったことが今日、私の話を聞いて得られた財産のすべてです。私の講演会ではいつも一生懸命メモを取っている方を見かけますが、その方々に聞いてみたい。「そのメモを一生のうちにあと何回見るのですか?」(爆笑)人は欲張っても、そう多くは覚えることができません。ですから今日は1つでよいのです。

 そして、今後もこうした勉強会に参加して、仲間と2ヵ月、3ヵ月後に「あのヒゲのダンディな(爆笑)市来という講師の話、覚えているかい?」などと話して、「何を覚えている?」「元気度についてかな」、「俺は準スター選手の話だな、ラグビーだったっけ?⇒バレーボールだよ!!」(爆笑)、といった風に仲間で話していると、今日のことをいろいろ思い出すことがあるでしょう。本の知識だけではなくて、こうした仲間との話し合いも大事にされてください。

 さて、皆さんからの疑モン、質モン、いちゃモン(爆笑)などがあろうかと思いますが、この辺で終わります。ありがとうございました。(拍手)


                                              

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 さて、十二月。何となくせわしく、何となく落ち着かない。テレビ、ラジオでは毎日のように猟奇的な犯罪の報道がなされている一方、民主党も献金問題や沖縄基地問題でモタモタ。今こそ自民党!といえど、これも腰砕け。日本、どうなってんの?

 そんな、混沌とも言える中、かねてより期待していた市来真彦先生を講師に招くことができた。それもこれも、精神科医でありながら「笑い学会」なる学会に属し、世に「笑い」を届けるサンタクロース的イメージを持っていたからだ。会場にヌーっと現れた先生は、自ら表明するようにダンディで、かつ、がっしりしたスポーツマン体格のお医者さんだった。

 そして、その容貌とは裏腹に、神経の細かさも売り物だ。講演前の打ち合わせでは机の並び方、座る位置、男女の組み合わせ、ホワイトボード、3色のマーカーペンの準備がPPTを使って所望された。

 講演の運びでは、何分かおきに出される「さあ、話し合ってみよう」というディスカッション指令。これでは居眠りする暇がない。巧妙な手口である。(爆笑)

 そんな笑いの渦の中で、私たちが気がつかなかった病気への認識を洗い出してくれた。健康とは「病気」と「元気」を足して2で割るような考え方が必要であると。私たちは、病気を持ったら健康ではないと考えていた。特に精神科の場合、長引く、副作用がある、完治しない。そんなことから気が塞いでいなかったか。これからは、そこに健康的な要素もあることを見逃さず、「元気の素」を見つけて、笑いの中で暮らしたいものだ。      

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp