新宿区後援・11月新宿フレンズ講演会

地域で生きる−診療の現場から   

講師 新宿東メンタルクリニック 三浦勇太先生

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【社会精神医学と地域】

 大学病院や精神科病院勤務を経て、精神科のクリニックを開業して14年目になります。
 精神医学には研究・勉強の題材としていくつかの領域があります。薬についてとか、脳の働きについてなどです。私は社会精神医学を専門的に学びました。私たち人間は1人で生きているわけではなく、家族、友人、職場の仲間もいて地域社会もある。個人と個人以外の社会との互いの影響性を研究していくのが社会精神医学です。

 どんな人間関係でも、自分の行為は必ず誰かに作用します。逆に誰かのしたことは、こちらにも当然影響します。要するに無関係ではいられない。特に精神的な具合の問題を抱えている場合、本人の発言・行動が相手の心にどう影響するか、逆に家族も含めた周りの考えや行動が本人の心理や具合にどう影響するか、そういう兼ね合いを見ていきます。

 その社会精神医学が私の専門でもあり、診察室中心で「病状」を見て「薬をどう調整するか」という作業は必要であるけれど十分ではないと考えています。

 社会との関係つまり本人と周囲の兼ね合いに私自身がどのように参画できるか思案しながら、医師になって早い時期から地域回りをどんどんするようになりました。また、本人以外の家族や職場の同僚、学校の先生等、なるべく多くの関係者と会うようにし続けています。

 いろいろな施設の嘱託医などの立場で場面を訪問すると、百聞は一見に如かずで、「こういうふうに働いているのだな」、「頑張っているが、このご本人の様子はちょっと問題かな」などと理解しやすくなります。こうした経験が当事者や家族にとって一番無理のない薬の調整や、本人や家族へのアドバイスに役立っていると半ば確信をしている次第です。これら診療所外の活動もしながら、勤労者のために土曜日も夕方まで外来を開いています。

【最初にいきなり結論!】
 さて「地域で生きる−診療の立場から」のテーマですが、最初に結論を話します。上手くやれている方と残念ながらそうではない方について、何がそう分けているのか。上手くやれている方は、自分自身のその時点の能力も含めて、ちゃんと現実の自分を客観的に見つめているのです。

 それから「とりあえず明日何ができるだろう」と短期的な部分に焦点を当てながら、「自分がやれることを積み重ねていこう」という気持のスタンスを持って、それを実践しています。心配が多いとか見通しが暗いという方は、先を考え過ぎて動けなくなっている。人生、その時にならないと分からないのは誰でも同じであって、先々まで、それも大きく考え過ぎてしまうと、今が余計辛くなるのですね。良い意味で、近場だけに焦点を当て自分ができることを日々実践していくことが大事です。

 「就労できました」という方がここ4、5年増えています。でもたいていこうした方も数年前はドンヨリと具合が悪くて引きこもっていたりしました。5年間の間にしっかり働けるようになっている人たちがどういう特徴をもっているか、これこそ地域で生きるための結論です。

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等身大の自分を客観的に見つめ、
自己を過大評価することなく、卑屈にもならず、
先々まで考え過ぎず
明日の自分のために今日できることを丁寧に実践し、
人と連携しながら、他者にも上手に頼っている

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【医師の視点−病状・認知機能と社会適応力の関係】

 私が当事者の何を見ているかという視点を、いくつか挙げます。

・病状:医師の当然の仕事で、例えば幻聴や妄想が日常にどう影響しているか、また統合失調症であれば陰性症状で元気がない状況が続いているかなど、病状と日常(社会への適応の様子)との兼合いを注意深く見ます。

・認知機能:基本的な脳の力です。

 まず注目するのは、記憶力。ちゃんと覚えているかどうかです。

 次に柔軟な発想力ともいうべき流暢性。これが乏しいとワンパターンな発想をしがちです。例えば同じものしか着ないし食べない。「今日は天気が良いから、あれを着よう」とか「ここのファミレスでは、いまフェア中だから、スペシャルメニューが美味しそうだ」という柔軟な発想力がうまく発揮されないということがあります。

 それから注意力。これは、注意の集中と持続性、そして分散性の2つに大きく分けられます。例えば、1冊の本を他のことを考えずに読み続けられるか。つまり注意を集中・持続させられるかどうか。これは具合が悪い時は難しく、1分も読んだら筋がわからなくなったりします。逆?に注意を適宜、分散させる力をどれくらい発揮できるのかも大切です。私たちは信号の赤や青にしぜんに注意を振り分けながら歩いていますが、その注意力が抜け落ちると信号が赤なのに突っ走ってしまう。また、大切なものが目の前に落ちているのに気づかない。

 もうひとつは、「自分の気持ちはこうです」ばかりではなくて、「目の前にいる人は、こんな気持ちかもしれない」と、他人の気持ちをどれくらい配慮、推量できるかどうかです。

【医師として一緒に作業してわかること】

 私のクリニックに通院されている方々を例としてお話をします。

 通所しているAさん(男性)が「周りが気になって仕事に集中できない」、「スタッフに嫌われている、排除されている」と言い、私が「それはないだろう?」と診察室でいくら言っても、「絶対そうです」と一致しませんでした。「では、僕が行ってみようか」と作業所の了解を得て、彼と一緒に2時間半ほど活動しました。

作業所の職員がパソコン作業をしていると、彼は「あの人はパソコンをやっているように見えるが、私を見張っているに違いない」と言う。私には普通にパソコンで事務仕事をしているとしか見えませんが、本人は「見張っている」という認識です。また、席から立ちあがって様子を見に来た時には「監視しに来た」と言います。これも私には、職員が作業場面を巡視しているとしか思えません。彼は妄想に囚われ、切迫感に押しつぶされて、目の前にある作業をできていませんでした。これを実際の場面で私は確認でき、診療にそれを活かしました。

【地域資源を活かして「再施設化」を防ぐ】

 社会生活・自立を進めるには、地域のどういう資源を本人が利用しているのか、その資源配置は本人に見合っているのかどうかが大切です。就労したいと思っても退院して間もない陰性症状が強い時期は、いきなり就労訓練の場に週4、5日も行けるものではありません。保健センターのデイケアや、地域活動支援センターのようなグループワークを週1回から緩やかに始めるのが現実的です。それなりに意欲が湧いてきて、潜在的な技術もあるという場合には、やがて就労訓練の場所に行けるかもしれません。

 ここで?大切なことは、「再施設化」を防ぐことです。

 日本は社会的入院が多く、もう治療の必要がないのに住居など地域の受け皿がなく、病院でやむなく生活している人がかつては3万人もいました。やがて国が退院促進施策をし、長期入院者が減ってきており、これは良いことです。

 退院つまり「脱施設化」すると、例えば居住であればグループホーム、通所であればデイケアや地域活動支援センターや就労継続事業所B型に通うとかが当然あるのかもしれません。

【主体的に生きる】

 再施設化を防ごうと周りがあれこれ仕向けても、それは周りが敷いたレールに乗っているだけです。やがて周りがレールを作れない時期が来たら、自分でレールを敷けることが基本的なあり方になってきます。「本人がどうしたいか」が重要です。

 医療やサービスを利用するのも、なるべく統合モデルでやっていきたい。医学モデルでは医療的な判断で一方的に指示するもので、医学的には正解ですが当事者は受け身になるしかない。生活モデルはその逆で、本人が主体的に自分の好きなものを選んでライフスタイルを作る。しかし、精神疾患を持っていると、自分だけでは決められない場合も多く、自分の思いだけで突っ走ると失敗することもあります。考える中身は自分のライフスタイルだが、好み以外に自分の具合とかも考えなければならない。医学モデルと生活モデルを合わせた統合モデルで、本人も家族も医療・支援者側も一緒に考えていくと良いでしょう。

【当事者の心理】

 当事者の気持ちが大切という話になりましたが、大事なポイントを挙げます。

自尊感情:自分をどれだけ尊重しているか。例えば、小さいころ親から虐待を受けて、大人になっても気持ちが成熟できなくて、「自分なんかどうせダメだ」と自傷行為を続ける方も中にいます。自分を大事に思えることが大切です。

自己効力感:自分でやったことが上手く行ったという感覚を持てるか、自分で何か困りごとに対処して、それなりに良い効果が得られたと思える感覚が自己効力感です。

能動性:「医者が言うから」「家族が言うから」ではなく、「自分はこうしたいから」という能動性を持っているかどうかです。

人格の成熟:子供は依存し反発もします。いつまでも親や他人に「やってもらって当たり前」ではなく、大人としての人格的な成熟の度合いを持てているかが大切です。

ルサンチマン:恨みつらみの心理のことです。「あの時、友達がイジメたから、自分はこうなった」「上司が酷いことを言わなければ…」「親が愛してくれなかったから…」など、過去の誰かに何年経っても恨みつらみを持っている方がいます。弱者が強者に対して何らかの恨みの心情を持っている様子を指してルサンチマンと言います。こうした心理が現時点の人間関係にも負の影響を与えることがあるようです。そうではなく、あっけらかんとしている人が当然に強いです。いい意味で切り替えができると、自分の気持ちが解放され、自由な自分という発想ができるようになります。

 孤立を防ぎ、誰かと繋がっているか:外出できなくても相談相手がいると良いでしょう。

 これらの当事者心理にもっと焦点を当てて治療していきたいものです。

【自らの気づきと、良くしたい思いが大切】

 周りから見ての、何々ができているべき、薬の大切さを理解すべきなど、外形的な期待や評価ではなく、1人の人間としての内側が成長しているか。こういった心理は誰でも同じですが、言われて育つものではなく自分の中で気づいて変えていくしかない。当事者も良い意味で「自分は良くなる」と期待していかないと、どんな良い箱モノを外側に用意しても、どんなに副作用の少ない薬でも、結局、それが良い効果に繋がらないのです。

 当事者自身が「自分を良くしていこう」という動きが、今とても増えています。例えばフットサルのチームを組んで全国大会をやっています。チームの運営も大会の運営も当事者に決定権を多く委ねようと、周りの支援者は考えています。

 社会生活ができなかった時期を経て、治療を受けて今は相応に回復して自分らしく生活できるようになった方をサバイバーと言います。サバイバーが互いに連絡を取って助け合いながら、社会あるいは医療や福祉に向けて情報発信したり場を作ったりしています。

 どういう行動をすれば、どういう環境ならば、深刻な再発にならないか、それを家族や支援者にどのように理解してもらうかなどを、人任せにせず自分で考えてやろうという考え方が広まっています。彼らは見事に過去のルサンチマンを超越した尊敬できる大人です。そして今困っている当事者に声をかけて「何かあれば連絡してね。サポートするから」というピアサポート事業を行っています。  

 今度は2018年1月19〜21日に沖縄で開催される「きらりの集い」は、サバイバーが日本全国で連絡を取り合って自然発生的にできたピアサポーターが中心になった団体による集会です。年に1回、日本各地で大会があり、来年の開催会場は沖縄市の協力を得て、首里城などで開催されます。https://kirarinotsudoi-okinawa2018.jimdo.com/

 WRAPは、アメリカの躁うつ病のサバイバー女性が作り出した自分の良さを生かすプランで すが、それを作るための講習会が10月に岡山県の津山で開催され私も参加しました。参加の15人中11人が当事者、4人がおそらく支援者かなと思いますが、当事者か医者かなど関係なく、お互いニックネームで呼び合って学んでいました。

【大切にしたい3つの言葉

 誰でも、どんな時にでも、自分にあると信じて大切にしたい3つの言葉です。

レジリエンス(精神的弾力性):押しつぶされても復元していく力をレジリエンスと言います。精神疾患だけではなくあらゆる人が、仕事や人生上の悩みで苦悩して損なわれた自分があれば、そののちに本来の自分らしさを取り戻すプロセス、精神的回復力を指します

トレングス(強さ):具合の悪い時期は、確かに無理は禁物で「頑張れ」、「自分で考えろ」は大変過ぎるかと思います。しかし、「万全ではないけれども、これだけはできる」と、どんなに損ねられていてもその時その時にできることがあるはずです。それがストレングスと言われるものです。どんな時でも、その瞬間に持っているはずの自分の強み、長所(ストロングポイント)をちゃんと発揮したいものです。

小さな自己実現:あまり大きなことを考えてもできないけれど、今の自分でできること、より簡単に早くからやれそうなことを見つけて、しっかり着実にやっていきたいものです。理想の自分を目指す取り組みだけではなくて、趣味や地域活動、家事などでも良い。それを「小さな自己実現」として、自分の実績にしていこうというものです。こういう話を当事者の集まりでも話すことがあり、「では、あなたは明日何ができますか?」と聞いたら、ある女性は「いつも母に食事を作ってもらって当たり前のように食べて何も言わずに自分の部屋に入っていましたが、今夜は母に、ご飯を作ってくれてありがとうと言います」と発言しました。ある男性は「いつも自分の家の前だけを雪かきをしていますが、明日は隣の老夫婦のところもします」と言ってくれました。まずできることをやる、それが小さな自己実現であり、やがての「大きな自己実現」、自分を作ることにつながります。
                                           〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記
  
ついに今年最後の月がやって来た。師走の町は交通事故が増えるとタクシーの運転手.が言っていた。なぜか、はっきりした理由はわからないが、何となくわかるような気がする。

 そんな中、今月は三浦勇太先生に講演をお願いした。社会精神医学を専門とする先生のお話は多くのことを気づかされた。

 お話の冒頭でいきなり結論と言って述べたことは、ご本人が等身大の自分をみつめ、過大評価せず、卑屈にもならず、先々まで考えす、今日生きるを丁寧に、人と連携しながら、他者に頼っている生き方、ということだ。確かにそうだ。本人に欠けている点を見事にいい当てている。

 そして、もう一つ私に「なるほど」とうなづかせたのが主体的に生きるということである。一見本人たちは主体的に生きていると思っても、それが、周囲=主に家族だが=が敷いたレールの上を走っているだけだったりする。周囲がレールを敷けるうちはいい。しかし、必ずそこには限界が来る。

 講演最後にありがたい言葉をいただいた。「レジエンス(精神的弾力性)」、「ストレングス(強さ)」、「小さな自己実現」の三つの言葉である。これらの言葉は当事者だけでなく、我々健常だと思っている者にも十分に役立つ言葉ではないだろうか。

 失敗をしたとき、病気をしたとき、物を無くしたとき、そんな時この三つの言葉が生きてくるような気がする。先生は言う。「あなたは明日何ができますか」。皆さん何と答えるだろうか。私は「味噌汁を自分で作ってカミさんに差し上げる」と言う。現実に毎朝具沢山の味噌汁を献上している。小さなことからが大切だ。                             

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp