新宿家族会2月勉強会より

「薬の副作用と病気の症状との違い」
           
桜ヶ丘記念病院 岩下 覚先生


 今日は「副作用と症状の違い」というテーマでお話します。
 特に分裂病における薬を中心にお話を進めます。精神科の薬では「向精神薬」があります。これは精神機能に影響を及ぼす薬で、まず最初は「催眠剤」があります。これは睡眠薬です。そしてこの薬は精神科だけではなくて、内科などでもよく使われている薬です。

◇抗精神薬の働き
 副作用の話の前に、抗精神病薬にはどのような働きがあるか見てみましょう。
分裂病の患者さんは急性期には幻覚(幻聴)、妄想(誤った思い込み、被害妄想)、あるいは興奮が高まっていたり、夜眠れない、多弁、多動、滅裂などがあります。これらを一まとめに陽性症状といいます。

 そして治療を行いますが、ここで抗精神病薬を使った薬物療法の治療が行われます。分裂病の薬物療法は急性期の様々な症状を抑える必要があります。したがって薬の作用から見てみますと、最初に「抗精神病作用」があります。これは抗妄想 ・幻覚作用です。

 また、急性期には興奮して夜眠れない、多動、多弁になる、夜出かけていってしまう、支離滅裂なことを言う、このような時はどうしても興奮を沈めなければならないわけです。この目的によって、あるいは時期によって内容が違ってくるわけです。しかし、薬による「抗自閉作用」の効果(回復)は難しいというのが現実です。最近使われだした「リスペリドン」はこの賦活作用に効果があると言われています。私も使っていますが、その効果の表れ方では、それほどのものではないと感じています。

◇なぜ効果が現れるのか
 さて、分裂病の薬はなぜ効果が現れるのか、という疑問があるかと思いますので、お話しますと、脳の中には神経伝達物質というがあります。そして神経はシナプスという構造によって神経と神経が接合されていて、単に1本の筋状ではないのです。

 神経は脳の隅々まで伸びていって、暑いとか寒いとか、目を通して見たものなど、聞いたことを脳に送るという作用をしています。その情報を送るのが神経伝達物質です。この種類には色々あります。例えばアドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニンなどがそうです。その一つにドーパミンがあります。このドーパミンが多すぎたり、少なすぎたりして神経に異常現象が現れるわけです。

 例えば覚醒剤、これをネズミに与えて実験しますと、ドーパミンが多すぎると興奮が起こり、妄想・幻覚が表れることがわかりました。ですから、分裂病の薬は、シナプスの所でドーパミンの動きを抑えてしまうものです。そうすると幻覚・妄想がなくなるのです。しかし、ドーパミンは幻覚・妄想だけでなく、ほかの神経全体に関わっています。従って、寒い、暑いといった神経にも影響が出てきます。

 薬は押し並べて、身体の中のバランスを狂わせて効果が現れてくるものです。従って、身体のある部分に作用させたら、必ず別な部分にも影響が出てくるのです。それが場合によっては副作用として表れることもあるのです。ですから「毒にも薬にもならない」という言葉がありますが、薬はある部分では薬で、ある部分では毒ということも言えるし、また、効果のない薬は毒にもならない、ということです。薬はそういうものなんですね。

 副作用を難しくいうと「垂体外路系」に対する作用といいます。パーキンソン病というのがありますが、ドーパミンが少なくなりすぎるとこの病気になるそうです。分裂病の薬の効果で、パーキンソン病のような症状が表れる場合があります。 

 また、アカシジアという症状も副作用の一つです。足がムズムズしたりしますから、患者さんは落ち着かなくなって、部屋中を歩き回ったりします。この様子を見て、周囲の人は分裂病が悪化したものと勘違いする場合があります。

 我々医者は、こういうとき抗パーキンソン病薬を投与してみます。これで効果が表れればアカシジアだということがわかります。つまり副作用であったことがわかります。薬にはこうした副作用が出やすい薬と出にくいタイプの薬がありますから、薬を変えてみるといった治療を行う場合もあります。リスパダールとか、クロザピンなど新しい薬というのは比較的垂体外路系の副作用が少ないとされています。

 このほかジスキネジアという副作用で斜頚、つまり首が曲がることとか、舌が出てくることがあります。これは分裂病の症状とは間違うことはありませんが、ご本人は辛いし家族も驚くことがあります。

 こんなとき抗パーキンソン薬を飲めば治まります。これを<パーキンソニスムス>と呼びますが、似た症状では手の震え、仮面様顔貌といって表情が乏しくなるとか、運動が少なくなる、歩き方が前のめりになるということがあります。運動が少ないことと関連して、興奮とは逆に<混迷>と間違われる状態となり、食事やトイレも出来なくなることがあります。こうしたとき副作用と病気本来の症状とを間違える場合があります。

 ジスキネジアには<遅発性ジスキネジア>というがあります。慢性非可逆性といわれるように治りにくい副作用です。ですから薬の処方ではこれが出ないような工夫を行います。多剤併用、大量投与を避けて治療する方法が行われています。

 よく見られる副作用では自律神経に対する副作用があります。血圧の下降、立ちくらみ、頻脈(脈が速くなる)、口が乾く、便秘などです。このほか、肝機能障害、心・循環器障害(低血圧、心電図異常)、造血器障害(白血球減少症)、内分泌 ・性機能・代謝障害(月経異常、男性の女性型乳房、乳汁分泌、肥満、性機能障害)、眼、皮膚症状(アレルギー)、最後に悪性症候群(高熱、発汗、よだれ、パーキンソニスムス)がありますが、注射による薬の投与の場合、件数は少ないのですが発症することがあります。

 全体に薬の投与は急性期にはどうしても多くなります。そして回復期に向かうに従い薬の量は減らしていきます。ですから、急性期のままの薬の量を続けていると、副作用としての反応も高まってくるものです。引きこもりやパーキンソニスムスのような症状が病気本来の症状か、あるいは副作用か、その識別は難しいのですが、薬は減らせるものは減らしていくことが副作用を減らしていくために大切なことです。

 また、精神科の薬に関わらず薬には副作用はつきものです。副作用を恐れて薬を飲まないということはもっと怖いことです。副作用には先ほども説明しましたが、それに対処する薬を飲むことで対応できます。それではこれでお話を終わります。

質問1:娘が急に仕事を止めてしまった。精神科にいったらセレネース、アキネトン、ユーロジンの3種類の薬をいただいた。しかし、娘が飲んでいるのかわからない。それぞれの薬の特徴は何か?

先生:セレネースは抗幻覚、妄想作用が高く、沈静催眠作用は少ない薬です。垂体外路系の副作用が出やすいこともあります。そこでアキネトンは抗パーキンソン薬で抑えとして出しているのでしょう。ユーロジンはセレネースの抗沈静催眠作用の弱い部分を補っている薬です。

 コンプライアンスという言葉があります。服薬遵守性と訳されます。きちんと薬を飲んでいるかどうかを判断することです。セレネースという薬はその長所として血中濃度が測定できることです。ですから血中濃度を測れば薬を飲んでいるかどうかわかります。これでコンプライアンスが測れるわけです。血中濃度が手軽に測れるの精神科の薬ではこのセレネースとインプロメンだけといっても過言ではありません。セレネースはデポ剤(注射による長期効果の薬)、水薬としてあるので大変使いやすい薬だと言えます。

質問2:副作用について、リスパダール一錠に対しアーテン一錠という組み合わせで飲んでいるが、薬は長く飲みつづけたくないので、一度アーテンをやめてみたい。そして、また症状が出てきたら飲み出すということをやってみたいが、悪影響はないか?

先生:大丈夫。ましてリスパダールは垂体外路系の副作用が少ない薬だから、そういう試験的な試みは大いにやってみるべきです。そしてまた症状が出たら復活させればいい。私の経験では量的に「2か3か」の判断はあまり問題ないと見ていますが、「1か0か」つまり全く飲まないか1錠飲んでいるか、の違いは大きいものがあります。また一方、医者は一度薬の処方で結論なりいい結果を見つけると、それを壊して新たな試みはしにくいものです。怖いんです(会場笑い)。だから、それは主治医と相談の上でどんどんやったほうがいいと思います。

質問3:うちの子はヒルナミンを2年も同じように飲んでいるが、暴力的な行動は一向に変わらない。果たして急性期というのは何ヶ月くらいをいうのか。また、それでも同じ薬を飲みつづけていた方がいいのか。

先生:ヒルナミンは沈静催眠効果の薬ですから幻覚とか妄想には効果がない薬です。垂体外路系の副作用も少ない薬です。こうした衝動や薬物依存の患者さんには薬だけで抑えることは難しいんです。だから、こうした患者さんには薬だけで回復を図ることは難しいんですね。

 では、この患者さんの場合どうしたらいいか。患者さんは16歳だそうですね。最も多感な年頃です。ヒルナミンは抗不安薬でもあり、それが裏目に出てしまったのではないでしょうか。抗不安薬は判り易くいうとお酒を飲んで気が大きくなる場合のような状態と似てます。抑えがなくなって、家の中では好き勝手な行動に出てしまう、ということではないでしょうか。だから、これまでヒルナミンを飲んでいて実際どうだったのか。効果があったと感じることができたか。それが感じられなかったら主治医と相談しながら徐々に止めてみてはいかがでしょう。

質問4:患者を持つ私の知り合いが、医師から<オランザピン>を1回1200円で投与できるがどうだ、と勧められたそうだがオランザピンはどうなのか?

先生:私の病院でもオランザピンの治険を行ったが、症状が顕著な人には効果が見られなかったですね。だから、それは家族の考え方に任せるしかないでしょう。

質問5:オランザピンはまだ認可されていないのにそんな治療が合法的にできるのか?

先生:合法的だと思います。多分その先生は保健診療ではなく、自由診療でしょう。許認可の問題は政治的問題も絡んでいるようで、我々にはわからないですね。

参加者:日本で認可されないならアメリカに移住して治療したいものだ。

先生:ただ、症状が顕著なときに病院を変えるというのは非常に危険です。ましてや外国となると。

質問6:本人が薬をいやがっているのに無理にでも飲ませた方がいいのか。薬は納得して飲んでくれなけば効果はないと思う。それでも症状の悪化を考えると無理にでも飲ませた方がいいのか?

先生:それの判断は難しいですね。薬が絶対間違いなく効果があるか、といえば、そうとは言いきれない面もあるから。だから、せめて患者さんが効果をはっきり認識できなくても、「何か飲んだほうがいい」とか、あるいはさらに譲って「飲んでも悪くならない」、と感じることができるかどうかですね。だから、ご本人が薬を止めたら眠れなくなったとか、そこで「じゃ飲んでみるか」、となれば良いわけです。それが薬の自己管理です。毎回、薬飲んだか、と確認されたり、飲みなさいと命令されていたら患者さんは高EEを受けることになります。言う親もストレスが溜まるし、それは患者さんに伝わります。こんどは患者さんが不安になったりで、どんどん悪循環を作ることになります。

 そこで有効なのがデポ剤ですね。これでしたら親も患者さんも薬のことから開放されるわけですから、精神的にもお互い楽になります。ただ、デポ剤は種類が少ないんです。

 こんなこともありました。今は認可されていますが、ハロマンスというデポ剤があります。これがなかなか認可にならなかったんですね。なぜか。要するにデポ剤で患者さんが服薬をしなくなったら、薬屋さんが全く儲からないからです。世の中にはいろいろなことがあるんですね。 -以上-(紙面の都合せここで終わります)


編集後記

 三月は公共機関、民間企業、そして労働組合、皆、決算やら、春闘やらでめちゃくくちゃ忙しそうだ。盆と正月が一緒にきたようだなんて、今は"三月末が来たようだ"といいたい。その忙しさのトバッチリで、我が編集部もキリキリ舞いであった。勉強会前に弊紙の郵送希望者にはお届けする約束をしたが、当月発行 すらおぼつかなくなった。 

 「地上の旅人」氏の病者の存在の主張において・・(但し、職場では内緒にしておこう)・・とあるのは、然りである。斯くいう私も、家族会の席では「偏見を怖れるな」「偏見をなくせ」などと公言して憚らないが、しかし、私も自分の正業の世界では言えない。
 それは日本の国民的土壌(病気理解)がまだ、それを受け止められるほど成熟しておらず、本人、家族が被害を受けることの方が大きいからである。「正直者がバカをみる」に終わる。つまり正業が失われる現実もあるのだ。正業が失われたら元も子もない。「赤信号、皆んなで渡れば怖くない」の標語がこの場では活かされるのだが。                          嵜


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