新宿区後援・3月新宿フレンズ講演会

            依存症について

            ―お酒・ギャンブル・人間関係など― 

  講師 横浜市立大学大学院医学研究科・医学部看護学科教授 松下年子先生

ホームページでの表示について

【依存症は家族の病】

 依存症にはアルコール・薬物・ギャンブルなどがありますが、根底には人への依存があり、「依存症は家族の病」と言われています。それは、個人がアルコールや薬物におぼれていることだけが問題なのではなく、当事者を含めた家族全体が機能不全になっている、家族の中で脆弱な人が家族を代表してSOSを出しているという見方からです。

 最近よく言われるアディクションはアディクション(嗜癖)を医学モデルでとらえると、WHOが提唱した概念で、「精神に作用する化学物質の摂取や、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行意を繰返し行った結果、それらの刺激を求める押さえ難い欲求が生じて、その刺激を求める行動が優位となり、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状が生じる精神的・身体的・行動的状態のこと」をいいます。

【物質への依存―ニコチン・アルコール・薬物・その他】 
 対象となる物質のうちの薬物には、処方薬・違法薬・市販薬があります。最近問題になっているのは危険ドラッグです。覚醒剤を使っていた人が危険ドラッグを使ったら、覚醒剤では物足りなくなってしまった人もいれば、やっぱり覚醒剤のほうがいいという人もいるようです。危険ドラッグは、どういう経路で入ってくるかが全く不明確で、中身の医学的機構も分かっておらず、命を落とすこともある状態です。物質への依存症候群の診断ガイドライン:以下の3つ以上が当てはまること

1)物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感

2)物質使用の開始、終了、あるいは使用量に関して、その物質摂取行動を統制することが困難

3)物質使用を中止もしくは減量した時の生理学的離脱症状

4)はじめはより少量で得られたその精神作用物質の効果を得るために、使用量を増やさなければならないような耐性の証拠

5)精神作用物質使用のために、それに代わる楽しみや興味を次第に無視するようになり、その物質を摂取せざるを得ない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する

6)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として物質を使用する

嗜癖行動障害の診断基準

1)ある種の行動(多くは非適応的、非建設的な行動)を行わずにはおれない抑えがたい欲求あるいは衝動

2)その行動を開始し終了するまで、他の事柄は目に入らず、自らの衝動をコントロールできない

3)その行動のために、それに代わる(適応的、建設的な)楽しみや趣味を無視するようになり、当該行動に関わる時間や回復(行動を止めること)に時間がかかる

4)明らかに有害な結果が生じているにもかかわらず、その行動を続ける

◆アルコール依存症
 依存症の人は生き辛さを抱えている人たちで、人への依存心は強いが信頼心は乏しいという病的な甘えの心理を持つといわれています。依存症は、対人関係障害とも言い換えられます。
 アルコール依存症の人は、自尊心や人とのほどほどの親密感を上手く取れず、酒によって補おうとするのです。まず、「私はアル中ではない」と、アルコール依存であることの否認を続けます。依存症であると認めても「あの人よりはマシである」と言います。これは虚勢を張ったり、自尊心を得ようとする行為で、生き辛さを抱えて対人関係をうまく進められないことによるものです。

 なぜ嗜癖にはまる人とはまらない人がいるのかですが、ドーパミン受容体の感度が高い人と低い人では依存性物質であるメチルフェニデート(商品名リタリン、コンサート)に対する反応が異なるといいます。つまり遺伝子が規定することになります。報酬系の生理的機能に画然とした個人差があることが示されたわけです。嗜癖対象となる物質や薬物の殆どは、ドーパミン系のパスウェイ(経路)に影響することがわかっています。

「依存症は家族の病気」と言われる意味を考えてみましょう。

1)アルコール依存症が進行する中で確実に家族を巻き込んでいくという意味

2)そもそも家族が病んでいるから、家族員であった本人が依存症になったという意味。「家族システム論」と言い、家族やその関係性の病理が、最も弱い構成メンバーの疾患や問題として発生するという捉え方。このように個人ではなく家族を1単位として考えると、病気の発生や家族の変化、回復がとても理解しやすくなる

3)世代間連鎖する病気という意味。アルコール依存症の親をもった息子はアルコール依存症になりやすく、娘はアルコール依存症の男性を夫にしやすいという定説がある。依存する人間関係が次の世代に受け継がれていくという意味でも、アルコール依存症は「家族の病気」と言える

アルコール依存症の近年の動向をみると、高齢者と女性若年層の増加が特徴的で、若い女性の多くは摂食障害を併発しています。一方、高齢者は退職後の飲酒量増加から依存症へ進むことが多いようです。アルコール依存症の軽症化、「隠れアル中」の増加も指摘されています。

一方で、中間施設・セルフヘルプグループ(断酒会、AA:アルコホーリクス・アノニマスなど)の対象者の傾向が、重複障害化・高齢化・対応困難化してきており、回復が難しい例が増えて、回復の定義を変えたらどうかという話まで出てきています。

アルコール依存症の治療の三本柱と、従来より言われているのは以下の3つです。

外来通院

抗酒剤

セルフヘルプグループへの参加

さらに今は、認知行動療法が精神療法の主流になっています。

◆薬物依存症

 違法の薬物に手をつける点ではアルコール依存症と違うようですが、根っこは同じです。しかし薬物とアルコールを比べると、薬物の誘惑と渇望が最も強力であったと体験者は語っています。薬物依存症の場合、断薬が何年か続いた後でも、同じ薬を飲めばすぐに、以前と同じような症状が再燃します。

 薬物依存症者の多くが暴力と関連しています。女性に限らず男性も過去に何かしらの暴力を受けて育ってきたというケースが多く、薬を使わないと生き延びられなかったような生育歴を持つ場合が少なくありません。

 薬物依存症もアルコール依存症と同様に、セルフヘルプグループへの参加が重要な手段になりますが、グループの数が少ないのが難点です。

【行為への依存―嗜癖行動障害】

 プロセス依存とも言われ、ある行為をする過程への依存です。ギャンブル、買い物、ワーカホリック(仕事中毒)、むちゃ食い(過食症)、性的逸脱行動(痴漢・覗きなども)、リストカット、窃盗や万引き、最近はゲームやネットなどもあります。

 これらの行動をすることで一時的に緊張から解放され、つかの間の「ほっとする感じ」が得られるものの、その行為が招いた結果に後悔することになります。なぜそんなことをするのかと言えば、得られる解放感によって、自分の不快な感情をコントロールしたり回避しようとします。

 実は、どこまでが嗜癖(アディクション)でどこまでが生活習慣か、あるいはその人の性格なのかの判別は難しいです。例えば「趣味」といわれる範疇の行動と嗜癖行動を比べて見ましょう。

 Aさんはスポーツジムで体を鍛えることに精を出している。週末は勿論、ウィークデイもほぼ毎日仕事が終了するや否やジムに駆けつけて、夜遅くまで汗を流す。この場合、Aさんの行動で誰も困っていませんし、Aさんの自立が妨げられているわけでもないので、嗜癖行動とは言えません。しかし、ジムに行けなかった日の翌日は、仕事中でも「今日こそジムに行かなくては」と考えて落ち着かず、仕事にも差し障るようになったらどうでしょうか。

 Bさんはミニチュアカーの収集のために給料の4分の1を使ってしまいますが、そのために普段は節約し、無駄遣いをしない。また、Cさんは勉強が大好きで研修会や資格取得の養成講座やカルチャースクールで、スケジュールはギッシリです。これらも誰にも迷惑をかけていません。しかし、お金がなくて借金を重ねても買ってしまう、病気で具合が悪くても講演会に行く、行かないと不安…となったらどうでしょうか。

◆ギャンブル依存症

 ギャンブル依存症は推定500万人で、ほぼその5倍の人間(家族・友人など)が直接・間接的に悩まされていると言われます。病的な賭博者は、嘘をつき、たいてい借金があります。身体的な病気は本人のみが障害されますが、ギャンブル依存症は、助けようとする周囲を巻き込みます。

 その特徴は、賭けごとに耐性が無く、どんどん高リスクに賭けるようになり、しかも直感やひらめきに賭けて、負けても反省することがありません。そして、引け際を知らず、借金を重ねてもとことんまで賭けてしまうなど、限りなく進行する慢性疾患と言えます。

◆暴力への依存と連鎖

 ここで依存症に付きまといがちな暴力について考えてみましょう。問題を解決するために暴力を用いる場合、親の暴力を目にしながら育った子供は、同じことを自分の配偶者に繰り返しやすくなります。

・強者が弱者を支配するという関係性

・夫は妻を支配してよいという価値観

・暴力で問題を解決するという対処法

・コミュニケーション・ツールに暴力を用いる

 家庭に暴力(DV:ドメスティック・ヴァイオレンス)があると、子供はこうしたことを親から学んでしまいます。そして虐待された子供と同じように、不適応行動や精神症状を呈することが時に起こります。

◆人への依存―共依存

 対人(関係)依存は、人や、人で成り立つ組織への依存で、互いに支えあう関係ではなく、上下関係で他者をコントロールして安定を求めようとする関係です。自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存すること、そのような人間関係に囚われている状態のことをいいます。

 依存する他者を支配することで充実感を得る者と、他者を心配させることでその人を支配し続けるという二者関係を「共依存」と言います。これはアメリカのアルコール臨床に携わる医療者が提唱した考え方です。例えばアルコールに依存する夫の面倒をみることで充実感を得る妻と、妻を心配させることで支配し続ける夫という、病的な関係です。

 共依存という言葉を使うときは、狭義の依存症の場合は、このように片方が何かしらの依存症を抱えているときに使います。広い意味での共依存は、片方が依存症でなくても、例えば世話をし過ぎて、自立するチャンスを奪ってしまう状態や、争いごとの介入役を担うことで自分の心の安定を確保することなども入ってきます。

 「自立」というと、人の支援を受けずに自分で生活することをイメージしやすいのですが、本来の「自立」とは、自分の無力を知っていることです。それに気づいた時に初めて、人は自分ができる部分はしっかりと担い、無力な部分については主体的にSOSを出し、他者の支援を求めることができる。このような姿が本当の意味の自立です。

 この自立の対極にあるのが依存です。共依存者は自分を愛する気持ちや自尊心が低い傾向にあるため、相手から依存されることに自己の存在価値を見出します。

 ただ共依存という言葉も安易にラベリングするのではなく、使うときは気をつけなければいけません。DVも共依存を指摘されることがありますが、全員が共依存というわけでもありません。

 共依存に関して留意したいことは次の点です。

・家族関係に一定の境界線が引かれていますか?

・共依存によって、誰にどのような支障が起きているのでしょうか?

・隠れ共依存はありませんか? これは、大義名分「…のために」がつくと、依存症が見えなくなってしまうという意味です。その面で、家族も医療者も当事者に過度に関わることで、自分の存在価値を得ている場合が起こり得ます。

・自分自身の共依存傾向を自覚しましょう

・何を持って共依存と判断したのか、共依存と捉えることでどのような対応策が提案できるか確認しましょう

【依存症からの回復とは】

 回復は誰のものかというと、当然本人のもので、家族のものではありません。「回復する権利・責任は本人にある」ということは、とても大切です。

 ジョルジュ・カンギレム(フランス・科学哲学研究者)の「治療観の回復モデルと発病モデル」によると、「健康とは有機体の危機をのりこえて、古いものとは異なる新しい生理学的秩序を創設するある一定の力である。健康とは病気になることができ、そこから回復するという贅沢である。反対にどんな病気も、それ以外の病気を乗り越える力の縮小である」。これはいわゆる「回復モデル」です。

 このカンギレムの「健康とは危機を乗り越える能力である」という健康観を依存症にあてはめると、アルコール依存症なら「治って、また酒が飲めるようになる」ではなくて、「酒を必要としない新しい生活ができるようになる」ことが、回復モデルです。そして新しい価値を創造し、ストレスや刺激に対する新しい反応の仕方を身につけることです。

 物質への依存症は、糖尿病や高血圧、喘息などの慢性疾患と同様に、コントロールし続けることが重要です。もう一度、回復過程を振り返って見ましょう。

 アルコール依存症の回復過程(斉藤 学)

1)何らかの形で生活に行き詰まり、どん底感を味わう。

2)今までの行動を修正しようと考えるようになる。他人の助言や指示を受け入れる謙虚さが出てくる

3)「私は飲酒をコントロールできない」という敗北宣言

4)パワー幻想から醒めて着実な生活を志すようになる(毎日の断酒をその基本とする)

 薬物依存症の回復過程(本杉 綾)

1)断薬したから回復する「もう大丈夫」

2)回復できるだろうか「どうなれば回復か」

3)回復できるかもしれない「変わってきているかもしれない」

4)回復はゴールではない「回復とは回復し続けること」

 最後に薬物・アルコール依存症の人をサポートするダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんの言葉をご紹介します。

 「回復とは、地域で豊かに暮らすこと、日常生活の中に楽しみを見出せるようになることです」。

                                            〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 こうも異常気象が続くと、異常でなくなってくる、とはあるテレビ解説者が言っていたが、確かにそういえるだろう。桜の花と雪のコラボレーションなどと皮肉ってみたが、次はどんな異常気象が来るのか。オー、さぶい、さぶい。

 さて、3月の講演会には松下年子先生から「依存症」について、その深部を聞いた。あえて深部と言ったのは、我々そのような経験のない者からすると、依存症とはこんなにも奥が深かったのかと気づかされたからだ。

 アルコール依存症でWHOの提言以降「依存症は病気であるとされ、30年ほど前から、対人関係障害と捉えられるようになりました」ときっぱりと先生は言う。私など気安く「オレ、○○依存症になっちゃた」などと言えなくなった。

 また息子の話になるが、それまで拒薬だったものが、ある時から「薬を飲むと楽になるんだ」と言って十錠位の薬を飲んでいた。私は息子が薬依存症になったと家族会の席で話したことがあったが、今回のテーマはそんなレベルの話ではない。

 そして、もう一つ。「共依存」ということ。これもなかなか難しい。「相手から依存されることに自己の存在価値を見出す」ことであるという。自ら気づかなかった点を深く考えてみる必要がありそうだ。

 依存症に肖(あやか)って、今号ではHuman Wikipediaでなだいなだ氏を取り上げた。アルコール依存ではこれまでにない治療法を考案。10P立川マック・依存症ミーティング。また、上段の表4広告も中部のアルコール依存の一部を取り上げ、全ページ依存症一色にそろえた。だからと言って他に意味はないのだが。                           

※勉強会INDEXに戻るには左のMENUの勉強会をクリックして下さい


新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp