3月 新宿フレンズ講演会

  ひきこもりと病気の間

               講師 国立精神・神経センター 精神保健研究所

                   社会復帰相談部 部長 伊藤順一郎 先生

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【閉じこもり/ひきこもりとは】

 今からお話しすることは医学的考えというよりは、僕の考えであることをご承知おきください。

 「閉じこもり」は、家の中からなかなか外に出られない、極端な場合は自分の部屋から出られないという現象です。

 「ひきこもり」はもう少し定義が広くて、仕事や学校の場に行けず、昼間は自宅を中心とした生活をしている、という状況です。実際に生活している場で皆さんが悩まれる状況は、家からなかなか外に出ない、出るにしても夜だけということだと思います。

 どうしてそれが起きるかを考えると、本人の「やむにやまれない対処行動」といえます。ひきこもりたくてひきこもるわけではなくて、他にやりようがなくてひきこもる選択をする。

【発達障害の場合】

 振り返ってみると、ひきこもる前の集団生活で、何らかの辛い体験が起こっているのは、おそらく間違いないでしょう。ひきこもりや統合失調症などの精神疾患が起きるのは、だいたい10代後半から20歳代です。その間、対人関係や集団の中でどう過ごすかというところで、嫌な思いをしたことがあるかもしれません。

 最近ひきこもりの中に、アスペルガー症候群や自閉症など発達障害的な問題を持っている方が結構な割合でいるのではないかと指摘されるようになりました。どこから発達が障害されるのか、生まれる前からか生後なのかはまだはっきりは分かっていませんが、少なくとも5、6歳頃からそういう特徴が見えてきます。その特徴は、ひとつのことに熱中すると周りが言うことにあまり耳を貸さないとか、集団行動ができにくいとか、こだわり始めるとそこから抜けられないなどというものです。

【生きづらさを抱えて】

 しかし、そういうお子さんは今の学校生活の中でとても生きづらくなっていることでしょう。僕の知っている患者さんの中で、アスペルガー症候群の方は皆さん小・中学生時代にとても嫌な体験をしています。学校で班行動がありますね。チームの中で人が成長するという意味でいい活動だとは思いますが、一方で、こういう子にとってはすごく嫌な時間になっているようです。と言うのは、一緒に皆でやるというのが自分の生き方と合わないわけです。

 精神障害を持った方がひきこもるときにも、実は似たようなことが起こっていると考えていいと思います。つまり、病を自分で体験して、他の人との違和感があったり、他の人も妙な反応を起こしたりして、しんどい思いをしたことへの対処としてひきこもるのです。

【独りはよくない】

 ひきこもりは対処行動だから、刺激にさらされていたらもっとひどいことになっているのを、かろうじて命を保つためにひきこもりをしている。私はひきこもっている子のお母さんの相談にのってお薬を出したりしていますが、その間にそんなにひどくなることはあまりありません。守られている環境の中にいるからと言えます。けれども回復するかといったら、それはちょっと厳しいというのが辛いところです。

 病気のためにひきこもらざるを得ない場合は、病気が軽くなると楽になったと出て行くことができる。例えば双極性障害の方で、自分の人生の中に感情の波がある方がいます。うつ状況になったときはすごく疲れた感じがするし「自分ってバカだな」と思ったりするらしい。そういうときはひきこもらざるを得ないけれども、薬の役目もありますが、時の流れとともに調子が上がってくることは絶対にあるわけです。すると季節の影響もあって、温かくなり太陽も燦々と輝いてくると、病気だけの問題のときには「あ〜楽になった」と動くことができる。

【状況を変えるには】

 人が自分の考えを変えていくためには、次の2つのどちらかをしなければいけません。

 ひとつは、何か行動を起こす。体を動かす、お料理をする、何でもいいです。考えるのではなくて周りに働きかけをしないと脳は生産的にならないようにできているみたいです。つまり、自分の中にあるものだけでは身動きがとりづらくて、何か新しい事をするときには環境からの影響を受けることが必要です。

 もう1つは、人と話すことです。皆さんも普段は話さない事をこういう場で、色々話して耳で聞く。自分の脳で考えることは大体一緒ですけれども、人の脳で考えている事を聞くと、そんなこともあるんだと刺激を受けてちょっと変えられる。

 体を動かす、人と会う、という脳にとってはとても大事なことをできないのが、ひきこもりの辛さだと思います。1人で居続けるとその悪循環から抜け出せないから、1人の努力だけではたぶん解決しづらいのではないか。でも時が経って外に出てみたという人も結構いますが…。

【家族にできること】

 どうすればいいかということですが、個別には色々知恵が出ても、正直はっきりした答えは持っていないんです。

 ひとつは、家族もひきこもり状況になっていることが比較的あるので、例えば家族会などに新たに来たご家族の方が「うちの子が閉じこもっている」と話したときに、皆さんが「よく来てくださった」と言ってあげることです。家族がこういう会に来るときは、ものすごい勇気と一縷の望みを持って、本人のひきこもりからもたらされる引力から自由になりたいという思いで家族会にたどり着くのです。普段はなかなか話せない事を皆で聞きますから、一緒にお茶でも飲みながら「月に1回位会いましょう」ということがとても大事だと思います。

 ご家族に仲間ができてしゃべり場ができたら、次に、家族が自分の体力を維持するために色々やることがいいと思います。家族も歳を取ってくると自分の体の心配が大きくて、なかなか笑顔でケアができないんです。だから家族が自分の体のケアをする。なにも医者に行くことばかりではなくて、ヨガを習うとか、ジムに通うとか、山登りとかダンスとか、自分に合った若さや体力を維持するための何かをやるのはとても大事だと思います。ひきこもりの引力から自由になるためには、そういうことも大切なのです。

【人と出会える環境を】

 そこまでやったら、家族が楽になったときに本人が動きます。解決に向けての第一歩はやはり誰かと会えるという工夫です。最後に“ヨッコラショ”と本人が一歩踏み出すときは、親のおかげでとは絶対思いたくなくて、親なんか嫌だと踏み出すことのほうが多い。自分と価値観が合わなかった奴らとはちょっと違う、面白いと思える人と出会って動き出せる。

 ご家族からしたら、こういう人が家に来てくれたらいいなみたいな、そういう人が居そうなところのパンフレットをさりげなく置いておくとか、あるいは「僕もひきこもっていたんだ」という人が来るとか、そういうセッティングをして、本人が自分の足で世界に触れる機会を作る。「親には作られたくない」という本人がいるから難しいのですが…。

【質問に答えて】

Q:当事者は30代女性で、友人が1人もいないことが悩み。恋人が欲しいという望みも持っています。

先生:普通に考えると、子どもの友達を親が紹介するのは残念ながらできません。子どもに友達ができそうな場を紹介するのも難しいかもしれません。一般的に親が差し出したところには子どもはなぜかあまり行きたがりません。いいと思うのは、親が友達と外へ出ることのお手本、つまり親の背中を子どもに見せることです。子どもに向かって何かをするというよりは親の世界を豊かにしていく中で、それを見ている子どもが自分も何か変えないといけないなと動き始めることのほうがいいのではないかと思います。

Q:精神疾患の子どもは、ある性格傾向が強いのでしょうか?

先生:統合失調症の場合、彼らが回復過程で壁にぶち当たるのは、自分で決める、選ぶということが大事だとわかっていてもなかなかできないという思いです。そもそも病気の発症の危機に至るときには、闇雲に自分ではこれしかないと思ってやったことが本人にとっては大失敗に終わっていて、それでこんなふうになったという体験をされている方が多い気がします。

Q:反抗というのは、反抗できない時期もありますから、自分の主張ができるようになってステップアップしたと言えるのですか?

先生:自分の意思の主張とは、いいものはいい、悪いものは悪いと言えることです。父親に対して「野球は興味あるから行くけど、映画は趣味が合わないから行かない」と言えるのが意思発言で、「親父の言うことは全部嫌だ」というのは条件反射的です。「親父に従う俺は駄目な俺」という気持ちから抜けて、親父と対等に言えるという自信がつくと変わってくると思います。

Q:子供が最初の病院で統合失調症といわれて信じて疑わなかったが、クリニックではそういう診断ではないと言われ、薬も抗不安薬に切り替わった。以前より元気になって専門学校に行けるようになったが、働いたりすることはできないでいます。この経過は病気が良くなって診断が変わったということでしょうか? それとも最初から統合失調症ではなかったのでしょうか?

先生:難しいですね。今の精神科医療では病気がものすごくよくなっても向精神薬をゼロにすることはあまりしません。私の患者さんでは大手企業でバリバリ働いている方が、一時期は確実に幻聴があって薬を飲んでいましたが、ある時期やめてみたところ一年たってモヤモヤしてきたので、やっぱり薬はやめないほうがいいねと話していました。そういうプロセスの中にいるのかもしれません。

Q:インターネットを見たとき、病状が回復してきているという実感はありましたか?

当事者A:大学を休学して戻った直後で、それまでの人間関係もなくなって、新たな人間関係を築かないと、という不安もあった。そんなときに同じ病気を持った人と出会える場があると知るだけで、すごく勇気づけられました。

Q: 子供が10代の頃、受診した病院で出された薬で性格が変わり、ある失敗をしてしまった。大検で短大を卒業して就職したが、人目が気になって仕事に手がつかず1年ちょっとで退職。その後フリーターになったが家庭内暴力がひどく入院。その間、病状がひどくなり閉鎖病棟へ入った。以後、デイケアと通院以外はひきこもり状態。昔の失敗が頭について離れず何もできない状態です。

先生:ひとつご両親にお願いしたいのは「お前は決して悪くない、私たちはお前の味方だ」、こう思っていただきたいということです。治療者としてできることと親御さんができることは違います。親が治療者になってこだわりを何とかほぐそうというのは難しい。ただ、そのことが起こって既に10年生きてきている。その間お子さんが得てきたもの、その後もしっかり生きてくれていることでご両親が得ているものもあるでしょう。そういうことを思い出したり、数えていただきたい。辛い出来事があって、その後に彼女が得てきたものはなんですか?

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 桜も終わり、完全に春モードになった。気分的には旅行でもしたいところだが、皆さまはいかがだろうか。

 三月の講演「ひきこもりと病気の間」でお話いただいた伊藤順一郎先生の話の中で、引きこもりの家族の対応のひとつとして「家族が楽になること」ということを言われた。

 小生も当事者を抱える家族として親の心情は十分わかる。旅行どころではない、ということだろう。しかし、十五年も付き合ってくると、その辺が体感として認識されるようになった気がする。もともと物事を深刻に考えない性格も功を奏したのであろうが。

 そして、家族会へのアドバイスもいただいた。家族会に初めて出た方が「普段言えないことが言えたという方が沢山いらっしゃいます。」と言われた。

 家族会の役割として最も大事な部分がこれではないだろうか。医学的な情報収集もあるが、それ以上に大切なことは、親が孤立しないことであろう。当事者が孤立し、親も孤立していたら何ら解決の道が開けない。

 だが、かく言う我々役員にも教訓を言われた。初めて参加してくれた方に「よく来てくれた」と声掛けすることであると。毎回言うが、病気のプロの患者はどこにもいない。皆、初めての体験である。悩みに悩み、憶測を働かせ、余計な羞恥心を持ち、どんどん回復とは逆の方向へと向かってしまう。

 せめて家族だけは外向きに考え、孤立だけは避けたいものだ。家族会で多くの知己を得て、味方を増やすことであろう。当会の講演会あとの「懇親会」はそんな目的をもって開かれている。是非、皆さまのご参加を!                               

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