4月 勉強会より
  
心の病いの初期症状と対応

             講師 桜ヶ丘記念病院医長 岩下 覚先生 

(新宿家族会では「分裂病」改名を願い、岩下先生の「精神分裂病」病名部分を英語名「スキゾフレニア」と書き換えて表現しています。皆さまのご意見をお寄せください)

 ひとくちに「心の病」といってもいろんな種類がありまして、スキゾフレニアの他にも、躁うつ病、薬物精神病(覚醒剤精神病など)など、どこからどこまでを範囲に入れるかは難しいものがありますが、その中で、主にスキゾフレニアを例にとってお話することが多いわけです。なぜなら、この病気が非常にありふれた病気であるということがその理由とななのですが、どのくらいありふれているのかといいますと、一人の人が一生の間にスキゾフレニアにかかる可能性が約0.8%、約100人に1人くらいがかかると病気であるということに現れております。

 これは他の身体の病気を含めても高い割合で、入院患者の場合、日本の精神病院の総ベッド数約30万床の内約70%の方、外来患者の30〜40%の方がスキゾフレニアだといわれており、それだけ非常に患者さんの多いということです。そういったわけで、いつもスキゾフレニアを中心に話させていただいております。

 まずは「精神分裂病」という名称について、昔から「分裂病という病名がよくない」といわれております。この病名が非常によくない偏見を助長していたり、日本の精神医療の後ろ暗い歴史を引きずっていることを連想させる面がありまして、そういったわけで改名しようという要望が、家族会や当事者側だけでなく、数年前から精神神経学会の「分裂病の呼称を変更する委員会」という会合で様々な議論を重ねているのですが、病名が良くないという点では一致するものの、なかなか意見がまとまらないので、教科書などでは使い続けられていたり、我々がカルテに書き込むときにはこの名称で使い続けております。ちなみに「schizophrenia:スキゾフレニア」とは英語です。

 このスキゾフレニアの第一の特徴は冒頭で述べたように0.8%の可能性があるということ、学校の2〜3クラスに1人はかかっているかもしれないということです。名前の問題もあって、自分とは縁のないワケの分からない病気というイメージがあるのですが、実際には非常に身近で患者さんの数も多いという特徴です。

 第二に「思春期前後〜青年期に発病する」ということ、20歳前後とお考えいただければいいのですが、その頃に発病する場合が一番多いのですが、高校〜大学くらいの若い年齢で、つまり、まだ結婚も就職もしていない社会経験が乏しい状態でかかるということは様々な問題につながってきます。といいますのも、心の病も身体の病気と同じように、医学的な治療だけでなく、リハビリテーションも大事なのですが、病気がある程度収まった後、どうやって社会に適応していこうかというとき、いろんな社会経験があってかかった場合と、そういうものが全然なくて、不幸にしてそういう年代でかかった場合、就労や結婚などの段階で、考慮が必要になってくるということです。

 第三に「慢性の病気である」ということ、急性肺炎や急性虫垂炎(盲腸)などのように治療すれば回復するものを急性疾患と称するのに対して、慢性疾患とは糖尿病や高血圧などのように、症状が良くなっても食事療法や服薬治療を中止していると症状が再発するものをいいます。スキゾフレニアだけでなく躁うつ病など、心の病の多くはこれらの身体の病気と同じような慢性疾患に似た特徴を持っております。スキゾフレニアの場合、現在はいい薬もあるので、かなり良くなる場合が多いのですが、症状が収まったからといって服薬や通院治療を中止したりすると、残念ながら再発してしまうことも多いということです。そのかわりきちんと治療を続けていけば、予後(病気の経過)のいい状態を続けていくことができますので、非常に長期的な治療が必要ということです。

 次に、症状そのものの特徴について、教科書ですと何ページにも渡って書かれているのですが、陰性症状と陽性症状に大別されます。
 陰性症状とは、急性期、病気の勢いが活発で入院しなければならないような状態のときに比較的出てくる症状で、誰が見てもこれは具合が悪そう、病気なのでは?分かりやすいような症状、たとえば、幻覚・妄想・興奮などで、とくに代表的なのは幻覚です。幻聴(誰もいないのに人の声が聞こえてくる。自分の悪口をいわれているような気になってくる状態)や被害妄想(実際はそんな事実はないのに、誰かにつけられているとか、命を狙われていると感じる状態)のような症状が出てくると、ご家族の方が病気を疑い出し、苦労の末、ご本人を病院に連れてきていただいて治療が始まるという例が多いようです。

 また、この陽性症状は薬物療法に反応しやすいという特徴もあります。私も医者になる前はスキゾフレニアについては漠然としたイメージ「一度病気になったら一生治らないんじゃないか?」「不治の病なのでは?」、それこそ偏見めいたものもありましたが、現在はいい薬がたくさん出てきて、決してそんなことはありません。私の病棟ですと、急性期で入院して来られる方の平均的な入院期間は1〜2ヵ月くらいで、他の病院でもだいたいそのくらいで元気になって退院されるという方がほとんどです。昔みたいに一回入院すると年単位で入院し続けないといけないとダメだということはありません。

 陰性症状とは、例えば、意欲低下(病院に入って治療して幻覚・妄想はなくなって家に戻ってきても一日中ゴロゴロして何もしようとしないような状態や感情鈍麻(何となく喜怒哀楽や感情の動きが病気の前と比べると薄くなったり鈍くなっている状態)といった特徴があります、これらと関連して、ひきこもり(あまり外に出ようとしない状態)も発生するようです。こういった状態は、病気の症状というより、何となく怠け者になったんじゃないかとか、性格が変わったんじゃないかと捉えられがちなのですが、実際はこういった状態も、スキゾフレニアの一つの裏返しなのです。ただ、残念ながらこういった陰性症状には薬が効きにくく、リハビリテーションの際に問題がでてくるようです。

 そこで、本日のテーマ「初期症状」なのですが、私の病院の患者さんを拝見していると、陽性症状が活発で誰が見ても病気だと思われるような方が多いですね。そういう方の診察をしたりご家族の方のお話を伺うと、ある時期から幻覚・妄想というのが前面に出てくるわけなのですが、さらに、よくお話を伺ってみると、入院してくる何ヵ月か前から少しずつ様子が違っていたというようなお話が聞ける場合がほとんどです。

 中には突然こういった激しい症状がでて発病するっていう方もいらっしゃいますが、そういえばそうだったということの方がが多くて、それが、今日のテーマの言葉を使えば初期症状とか前触れ、前駆症状などと表現されるわけです。

 いろいろ症状がありますが一番多く見られるのは睡眠障害です。スキゾフレニアに限らず様々な心の病の中でもかなりのパーセンテージで発生しており、なんとなく夜寝付きが悪くて余り眠れない、夜中ゴソゴソしていたという訴えがみられます。

 その他にも、不安気な様子(妄想・幻覚というほどハッキリした症状ではないものの、何となくオドオドしているような)、焦燥感(ちょっとしたことでイライラする)、関係づけ(自分とは全然関係ないことや今までだったら何ともないようなことを気にしたり、何かを自分と結び付けて考えたりという状態、これが高じると妄想になる)、易刺激性(何でもないことで怒りっぽくなる状態)。

 行動面では、食欲低下(躁病の場合、うんと食べるようになる場合も多いが、だいたいは具合が悪くなると食事の量が少なくなって痩せてくるというのが多い)、ひきこもり(あまり家の外に出たがらない、不登校、出社拒否、遅刻が多くなってしまう)といったことが現れてきます。

 こういったことは、何となく今までとは違うな?というのはあるものの、だからといってこれで精神科の病気になったとはなかなか思えないものです。特に初発(始めて病気になったとき)の場合は、後から考えてみて、こういった症状が何ヵ月か前からあったというのは多いのですが、でもそれは、その時点ではご家族や身近な方でも病気とは思えないというのは止むを得ないことなんです。

 こういった症状は誰でもなんらかのキッカケであるわけですよね、本当は早めに受診していただくのがいいには違いないのですが、何か変だと思いながらもなかなかこの段階で病院にいらっしゃるというのは、実際問題非常に少ない。ですからどうしても何となく心配しながら様子をみて病院行ってみればといわれても、御本人にしてもそれが病気であるという認識は少ないのでなかなか治療に結び付かない。そして、幻覚・妄想などのようなハッキリ病気だといえる症状が出てきて、ようやく病院にいらっしゃるというのがほとんどです。

 ある意味でこれは仕方のない面もありますが、初期症状にどう対応するかといいますと。やはり病気ですから「治療につなげる」というのが一番確実な対応になるわけです。それで「その人に合った薬を飲んでいただいて病気を抑えていただく」のが一番大切な対応になるわけです。

 ただ、初期症状に気付くのは難しくても、再発を未然に防ぐということも大事です。再発するときも、いきなり幻覚・妄想が出てくるというのは少なくて、ある時期から初期症状のような形で再発の兆しが表われることが多いのです。それに、そのとき病院に通っていただいていれば我々も把握できますし、ご家族も始めてのときは病気の症状だと思えなくても2回目になれば、始めてのときと似ていると思えるわけですから、そういった時は担当医に相談して、薬の量を調整するなどの手段をとることで、その病気が完全に再発してしまうことを未然に防ぐこともできるわけです。

 ちなみに、再発は、服薬や通院を中止するとその可能性が高まります。例えば、服薬中止期間に対する再発の割合は、3ヵ月で約30%、半年で約50%、1年で約70%といわれているのですが、実際、私もそうだと思います。簡単ですが、お話はこれくらいにして、ご質問をお受けいたしましょう。

◎質疑応答
質問1a 
15歳の娘がスキゾフレニアと診断されているのですが、本人は自立神経失調症だと思っていてるようで、私としては告知しながら進めていった方がいいのではと思うのですが、15歳の子どもにそれがいいことなのか考えあぐねております。
 医師からは「お父さんお母さんこれはスキゾフレニアかもしれないから覚悟したほうがいいよ」「入院して最初のうちは適応性障害だと思っていたのだけれど、どうも人との関わりにトラブルがあってスキゾフレニア気味、そういう病名になってしまう」と、そういうニュアンスで伝えられております。

回答1a まず、どんな症状があるかわかりませんが、一般論からいってはたして15歳の子どもにスキゾフレニアと診断できるのかという問題があります。普通、スキゾフレニアというのは、だいたい20歳前後に発病するといわれております。もちろんそれより若い場合というのもありますが、ただ15歳といいいますと、個人差はありますが、自我とか人格というものがまだ形成される前の時期ですので、そういう時期になかなかスキゾフレニアとは診断しにくいのではないかと思いますので、あいまいな診断であるならば、それを本人に告知することを原則としてするべきではないと思います。

 病名の告知というとガンと心の病の話になることが多いのですが、ガンの告知については最近よく行われるようになってきました。ガンといってもいろいろな治療法を選択できるようになってきて、患者さんにも主体的にその治療方針に参加してもうようになってきております。たとえば、抗ガン剤の副作用一つとっても病名もわからないし、吐き気がひどくてつらいのに何のための薬かもわからないという治療は今は成り立たないわけです。つまり、病名を告知しないことには治療にも同意してもらえないということなのですが、それでも最低限の前提として、ガンという診断が確実についてない患者さんに「ガンかもしれない」という曖昧な伝え方はできません。それと同じように精神科の領域でも診断を伝えるには、医者自身が確信を持ってないと伝えられないし伝えるべきではない、自分も決めかねているのに伝えてしまうことはあまりいいことではありません。

 逆に告知した方がいいこともある。我々の立場からすると、もしスキゾフレニアであるならば相当に長い間薬を飲んでもらわなくてはならないわけです。御本人にとってもご家族にとってももちろんです。しかしながら薬を飲むということは結構大変なことなのです。副作用もあれば、度々の服用のめんどくささもありますし、しかも飲むとなれば年単位で飲み続けていただかなくてはいけないのです。他の病気であったとしても、いきなり薬出されて説明もなしに飲めといわれても飲めるのかという問題があります。

 自分はこういう状況だから服薬が必要だとある程度納得したうえで飲んでいただきたいのですが、長期間薬を飲んでいただくということは、普通はなかなかしていただけないわけです。「とにかくこの薬を飲んでないと再発することがありますし、そうなると、あなたや家庭や会社でどんな役割を持っていても入院していただかなくてはならないかもしれない、社会生活が中断してしまうかもしれない、社会生活を続けるためには再発を防がないといけない、3ヵ月飲まないと30%くらいのかたが再発します。

 だから、とにかく薬を飲み続けてください。」と、そういった話をする前提として病名抜きにしてはできないわけです。もちろん、病名というのはやみくもに伝えるべきでないし、全ての人にスキゾフレニアだと告知するわけでもありませんが、曖昧なことを伝えるわけにもいきません。告知するときには治療に協力していただくということをセットで伝えることが大切だと思います。

 ですから、お嬢さまの場合、病名が確定していない、あるいは、確定していたとしても、まだ15歳だという年齢のことを考えて、どこまで受け止められるのだろうというかを抜きにしては考えられませんし、伝えるとするならば、その先生が現状をどのように捉えているのかということと、どのような方針で治療していくのかということとがセットになって説明されるということが前提となります。あまり答えになっていないかもしれませんが、告知そのもの意義については、一概にいいとか悪いとかはいえるものではなく、病名というものはいくつかの要素があって伝える必要がある時にのみ伝えるものなのです。

質問1b 子どもの治療に当たってなのですが家内と意見が違っていて、私は打ち合わせをして共通の治療法をとったほうがいいと考えているのですが、家内にすれば、人間は各々で考え方が違うのだから、それを分からせるためにも家族の意見をみんなで出し合って議論してもいいのではないかというんですが、病気の彼女にそれだけのことができるのか?というのがあります。

回答1b 一般論として我々や御家族が頭においた方がいいのは、スキゾフレニアの方というのは、あいまいな言い方やどっちつかずの言い方をされるのが苦手で、黒白ハッキリしてもらわないとすごく混乱しやすいというこです。

 日本人の社会というのは曖昧というか、ものをハッキリいわないという風潮がありますが、そういう社会が非常に苦手な方なのです。
 御夫婦の意見が違うということなのですが、御夫婦それぞれの考えかたを持つというのは全然構わない、それこそ別の人格ですし、いろんな考え方があるということです。ただ、病気の治療であるとか、日常のポイントポイントであんまり両親から違うことをいわれてしまうと、お子さんの立場としては分からなくなってしまいます。すごく混乱してしまうのではないかと思いますが、とくに病気でない方と比べた場合に、そういったことをキッカケに不安感が強くなったり猜疑的になってしまったりして、誰を信用していいか分からなくなるというのが起こりがちなのです。ですから、大事なことに関して御両親の意見がズレているとちょっとかわいそうかもしれない、という思いはありますし、最終的にどうするかはお嬢さんがご自身で決めるしかないのでしょうね…

質問2 たとえば風邪などで内科に行ったときなど、スキゾフレニアにかかっていることは伝えたほうがよろしいのでしょうか?、心の病にかかっている人を嫌がられるのではないかという不安があるのですが?

回答2 それは必ず伝えて下さい。
 たとえ風邪であっても、精神科に限らず薬にはいろいろの飲み合わせがあって、一緒に飲んではまずいという組み合わせが増えてきております。これは一般常識的なこととして知っておいていただきたいのですが、二ヵ所以上の医療機関にかかるときは必ずご自身の病状などをお伝えください。

 嫌がられるのではないかということですが、大丈夫です。お客さんですから(笑い)。
 もちろん、精神症状が活発なときは内科の先生が手に追えないのでということは考えられますが、そういう場合も総合病院(内科も精神科もある)などでちゃんと対応するようになっております。

 たとえば私の病院でも心の病に加えてガンや胃潰瘍になった方ともいらっしゃいます。とても私の病院では対応できないという場合はには、まず、普段からお付き合いのあるいくつかの病院にお願いするということもできます。それがどうしても見つからない場合は東京都の合併症医療事業というルートを通ることになりまして、いくつか精神科治療と合併症治療の両方を専門的にできる病院というのがあってそこに順番で入れるようになっております。

質問3 病名の告知というお話がありましたが、病名を診断する基準というのはどうなっているのですか?

回答3 精神科の診断というのは、ある意味でいい加減なんですよ。
 精神科の病気のほとんどは血液・レントゲン・MRI・脳波…、これらのどこにも異常がない、すなわち、客観的な検査にほとんどひっかからないという特徴がありまして、客観性に乏しいという表現になってしまいます。

 実際、精神科の診断といった場合には二段階あります。
 第一段階のとして、最初に患者さんとお話をするなかで、状態像を把握していきます。状態像とは、うつ「状態」や、幻覚妄想「状態」など、患者さんと話をするなかで病名以前に把握できる客観的な精神「状態」のことです。ただし、うつ病の方でなくても心配事があればうつ状態になることはあるように、あくまでも状態像の把握だけで、うつ状態だということは分かってもそれが何なのかは次の段階になるわけです。

 そこで第二段階として、病名診断ということになってきます。例えば、状態像を把握したとき幻覚妄想状態であったら、スキゾフレニアなのか?うつ病なのか?、もしかしたら前日に酔っ払って頭打って幻覚妄想が出ているのか?覚醒剤の服用なのか、などというふうに実際の「病名」は何なのかということを、長い時間をかけて診断していくということなのです。精神科の場合には何年もかけることもあります。もちろん、状態像のところで揚げた喩えのように全部が全部病気だとはいい切れないということも含めてであります。

質問4 いわゆる季節の変わり目、この時期(4月下旬)に多いんじゃないかとおもうんですが?

回答4 それは季節の問題があるのに加えて、4月というのは区切りの時期なので、入学とか就職とか耳に入ってくるということもあります。多くの患者さんは思春期くらいに発病しているので、そういうことにこだわりをもっている方が多くて、そういった要素が精神的にストレスになってくるのではと考えられます。4月、5月という時期は、そういう意味で琴線に触れるっていうことが多いのではと思います。

質問5 薬は長期に飲み続けるということなのですが、薬の調合といいますか、先生も診ていただけるかと思いますが、親も監督した方がいいのでしょうか?、今、先生にほとんどお任せっ切りなのですが、先生に会ってお話するのがほんの10分くらいなのですが?

回答5 私もそうなのですが、医者が外来の方を直接、診ていられる時間というのはものすごく短いので、数分間で分かるのかといわれたら、実は分からないです。ですから、私がご家族に期待したいのは、変わりがなければ別にいいのですが、もし気になる変化があれば、本日お話しした初期症状のように、急に寝付きが悪くなってきたとか、最近怒りっぽくなってきたなど、あるいは薬を飲まなくなったなど、そういった「変化が見られだした時には知らせて欲しい」ということです。その場で伝えにくければ電話でもかまいません。

質問6 精神科医療とそれをとりまく状況について、先生のキャリアから判断して今後どうなってゆくと思われますか?

回答6 将来は明るいと思います。
 私が医者になってから高々20年ほどですが、この間にいろいろなお薬がでてきて、それによってずいぶん患者さんの症状が収まって、社会復帰、リハビリが進むという患者さんを見て参りました。
 私が勤めだした頃には、多摩市には保健所も共同作業所(現在3ヵ所)もデイケア(現在4ヵ所)も訪問看護のシステムもありませんでした。まだまだ不十分ながらそういった社会的サポートシステムが少しずつ整備されてきて、様々なサポートシステムを活用することによって随分とリハビリテーションの進む患者さんが増えてきたっていうのが事実なんですよね。

 スキゾフレニアの服薬治療について、陽性症状に関しては薬によっては非常に良く治るようになってきておりますが、陰性症状やいわゆる生活障害などついては、薬がなかなか効きにくかったのです。しかも、実際には意欲が出ないとか、そういったことが直接的なきっかけで就労できないとか外出できないという方が多かったのです。

 ただ、最近の抗精神薬は「陰性症状にも効く」というのは売り文句となっております。実際これがどうなのかというと私もあまりたくさんの方に使ってないので、これから使ってみないといけないのですが、今までの薬でなかなか治らなかった方が薬を変えると良くなるということも実際ありますので、これからも新しい薬がどんどん出てくるというなかで改善されていくこともあるかと思います。

 社会的サポートシステムについて、陰性症状が生活上のいろいろな障害などと結び付いて、行動範囲が狭まってしまったりとか、活動性が低下したりという方が多かったのですが、こういう場合に役に立つこととして、社会的なサポートシステムが充実してきたということもあげられます。

 私のある患者さんの中にも30年以上入院していらして、全然退院できなかったのですが、服薬のみでなく、10年ほど前からデイケアを始めたんですが、そういった方々が退院できるようになって、ちゃんと一人でアパートに住めるようになって暮らせるようになりつつあります。そういう方は高齢ですから今から職業に就くというわけにはいかないのですが、それでも30年ずっと入院していた方が、自活して病院のデイケアに毎日通うことができるようになったり、退院後も10年以上地域の中で生活しているというケースをたくさん見てきております。
 薬の進歩と社会的サポートシステムの充実、そういったもので一段階二段階上のステップに進めるという患者さんは出てきております。ただ、私が見てても何がキッカケでどう変わるかよく分からない部分もあります。例えば10年入院してた方が急に働き始めてしかもそれが破綻をきたさずにうまくやっているという人もいますから、そういう意味で将来に向けて非常にいろいろな可能性があると思います。

質問7 「精神分裂病」という名称は拘首刑のような響きがあって、視覚障害とか身体障害という言葉もありますように、何か別のいい方はないですか?

回答7 冒頭で述べたようにまとまらないんですよ、名称っていうのは本当に大事ですよね。「精神分裂病」もそうなのですが、他にも「人格障害」というのもそうなんですよね、ですから、スキゾフレニアの告知をするよりも人格障害の告知する方が難しくて、ほとんど告知したことがないくらいです。

 病気は輪郭があるからまだ告知できますが、人格というものは分けようがないですからね。もちろん、そういうカテゴリーがないと患者さんを理解しにくいってのがありますが、問題はそのことをご本人やご家族に告知するというときの配慮をわけて考えないといけないということです。
(紙面の都合で抄録は終わります。また、10年以上に亘って新宿家族会の顧問医としてお世話になった岩下先生は、お仕事の関係で今回をもって降板され、次回から水野先生が当たって頂けます。岩下先生に改めて御礼申し上げます。拍手!)
                   
(テープ起こし/構成:ボランティア・菊池)


編集後記

  あれからちょうど一年経った。そして予想された事件が起きてしまった。「あれ」とは「佐賀バスジャック事件」であり、「予想された」とは「浅草女子短生大刺殺事件」である。
 たしかに後者の犯人が精神病者と断定されてはいないが、過去に同じような事件を起こし、精神病院へつながっていた経緯があったと聞く。
 そんな私の疑問提起に呼応したかのように「『少女監禁』と『バスジャック』〜マスコミ報道と精神医療〜」月岡時央著(宝島新書)という本が届けられた。それは、私には久しぶりに一気に読ませる本であった。
 前者の問題点は「医療保護入院にある人物のマスコミ報道のあり方」であり、後者はマスコミというより、医療関係者の「医療保護入院の誤用/乱用」とでもいう問題提起であった。
 私の提起と異なる部分もあるが、いずれにしても私が常に疑問に思うのは、こうした残虐事件の犯人の「動機」である。「浅草・・」の犯人の犯意、逃亡意識、犯行の利益目的など、どれをとっても私には理解しがたい・・・と思うのだが、一般もマスコミもその点には誰も触れない。否、「極悪人」で片づけられている。もし、犯人に少しでも精神病の疑いがあれば、それは徹底的に検証して欲しいし、その結果を次の社会に役立てて欲しいものである。                                                

※勉強会INDEXに戻るには左のMENUの勉強会をクリックして下さい


新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp